【ポイント】
原告が出願した第30類「あずきを加味してなる菓子」を指定商品とする「あずきバー」という標準文字からなる商標について,原告の商品として高い知名度を獲得しているものと認められるから,本件商品の商品名を標準文字で表す本願商標は,指定商品に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められ,かつ,本願商標は,商品の品質に誤認を生じるおそれがある商標ということはできないとして,審決を取り消した事例
【キーワード】
商標法3条1項3号,商標法3条2項,商標法4条1項16号
 

【事案の概要】
本件は,原告が後記1の商標登録出願に対する後記2のとおりの手続において,原告の拒絶査定不服審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした本件審決の取消しを求めた事案である。
 
1 本願商標
  原告は平成22年7月5日,「あずきバー」という標準文字からなる商標(以下本願商標という。)につき,指定商品を第30類「あずきを加味してなる菓子」として商標登録出願をした。
2 特許庁における手続の経緯
  原告は,本件出願について平成23年4月5日付で拒絶査定を受けたので,同年8月5日,これに対する不服の審判を請求したところ,特許庁は,これを不服2011-16950号事件として審理し,平成24年6月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同年7月11日,原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
  特許庁は,
  ①本願商標は,これに接する取引者,需要者に「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」を容易に認識させるものであり,その指定商品中の「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に使用しても,その商品の品質,原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である(商標法3条1項3号)
  ②本願商標は,これに接する取引者,需要者に「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」を容易に認識させるものであるから,それ以外の商品に使用するときは,その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある商標である(商標法4条1項16号)
  ③原告には,「あずきバー」という商品名のあずきを加味してなる棒状の氷菓子(本件商品)の販売期間,販売数量,宣伝広告等について相当程度の実績があると認められるものの,使用に係る商標が本願商標と同一の商標と認めることができず,また,実際に使用している商品が「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」のみであるから,本願の指定商品と同一の商品であると認めることもできないものであるため,本願商標は,その指定商品に使用された結果,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認められない(商標法3条2項)
  として上記請求を不成立とした。
 
【争点】
①商標法3条1項3号該当性
②商標法3条2項該当性
③商標法4条1項16号該当性
 
【判旨抜粋】
①商標法3条1項3号該当性
 「あずき」という語を食物の名称の冒頭に付した複合語は,一般に,小豆又はそれから作られた成分を含有する食品を意味するものと理解され,「バー」という語は,菓子類の名称の一部として用いられた場合,棒状の形状を有する菓子を意味するものと理解されるから,本願商標が指定商品について使用された場合,これに接した菓子の取引者,需要者は,小豆又はそれから作られたあんを含有する棒状の菓子を想起すると認められ,本願商標は,「あずきバー」という標準文字からなるものであるにすぎないから,指定商品の品質,原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示したものというほかない。
 
②商標法3条2項該当性
 原告は,昭和47年に「あずきバー」という商品名のあずきを加味してなる棒状の氷菓子(本件商品)の販売を開始しており,本件商品の販売実績(例えば,平成22年度に2億5800万本)及び宣伝広告実績(例えば,テレビコマーシャルの放映料は,平成20年以降,毎年1億2000万円超)並びにこれらを通じて得られた知名度によれば,本件商品は,遅くとも本件審決の時点において,我が国の菓子の取引者,需要者の間で原告の製造・販売に係る商品として高い知名度を獲得しているものと認められ,これに伴い,本件商品の商品名を標準文字で表す本願商標は,指定商品に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められる。
 
③商標法4条1項16号該当性
本願商標は,指定商品に使用された場合,これに接した菓子の取引者,需要者は,小豆又はそれから作られたあんを含有する棒状の菓子を想起し,本願商標が商品の品質,原材料又は形状を表しているものと認識すると認められる一方,本願商標には,それ以上に商品の品質について特段の観念を生じさせる部分が存在しないから,本願商標は,商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商標ということはできない。
 
【解説】
本件での主要な争点は商標法3条2項該当性のうち,使用商標との同一性及び指定商品への使用である。被告は「全国で多数販売しており,広告宣伝の実績も,相当程度高いとみて差し支えない」として,特別顕著性については主要な争点として争っておらず,むしろ商標の使用態様・指定商品への使用という点が問題となっている点に注意する。
 
1 使用商標との同一性
  商標が使用により識別力を有するに至ったと認めるためには,出願された商標が,実際に使用されている商標と同一のものである場合に限ることとしている。
  この点につき商標審査基準は,使用形態の厳密な同一性までをも求めているわけではなく,
「出願された商標と証明書に表示された商標とが厳密には一致しない場合であっても,例えば,その違いが明朝体とゴシック体,縦書きと横書きにすぎない等外観において同視できる程度に商標としての同一性を損なわないものと認められるときには,本項の判断において考慮するものとする。」
  とし,商標法3条2項の適用の余地があるとしている。
  本件では,被告から,原告は本件商品について本願商標を使用していないとの主張がなされたが,本判決は,「標準文字で表す「あずきバー」との商標は,本件商品の販売開始当時以来,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたことが容易に推認され,本件審決当時でも,本件商品を意味するものとして価格表や取引書類等で現に広く使用されている」とし,実際に使用されている商標と同一のものであることを認めた。すなわち,本判決は,実際に商品パッケージに使用されているロゴ書体と標準文字商標との同一性を厳密に判断したものではなく,価格表や取引書類等といった広い概念で標準文字商標の使用を認めたものであることに注意すべきである。
 
2 特別顕著性
  知財高裁は,商標法3条2項該当性について,一貫して,
「ある標章が商標法3条2項所定の『使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの』に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一と見られる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべき」
としている(知財高判平23.3.24も同旨)。
本判決では,
①販売数量が平成17年度に1億3700万本,平成19年度に1億7700万本,平成21年度に1億9700万本,平成22年度に2億5800万本であること
②テレビコマーシャルの放映料が毎年1億2000万円を超えていること
③「あずきバー」でインターネット検索を行うと,多数のウェブページで本願商標が
原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして使用されていること
  ④原告と直接の関係のない著者より,「あずきバーはなぜ堅い?」との表題の書籍が出版されていること
  を重要な事実として挙げている。これらを総合考慮すれば,被告も「相当程度の実績があると認められる」としているとおり,特別顕著性については問題なく認められるであろう。
 
3 所感
  原告は,「あずきバー」に関する登録商標を3件有しているが(第4896332号,第4896333号,第5503451号),いずれも標準文字商標ではなく,商品のパッケージそのものや,「あずき」の部分が強調されたものであった。原告は,まずパッケージデザインで商標権を取得し,その後,ロゴ書体で商標権を取得した。そして今回標準文字商標での出願となったわけで,原告としてはこれまでの商標権取得プロセスの集大成である念願の標準文字商標での登録だったわけである(現時点では審決が取り消されただけであり,登録とはなっていないことに注意されたい)。本件商標が登録された場合,あずきを加味してなる菓子を販売している他の業者との関係が今後注目されるだろう。

2013.2.5 (文責)弁護士 幸谷泰造