【ポイント】
本件のポイントは、商品形態が特別顕著性及び周知性を具備する場合には、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当すると判断したことである。
【キーワード】
商品形態 商品等表示 特別顕著性 周知性

【事案】
本件は、控訴人(原告)が、被控訴人(被告)に対して、被控訴人が老眼用拡大鏡を販売する行為が控訴人が販売するペアルーペと混同を生じさせるものであり、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して,同法3条1項に基づき,被控訴人商品の製造,販売等の差止めを求める事案である。
 
控訴人が販売するペアルーペは、①耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであり(特徴①),②そのレンズ部分は眼鏡の重ね掛けができる程度に十分大きい一対のレンズを並べた略長方形状の形態(特徴②)という共通形態を備えている。
 
参考までに、ペアルーペとは下記のようなものである。
ペアルーペ画像

【争点】

商品の形態自体が、不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するための要件
 
【判決抜粋】
 原判決は,控訴人商品の共通形態が不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示に該当するとはいえないとして,控訴人の請求を棄却した。
 本判決は,以下のとおり判示して,本件控訴を棄却した。
不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにある。
同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。」
 「控訴人商品の共通形態のうち,耳と鼻に掛ける眼鏡タイプの形態からなるルーペであり,そのレンズ部分は一対のレンズを並べた形態であり,眼鏡に重ね掛けができるという点については,従前,他社製品にもみられたものであるということができ,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできない。
 なお,控訴人商品の共通形態のうち,レンズ部分が「眼鏡の重ね掛けができる程度に十分に大きい」一対のレンズを並べた形態である点については,エッシェンバッハ社や池田レンズ等の他社製品であるルーペに,全く同一のものは見当たらない。しかし,…一対のレンズを眼鏡の上から重ね掛けするという発想の商品もみられるところであり,また,「眼鏡タイプのルーペ」として種々の形態のものが販売され,流通しており,そのレンズの大きさも様々であることに照らすと,控訴人商品のレンズが「眼鏡の重ね掛けができる程度に十分に大きい」一対のレンズを並べた形態であることによって,需要者において控訴人商品につき格段の強い印象が生じるものとはいえない。よって,上記レンズの大きさの点を理由として,控訴人商品の共通形態が,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有することになるということはできない。
 以上のとおり,控訴人商品の共通形態は,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできず,不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示に該当するということはできない。
 
【コメント】
商品の形態についての模倣等の行為は、不正競争防止法2条1項3号における不正競争行為に該当する場合があり、裁判上もその主張がされるのが通常である。もっとも、3号による主張には制限がある。それは、期間の制限(同法19条5号イ)と対象行為の制限(同法2条1項3号の「模倣」につき、デッドコピーと解釈されている。)である。
 したがって、同項3号による主張が制限されてしまう場合には、その商品の形態につき、同項1号の「商品等表示」に該当するとして、不正競争法上の責任を追及する他ない。他方で、本判決の言うように、商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合があり、いかなる要件を満たせばそのような場合に当たるといえるのかが問題となっていた。
 この点について、特別顕著性及び周知性等の要件を満たせば、「商品等表示」に該当するとの裁判例は数多くあった(マグライト事件・大阪地裁H14.12.19、折りたたみコンテナ事件・東京地裁H6.9.21、ギブソンギター事件・東京地裁平成10年2月27日等)。
本判決は、知財高裁の判断として、これらの裁判例の判断を是認するとともに、商品の形態であっても、①特別顕著性、②周知性の要件を満たせば「商品等表示」に該当することを明確に示したもので一定の先例的価値を有するといえる。
2013.1.21 (文責)弁護士 溝田宗司