【判旨】
被告の登録商標「三相乳化」につき、商標法50条1項に基づく不使用取消審判の不成立審決に対する審決取消訴訟において、パンフレット等における使用の事実を認め、不成立審決に誤りはないとした事案。
【キーワード】
商標、不使用取消審判、商標の使用、商標的使用態様、広告、パンフレット、商標法50条、2部判決

【事案の概要】
本件は、下記登録商標(以下「本件商標」という。)に対する不使用取消審判の不成立審決に対する審決取消訴訟であり、争点は、商標使用の事実の有無である。
  【本件商標】

      

・登録番号 第4776699号
・指定商品 第3類「せっけん類,化粧品,香料類」
・出願日 平成15年9月25日
・登録日 平成16年6月4日
特許庁は、不使用取消審判の予告登録前3年以内に被告が本件商標の指定商品に関するパンフレットに本件商標を使用して広告・宣伝を行ない,化粧品等を販売したと認定して,原告の取消審判請求を不成立とする審決をした。
【争点】
商標使用の事実の有無(パンフレットへの表記が広告的使用といえるか)

【判旨抜粋】
「・・・被告が,『AOIRECOMMEND』との表題の下に,平成17年5月以降継続して作成し,平成19年1月ころ以降に化粧品等と同送したことが認められる本件パンフレット(甲11)には,被告の基礎化粧品の効能等に関し,次の記載がある。」
【記載1】
      

【記載2】
      
 

本件商標は,黒色で不揃いな大きさの略四角形を4つ横に並べ(被告は暖簾の形状であるとする。),この略四角形の内部にそれぞれ『三』『相』『乳』『化』と手書き風の白抜き文字を1字ずつ記して成るものであるところ,本件パンフレット中の各記載における『三相乳化』の文字は本件商標の外観と同じ態様となっている。このように,『三相乳化』の文字が注目される態様であるのに対し,文章中の他の文字部分はよくある字体で記載されていることの対比で,『三相乳化』の文字は,上記記載の中で見る者の注意を特に惹くものとなっている。
そして,本件パンフレットは指定商品である化粧品等と同梱して顧客に送付し,商品の宣伝をする目的等で作成され,それ自体が宣伝広告媒体である性格を帯びている上,記載1の内容は,被告が長年にわたって『三相乳化』と呼ばれる技術を導入して基礎化粧品を製造しており,被告の商品(基礎化粧品)の特徴である『三相乳化』して製造された化粧品は,これを毎日使用することで,好ましい肌を取り戻すことができるから,かかる被告の商品の特徴を知ってほしいという趣旨のもので,単に被告の商品が『三相乳化』の技術によって製造されているという事実を示すにとどまらず,被告の商品の特徴が『三相乳化』にあることを強調するものである。また,記載2も,被告の商品である『三相乳化』の基礎化粧品が顧客の人生観を変えるほどの大きな効能を発揮するという趣旨のもので,やはり被告の商品の特徴が『三相乳化』という技術によるものであることを強調し,合わせて,被告の業務に係る商品について『三相乳化』なる文字態様をもって他の商品と識別させようとしたものである。そうすると,『三相乳化』の文字の記載の体裁が本件商標の外観と同じで,見る者に強調された印象を与えることにも照らせば,記載1及び2における『三相乳化』の文字態様が,同送した被告の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する機能を果たし,また被告の業務に係る商品を需要者や取引者に対して広告する機能を果たしているものと評価することができる。
原告は,本件パンフレットに接した需要者は『三相乳化』の記載を単に技術内容(製法)を示すものとして理解するにとどまるなどと主張する。しかしながら,記載1及び2中の『三相乳化』の文字態様が見る者に強調された印象を与えることは前記のとおりであって,記載1及び2に接した需要者が『三相乳化』の記載を被告の商品の特徴ととらえ,商品識別の手掛かりとするものである。原告が提出する論文『熱力学的に可能なリン脂質の三相乳化系』(田嶋和夫著,平成11年11月1日,甲35)中には『三相エマルションは乳化剤が一つのバルク相として独立の性質を示し,エマルション表面で水相-乳化剤相-油相の構造を作り,油滴を安定化していると考えられる。』(1頁)との記載があるが,この記載や原告が提出する他の文献等(甲36~38)の存在を考慮しても,『三相乳化』の語は未だ一般的な用語になっているものではなく,油化学ないし脂質の化学的性質の知識に疎い一般の需要者も上記論文にあるような『三相乳化』の技術的な意味を理解して本件パンフレット等の記載に接するとはいえない。そうすると,上記のような一般の需要者は,『三相乳化』の語から特定の製造法を連想し得るものではなく,原告の提出する論文等の存在によって『三相乳化』の記載の出所識別機能等に係る前記結論が左右されるものではない。
「・・・本件パンフレットには,化粧品であるスキンローションやスキンミルク等のほか,石鹸であるクリームソープやラベンダーソープが掲載されており,また掲載されているスキンミルク等には香料が成分として含有されているとの記載がある。そうすると,被告は指定商品『せっけん類,化粧品,香料類』について,予告登録の日より3年以内に本件商標を商品の広告に付して使用した事実を証明したものということができるから,この旨の審決の判断に誤りはない。

【解説】
審決においても本判決においても、本件パンフレットの説明書きに「三相乳化」の標章を付す行為は、商品の広告に標章を付して頒布したものであると認定されている(商標法2条3項8号)。
ここで、広告とは、例えば、看板、引き札、街頭のネオンサイン、飛行機が空に描いたもの、テレビによる広告、カレンダー等とされている(工業所有権法(産業財産権法)条解説〔第18版〕p.1191)ところ、上記記載1・2は、指定商品(せっけん類、化粧品、香料類)を直接広告するものとはなっていない。
もっとも、商標法2条3項8号の使用については、「八号は、商標の広告使用を定義したものである。」と説明されており(同条解説p.1188)、広告的に使用していればよいとされている。そして、本判決においても、指定商品である化粧品等と同梱して送付される本件パンフレットは、それ自体が広告宣伝媒体である性格を帯びているとした上で、上記記載1・2は、「被告の商品の特徴が『三相乳化』にあることを強調」する記載であり、被告の業務に係る商品を需要者や取引者に対して広告する機能を果たしていると評価することができるとしている。それゆえ、本判決においても、上記記載1・2は、いわゆる典型的な広告ではないが、「広告的な使用」となっているとの判断がされたものと考えられる。
さらに、本判決では、本件パンフレットには、化粧品(例えばスキンミルク)や石鹸が掲載されており、スキンミルクには香料が成分として含有されているとの記載があるとの事実を認定し、全ての指定商品(せっけん類、化粧品、香料類)につき本件商標が広告的に使用されているとした。
上記認定手法や結論は妥当であると考える。本判決は、パンフレットに記載された説明書き的な記載を広告的使用と認めた点において、広告的使用の一事例を示すものであり、実務的に参考になる判決であると考える。

2012.3.12 (文責)弁護士 栁下彰彦