【令和2年11月11日(東京地裁 平成30年(ワ)29036号)】
【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号,不正競争,周知な商品等表示,デザイン,ブランド,ドクターシーラボ
【事案の概要】
原告及び被告は,どちらも化粧品等の製造,販売,輸出入等を目的とする株式会社であり,原告は「株式会社ドクターシーラボ」という商号である。
原告は,平成24年3月30日から,毛穴ケア用の化粧水(商品名「LaboLabo Super-Keana Lotion」。以下「原告商品」という。)を,以下の原告外箱及び原告容器を使用して製造,販売していた。
そして,被告は,平成29年10月から,毛穴ケア用の化粧水(商品名「Juliette Ray KEANA LOTION 毛穴化粧水」。以下「被告商品」という。)を,以下の被告外箱及び被告容器を使用して製造,販売していた。
<原告外箱>
<被告外箱>
<原告容器>
<被告容器>
原告は,被告が被告外箱及び被告容器を使用して被告商品を製造,販売する行為は,原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されている毛穴ケア用の化粧水の外箱及び容器と類似するデザイン,形状等の外箱及び容器を使用し,同種の商品を譲渡等することにより,原告商品と混同を生じさせるものであり,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するとして,被告に対し,被告商品の差止め,廃棄(不正競争防止法3条)及び損害賠償(不正競争防止法4条)を請求した。
【争点】
・外箱及び容器の類否
・混同の有無1
【判決一部抜粋】
(下線は筆者による。)
第1~第3 (省略)
第3 当裁判所の判断
1 (省略)
2 争点2(外箱及び容器の類否)について
(1) 商品等表示の類似性
ある商品等表示が不競法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものか否かを判断するに当たっては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁,最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
(2) 原告外箱と被告外箱の類否
ア 原告外箱と被告外箱の共通点
・・・原告外箱と被告外箱の共通点は,以下のとおりである。
(ア) 正面
a 全体
(a) 全体の色彩は半鏡面状で,背景色が赤色からオレンジ色までの暖色系のグラデーションとなっている点
(b) 上方と下方に横方向の二本の赤色ラインが配置されている点
(c) 左右の端の折り目の部分には上面から底面に至るまで,赤色ラインが配置された部分を除いて銀色の縁がある点
b 上部
(a) 赤色ラインには銀色の縁があり,同ラインが上面から外箱の高さの3分の1程度下の位置に配置されている点
(b) 赤色ライン上には白色で商品の種類が記載されている点
(c) 赤色ラインより上の部分に銀色のアルファベットでブランド名や「Keana Lotion(KEANA LOTION)」との表現を含む商品名が記載されている点
c 中央部
(a) 薄く小さな丸状の図柄が配置されている点
(b) 上記(a)の図柄のほかは目立つ文字又は図柄はなく,そのほとんどが赤色を始点としたグラデーションの背景色となっている点
d 下部
(a) 赤色ラインには銀色の縁がなく,同ラインが底面から外箱の高さの6分の1程度上の位置に配置されている点
(b) 赤色ライン上には白色でアルファベットが記載されている点
(イ) 背面
(省略)
(ウ) 左右側面部
(省略)
イ 原告外箱と被告外箱の相違点
原告外箱と被告外箱の相違点は,以下のとおりであると認められる。
(ア) 正面
a 全体
背景色について,被告外箱の方が原告外箱よりも赤みが強い点
b 上部
(a) 原告外箱には,十字型のロゴマークの表記があり,その下にブランド名の「Labo Labo」の文字がサンセリフ体で記載されているのに対し,被告外箱には,十字型のロゴマークの表記がない上,ブランド名の「Juliette Ray」の文字が筆記体で記載されている点
(b) 原告外箱では,ブランド名「Labo Labo」の下に商品名の一部「Super-Keana Lotion」の文字が大文字小文字を混在させて記載されているのに対し,被告外箱では,ブランド名「Juliette Ray」の下に,商品名の一部「KEANA LOTION」の文字が全て大文字で記載されている点
c 中央部
(a) 原告外箱には,ブランド名が記載されているのに対し,被告外箱には,ブランド名の記載がなく,また,原告外箱と異なり,六角形の模様が記載されている点
(b) 原告外箱には,下方の赤色ラインより上の部分に「Dr. Ci:Labo」のロゴマーク及び「produced by Dr.Ci:Labo」の文字が銀色で記載されているのに対し,被告外箱には,そのような記載はなく,下方の赤色ラインの近くに至るまで六角形の模様が記載されている点
d 下部
