【令和7年11月13日(大阪地裁 令和6年(ワ)第10842号】

 

【キーワード】

不正競争防止法2条1項3号

 

【事案の概要】

本件は、以下の図1のバッグ(以下「原告商品1」という。)及び財布(以下「原告商品2」といい、原告商品1と総称して「原告各商品」という。)を販売する原告が、以下の図2のバッグ(以下「被告商品1」という。)が原告商品1の形態を、以下の図2の財布(以下「被告商品2」といい、被告商品1と総称して「被告各商品」という。)の形態が原告商品2の形態をそれぞれ模倣した商品であり、被告による被告各商品の販売が不正競争防止法2条1項3号に当たると主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求める事案である。

原告商品1 商品名:ミニトートバッグ
【前面】 【後面】
【内部】 【底】
【側面】
 
原告商品2 商品名:ミニ財布  
【前面】 【後面】
【内部】 【側面1】
【側面2】 【側面3】
【側面4】 【側面5(開いた状態)】

図2 被告各商品

被告商品1 商品名:ミニトートバッグ
【前面】 【後面】
   
【内部】                     
   
【側面】 【側面】
   
被告商品名2 商品名:ミニ財布
【前面】 【後面】
   
【内部】

【側面1】  

   
【側面2】 【側面3】
   
【側面4】 【側面5(開いた状態)】
   

 

【争点】

・被告商品1は原告商品1の形態を模倣したものであるか。
・被告商品2は原告商品2の形態を模倣したものであるか。

 

【判決(一部抜粋)】(下線は筆者が付した。以下同じ。)

第1 請求 省略
第2 事案の概要 省略
第3 当事者の主張 省略
第4 判断
 事案に鑑み、争点2及び3について判断する。
1 争点2(被告商品1は原告商品1の形態を模倣したものであるか)について
(1) 形態の特徴
 原告商品1と被告商品1の形態の特徴は、次のとおりであると認められる(甲3、4、乙 1ないし4。なお、各形態の特徴について、以下、同認定の「形態ア」「同イ」などと表記 する。)。

【原告商品1の形態】
ア バッグの前面及び後面の横幅が23センチメートルで開口部を含めると30センチメートル
イ バッグの高さ(縦の長さ)が19センチメートル
ウ バッグの外側にはオープンポケットが1つ
エ バッグの前面及び後面に手持ちのためのハンドルが各1つ
オ 上記エのハンドル持ち手高が8センチメートル
カ 上記エのハンドルは生地を2枚合わせにしている。
キ バッグの内部は4つの仕切られた収納部が存在し,中央部にオープンポケットがある。また、中央部のオープンポケット前方に1つ、後方に2つの収納部が存在し、後方の 2つの収納部幅は概ね1:2である。
ク バッグ前面のハンドルの延長部分に縦約3センチの縦長長方形のタグが存在する 。
ケ バッグ前面上部とバッグ後面上部に各2ヶ所、上記エのハンドルと本体との取付部があり、同取付部に丸型の補強鋲が存在し、「□」及び「×」状の縫目がない。

【被告商品1の形態】
ア´ バッグの前面及び後面の横幅は23センチメートルである。
イ´ バッグの高さ(縦の長さ)が18.5センチメートル
ウ´ バッグの外側にはオープンポケットが1つ
エ´ バッグの前面及び後面に手持ちのためのハンドルが各1つ
オ´ 上記エ´のハンドル持ち手高が10.5センチメートル
カ´ 上記エ´のハンドルは生地を2枚合わせにしている。
キ´ バッグの内部は4つの仕切られた収納部が存在し、中央部にオープンポケットがあ る。また、中央部のオープンポケット前方に1つ、後方に2つの収納部が存在し、後方の2 つの収納部幅は概ね1:2である。
ク´ バッグ前面にタグがない。
ケ´ バッグ前面上部,バッグ後面上部に各2ヶ所、上記エのハンドルと本体との取付部があり、同取付部に補強鋲が存在せず、約4センチメートル四方の「□」状の縫目,「×」状の縫目が存在する。

