【平成27年10月8日判決(知財高裁 平成26年(ネ)第10111号)
※原審:平成26年 9月25日判決(大阪地裁 平成25年(ワ)第5600号)】

【判旨】
 発明の名称を「粉粒体の混合及び微粉除去方法並びにその装置」とする特許に係る特許権を有する原告(控訴人)が,被告(被控訴人)に対し,被告の行為により本件特許権を侵害されたとして,被告製品の生産、譲渡又は譲渡の申出の差止及び損害賠償等を求めた事案において,原審及び控訴審のいずれも,イ号製品は、本件特許発明2の構成要件2Eを充足せず,イ号製品に係る被告の行為について,本件特許発明1に係る特許権に対する特許法101条4号の間接侵害は成立しないなどとして請求を棄却した。

【キーワード】
特許法第70条第1項,特許法第70条第2項

1.特許発明の内容

 本件では,請求項1(方法)及び請求項2(装置)に係る発明の構成要件充足性が争われたが,本記事では請求項2に係る発明(以下「本件特許発明2」という。)についてのみ採り上げる。
 本件特許発明2の内容は,以下のとおりである。

構成要件

内容

2A  排気口にガス導管を介して吸引空気源を接続した流動ホッパーと,
2B-1 該流動ホッパーの出入口と縦方向に連通した縦向き管と,
2B-2 この縦向き管に横方向に連通られ材料供給源からの材料が供給される横向き管とからなる供給管と,
2C  該供給管に接続された一時貯留ホッパーとからなり,
2D  前記流動ホッパーの出入口は,全機供給管のみと連通してあり,
2E  前記供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍一または該延長線より上方位置に,前記吸引空気源を停止している場合に検出するためのレベル計を設けてなることを特徴とする
2F  粉粒体の混合及び微粉除去装置。

 本件特許発明2に係る微粉除去装置は,①流動ホッパー,②供給管(縦向き管及び横向き管からなる),③一次貯留ホッパー,④レベル計を備えている。②供給管から投入された材料は,①流動ホッパーに接続された吸引空気源の吸引力により①流動ホッパーに吸い上げられ,混合された後,③一次貯留ホッパーに貯留され,その下方等から成形機等に排出される。④のレベル計は,③一次貯留ホッパーに貯留された混合済み材料の充填レベルを検出するために設けられている。

 ここで,本件特許発明2において,④レベル計の設置位置は,「・・・供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置または該延長線より上方位置」(構成要件2E)とされている。これにより,吸引輸送される材料は,③一次貯留ホッパーに充填された混合済み材料によって,一時貯留ホッパーへの落下が阻止されるため,未混合のまま一時貯留ホッパーへ落下するという問題が解消するという効果を奏する(本件明細書【0053】,【0054】)。

2.争点(構成要件2の充足性)

 本件では,構成要件2Eのうち,「前記供給管の横向き管における最下面の延長線の近傍位置または該延長線より上方位置に,・・・レベル計を設けてなる」の充足性が問題となった。
 イ号製品では,②供給管のうち②-1:横向き管が斜め(下向き)に取り付けられ,且つ④レベル計の設置位置が,横向き管が縦向き管と接する出口の下端(☆)よりも下方であった。
 原告は,「横向き管における最下面の延長線」とは,「横向き管の最下面という面全体をそのまま延長した線」(★)を意味するところ,イ号製品の④レベル計はその「近傍位置」に設けられているから,構成要件2Eを充足すると主張した。
 これに対し,被告は,「横向き管における最下面の延長線」とは,原審認定のとおり,「横向き管が縦向き管と接する出口の下端から,水平方向に向かって延長した線」(☆)を意味し,イ号製品の④レベル計はその「近傍位置または該延長線より上方位置」のいずれにも設けられていないから,構成要件2Eを充足しないと主張した。

3.原審の判断

 原審は,請求項の記載のみからは,「延長線」の意味が明らかでないとしつつ,本件明細書の記載内容から,「延長線」の意義について,次のように認定した。
   イ そこで,前記(1)で指摘した本件明細書の記載内容を検討すると,従来の混合装置では,輸送短管の出口とレベル計との間に空間ができていたために,材料の一部が未混合のまま一時貯留ホッパーへ落下していたところ,この問題を解消するため,本件各特許発明では,輸送開始時に必要とされる充填レベルに達するまで混合済み材料を充填させ,既に充填された混合済み材料によって,吸引輸送される材料が未混合のまま一時貯留ホッパーへ落下するのを阻止するようにしている。
 また,充填レベルは,混合済み材料が縦向き管のどの高さまで貯留したかを示すものであるから,輸送開始時を定める充填レベルの基準は,混合済み材料の上表面によって示される必要がある(混合済み材料の上表面は,必ずしも正確な水平面とは限らないが,レベル計によって,その上表面の位置が判断される。)。
 充填レベルが,横向き管が縦向き管に接する出口の下端よりも下方にあって,充填レベルと横向き管の出口の下端との間に空間が生じていると,輸送された材料が未混合のまま一時貯留ホッパーへ落下することになる。そのため,一時貯留ホッパーへの落下を防ぐには,材料の輸送が開始する時点で,横向き管が縦向き管に接する出口の下端に達するまで,混合済み材料が充填されている必要がある。
 したがって,輸送開始時を定める充填レベルの基準となり,充填レベルを検出するためのレベル計の位置の基準ともなる「横向き管における最下面の延長線」とは,横向き管が縦向き管と接する出口の下端から,水平方向に向かって延長した線を意味すると解される。