(a) 原告外箱では,赤色ライン上に「Simple & Natural」の文字が大文字小文字を混在させて記載されているのに対し,被告外箱では,赤色ライン上に「ALL SKIN TYPES」の文字が大文字のみで記載されている点
(b) 原告外箱では赤色ラインの下に文字の記載はないが,被告外箱では同ラインの下に「アルコールフリー パラペンフリー」との文字が白色で記載されている点
(イ) 背面
(省略)
ウ 類否判断
(ア) 原告商品及び被告商品が店頭で販売される場合には,外箱の正面が需要者から見える形で陳列されることが通常であること(甲56)に照らすと,両商品の外箱のうち商品の自他識別機能又は出所識別機能を果たす中心的な部分は,その正面のデザインであると考えられる。
(イ) 原告外箱の正面のデザインは,①全体にわたり背景色が赤色からオレンジ色までの暖色系のグラデーションとなっており,文字や図柄が上下に配置され,中央部には目立つ文字や図柄が配置されていないこともあって,暖色系のグラデーションが需要者に強い印象を与える点,②上方と下方に横方向の二本の赤色ラインが目立つように配置されており,特に,上面から外箱の高さの3分の1程度下の位置にある赤色ラインには銀色の縁取りがあり,上下方向のグラデーションとの対比ともあいまって,需要者の目を惹く点に特徴があると認められる。
原告外箱と被告外箱の正面のデザインの共通点は,上記認定のとおりであるところ,これによれば,被告外箱は,上記①及び②の特徴をいずれも備えており,原告外箱のデザインと類似しているとの印象を与えるというべきである。
この点,被告は,化粧品の分野では赤色を採用するのは通常であり,外箱又は容器が赤系の色彩であることは商品等表示を構成する要素とならないと主張し,その証拠として乙1を挙げるが,乙1に挙げられている化粧品の外箱及び容器の色彩やデザインは原告商品の色彩やデザインとは相当程度異なるものであり,原告外箱及び原告容器の色彩やデザインが他の化粧品にもよく見られるありふれたものであるということはできない。
(ウ) 被告は,両商品の外箱のデザインに関する相違点を考慮すると,被告外箱と原告外箱とは類似していないと主張するが,両商品の外箱の正面部分におけるデザインは,上記認定のとおり,背景色の色合い(赤み)の違い,文字の表記方法,字体及び内容,中央部の薄い色の模様の有無,下部における白色での文字の記載の有無など,需要者に強い印象を与えることのない点において相違するにとどまり,両商品の外箱が類似するとの上記結論を左右しない。
また,被告は,外箱の背面及び左右側面部における差異も主張するが,同各部分に係る相違点は,店頭に陳列された状態において需要者の目に触れるものではないので,これらの部分における相違点は,外箱の類否判断に影響を及ぼさない。
(エ) したがって,両商品の外箱のデザインは類似していると認められる。
(3) 原告容器と被告容器の類否
ア 原告容器と被告容器の共通点
・・・原告容器と被告容器の共通点は,以下のとおりである。
(ア) 正面が,全体的にオレンジ色を帯びた暖色系の色である点
(イ) 正面上方と下方に横方向の二本の赤色ラインが配置されている点
(ウ) 正面上方の赤色ラインには銀色の縁があり,同ラインが中心からやや上の位置に配置されている点
(エ) 正面下方の赤色ラインには銀色の縁はなく,同ラインが底面よりやや上の位置に配置されている点
(オ) 正面上方の赤色ラインの上に,ブランド名や「Keana Lotion(KEANA LOTION)」を含む商品名が記載されている点
(カ) 正面上方の赤色ライン上に文字が白色で記載され,正面下方の赤色ライン上にも文字が記載されている点
イ 原告容器と被告容器の相違点
(ア) 正面の色につき,被告容器の方が原告容器よりも赤みが強い点
(イ) キャップの色が,原告容器は銀色であるのに対し,被告容器は白色である点
(ウ) 容器の種類が,原告容器は透明の容器であるのに対し,被告容器は反射性の不透明の容器である点
(エ) 背面の色が,原告容器は正面と同じオレンジ色を帯びた暖色系の色であるのに対し,被告容器は銀色である点
(オ) 容器の文字表示に違いがある点
ウ 類否判断
(ア) 原告商品と被告商品の容器は,外箱に収められた状態で販売されているため,需要者がその容器を店頭で直接目にするものではないが,外箱から取り出した状態で需要者がまず目にするのは容器の正面であると考えられ,原告容器の写真や映像付きで原告商品を紹介する雑誌やウェブサイト,テレビ番組では,いずれも原告容器の正面が写っているものが使用されていたことにも照らすと,両商品の容器のうち商品の自他識別機能又は出所識別機能を果たす中心的な部分は,その正面のデザインであると考えられる。
(イ) 原告容器の正面のデザインは,①全体的にオレンジ色を帯びた暖色系の色となっており,文字や図柄が上下に配置され,中央部には目立つ文字や図柄が配置されていないこともあり,オレンジ色の色合いが需要者に強い印象を与えるデザインとなっている点,②上方と下方に横方向の二本の赤色ラインが目立つように配置されており,特に,上方の赤色ラインには銀色の縁取りがあり,需要者の目を惹く点に特徴があると認められる。