(2) 実質的同一性
ア 原告商品1と被告商品1は、バッグ前面及び後面の横幅が23センチメートルであり(形態ア)、バッグの高さ(縦の長さ)も19センチメートルと18.5センチメートルと、若干の違いはあるものの、その長さないし横幅との比として近似しているほか、外側 にオープンポケットがある点(同ウ)、バッグ前面及び後面に手持ちのためのハンドルが各1つあり、2枚合わせの生地である点(同エ、カ)、収納部の形状(同キ)において共通するもので、一見すると、両商品の全体的印象には共通するものがあるように受け止められる部分はある。
 しかし、原告商品1の販売開始日(令和2年8月頃)より以前から、バッグ前面及び後面の開口部を含まない横幅と高さ(縦の長さ)をほぼ上記と同程度(形態ア、イ)とするトートバッグは存在しており(乙28・30)、このトートバッグも含め、バッグ前面の外側にオープンポケットを備え、バッグ前面及び後面に各1つの手持ちハンドルを備え、当該ハンドルが2枚合わせの生地からなる(形態ウ、エ、カ)トートバッグも存在していた(乙27・29、28・30)。加えて、バッグ内部に4つに仕切られた収納部が存在し、中央部にオープンポケットがあるなどの形態(形態キ)についても、バッグ内側で複数に仕分けられた収納機能を備えさせることに伴う形状の域を出ていないといえる上、上記のトートバッグ(乙27・29、28・30)は、ほぼ同様の形態の収納部を備えていたものでもある。このように、原告商品1と被告商品1において共通すると原告が強調する各形態は、いずれも先行する同種商品として、既に同一ないし類似の形態が存在していたものであるから、これらを原告商品1の形態の実質的同一性の判断において、重視することはできない(なお、原告商品1と先行同種商品とで横幅に一定の差異があると見たとしても、トートバックとしてごくありふれた前面及び後面が長方形状という形態を前提に、その横幅に一定の差異があるというにとどまるもので、この点での原告商品1と被告商品1との共通性を重視することができないとの評価に違いはない。)。

イ 他方、原告商品1と被告商品1は、ハンドルの持ち手高(形態オ)に8センチメートルであるか10.5センチメートルであるかという違いがある上、バッグ前面の縦約3センチメートルの長方形タグの有無(同ク)、ハンドルと本体との取付部の約4センチメートル四方の縫い目の形状及び丸型補強鋲の有無(同ケ)においても相違する。
 この点、原告は、上記相違点は些細なものであると主張する。しかし、ハンドル本体との取付部の縫い目の形状、同部の補強鋲の有無や、バッグ前面の長方形タグの有無という相違点については、バッグ前面の形態が需要者の最も注目する部分であると解されること、上記縫い目の大きさ(約4センチメートル四方)や長方形タグ(縦約3センチメートル)がバッグ全体の大きさに比して小さいものとはいえないことからすれば、先行する同種商品との比 較のもと原告商品1固有の形態といえる部分が限られている中で、商品全体の形態に対する需要者の印象に影響する相違点があるといえる。また、ハンドルの持ち手高が数センチメートル相違する点については、需要者において、これのみで大きく印象を異にするとまでいえるかはともかくとして、上記のように原告商品1固有の形態といえる部分が限られている中 で、相違点として軽視することはできない

ウ 以上より、原告商品1と被告商品1の形態は、実質的に同一(不競法2条5項)であると認めることはできない
 なお、上記のような先行同種商品の形態との比較検討に加え、原告が、原告商品1の形態のデザイン過程を立証するよう被告ないし裁判所から繰り返し求められながら、これを直接示す証拠を一切提出することができなかったという訴訟経過も踏まえると、原告商品1の形 態が、原告の労力等を投下して開発した成果たる「他人の商品の形態」(不競法2条1項3号)に当たることについても、疑義があるといわざるを得ないところである(争点1)。

(3) したがって、被告商品1は、原告商品1との形態上の共通部分や前記前提事実記 載の事実経過からして、原告商品1を参考にしてデザインされたことはうかがわれるものの、原告商品1の「形態」を「模倣」したものであると認めることはできない。

2 争点3(被告商品2は原告商品2の形態を模倣したものであるか)について
(1) 形態の特徴原告商品2と被告商品2の形態の特徴は、次のとおりであると認められる(甲6、7、乙5ないし7。なお、各形態の特徴について、以下、同認定の「形態A」「同B」などと表記する。)。

【原告商品2の形態】
A 長方形になっており、そのうちの一角が丸みを帯びている。
B 高さが9センチメートル、幅が11.5センチメートル、マチが2センチメートル
C 内部の中央部分に小銭を入れるためのポケットが付いている。
D 内部の両方の側面には、それぞれ2つずつの段違いでカード等を入れるためのポ ケットが付いている。
E 財布の開け閉めのためのチャックがL字型になっている。
F 外部全体が凹凸のない面である

