【平成27年9月17日(大阪地裁平26年(行ウ)第212号)】

【判旨】
 種苗法18条1項に基づく品種登録(以下「本件処分」という)につき、原告が異議申立てをしたところ、農林水産大臣が同異議申立てを棄却する決定(以下「本件決定」という。)をしたことから、原告が、被告に対し、本件決定の取消しを求めた事案において、行政事件訴訟法10条2項の原処分主義が適用されるため、本件決定の取消しを求める異議決定取消訴訟においては、本件処分の違法を理由として取消しを求めることはできない等として、請求を棄却した事例。

【キーワード】
行政事件訴訟法10条2項、原処分主義、種苗法

事案の概要

 本件は、種苗法18条1項に基づく品種登録(以下「本件処分」という)につき、当該登録に不服のある原告が種苗法に基づく異議申立て(種苗法49条、51条)をしたところ、農林水産大臣が同異議申立てを棄却する決定(以下「本件決定」という。)をしたことから、原告が被告に対し本件決定の取消しを求める異議決定取消訴訟を提起した事案において、行政事件訴訟法10条2項の原処分主義が適用されるため、本件決定の取消しを求める異議決定取消訴訟においては本件処分の違法を理由として取消しを求めることはできない等として、原告の請求を棄却した。
 なお、本件に関しては控訴審(平成28年4月8日(大阪高裁平27年(行コ)第148号)も存在するが、下記争点に関しては上記地裁の判断を維持した(地裁判決を引用した)ので、この記事では地裁判決を紹介する。

争点

 争点は、種苗法に基づく品種登録に対する異議決定取消訴訟において行政事件訴訟法10条2項の原処分主義が適用されるか。

判旨抜粋

第1~3 略
第4  争点に対する当裁判所の判断
1  争点(1)(本件で、原告は、本件処分の違法を理由として本件決定の取消しを求めることができるか-本件に行政事件訴訟法10条2項が適用されるか-)について
(1)  行訴法10条2項は、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合」と定めているところ、原告は、種苗法には、品種登録の取消訴訟について、その出訴期間制限をなくす旨の規定が置かれていないことから、原処分である品種登録についての取消訴訟の出訴期間も行訴法14条1項及び2項の出訴期間の制限を受け、本件では本件処分の取消訴訟が提起できないことから、行訴法10条2項の適用はないと主張する。
(2) 行訴法14条は、取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき又は処分又は裁決の日から1年を経過したときは提起することができないとしつつ(1項及び2項。以下「本来の出訴期間」という。)、処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合等において、審査請求があったときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき又は当該裁決の日から1年を経過したときは、提起することができないと定めている(3項)。そして、ここにいう「審査請求」には「異議申立て」が含まれ、裁決には「決定」が含まれる(同法3条3項)。
 他方、行服法45条、及び同法48条が準用する同法14条3項は、異議申立期間の制限を定めるが、種苗法51条1項は、品種登録についての異議申立てについて、これらの期間制限規定の適用ないし準用をしない旨を定めている。
 これらの規定からすると、被告が主張するとおり、品種登録について適法な異議申立てがされ、これを棄却する旨の決定がされたときは、当該異議申立てをした者については、行訴法14条3項により、決定があったことを知った日から6か月を経過するまで又は当該決定の日から1年を経過するまでは、原処分である品種登録の取消訴訟を提起することができると解される。
(3) また、種苗法51条1項が、品種登録に対する異議申立てについて期間制限を設けないこととした趣旨は、品種登録によって、育成者権者は、品種登録の日から25年間又は30年間という長期間にわたり、登録品種等につき業として利用する権利を専有するとされるところ(種苗法19条、20条1項)、①育成者権者は、育成者権の存続期間の満了後であっても、権利の存続期間中の侵害行為に対して損害賠償請求等をすることが可能であることや、当該侵害行為については刑事罰の対象となるので、侵害者とされた者は、通常の異議申立期間の経過後であっても異議申立てをすることができるようにしておく必要があること、②品種登録の要件を満たさない品種が品種登録されている場合、第三者は、本来自由に当該品種を利用することができるはずであるのに、その利用が不当に制限されることとなり、そのような品種登録によって不利益を受ける者がいる限り、これを取り消すことができるようにしておくことが、違法な処分から国民の権利利益を救済し、行政の適正な運営を確保するという行服法の目的に合致すること、③特許法における無効審判制度には、審判の期間制限がないこと等によるものである(甲92)。 
 ・・・中略・・・
 以上を勘案すると、種苗法は、本来の出訴期間を定めた行訴法14条1項及び2項を適用しない旨の規定を置いていないものの、他方で、同条3項を適用しない旨の規定も置いていないことから、むしろ、同条3項の適用により、品種登録についての異議申立てを棄却する決定があった場合に、本来の出訴期間に関わりなく、原処分である品種登録の取消訴訟も提起し得ることとする趣旨であると解するのが相当である。
(4)、(5) ・・・中略・・・
(6) 以上によれば、原告は、本件決定があったことを知った日から6か月を経過するまで又は当該決定の日から1年を経過するまでは、本件決定に対する裁決取消訴訟と、原処分である品種登録に対する処分取消訴訟のいずれも提起することができる。したがって、本件は、行訴法10条2項の「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合」に当たるから、本件決定の取消しを求める本件訴えにおいては、本件処分の違法を理由として取消しを求めることはできない。
 なお、この解釈の下では、原告は、行訴法20条により、出訴期間に関係なく、本件に品種登録取消しの訴えを併合して提起することができると解する余地があるが、原告は、平成27年7月7日付け上申書において、そのような併合提起をしない旨を明らかにしている。
2 争点(2)(本件決定の取消事由の有無)について
(1) 原告が主張する本件決定の違法事由のうち、本件出願が「育成者」に該当しない者による出願であることを看過した種苗法3条1項柱書き違反の点については、本件処分の違法をいうものであるから、これを理由として本件決定の取消しを求めることはできない。
(2) 次に、原告は、本件決定の判断遺脱の違法を主張するところ、これは、本件決定固有の違法をいうものであるから、この点について検討する。 ・・・中略・・・
3 以上によれば、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

