平成24年7月11日判決(東京地裁 平成22年(ワ)第44305号)
【判旨】
① 映画著作物に関する第1譲渡が有効に解除された場合には,適法な第1譲渡があったものとはいえず,第2譲渡について消尽を論じる余地はない。
② 映画著作物が転々流通した場合において,第1譲渡が有効に解除された場合であっても,第1譲渡が解除される前に行われた第2譲渡については,著作権侵害についての過失は認められない。
【キーワード】
著作権,消尽,解除,過失

第1 事案の概要
1 平成19年6月7日,原告は,韓国のプロダクションAとの間で,Aが制作した韓流スターが出演する韓国のTV番組(以下,「本件プログラム」という。)を利用したDVD商品(以下,「本件商品」という。)を製作,販売する契約を締結した。
 平成19年9月6日,原告は,Bとの間で,本件商品に関する販売契約(以下,「本件販売契約」という。)を締結した。本件販売契約の中で,原告は,Bに対し,本件プログラムの独占的頒布を許諾した(再許諾権付)。
本件販売契約に先立つ平成19年8月31日,Bは,被告との間で,本件商品の頒布契約を締結した。本件頒布契約により,Bは,被告に対し,本件商品を日本国内で独占的に頒布することを許諾した
      〈本件商品に関するライセンスの流れ〉
      A  →  原告  →  B  →  被告 
2 原告は,本件商品を製作してBに販売し,Bは被告に,被告はその販売先にそれぞれ本件商品を販売した。
      〈本件商品の流れ〉
      原告  →  B  →  被告  →  販売先 
 その後,Bに債務不履行があったため,原告は,平成20年4月17日,Bとの間の本件販売契約を解除した(以下,「本件解除」という。)。なお,原告は,本件解除の通知を被告にも参照送付していた(同日,被告に配達されている)。
3 当該事実関係のもと,原告は,被告に対し,本件商品の販売,頒布の差止めを求めるとともに,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めて本訴を提起した。損害賠償請求の対象には,本件解除前の被告による本件商品の販売が含まれている。
4 なお,本件では,①原告の著作権の有無,②本件解除の有効性,③原告の頒布権は消尽しているか,④被告は解除前の第三者として保護されるか,⑤被告の故意・過失の有無,⑥損害がそれぞれ争点として争われたが,以下では,このうち③ないし⑤に関する判旨を紹介した後,③及び⑤について若干コメントする。

第2 判旨 一部認容
1 争点③(原告の頒布権は消尽しているか)について
 「本件映像のように公衆に提示することを目的としない映画の著作物については,当該著作物の頒布権は,いったん適法に譲渡(以下「第一譲渡」という。)されるとその目的を達成したものとして消尽し,その後の再譲渡にはもはや著作権の効力は及ばないと解されているところ(最高裁判所平成14年4月25日第一小法廷判決・民集56巻4号808頁),本件において,原告からBに対する本件販売契約が債務不履行により有効に解除されたことは前記のとおりであるから,適法な第一譲渡があったとはいえず,本件において消尽を論ずる余地はない。」 
2 争点④(被告は解除前の第三者として保護されるか)について
 「(1)民法545条1項ただし書にいう「第三者」とは,解除前において契約の目的物につき別個の新たな権利関係を取得した者であって,対抗要件を備えた者をいうと解される。
 (2)被告は,解除前にBから頒布許諾を受けていたものではあるが,原告からJCIに対する頒布許諾と,Bから被告に対する頒布許諾とは別個の債権的な法律関係であるから,被告が解除された本件販売契約の目的物につき新たな権利関係を取得した者ということはできず,また被告の権利は対抗力を備えたものでもないから,いずれにせよ被告が民法545条1項ただし書にいう「第三者」として保護される余地はない。…
 (3)したがって,被告は,本件解除によりBが頒布権原を失ったことにより,JCIからの利用許諾に基づく頒布権原を原告に対抗することができなくなり,被告は原告の著作物を無許諾で頒布したということになる。」
3 争点⑤(被告の故意過失)について
 「(1)本件販売契約が事後的に効力を失ったとしても,本件解除前に被告が本件商品を頒布した時点においては,本件販売契約及び本件頒布契約が有効に存在していたのであるから,被告が頒布権原を有するものと認識して本件商品を販売したことに落度はなく,本件解除前の頒布行為については被告に故意過失は認められない。
 (2)本件解除後の頒布行為については,被告は,平成20年4月17日,原告からBに対する本件解除の通知(甲16)の参照送付を受けていた(争いがない。)のであるから,被告は,同日,本件販売契約が解除されたことを認識し,少なくとも同通知により本件販売契約が解除された可能性があることを認識したというべきであり,その後の被告の頒布行為には少なくとも過失があったと認められる。」

第3 若干のコメント
1 第1譲渡の解除と消尽論の適用について
 公衆に提示することを目的としない映画著作物の頒布権は,いったん適法に譲渡されるとその目的を達成したものとして消尽し,その後の再譲渡にはもはや著作権の効力は及ばないと解されている(最高裁判所平成14年4月25日第一小法廷判決・民集56巻4号808頁)。
 もっとも,本判決以前,当初適法になされた第1譲渡が後に解除などにより不適法なものとなった場合,その後の再譲渡について消尽論の適用があるのか否かについて判断した裁判例はなく,その扱いがどのようになるのかは必ずしも明確ではなかった。
 以上のような状況のもと,本判決は,第1譲渡が解除された場合には再譲渡について消尽を論ずる余地はないとした。本判決は,消尽論の射程を考える際に参考になる裁判例といえる。
2 被告の過失について
 本判決のように第1譲渡が解除された場合には消尽論の適用がないとすると,第1譲渡後になされた再譲渡は頒布権を侵害する行為となる。
 もっとも,本判決は,被告が解除通知の参照送付を受け取った前になした本件商品の再譲渡については,頒布権侵害についての過失がないとして原告の損害賠償請求を棄却した。
 かかる判断は,客観的には頒布権侵害の成立を認めつつも,過失の判断により妥当な結論を導こうとするもの評し得る。この点も今後の実務の参考になるものと思われる。

以上
2013.10.1 弁護士 高瀬 亜富