【被告商品2の形態】
A´ 長方形になっており、そのうちの一角が丸みを帯びている。
B´ 高さが9.5センチメートル、幅が11.3センチメートル、マチが2センチメートル
C´ 内部の中央部分に小銭を入れるためのポケットが付いている。
D´ 内部の両方の側面には、それぞれ2つずつの段違いでカード等を入れるためのポケ ットが付いている。
E´ 財布の開け閉めのためのチャックがL字型になっている。
F´ 外部全体が斜めの網目模様となっている。

(2) 実質的同一性

ア 原告商品2と被告商品2は、長方形で一角が丸みを帯びている点(形態A)、マチ(形態Bの一部)、内側に小銭入れ部分と各側面に各2つのポケットを備える点(形態C、D)、L字型の開閉のチャックを備えている点(同E)において共通するほか、財布の高さが9センチメートルと9.5センチメートル、幅が11.5センチメートルと11.3センチメートルと、それら長さ及び比において近似しているものでもある(形態B)。
 しかし、原告商品2の販売開始日である令和元年7月より以前から、上記形態A、C、Eの各形態や内部の各側面に複数のカード等を入れるポケットを備えるほか、高さ及び幅の各長さ・比を上記程度(形態B)とする財布は存在していた(乙20ないし24)ことからすれば、これらの部分の共通性を原告商品2の形態の実質的同一性の判断において、重視することはできない

イ 他方、原告商品2と被告商品2は、外部面の凹凸や模様の有無において相違する。この点、原告は、上記相違点を認めつつも、原告商品2の外側の素材を被告商品2の外側の素材とすることは容易に着想できるものであるから、両形態は実質的に同一であるなどと 主張する。しかし、原告商品2の外側の素材は「本革」であり、被告商品2の外側の素材は 「合成皮革(PU)」であるから、素材による「光沢及び質感」(不競法2条4項)が異なることに加え、凹凸や模様が一切施されていない原告商品2とは異なり、被告商品2には凹凸のある網目様の模様が施されており、「商品の外部の形状」(同条項)においても相違している。そして、これら形態は、財布の需要者にとって強く関心を有する部分といえることからすれば、先行する同種商品との比較のもと原告商品2固有の形態といえる部分が限られている中で、上記相違点は、商品全体の形態に対する需要者の印象に影響するものといえる

ウ 以上より、原告商品2と被告商品2の形態は、実質的に同一(不競法2条5項)であると認めることはできない
 なお、上記のような先行同種商品の形態との比較検討に加え、原告が、原告商品2の形態 のデザイン過程を立証するよう被告ないし裁判所から繰り返し求められながら、これを直接示す証拠を一切提出することができなかったという訴訟経過も踏まえると、原告商品2の形態が、原告の労力等を投下して開発した成果たる「他人の商品の形態」(不競法2条1項3号)に当たることについても、疑義があるといわざるを得ないところである(争点1)。

(3) したがって、被告商品2は、原告商品2との形態上の共通部分や前記前提事実記載の事実経過からして、原告商品2を参考にしてデザインされたことはうかがわれるものの、原告商品2の「形態」を「模倣」したものであると認めることはできない。

第5 結論
 よって、その余の点について判断するまでもなく原告の請求は理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

【若干の解説】

1 総論

 不正競争防止法2条1項3号は、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」を不正競争と規定し、差止め及び損害賠償請求の対象としている。同号の趣旨は、商品開発者が商品化に当たって資金・労力を投下した成果が模倣された場合、模倣者は、開発、商品化に伴う危険負担を大幅に軽減して市場に参入できる一方で、当該商品開発者の市場先行の利益を著しく減少し、また、商品開発及び市場開拓の意欲が阻害されるため、これを防止することにある。
 また、不正競争防止法上「模倣する」とは、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう」と定義され(不正競争防止法2条5項)、依拠性と実質的同一性の二点が要件と整理されている。
 本件では、被告商品1が原告商品1の形態を、被告商品2が原告商品2の形態を模倣したものと言えるかが判断され、結論として、各両者につきこれが否定された。以下、本件の判断について整理しつつ、若干の解説を加えることとする。

2 本件の判断

⑴ 原告商品1と被告商品1
ア 各商品の形態
 不正競争防止法2条1項3号の不正競争における実質的同一性は、①原告商品及び被告商品の商品形態を特定し、②両者と対比して共通点と相違点を認定し、③相違点が商品形態に与える影響を評価して、両商品形態が実質的に同一であるか否か判断されることが多い。本件でも、これと同様の手法で原告商品1と被告商品1の実質的同一性が判断されている。
 裁判所は、原告商品1と被告商品1の形態について、それぞれ以下のとおり認定した。