解説

 裁判所は、種苗法18条1項に基づく品種登録(本件処分)に対する異議申立てについての異議申立てを棄却する決定(本件決定)について、行訴法10条2項の「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合」に当たると判断した。

 この点、行政事件訴訟法10条2項は、処分の取消しの訴えとその処分についての異議申立てを棄却した決定の取消しの訴えとを提起することができる場合には、異議決定の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない旨を規定している(原処分主義)。この規定(原処分主義)の趣旨は、行政事件訴訟法上の取消訴訟において両者に対する取消しの訴えが提起できる場合に、原処分に対する審理と異議決定に対する審理の重複を防止し、これらの間に抵触判断が生じることを防止することにある。
 これに対し、種苗法は、同法18条1項に基づく品種登録に対して異議申立てをすることを認めている(種苗法51条の存在からも明らかである)が、品種登録に対して処分取消訴訟を提起することを否定するものではない(種苗法は、品種登録に対して行政事件訴訟法上の処分取消訴訟を提起することを許容していると考えられる(農林水産省生産局知的財産課編著「最新逐条解説種苗法」、51条の解説(p.184)、ぎょうせい)。要するに、種苗法は裁決主義を採用していない。よって、これだけ見ても種苗法に基づく品種登録に対する異議決定取消訴訟については、行政事件訴訟法10条2項の原処分主義の適用があると言える。
 ちなみに、行政事件訴訟法14条3項は、異議決定があったことを知った日から六箇月を経過したとき又は当該異議決定の日から一年を経過するまでは、原処分に対する処分取消訴訟を提起することを許容するものである。この14条3項の趣旨は、同法14条1項、2項のタイミングで処分取消訴訟を提起しなくても、原処分に対する異議申立ての結果を踏まえた上で14条3項のタイミングで原処分に対する取消訴訟を提起するか否かの判断を可能とさせるためのものであり、この規定自体が原処分主義を前提としているとも考えられる(異議決定の取消しの訴えにおいて処分の違法を理由として取消しを求めることができないがゆえに14条3項で原処分に対する取消訴訟を提起する途を付与しているとも言えるから)。したがって、種苗法51条1項に異議申立てに関する期間制限(行政不服審査法45条、同法48条で準用する同法14条3項)を外す規定があっても、種苗法が上記裁決主義を採らない以上は、行政事件訴訟法14条3項の適用が排除される理由はないということになると思われる。
 よって、種苗法の品種登録に対する異議決定取消訴訟には、行政事件訴訟法10条2項の原処分主義が適用され、原処分に対する違法を理由する場合には、行政事件訴訟法14条3項のタイミングでの取消訴訟としては「原処分」を対象にしなければならない。法律の規定が複雑なだけに代理人としては注意したい所である。
 なお、行政事件訴訟法20条には、仮に、同法14条3項のタイミングでの取消訴訟が「異議決定」に対するものだけだったとしても、「原処分」に対する訴えを事後に併合提起することによって、当該「原処分」に対する訴えは「異議決定」に対する訴え提起時に提起されたものとみなされ、いわば、原処分主義に対する事後救済を可能とする規定が存在する(14条3項のタイミングにおいて、原処分の違法をいうべきか、異議決定の違法をいうべきかと言う点に関する不明確さを事後救済できるようになっている)。このため、本件でも、行政事件訴訟法20条の適用を求めて「原処分」に対する訴えを事後に併合提起しておけば、上記争点自体が存在しなかったことになったのではないかと思われる。(本事案では、理由は定かでないが、行政事件訴訟法20条に基づく併合提起を原告側が行わないことを明らかにしていた。本稿では特に紹介しなかったが、裁判所が事実上中身の判断にも踏み込んでいたためかもしれない。)

行政事件訴訟法20条
 前条第一項前段の規定により、処分の取消しの訴えをその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えに併合して提起する場合には、同項後段において準用する第十六条第二項の規定にかかわらず、処分の取消しの訴えの被告の同意を得ることを要せず、また、その提起があつたときは、出訴期間の遵守については、処分の取消しの訴えは、裁決の取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなす。


以上
(文責)弁護士 髙野芳徳