 そして,イ号製品において,レベル計を最も高い位置に設置した場合でも,「延長線」とレベル計検知部の検知面の最上部との距離は28.2mmであることなどを理由に,イ号製品のレベル計は,「延長線の近傍位置または該延長線より上方位置」に設けられているとはいえず,イ号製品は構成要件2Eを充足しないと判断した。

4.控訴審の判断

 これに対し,控訴審では,非充足の結論は変わらないものの,「延長線」の意義について,下記のとおり原審とは異なる判断が示された。
   イ 「横向き管における最下面の延長線」について
 (ア) 本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には,「横向き管における最下面の延長線」を定義した記載は見当たらないが,「最下面の延長線」との文言,「請求項1と請求項2記載の発明において,横向き管とは縦向き管に対して任意の角度で交差する管ということであり,上向き,下向き,水平等いづれの方向のものも含まれるものとし,交差する角度には限定されないものとする。」(【0012】)とされていること,本件各特許発明の実施例についての【0030】及び【図1】の記載(図中において,横向き管内面の最下線に「最下面5」との符号が付されていること)に照らせば,「横向き管における最下面の延長線」とは,横向き管の最下面を形成する線を縦向き管に向けて延長した線を意味するものと解すべきである。

 更に,控訴審では,延長線の「近傍位置」について,下記のとおり認定した。
そうすると,横向き管の向き(上向き,下向き,水平等)や縦向き管との交差角度に関わらず,吸引輸送される材料が,充填された混合済み材料によって落下が阻止されるためには,横向き管の最下面を形成する線を縦向き管に向けて延長した線のうち縦向き管内の最も高い位置より下方が,充填された混合済み材料によって満たされている必要があると理解される。したがって,本件特許発明2において「近傍位置」とは,横向き管の最下面を形成する線を縦向き管に向けて延長した線のうち縦向き管内の最も高い位置より下方が,その充填された混合済み材料によって満杯の状態になる位置より少しばかり上か下の位置を意味するものと解すべきである。
・・・【中略】・・・
   (3)  イ号製品の構成要件2Eの充足性
 イ号製品の横向き管は,原判決別紙イ号製品説明書(原告主張)及び同イ号製品説明書(被告主張)のいずれによっても,縦向き管に対して下向きとなっているから,イ号製品における「横向き管の最下面を形成する線を縦向き管に向けて延長した線のうち縦向き管内の最も高い位置」は,横向き管が縦向き管と接する出口の下端である。

 そして,原審と同様に,イ号製品では「延長線」とレベル計検知部の検知面の最上部との距離が最小でも28.2mmであることなどを理由に,イ号製品のレベル計は,「延長線の近傍位置または該延長線より上方位置」に設けられているとはいえず,イ号製品は構成要件2Eを充足しないと判断した。

5.検討

(1)両判決の比較
 原審では,「横向き管における最下面の延長線」とは,横向き管が縦向き管と接する出口の下端から,水平方向に向かって延長した線(☆)であると解釈した。これは,本件特許発明の作用効果である,「・・・吸引輸送される材料は,その充填された混合済み材料によって,一時貯留ホッパーへの落下が阻止されるため,未混合のまま一時貯留ホッパーへ落下するという問題が解消する(本件明細書【0053】,【0054】)。」という記載とも整合するものである。しかし,上記の線(☆)は「横向き管の最下面を形成する線」(★)からは折れ曲がった線となってしまうため,「延長線」の文言からするとやや違和感がある。
 一方,控訴審では,「横向き管における最下面の延長線」について,横向き管の最下面を形成する線を縦向き管に向けて延長した線(★)を意味すると解釈した。これは,「延長線」の文言(辞書的意味)により忠実な解釈といえる。しかし,「近傍位置」を「横向き管の最下面を形成する線を縦向き管に向けて延長した線のうち縦向き管内の最も高い位置」であるとする解釈は,ややテクニカルであり,その妥当性には疑問が残る。例えば,横向き管が上向きに設けられていた場合,上記「近傍位置」は,横向き管が縦向き管と接する出口の下端よりも上方の位置となってしまうが,レベル計の設置位置をそこまで上方に設定しなくとも,上述した本件特許発明の作用効果は達成されると考えられるためである。
 以上のように,両判決は,構成要件2Eの非充足という結論は変わらないものの,当該結論を導く過程のクレーム解釈が異なっている。この違いは,「延長線」という言葉の本来的意味(辞書的意味)と,本件特許発明の技術的意義から導き出される「延長線」の解釈とを,なるべく整合させるように努めた裁判所の苦心の現れとも考えられる。

(2)クレーム作成上の留意点
 あくまで個人的な意見だが,レベル計の設置位置を規定するにあたり,「延長線」という文言を採用したことは適切でなかったと感じる。本件特許発明の本質は,充填された混合済み材料によって,未混合の材料が一時貯留ホッパーに落下することを阻止する点にあるが,そのためにはレベル計の設置位置が「横向き管が縦向き管と接する出口の下端」の近傍または上方に設定されていれば良く,当該設置位置が横向き管の最下面の延長であるか否かは,発明の本質と関係がないためである。
 例えば,構成要件2Eにつき,「前記供給管の横向き管が縦向き管と接する出口の下端の近傍位置または該近傍位置より上方位置に,混合済み材料の充填レベルを検出するためのレベル計を設けてなることを特徴とする」などとすることで,クレームの技術的範囲がより明確となり,クレーム解釈を巡る紛争コストを低減することができたのではないかと考える。

以上
(文責)弁護士・弁理士 丸山真幸