【原告商品1の形態】
ア バッグの前面及び後面の横幅が23センチメートルで開口部を含めると30センチメートル
イ バッグの高さ(縦の長さ)が19センチメートル
ウ バッグの外側にはオープンポケットが1つ
エ バッグの前面及び後面に手持ちのためのハンドルが各1つ
オ 上記エのハンドル持ち手高が8センチメートル
カ 上記エのハンドルは生地を2枚合わせにしている。
キ バッグの内部は4つの仕切られた収納部が存在し,中央部にオープンポケットがある。また、中央部のオープンポケット前方に1つ、後方に2つの収納部が存在し、後方の 2つの収納部幅は概ね1:2である。
ク バッグ前面のハンドルの延長部分に縦約3センチの縦長長方形のタグが存在する 。
ケ バッグ前面上部とバッグ後面上部に各2ヶ所、上記エのハンドルと本体との取付部があり、同取付部に丸型の補強鋲が存在し、「□」及び「×」状の縫目がない。

【被告商品1の形態】
ア´ バッグの前面及び後面の横幅は23センチメートルである。
イ´ バッグの高さ(縦の長さ)が18.5センチメートル
ウ´ バッグの外側にはオープンポケットが1つ
エ´ バッグの前面及び後面に手持ちのためのハンドルが各1つ
オ´ 上記エ´のハンドル持ち手高が10.5センチメートル
カ´ 上記エ´のハンドルは生地を2枚合わせにしている。
キ´ バッグの内部は4つの仕切られた収納部が存在し、中央部にオープンポケットがあ る。また、中央部のオープンポケット前方に1つ、後方に2つの収納部が存在し、後方の2 つの収納部幅は概ね1:2である。
ク´ バッグ前面にタグがない。
ケ´ バッグ前面上部,バッグ後面上部に各2ヶ所、上記エのハンドルと本体との取付部 があり、同取付部に補強鋲が存在せず、約4センチメートル四方の「□」状の縫目,「×」状の縫目が存在する。

イ 実質的同一性の判断
 裁判所は、上記のとおり各商品の形態を認定した上で、まず両者の共通点につき、以下のとおり判示した。

ア 原告商品1と被告商品1は、バッグ前面及び後面の横幅が23センチメートルであり(形態ア)、バッグの高さ(縦の長さ)も19センチメートルと18.5センチメートルと、若干の違いはあるものの、その長さないし横幅との比として近似しているほか、外側 にオープンポケットがある点(同ウ)、バッグ前面及び後面に手持ちのためのハンドルが各1つあり、2枚合わせの生地である点(同エ、カ)、収納部の形状(同キ)において共通するもので、一見すると、両商品の全体的印象には共通するものがあるように受け止められる部分はある。
 しかし、原告商品1の販売開始日(令和2年8月頃)より以前から、バッグ前面及び後面の開口部を含まない横幅と高さ(縦の長さ)をほぼ上記と同程度(形態ア、イ)とするトートバッグは存在しており(乙28・30)、このトートバッグも含め、バッグ前面の外側にオープンポケットを備え、バッグ前面及び後面に各1つの手持ちハンドルを備え、当該ハンドルが2枚合わせの生地からなる(形態ウ、エ、カ)トートバッグも存在していた(乙27・29、28・30)。加えて、バッグ内部に4つに仕切られた収納部が存在し、中央部にオープンポケットがあるなどの形態(形態キ)についても、バッグ内側で複数に仕分けられた収納機能を備えさせることに伴う形状の域を出ていないといえる上、上記のトートバッグ(乙27・29、28・30)は、ほぼ同様の形態の収納部を備えていたものでもある。このように、原告商品1と被告商品1において共通すると原告が強調する各形態は、いずれも先行する同種商品として、既に同一ないし類似の形態が存在していたものであるから、これらを原告商品1の形態の実質的同一性の判断において、重視することはできない(なお、原告商品1と先行同種商品とで横幅に一定の差異があると見たとしても、トートバックとしてごくありふれた前面及び後面が長方形状という形態を前提に、その横幅に一定の差異があるというにとどまるもので、この点での原告商品1と被告商品1との共通性を重視することができないとの評価に違いはない。)。

