【平成24年12月13日(大阪地裁 平21(ワ)13559号)】

【キーワード】

商標法31条1項、使用許諾契約、ライセンス契約

【事案の概要】

 原告は、以下の登録商標(以下「本件商標」という。)にかかる商標権(以下「本件商標権」という。)を有していた。

  登録番号  第4912272号
  商標  

  出願日  平成17年4月28日
  登録日  平成17年12月2日
  商品及び役務の区分  第36類 建物の管理、建物の売買、建物又は土地の情報の提供 等
 原告は、被告との間で、以下の内容での「ユニキューブ・パッケージ販売契約」(以下「本件販売契約」という。)を締結し、被告に対し、本件商標を「ユニキューブ事業」にのみ使用することを許諾した。

第1条
1 「ユニキューブ」とは、原告が開発した設計・施工ノウハウにより建築される建築物で、キューブ型の外観デザインを持ち、かつ、デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物をいう。
2 「ユニキューブ・パッケージ」とは、原告が自ら開発したユニキューブの設計・施工・営業ノウハウと、訴外ハイアスから提供を受けた顧客獲得のための営業ノウハウとを、訴外ハイアスの支援のもと有機的に組み合わせたものをいう。
3 「ユニキューブ事業」とは、ユニキューブ・パッケージに含まれるノウハウを用いてユニキューブの設計・施工を行う事業。
第4条
1 被告は、原告が有する「ユニキューブ」、「UNICUBE」、「unicube」等のユニキューブ建物に関する商標・ロゴ・サービスマーク(登録の有無を問わない。)を、ユニキューブ事業にのみ使用することができる。

 被告は、キューブ型外観を有し、デコスドライ工法が採用されたユニキューブの建築工事請負も行っているほかに、キューブ型の外観を有するもののデコスドライ工法が採用されていない建物(以下「本件対象物件」という。)の建築工事請負も行っていたところ、本件対象物件の建築工事においても、本件商標を使用していた。
 原告は、被告による本件建対象物件への本件商標の使用は、使用許諾の範囲外であり、商標権侵害であると主張して本件訴訟を提起した。

【争点】

・本件対象物件に本件商標を使用することは使用許諾の範囲内か(商標権の使用許諾に関する契約書の解釈)[1]

【判決一部抜粋】(下線は筆者による。)

