【平成30年12月13日(大阪地判 平成27年(ワ)第8974号)】

【概要】
本件は,被告が製造販売する複数の製品に関し,原告の保有する特許権の侵害を理由とする差止請求及び損害賠償請求がなされた事案である。被告製品3は,被告表示器専用の画面作成ソフトウェアであり,原告は,直接侵害,特許法第101条第1号の間接侵害及び同2号の間接侵害の成立を主張した。判決では,直接侵害及び特許法第101条第1号の間接侵害の成立を否定し,同2号の間接侵害の成立を認めた。
ここでは,特許法第101条第2号の汎用性要件に焦点を当てて検討する。

【キーワード】
特許法第101条第2号の間接侵害,多機能型間接侵害,汎用品要件

1.本件発明1の内容(特許第3700528号の請求項1)

1A 機械・装置・設備等の制御対象を制御するプログラマブル・コントローラにおいて用いられる表示装置であって,
1B 前記制御対象の異常現象の発生をモニタするプログラムと,
1C そのプログラムで異常現象の発生がモニタされたときにモニタされた異常現象に対応する異常種類を表示する手段と,
1D 表示された1又は複数の異常種類から1の異常種類に係る異常名称をタッチして指定するタッチパネルと,
1E 異常種類が当該タッチにより指定されたときにその指定された異常種類に対応する異常現象の発生をモニタしたラダー回路を表示する手段と,を有し,
1F 前記ラダー回路を表示する手段は,表示されたラダー回路の入出力要素のいずれかをタッチして指定する前記タッチパネルと,表示されたラダー回路の入力要素が当該タッチにより指定されたときにその入力要素を出力要素とするラダー回路を検索して表示し,表示されたラダー回路の出力要素が当該タッチにより指定されたときにその出力要素を入力要素とするラダー回路を検索して表示する手段を含む
1G ことを特徴とする表示装置。

2.被告製品の内容

(1)被告表示器A
被告表示器は,プログラマブル表示器であり,工場等における設備機械を制御する制御装置であるプログラマブル・コントローラ(設備機械のアクチュエータ等の動作等のON/OFF信号,位置信号等を,設備機械の動作プログラムに従って受発信し,かつ当該動作プログラムが記憶されている装置。以下「PLC」という。)等の状態を表示するとともに,PLC等に指令信号を送る機器(表示操作装置)である。

(2)被告製品3
・被告表示器専用の画面作成ソフトウェア
・被告表示器のOS(基本機能OS及び拡張/オプション機能OS)とその他のソフトウェアが含まれる
・ユーザは,被告製品3をパソコンにインストールし,その中のソフトウェアを使用して,パソコンで被告表示器のプロジェクトデータを作成
・被告表示器は,ユーザが被告表示器に被告製品3を用いて基本機能OSをインストールしなければ全く機能しない
・被告製品3のうち回路モニタ機能等部分をインストールがされ,回路モニタ機能等が使用可能な状態となった被告表示器Aは,本件発明1の技術的範囲に属する

3.汎用品要件に関する判旨

「以上認定・判示した被告製品3の機能等に照らせば,被告製品3が日本国内において広く一般に流通しているものに当たると認めることはできない。
 この点に関連し,被告は,必要なプロジェクトデータ等をインストールした被告表示器Aでは,アラームリスト機能を経由せずにラダー回路を表示することができ,その場合にも,ワンタッチ回路ジャンプ機能を使用することができるから,この機能は汎用的な機能であると主張している。
 しかし,特許法101条2号が「日本国内において広く一般に流通しているもの」を間接侵害の対象物から除く趣旨は,市場において一般に入手可能な状態にある規格品や普及品まで間接侵害の対象とするのでは取引の安定性の確保の観点から好ましくないとの点にあるところ,被告製品3がそのようなものであるとは認められない。したがって,被告の上記主張を踏まえても,上記認定は左右されない。」

4.検討

 特許法第101条第2号の間接侵害の成立には,「日本国内において広く一般に流通しているもの」の要件(汎用品要件)を充足することが必要となる。汎用品要件に関し,知財高判平成17年9月30日〔一太郎事件・控訴審〕は,「『日本国内において広く一般に流通しているもの』とは,典型的には,ねじ,釘,電球,トランジスター等のような,日本国内において広く普及している一般的な製品,すなわち,特注品ではなく,他の用途にも用いることができ,市場において一般に入手可能な状態にある規格品,普及品を意味するものと解するのが相当である。」と判示し,汎用品要件の解釈を示すが,「特注品」の意義が明確でないことや,「他の用途」は「規格品」といわれる程の他の用途がないといけないのか,また,「普及品」といえるための普及の程度はどの程度かが明らかでないことから,汎用品要件の規範は必ずしも明確とはいえない。また,一太郎事件・控訴審では,一太郎は,市場での流通量からすると一般入手可能であったことから,「普及品」に該当するものであるが,判決では,特に,被告製品が「普及品」であるかについては何ら触れられず,「控訴人製品は,本件第1,第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものでるから,同号にいう『日本国内において広く一般に流通しているもの』に当たらないというべきである。」と判示しており,製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断がされており,判決で述べられた,汎用品要件の解釈とは必ずしも整合するものではない。
 そして,本判決でも,「被告製品3の機能等」を理由に汎用品の該当性が否定されている。この「被告製品3の機能等」が具体的には被告製品3のどの機能に着目したものなのか必ずしも明確ではないが,被告製品3は,基本機能OS及び拡張/オプション機能OSとその他のソフトウェアから構成されるものである。被告製品3に収録されたどのソフトウェアをインストールするかにより,インストールされた被告表示器Aが本件発明1の技術的範囲に属するか否かは異なるようであるが,本判決では,前提として,被告製品3のうち回路モニタ機能等部分をインストールがされ,回路モニタ機能等が使用可能な状態となった被告表示器Aは,本件発明1の技術的範囲に属することを判示している。したがって,本判決は,被告製品3の構成の一部は,本件発明1のために特に備えられた機能である(被告製品3が特許発明を構成する物の生産にのみ用いる部分を含む)ことに着目して,汎用品の該当性を肯定しているものと思われる。
本判決は,被告製品の流通量には着目せず,製品自体の性質あるいは構成にのみ着目して,汎用品要件の該当性の判断を示すものである点で,一太郎事件・控訴審判決と同様の判断枠組みによるものといえる。また,本判決は,被告製品3が特許発明を構成する物の生産にのみ用いる部分を含む点に着目して汎用品要件の該当性を肯定している点でも,対象製品が特許発明の「構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含む」ことを理由に汎用品の該当性を肯定した一太郎事件・控訴審判決と同様の理由で汎用品の該当性を肯定しているものと考えられる。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 杉尾雄一