【平成24年11月1日(大阪地判 平成23年(ワ)第6980号)】

【概要】
本件は,被告が製造販売する複数の製品に関し,原告の保有する特許権の侵害を理由とする差止請求及び損害賠償請求がなされた事案である。本判決は,ハ号スタイラスを備えたイ号検出器及びハ号スタイラスを備えたロ号検出器に関する本件特許発明の構成要件充足性を肯定している一方で、ハ号スタイラスに関し、特許法第101条第1号及び第2号の間接侵害の成立が問題となった。
ここでは,特許法第101条第2号の汎用性要件に焦点を当てて検討する。

【キーワード】
特許法第101条第2号の間接侵害,多機能型間接侵害,汎用品要件

1.本件特許発明

A1 電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可能な接触体(5)と,
A2 当該接触体に接続された接触検出回路(3,4)とを備え,
A3 当該接触検出回路で接触体(5)と被加工物又は工具ないし工具取付軸との接触を電気的に検出する位置検出器において,
 B 接触体(5)の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁性材で形成されていることを特徴とする,
 C 位置検出器。

2.ハ号スタイラスの内容

・ハ号スタイラスは、接触針であり、位置検出器の接触体として用いられる。
・ハ号スタイラスは、接触体の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる弱磁性として非磁性材であるHAN6で形成される。

3.汎用品要件に関する判旨

「一方,被告は,ハ号スタイラスにつき,間接侵害(特許法101条2号)の除外要件である『日本国内において広く一般に流通しているもの』に当たる旨主張する。
 確かに,ハ号スタイラスの用途は,これを備え付けた場合に本件特許発明の技術的範囲に属することになるイ号検出器及びロ号検出器に限定されているわけではなく,本件特許発明の技術的範囲に属さない内部接点方式の位置検出器とも適合性を有するものではある(甲2~4)。しかし,結局のところその用途は,位置検出器にその接触体として装着することに限定されており,この点,ねじや釘などの幅広い用途を持つ製品とは大きく異なる。また,そのような用途の限定があるため,実際にハ号スタイラスを購入するのは,位置検出器を使用している者に限られると考えられる。
 このような事情を踏まえると,ハ号スタイラスは,市場で一般に入手可能な製品であるという意味では,『一般に流通している』物とはいえようが,『広く』流通しているとは言い難い。また,そもそもこのような除外要件が設けられている趣旨は,『広く一般に流通しているもの』の生産,譲渡等を間接侵害に当たるとすることが一般における取引の安全を害するためと解されるが,上記のように用途及び需要者が限定されるハ号スタイラスにつき,取引の安全を理由に間接侵害の対象から除外する必要性にも欠けるといえる。
 したがって,ハ号スタイラスは『日本国内において広く一般に流通しているもの』に当たらず,この点に関する被告の主張は採用できない。」

4.検討

 特許法第101条第2号の間接侵害の成立には,「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件(汎用品要件)を充足することが必要となる。汎用品要件に関し,知財高判平成17年9月30日〔一太郎事件・控訴審〕は,「『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解するのが相当である。」と判示し,汎用品要件の解釈を示すが,「特注品」の意義が明確でないことや,「他の用途」は「規格品」といわれる程の他の用途がないといけないのか,また,「普及品」といえるための普及の程度はどの程度かが明らかでないことから,汎用品要件の規範は必ずしも明確とはいえない。また,一太郎事件・控訴審では,一太郎は,市場での流通量からすると一般入手可能であったことから,「普及品」に該当するものであるが,判決では,特に,被告製品が「普及品」であるかについては何ら触れられず,「控訴人製品は,本件第1,第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものでるから,同号にいう『日本国内において広く一般に流通しているもの』に当たらないというべきである。」と判示しており,製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断がされており,判決で述べられた,汎用品要件の解釈とは必ずしも整合するものではない。
 そして,本判決では,「ハ号スタイラスは,市場で一般に入手可能な製品である」としても、「用途及び需要者が限定されるハ号スタイラスにつき,取引の安全を理由に間接侵害の対象から除外する必要性にも欠ける」として、ハ号スタイラスの汎用品の該当性を否定している。本判決は,被告製品の流通量には着目せず,製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断を示すものである点で,一太郎事件・控訴審判決と同様の判断枠組みによるものといえる。
 また、「結局のところその用途は,位置検出器にその接触体として装着することに限定されており,この点,ねじや釘などの幅広い用途を持つ製品とは大きく異なる。」として、製品自体の性質あるいは構成のうち用途に着目して、汎用品要件の該当性を判断している点で、実務上参考になるものと考えられる。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 杉尾雄一