第1~第3(省略)
第4 当裁判所の判断
1 争点1、2(本件商標の不正使用についての損害賠償請求)について
(1) (省略)
(2)  争点1-2(被告の行為は本件販売契約による使用許諾の範囲内か)について
ア 本件販売契約における文言について
 上記第2の2(4)イのとおり、本件販売契約では、本件商標を含む「ユニキューブ」、「UNICUBE」、「unicube」等のユニキューブ建物に関する商標・ロゴ・サービスマーク(登録の有無を問わない。以下「本件商標等」という。)について、ユニキューブ事業にのみ使用することができるとされ(4条1項)、「ユニキューブ」については、「原告が開発した設計・施工ノウハウにより建築される建築物で、キューブ型の外観デザインを持ち、かつ、デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物」(同1項)と定義されている。
 したがって、本件販売契約上、本件商標は、原告が開発した設計・ノウハウにより建築される建築物で、キューブ型の外観デザインを持ち、かつ、デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物に付することを許諾されているといえ、「標準採用」の意義が問題となる。
イ そこで検討するに、上記のとおり「ユニキューブ」の定義として、①キューブ型の外観デザインを持つことに加え、②デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物であることを必要条件としており、本件商標等の使用をユニキューブ事業に限っていることからすれば、原告としては、本件商標等に、キューブ型の外観デザインであることのみならず、デコスドライ工法の採用も含めた商品価値を化体させようと意図していたものといえるのであって、このことは、本件販売契約を締結する被告にとっても明らかであったといえる。
 したがって、本件販売契約における本件商標の使用許諾について、デコスドライ工法の採用が全く条件とされていなかったとする被告の主張は採用できない。
ウ 一方、原告は、本件販売契約における本件商標の使用許諾は、当該建物にデコスドライ工法を採用することを必要条件としたものであると主張する。
 しかしながら、ユニキューブ事業においても、同事業で建築する建物の標準的な仕様は定められているものの、建物の工事請負という事業の性質からすれば、具体的な施工内容は、施主との交渉によって確定することが当然に予定されているといえる。断熱・防音工法はデコスドライ工法以外にも様々な工法が存在するところ、施主がデコスドライ工法以外の工法を希望する場合には、その後、本件商標を使用することができず、さらにはキューブ型の外観デザインも使用できないことになるのは、当事者の合理的意思とはおよそいい難く、原告がユニキューブ・パッケージ販売契約を締結する際に、被告やその他の加盟店に対し、そのような説明をしていたとも認められない・・。
 ・・(省略)・・
 以上を踏まえると、本件販売契約におけるデコスドライ工法の「標準採用」とは、当該建物にデコスドライ工法を採用することを条件とするものであるが、例外を許さない趣旨ではなく、施主に対し、デコスドライ工法を標準仕様として提示しつつ、施主との交渉の結果、デコスドライ工法を採用しないこととなった場合を含むものと解するのが相当である
エ・オ (省略)
(3) 小括
 原告は、ユニキューブ事業の加盟店に対し、本件商標の使用を認めているが、無限定にこれを認めるものではなく、原告が開発したキューブ型の外観デザインを持ち、かつデコスドライ工法を標準採用した建物に関するユニキューブ事業に使用する場合に限り、これを認めるものである。上記認定したところによれば、被告が、施主に対し、本件商標を示して、原告が開発した建物を提示し、同時にデコスドライ工法についても提示したところ、施主の希望により他の施工方法が採用されたような場合、本件商標の出所表示機能、品質保証機能はいずれも害されないということができ、商標権侵害は成立しないと認められる(なお、この場合、被告の債務不履行も成立しない。)。これに対し、被告が、施主に対し、本件商標を示して、原告が開発した建物のみを提示し、断熱工法としてデコスドライ工法以外のものを提示した場合、少なくとも本件商標の品質保証機能は害されるというべきであるから、原告のした許諾の範囲外であるとして、商標権侵害を構成するというべきである。

【検討】

1 商標権の使用許諾
 商標権者は、第三者に登録商標の通常使用権を許諾することができる(商標法31条1項)。許諾については、通常、使用許諾契約(ライセンス契約)を締結して行われ、通常使用権者は、契約で定めた範囲内でのみ、指定商品又は指定役務について登録商標を使用する権利を有する(商標法31条2項)。
 ただし、通常使用権者が登録商標を使用できる範囲は、あくまで「契約で定めた範囲内」であり、契約で定めた範囲外で指定商品又は指定役務について登録商標を使用する場合は、商標権侵害に該当する。そのため、通常使用権者としては、自己の登録商標の使用が「契約で定めた範囲内」であるかどうか、常に留意する必要がある。
2 本件の検討
 本件は、原告・被告間の契約に定める登録商標の使用許諾の範囲について争いとなった事案である。裁判所は、被告が主張する契約解釈を採用し、被告による登録商標の使用の一部は、商標権侵害及び債務不履行は成立しないと判断した。
 問題となった「標準採用」という文言や、原告が本件商標に化体させようとしていた商品価値からすると、原告が主張する契約解釈も十分にとりうるものと考えるが、対象となる事業の性質から推測される当事者の合理的意思を優先して判断されたものと解する。
3 まとめ
 ビジネスにおいて、他の事業者のブランド力を使用する目的などで、商標について使用許諾契約を締結する場面は多く想定される。契約内容は場面に応じて様々であるが、使用許諾の範囲を定める文言は、当事者間で齟齬が生じないよう明確に定めるべきである。

以上
弁護士 市橋景子


[1] 他の争点については省略する。