【平成24年11月2日(東京地裁平成22年(ワ)244798号)】

【ポイント】
被告の製造販売する回転板およびプレートについて,「のみ」要件(特許法101条1号)の該当性が争われた事例において,本件発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が,当該製品の経済的,商業的又は実用的な使用形態と認めることはできないとして,「のみ」要件の該当性を肯定し,間接侵害の成立が認めた例

【キーワード】
間接侵害,技術的範囲の属否,「のみ」要件


【事案の概要】
 原告は,突起・板体の突起物を利用した生海苔と異物を分離除去する装置にかかる特許権者である。原告は,被告の製造販売する回転板およびプレートが原告の特許発明の技術的範囲に属し,また,「生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)に当たると主張して,被告に対し,100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造・販売等の差止め及び廃棄を請求するとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の一部として,三億九〇〇〇万円等の支払を求めた事案である。

【争点】
 被告の製造販売する回転板およびプレートが,「のみ」要件(特許法101条1号)に該当するか。

【結論】
 被告の製造販売する回転板及び本件プレート板はいずれも,原告特許発明の技術的範囲に属する装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当である。したがって,本件回転板及び本件プレート板を製造・販売等する行為は,原告の特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条1号)。

【判旨抜粋】
 本判決は,「本件プレート板は,本件発明三の「共回りを防止する防止手段」に該当するから,「共回り防止装置」の専用部品と認められる。また,前記三(3)のとおり,本件発明において,回転板は「共回り防止装置」の必須の構成部品であると認められるところ,被告装置においても,クリアランスの目詰まりをなくして共回りの発生を防ぐためには,本件回転板が本件プレート板とともにその必須の構成部品であると認められるから,本件回転板において,本件発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が,当該製品の経済的,商業的又は実用的な使用形態と認めることはできない。そうすると,本件回転板及び本件プレート板はいずれも,本件発明三の技術的範囲に属する被告装置の生産にのみ用いられる物であると認めるのが相当である。したがって,本件回転板及び本件プレート板を製造・販売等する行為は,原告の本件発明三に係る特許権を侵害するものとみなされる(特許法一〇一条一号)」として,間接侵害の成立を認めた。

【解説】
 特許法101条1号では「その物の生産にのみ用いる物」であることを要求(「のみ」要件)する。「のみ」要件については,特許発明を実施する機能があることを前提として,他の用途が「社会通念上経済的,商業的ないし実用的な他の用途」であるかを基準として判断することが通説とされていた(田村義之『知的財産法(第5版)』(2010年・有斐閣)262頁,渡辺光「第101条(侵害とみなす行為)」中山信弘・小泉直樹編『新・注解特許法(下巻)』(2011年・青林書院)1481頁等)。裁判例でもこの見解を支持するものが多かった(東京地裁昭和56年2月25日判決・無体集13巻1号139頁[一眼レフレックスカメラ],大阪地裁平成元年4月24日判決・無体集21巻1号279頁[製砂機のハンマー],東京地判平成6・7・29知裁集27巻2号346頁参照[混水精米法],東京高判平成7・5・18知裁集27巻2号332頁[同2審]など他多数)。
しかし,近時,通説的見解を緩和して,特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態で,専ら他の用途のみを使用することが,経済的,商業的,実用的か否かという基準で「のみ」要件を判断する説に基づく判決が散見される(緩和説,大阪地判平成12・10・24判タ1081号241頁[製パン器],知財高判平成23・6・23判時2131号109頁[食品包み込み形成方法])。
  このような裁判例の状況の中で,本件は,「本件回転板において,本件発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が,当該製品の経済的,商業的又は実用的な使用形態と認めることはできない。」と判断し,「のみ」要件の該当性を否定した。つまり,特許発明の実施する機能があることを前提とする通説的見解を採用せず,緩和説の裁判例に従った判断をなしたものと評価できる。
  本件は,上記のように裁判例に2つの流れが存在する中で,緩和説を採用した点に意義を有するものである。「のみ」要件については,従来の裁判例の潮流によると,未だ通説的見解を採用する裁判例が多いものの,本件のように緩和説を採用する事例も一部存在することから,今後の裁判例の動向に注意を払う必要があろう。

以上
(文責)弁護士 高橋 正憲