【平成25年3月13日(知財高裁 平成24年(行ケ)第10059号)[特許「冒認出願」事件]】

【キーワード】
特許法38条,特許法123条1項2号,共同出願違反

第1 事案

被告が名称を「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」とする発明について特許出願し、その設定登録を受けた。これに対して、原告は、当該発明は共同出願(特許法38条)違反を理由として無効審判請求をしたが、当該請求は不成立との審決がなされた。本件は、当該審決に対する審決取消訴訟である。主な争点は,審決取消訴訟における共同出願違反に関する主張立証責任の分配を前提として,原告が本件発明の共同発明者であるか否かである。

第2 判旨

(*下線、省略等は筆者)

1 共同発明者性の認定について
ある特許発明の共同発明者であるといえるためには、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従前の技術的課題の解決手段に係る部分、すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される
ところで、特許法123条1項2号は、特許無効審判を請求することができる場合として、「その特許が・・・第38条・・・の規定に違反してされたとき(省略)。」と規定しているところ、同法38条は、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。」と規定しているこのように、特許法38条違反は、特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっているから、特許が同条の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は、審判請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である。これに対し、特許権者が「特許を受ける権利が共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば、特許権者に対して、他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり、不合理である
特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても、上記と同様に解するのが相当であり、審判請求人(審判請求不成立審決の場合は原告、無効審決の場合は被告)が「特許を受ける権利が共有に係ること」、すなわち、自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負担すると解すべきである
したがって、本件においては、審判請求人である原告が、自らが共同発明者であること、すなわち、本件発明1~6の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことについて、主張立証責任を負担するものというべきである。

第3 検討

本件は、特許無効審判に対する審決取消訴訟における共同出願違反の主張立証責任のあり方を示した事案である。
本判決は、まず,共同発明者について,「ある特許発明の共同発明者であるといえるためには、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従前の技術的課題の解決手段に係る部分、すなわち発明の特徴的部分の完成に現実に関与したことが必要であると解される」を判示する。なお,「発明の特徴的部分」については,共同出願違反が争点になった審決取消訴訟において,「発明の特徴的部分とは、特許請求の範囲に記載された発明の構成のうち、従来技術には見られない部分、すなわち、当該発明特有の課題解決手段を基礎付ける部分を指すものと解すべきである」と判示されている(知財高判平20年9月30日・平成19年(行ケ)10278号)。
次に,本判決は,当該主立証責任のあり方について、「特許が同条(注:特許法38条)の規定に違反してされたことを理由として特許無効審判を請求する場合は、審判請求人が「特許を受ける権利が共有に係ること」について主張立証責任を負担すると解するのが相当である」,「特許法38条違反を理由として請求された無効審判の審決取消訴訟における主張立証責任の分配についても、上記と同様に解するのが相当」であると判示する。つまり,共同出願違反を主張する者が,自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負うことを判示した。
本判決は,その理由として,次の2つを述べている。①特許法38条は、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。」と規定していることから,特許法38条違反は、特許を受ける権利が共有に係ることが前提となっていること,②特許権者が「特許を受ける権利が共有に係るものでないこと」について主張立証責任を負担するとすれば、特許権者に対して、他に共有者が存在しないという消極的事実の立証を強いることになり、不合理であることである。
特に特許権者に主張立証責任を負わせると,「ないことの立証」という悪魔の証明を課すことになるので,この主張立証のあり方の帰結は妥当であろう。なお,立証責任の分配について,民事訴訟法においては,法律要件分類説(権利根拠規定等において,自己に有利な法律効果の発生要件事実について主張律量責任を負うとする見解)が通説である。この法律要件分類説に照らせば,「特許を受ける権利が共有に係ること」が共同出願人であることの発生要件であるので,共同出願人であると主張する者が自らが共同発明者であることについて主張立証責任を負うことになるが,これは本判決と同様の帰結が導かれる。
そして,本判決は,原告が共同発明者であるか否かについては,①本件発明の「特徴的部分」を認定し,②原告が当該「発明の特徴的部分の完成に現実に関与した」か否かを判断した。具体的には,開発経緯の下で原告の供述の信用性は容易く信用することはできず,仮に原告の供述を前提としても原告が本件発明の特徴的部分の完成に現実に関与したとはいえない等と判断し,本件発明の特徴的部分の完成に原告が現実に関与したことを認めるに足りる証拠はないとして,原告は共同発明者ではないと認定した。
以上のように、本件は審決取消訴訟における共同出願違反の立証立証活動に関して、参考になる事案である。

以上

(筆者)弁護士 山崎臨在