原告容器と被告容器の正面のデザインの共通点は,上記認定のとおりであるところ,これによれば,被告容器は,上記①及び②の特徴をいずれも備えており,原告容器のデザインと類似しているとの印象を与えるものであるというべきである。
(ウ) 被告は,両商品の容器のデザインに関する相違点を考慮すると,被告容器と原告容器は類似していないと主張するが,両商品の容器の正面部分におけるデザインは,上記認定のとおり,色合い(赤みの強さ),キャップの色,透明性の程度,背面の色,文字表記など,需要者に強い印象を与えることのない点において相違するにとどまり,両商品の容器が類似するとの上記結論を左右しない。
(エ) したがって,原告容器と被告容器のデザインは類似していると認められる。
3 争点3(混同の有無)について
前記判示のとおり,原告外箱及び被告容器は商品等表示として需要者の間に広く認識されていると認められるところ,被告外箱及び被告容器が原告外箱及び原告容器と類似していることや被告商品が原告商品と同様に毛穴ケア用の化粧水であることを考慮すると,被告容器及び被告外箱は,原告商品と出所の混同を生じさせるものと認められる。
これに対し,被告は,被告容器及び被告外箱に被告商品のブランド名が記載されていることや,ドクターシーラボのロゴや十字形のマークと誤認する要素がないことを理由に,両商品の混同が生じる余地はないと主張するが,原告商品と被告商品の外箱及び容器の類似性の程度に加え,被告ブランドの知名度は必ずしも高くなく,需要者が被告ブランドの表示を見て原告ブランドの商品とは異なると識別することは容易ではないと考えられることなども考慮すると,被告ブランドの表示があることやブランドのマーク表示が付されていることは,出所の混同が認められるとの上記結論を左右するものではないというべきである。
(以下省略)
【検討】
1 不正競争防止法2条1項1号
不正競争防止法2条1項1号では,「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」が不正競争に該当すると定められている。いわゆる周知な商品等表示主体の混同行為である。
「類似の商品等表示」であるかの判断にあたっては,「取引の実情のもとにおいて,取引者,需要者が,両者の外観,称呼,又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準」として判断される。(最高裁昭和58年10月7日,最高裁昭和59年5月29日)。
また,「混同を生じさせる行為」とは,「他人の周知の営業表示と同一又は類似の表示を使用する者が、同人と右他人とを同一営業主体と誤信させる行為のみならず、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる行為をも包含」すると解されており(最高裁昭和58年10月7日),表示の周知度,表示の類似性,商品の類似性等を考慮して判断される。
2 本件の検討
本件では,原告の化粧水容器及び外箱という「商品等表示」と,被告の化粧水容器及び外箱が類似しているのか(類似性),混同を生じさせているか,という点が争われた。
本件において裁判所は,類似性の判断について従来の判断基準を用いているが,『化粧水は店頭で販売される場合に,外箱の正面が見える形で陳列されていること』,『外箱から取り出した状態で需要者がまず目にするのは容器の正面であると考えられること』という取引の実情を加味して,原告商品の容器及び外箱において商品の自他識別機能又は出所識別機能を果たす中心的な部分は,容器及び外箱の正面デザインであるとして,原告商品及び被告商品の正面デザインにおいて類似性を判断しており,原告商品及び被告商品の容器・外箱の側面デザイン・背面デザインにおける相違点は,当該相違点は類否判断に影響を及ぼさないと判示している。
さらに,裁判所は,混同を生じさせているかという点について,表示の類似性,商品の同一性からこれを肯定しており,被告商品へ被告ブランドのマークが付されている点については,被告ブランドの知名度が必ずしも高くはないことから,混同についての判断を左右しないと判示している。
3 私見
ある商品について,消費者は,実際に購入・使用する際に,側面デザイン・背面デザインに関しても確認を行うことを考えると,正面デザインのみから類似性を判断することは慎重になるべきように思われる。また,ブランドのロゴマークについて,本件ではその知名度によって混同への影響力を否定しているが,混同を生じさせないために自社ブランドのロゴマークを付していたとしても,知名度という自らのコントロールが難しい事項によって判断されるとなると,新しくブランドを立ち上げて商品を販売しようとする企業にとって混同を回避する手段が狭まるように思われる。
そのため,本件は,原告商品及び被告商品の正面デザインの類似性がかなり高いという事情を考慮した事案として捉えたほうが良いように考える。
ただ,企業側は,自社商品のデザインを決める際には,競合他社の商品デザインを調査し,消費者が一見して類似していると判断するようなデザインを回避することが必要といえるだろう。
以上
(筆者)弁護士 市橋景子
1他に「原告外箱及び原告容器の周知性の有無」,「差止め及び廃棄請求の可否」,「故意又は過失の有無」,「損害額」も争点となっているが,ここでは省略する。