【ポイント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈、発明の要旨認定において、物の発明の技術的範囲は当該製法により製造された物に限定解釈されるべきだが、「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとき」は、当該製法に限定されず、「物」一般に及ぶと解釈され、無効の有無を判断する前提とする発明の要旨の認定も、同様に認定すべきとした事例。
【キーワード】
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム、技術的範囲の解釈、製造方法による物の発明の特定

【事案の概要】
X:特許権者
Y:Xの有する特許権を侵害するとして提訴された者

原審では、XはYに対し、Y製品の輸入・販売がX特許権を侵害するとしてY製品の輸入・販売差止(特許法100条1項)、Y製品の廃棄を求めたのに対して、Y製品はX特許発明の技術的範囲に属するが、X特許発明は進歩性なしとして無効にされるべきものとして(特許法104条の3)、X請求をいずれも棄却した。

そこで、これに不服のXが本件控訴を提起した。

控訴審は、原審と同様、X特許発明は進歩性なしとして無効にされるべきものとして(特許法104条の3)、X控訴を棄却した。

【争点】
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈、発明の要旨認定

【判旨抜粋】
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈について
「本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法に限定されることなく,他の製造方法をも含むものとして解釈・確定されることは許されない。
もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,同法36条6項2号にも反しないと解される場合もある。そして,上記のような事情が存在することが立証された場合にあっては,発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されると解すべきである。」

同技術的範囲の解釈についての立証責任の分担について
「そして,これを,特許権侵害訴訟における立証責任の分配の観点から整理すると,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,特許請求の範囲は,その記載文言どおりに解釈するのが原則であるから,「発明の技術的範囲が特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されない」旨を主張する者において,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,その旨の立証を尽くすことができないときは,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定すべきことになる。」

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの無効の有無を判断する前提とする発明の要旨の認定について
「イ 特許法104条の3は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定するが,同条に係る抗弁の成否を判断する前提になる発明の要旨は,特許無効審判請求手続において,特許庁(審判体)が,無効の有無を判断する前提とする発明の要旨と同様に認定されるべきである。
そして,本件のように,「物の発明」であり,かつ,その特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合における「発明の要旨」についても,前述した特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定と同様に認定されるべきである。すなわち,① 発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときは,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと認定されるべきであるが,② 上記①のような事情が存在するといえないときは,その発明の要旨は,記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。
この場合において,上記①のような事情が存在することを認めるに足りないときは,これを上記②の「特許請求の範囲に記載された方法により製造された物」に限定したものとして,当該発明の要旨を認定するのが相当である。」

【解説】
既に知財高裁平成24年1月27日大合議判決でも示されたのと同一の特許権者および特許権に基づき、異なる被告に対して提起された事例。大合議の事例と同様、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈につき、原則は当該クレームの製法に限定されるものとして解釈されるべきであるが、「物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとき」に、当該事情を特許権者側が立証した場合には、当該製法に限定されることなく、当該技術的範囲は「物」一般に及ぶものと認定した。
また、発明の要旨認定においても同様の認定がなされるべきとした点も、大合議判決で判示されたとおりである。
このように、大合議の判断ルールの形成・判断統一の機能により、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲・発明の要旨認定については、上記と同様の解釈がされるものと思われる。