【令和7年1月30日(知財高裁 令和6年(行コ)第10006号 出願却下処分取消請求事件)】

 

【キーワード】

 AI、人工知能、自然人、発明者、AI発明、ダバス(DABUS)

 

【事案の概要】

 控訴人は、「フードコンテナ並びに注意を喚起し誘引する装置」に係る発明について、特許協力条約に基づく国際出願を行い、その国内書面(特許法184条の5第1項)における発明者の氏名として、「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載したのに対し、特許庁長官は、発明者の氏名として自然人の氏名を記載するよう補正を命じたが(同条第2項)、控訴人はこれに応じなかったため、当該出願を却下する処分をした(同条第3項、以下「本件処分」という)。控訴人は、特許法にいう「発明」は「AI発明」も含むのであり、また、AI発明に係る出願においては発明者の氏名が必要的記載事項ではないと主張し、本件処分は違法であるとして、その取消しを求めたところ、原審が請求を棄却したことから[i]、控訴した。

 

【判旨(要旨)】

 本件の争点及び裁判所の判断(要旨)を、次の各号のとおり説明する。

① 特許法上の「発明」は自然人がなされたものに限られるか:
 特許法上、「特許を受ける権利」の発生及びその原始帰属者について定める同29条1項柱書、及び、その例外を定める同35条3項との整合性等を踏まえ、「発明」は自然人が発明者となるものに限られるとした。
 なお、AI発明に特許権を付与するか否かは、「発明者が自然人であることを前提とする現在の特許権…【中略】…と同内容の権利とすべきかを含め、AI発明が社会に及ぼすさまざまな影響についての広汎かつ慎重な議論を踏まえた、立法化のための議論が必要な問題であって、現行法の解釈論によって対応することは困難である」とし、「発明者を自然人に限定した場合の弊害等も、これらの立法政策についての議論の中で検討されるべき問題である」とした。

② 国際特許出願に係る国内手続において、国内書面の「発明者の氏名」は必要的記載事項であるか:
 国内書面において「発明者の氏名」が必要的記載事項であると判断している。
 控訴人(原審原告)は、「発明者でない自然人を発明者として記載した出願の増加を招く問題点がある旨主張し、さらに、このような冒認出願に係るAI発明の特許は、冒認を理由とする無効審判の請求権者である利害関係人が存在せず、無効とならない問題点がある」(いわゆる発明者の僭称問題)と主張していたのに対し、裁判所は、「現行法の問題点の一つ」としつつも、発明者の氏名欄の記載を必要的記載事項とするかで解決するものではなく、「AI発明に関する立法政策の議論の中で検討されるべき問題」と述べた。

 

【若干のコメント】

 AIが自律的に行った発明(AI発明)についてAIの発明者該当性が問題とされた国内初の事例であり、その控訴審の判断内容を紹介した。

 そもそも、本件で発明者適格性が問題となったDABUSとは、Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience(統合知覚力の自律ブートストラップデバイス)の略語であり、スティーヴン・ターラー博士により開発されたAIシステムである[ii]。DABUSを発明者とする特許出願は、これまで複数の諸外国(地域)において行われているが、概ねDABUSの特許査定は認められていない(方式審査のみの南アでは特許権が付与されている[iii])。

 控訴審は、基本的には原判決を支持する判断内容であるといえる。ただし、AI発明に特許権を付与するか否かについて、控訴審は、現在の特許権と同内容の権利とすべきかを含め、AI発明を現行制度の特許権の対象とするような法解釈が産業の発達に寄与するという前提自体に疑問を呈しつつ、立法政策ついての議論に委ねると述べた。立法化の議論が必要であるとする点では原審と同様であるが、控訴審は、より慎重なスタンスを打ち出したようにも考えられる。

 一方で、AIが自律的かつ効率的に高度な発明を創出するような実態を踏まえ、諸外国のみならず、日本においても、AI発明の保護に関する議論、ガイドライン等の制定が盛んになってきている[iv]。特に、発明者の認定について、現行法上、AI自体に特許を受ける権利はないという意見が大勢であると考えられるが、「発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者」を発明者と認定すべきとする議論があるほか、AI発明の取扱いやAI自体の権利能力について特許庁が関係省庁と連携の上、国際動向等も踏まえながら、検討を進めることが進ましいとされている[v]

 

[i] https://www.ip-bengoshi.com/archives/7736
[ii] https://www.taiyo-nk.co.jp/dabus/dabus02.html
[iii] https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/africa/ip_aripo_20210802_3.pdf
[iv] 知的財産戦略本部「次世代知財システム検討会報告書」(平成28年4月)、AI時代の知的財産権検討会「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」(令和6年5月)、知的財産戦略本部「知的財産推進計画2024」(令和6年6月)、一般財団法人知的財産研究教育財団「AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方に関する調査研究報告書」(令和7年3月)等、多数。
[v] 前掲ⅲ「中間とりまとめ」・85頁、「調査研究報告書」・20頁以降、等

 

以上
弁護士 藤枝典明