【知財高判平成24年9月27日(平23(行ケ)10385号)】

【要旨】
 引用例(乙1)におけるこのような記載事項に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,引用例(乙1)に記載された事項を総合的にみて,独立した技術思想として,多目的活用可能な太陽電池である引用発明を読み取ることができる。

【キーワード】
引用発明の認定,一部抽出

事案の概要

1.事案の概要
 本件は,拒絶審決に対する取消訴訟において,原告は,引用発明の認定に誤りがある等として,審決の取消しを求めたが,本願発明と引用発明は実質的に相違するところはなく,本願発明が引用例に記載された発明であるとした審決の判断に誤りはない等として,請求が棄却された事例である。

2.引用例(実願昭58-104015号公報)の記載
(1)実用新案登録請求の範囲
 「前面及び背面の開放した収納部をもち,収納部の下部には充電器が組み込まれている充電ケースと,この充電ケースの収納部に取外し可能に装着できる,全体が箱形に形成された扇風機と,この扇風機と同様に前記充電ケースの収納部に取外し可能に装着できる盤状の太陽電池とからなり,前記扇風機は,前記充電ケースの収納部への装着によって充電器と自動的に接続して運転可能態となり,前記太陽電池は,前記充電ケース収納部への装着によって該充電ケースの充電器と自動的に接続して充電可能態となる構成であることを特徴とする携帯用扇風機。」(1頁5~16行)

(2)考案の詳細な説明
 「この考案は,電源設備のない野外等での使用を可能とする携帯用扇風機に関するものである。」(1頁18~19行)
 「図面に示す本考案の適用例としての携帯用扇風機は,充電器(1)を組込んだ枠構造の充電ケース(2)と,電源の供給を受ければ送風運転が可能となる完結形態の扇風機(3)と,太陽日射を電気エネルギに変換し起電力を生ずる太陽電池(4)とからなり,これらを箱形のケース(C)に組合せて収め容易に持ち運びうるようにしたものである。充電ケース(2)は,充電器(1)のケースであるが,その上部には底部(5)と左右の側枠部(6)とで囲まれた,上方及び前面と背面の開放した収納部(S)を備えている。左右の側枠部(6)の外側の面の上部寄りには,収納部(S)の上方をまたぎうるホルダを兼ねる門形の把手(7)の各端部が枢着されている。また左右の側枠部(6)の内側の面にはその中央に縦に延びる摺動案内溝(8)が形成されている。収納部(S)の底面に形成している底部(5)の上面には,その下に組込まれている充電器(1)と接続している二個のプラグ(9),(10)が突き出している。二個のプラグ(9),(10)のうちの一つは,充電器(1)を充電するための端子である,他の一つは充電器(1)の放電のための端子である。」(2頁13行~3頁13行)
 「以上,実施例による説明からも明らかなように本考案の携帯用扇風機は,扇風機と,充電器を備えた充電ケースと,太陽電池とからなり,充電ケースに形成した収納部に扇風機を装着することによって,充電器と扇風機とが電気的な接続関係となり,扇風機を運転可能態とし,収納部に太陽電池を装着することによって,充電器と太陽電池とが電気的な接続関係となり,充電可能態とするものであるから,コードによる接続操作が不要で扱いやすく,電源設備のない野外等において手軽に送風による涼感を享受しうる。」(5頁16行~6頁7行)

(3)図面

3.原審審決
 審決が認定した引用発明の内容は,次のとおりであり,太陽電池を備えた携帯用扇風機から,太陽電池の構成を取り出して,引用発明を認定した。
 「収納部の下部に充電器が組み込まれている充電ケースの収納部に取外し可能に装着できる盤状の太陽電池であって,この太陽電池は,太陽日射を電気エネルギに変換し起電力を生ずるものであり,充電ケースの収納部への差し込み装着によって充電ケースの充電器と電気的な接続関係となるとともに充電ケースで支持されるものであり,また,箱形のケースに充電ケースとともに収められ容易に持ち運べるようになっている太陽電池。」

争点

 引用例に記載された太陽電池を備えた携帯用扇風機から,太陽電池の構成を取り出して,引用発明を認定することは許されるか。

判旨

 本判決では,引用発明を下記のように認定した。
 「上記記載によれば,第2図には,太陽電池(4)が充電ケース(2)の収納部に差し込まれて収納されるとともに,充電ケース(2)が太陽電池(4)を支持する台となっている様子をみてとることができ,また,第5図には,充電ケース(2)と扇風機(3)と太陽電池(4)が箱形のケース(C)に収められ,把手(7)により持運びができる様子がみてとることができる。そうすると,引用発明は,前記第3,1(3) イ記載のとおり「収納部の下部に充電器が組み込まれている充電ケースの収納部に取外し可能に装着できる盤状の太陽電池であって,この太陽電池は,太陽日射を電気エネルギに変換し起電力を生ずるものであり,充電ケースの収納部への差し込み装着によって充電ケースの充電器と電気的な接続関係となるとともに充電ケースで支持されるものであり,また,箱形のケースに充電ケースとともに収められ容易に持ち運べるようになっている太陽電池。」であると認めることができる。」

 本判決では,携帯扇風機から太陽電池の構成を取り出して引用発明を認定することに関して,以下のように判示した。
「次に,原告は,本願発明は多目的活用を可能にすることで,災害時にも役に立つよう配慮した新商品であり,扇風機の台の中に太陽電池を付けただけの単品である引用発明とは全く新規性の意味が異なる旨主張する。
 なるほど,引用発明は,引用例(乙1)記載の「携帯用扇風機」における,太陽光発電及び充電時の一態様であって,一義的には当該扇風機の駆動に供するものであるといえる。
 しかし,引用発明が開示する太陽光発電,充電時の開示された構造及びその機序は扇風機の駆動と直接関係しているものではなく,それ自体が技術的に独立し,技術的に扇風機の駆動と分離して論ずることができるものであることは明らかである。したがって,引用例(乙1)におけるこのような記載事項に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,引用例(乙1)に記載された事項を総合的にみて,独立した技術思想として,多目的活用可能な太陽電池である引用発明を読み取ることができると認めるのが相当である。
 そうすると,仮に,本願発明を多目的活用が可能な発電器であると解しても,その点に関し本願発明と引用発明は相違しない。」

検討

 本判決では,太陽電池の構造及び機序が,携帯用扇風機の駆動と直接関係がなく,技術的に独立し,技術的に分離できることから,太陽電池が独立した技術的思想として,多様な目的に活用可能なものであると認めることができるとして,太陽電池を分離して認定することができると判断した。
 本判決によれば,一部の構成のみを取り出し,他の構成を除外できるかどうかは,当該一部が技術的に独立し分離することができるかどうかによって判断されることとなる。かかる基準は,知財高判平成23年1月11日平22(行ケ)10160号〔半導体チップの製造方法事件〕の判旨にも沿うものである。

以上
(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一