 ここでは、上記の形態ア、イ、ウ、エ、カ、キ等の点に関して共通又は近似が認められるとして、「一見すると、両商品の全体的印象には共通するものがあるように受け止められる部分はある。」と述べつつも、これらはいずれも先行する同種商品として既に同一ないし類似の形態が存在していた、という理由から、「実質的同一性の判断において、重視することはできない」と判断されている。

 一方、裁判所は、相違点については以下のとおり判示した。

イ 他方、原告商品1と被告商品1は、ハンドルの持ち手高(形態オ)に8センチメートルであるか10.5センチメートルであるかという違いがある上、バッグ前面の縦約3センチメートルの長方形タグの有無(同ク)、ハンドルと本体との取付部の約4センチメートル四方の縫い目の形状及び丸型補強鋲の有無(同ケ)においても相違する。
 この点、原告は、上記相違点は些細なものであると主張する。しかし、ハンドル本体との取付部の縫い目の形状、同部の補強鋲の有無や、バッグ前面の長方形タグの有無という相違点については、バッグ前面の形態が需要者の最も注目する部分であると解されること、上記縫い目の大きさ(約4センチメートル四方)や長方形タグ(縦約3センチメートル)がバッグ全体の大きさに比して小さいものとはいえないことからすれば、先行する同種商品との比較のもと原告商品1固有の形態といえる部分が限られている中で、商品全体の形態に対する需要者の印象に影響する相違点があるといえる。また、ハンドルの持ち手高が数センチメートル相違する点については、需要者において、これのみで大きく印象を異にするとまでいえるかはともかくとして、上記のように原告商品1固有の形態といえる部分が限られている中で、相違点として軽視することはできない

 ここでは、相違点が認められる形態にはバッグ前面の形態に関するものが多いところ、バッグ前面は需要者の最も注目する部分であると解されることや、相違点に係る形態の大きさがバッグ全体の大きさに比して小さいものでないといった事情、また上記のとおり原告商品1に固有の形態といえる部分が限られているという状況から、こうした相違点は需要者の印象に影響する、又は相違点として軽視することはできないと判断されている。

 以上の判示を踏まえ、裁判所は以下のとおり述べ、原告商品1と被告商品1は実質的に同一とはいえないものと結論付けた。

ウ 以上より、原告商品1と被告商品1の形態は、実質的に同一(不競法2条5項)であると認めることはできない。

⑵ 原告商品2と被告商品2
ア 各商品の形態
 原告商品2と被告商品2の実質的同一性についても、上記と同様の方法で判断がされている。
 裁判所は、まず、原告商品2の形態と被告商品2の形態について、以下のとおり認定した。

【原告商品2の形態】
A 長方形になっており、そのうちの一角が丸みを帯びている。
B 高さが9センチメートル、幅が11.5センチメートル、マチが2センチメートル
C 内部の中央部分に小銭を入れるためのポケットが付いている。
D 内部の両方の側面には、それぞれ2つずつの段違いでカード等を入れるためのポ ケットが付いている。
E 財布の開け閉めのためのチャックがL字型になっている。
F 外部全体が凹凸のない面である

【被告商品2の形態】
A´ 長方形になっており、そのうちの一角が丸みを帯びている。
B´ 高さが9.5センチメートル、幅が11.3センチメートル、マチが2センチメートル
C´ 内部の中央部分に小銭を入れるためのポケットが付いている。
D´ 内部の両方の側面には、それぞれ2つずつの段違いでカード等を入れるためのポケ ットが付いている。
E´ 財布の開け閉めのためのチャックがL字型になっている。
F´ 外部全体が斜めの網目模様となっている。

イ 実質的同一性の判断
 そして、両者の共通点及び相違点について以下のとおり述べ、原告商品2と被告商品2についても、共通点は重視することができない一方、相違点は商品全体の形態に対する需要者の印象に影響すると判断した。なお、ここでは、原告商品2と被告商品2が、不正競争防止法2条4項の「商品の形態」の定義において明示的に言及される「光沢及び質感」及び「商品の外部の形状」において相違することも指摘されている。

ア 原告商品2と被告商品2は、長方形で一角が丸みを帯びている点(形態A)、マチ(形態Bの一部)、内側に小銭入れ部分と各側面に各2つのポケットを備える点(形態C、D)、L字型の開閉のチャックを備えている点(同E)において共通するほか、財布の高さが9センチメートルと9.5センチメートル、幅が11.5センチメートルと11.3センチメートルと、それら長さ及び比において近似しているものでもある(形態B)。
 しかし、原告商品2の販売開始日である令和元年7月より以前から、上記形態A、C、Eの各形態や内部の各側面に複数のカード等を入れるポケットを備えるほか、高さ及び幅の各長さ・比を上記程度(形態B)とする財布は存在していた(乙20ないし24)ことからすれば、これらの部分の共通性を原告商品2の形態の実質的同一性の判断において、重視することはできない

イ 他方、原告商品2と被告商品2は、外部面の凹凸や模様の有無において相違する。この点、原告は、上記相違点を認めつつも、原告商品2の外側の素材を被告商品2の外側の素材とすることは容易に着想できるものであるから、両形態は実質的に同一であるなどと主張する。しかし、原告商品2の外側の素材は「本革」であり、被告商品2の外側の素材は「合成皮革(PU)」であるから、素材による「光沢及び質感」(不競法2条4項)が異なることに加え、凹凸や模様が一切施されていない原告商品2とは異なり、被告商品2には凹凸のある網目様の模様が施されており、「商品の外部の形状」(同条項)においても相違している。そして、これら形態は、財布の需要者にとって強く関心を有する部分といえることからすれば、先行する同種商品との比較のもと原告商品2固有の形態といえる部分が限られている中で、上記相違点は、商品全体の形態に対する需要者の印象に影響するものといえる

 以上の判示を踏まえ、裁判所は、以下のとおり、原告商品2と被告商品2に関しても、実質的同一性が認められないと判断した。

ウ 以上より、原告商品2と被告商品2の形態は、実質的に同一(不競法2条5項)であると認めることはできない

⑶ 結論
 以上から、裁判所は結論として、被告の行為につき不正競争防止法2条1項3号の不正競争該当性を否定した。
 本件においては、原告各商品と被告各商品とで共通する形態につき、先行する同種商品として既に同一ないし類似の形態が存在していた、という理由から、「実質的同一性の判断において重視すべきでない」という判示がされる箇所がある。
 従来、同種商品が通常有する形態(ありふれた商品形態や、商品としての機能及び効用を果すために不可避的に採用しなければならない商品形態)は、こうした形態を特定の者に独占させることは、商品の形態ではなく、同一の機能及び効用を奏するその種の商品そのものの独占を招来することになり、複数の商品が市場で競合することを前提としてその競争のあり方を規制する不正競争防止法の趣旨に反するとして、不正競争防止法2条1項3号の保護の対象から除外されてきた(東京地判平成9年3月7日判タ952号284頁。なお、「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」については、現行法上これを保護の対象から除くことが明記されている。)。上記の判示は、こうした経緯に関連するものと思われる。
 一方で、過去の裁判例には「同号の規定によって保護される商品の形態とは、商品全体の形態であり、また、必ずしも独創的な形態である必要はない。そうすると、商品の形態が「ありふれた形態」に該当するかどうかは、商品全体の形態を観察して判断すべきものであって、被告らの主張するように、個々の部分的形状がありふれたものかどうかを判断した上で、各形状を組み合わせることが容易かどうかを問題にするような手法により判断すべきものではない」と述べるもの(東京地裁平成30年4月26日(平成27年(ワ)第36405号))や、「不正競争防止法2条1項3号は、商品の形態についての先行者の開発利益を模倣者から保護することを目的とする規定であり、同号により保護される商品の形態は、商品の一部分の形態ではなく、商品全体の形態であるというべきであるから、仮に原告商品の形態の一部分が公知であるとしても、そのことによって原告商品の形態が同号の保護の対象とならないということはできない。」と述べるもの(東京地判平成23年6月17日(平成22年(ワ)第15903号))も存在する。
 これらの裁判例と本件の判断との関係性、例えば、本件でもこれらの裁判例が踏襲され、商品全体の形態を観察した結果、原告各商品の形態がありふれた形態であるとの判断を背景として上記の判示がされたのか、又は全く別の観点からの判示なのかといった点は、必ずしも明らかではない。ただし、不正競争防止法2条1項3号の不正競争における実質的同一性に関しては、原告商品と被告商品とで共通する形態が、先行する同種商品において既に同一又は類似する形態が存在するものか否かが、何らかの形で考慮される可能性が高いことは指摘できる。したがって、同号に基づく請求に際しては、少なくとも、原告商品と同種の商品について既に存在する形態を調査・特定した上で、原告商品と被告商品との間でこうした形態とは異なる形態における共通性が認められるかを検討しておくことが必要になるものと思料する。

以上

弁護士 稲垣紀穂