【令和7年7月17日(大阪地裁 令和6年(ワ)第5007号 商標権侵害差止請求事件)】
第1 事案の概要
原告は、商標登録第5006976号に係る標準文字商標「恋苺」(指定商品:第31類)を保有している。
被告は、登録第6438678号商標「あわ恋いちご」(指定商品:第31類)を保有するZ社から、通常使用権を無償で許諾された上、いちご商品に被告標章を付して小売店に卸販売していた。
原告は、被告が自社の「恋苺」商標と被告標章が類似すると主張し、被告標章を付した商品について、 商標法36条1項に基づく販売差止めおよび同条2項に基づく標章の抹消を請求する訴訟を提起した。
第2 裁判所の判断
1.類似性の判断について
裁判所は、まず被告標章が「あわ」「恋」「いちご」の3構成からなる結合商標である点を確認した。
取引の実情として、被告商品のパッケージには「徳島県産」「阿波のいちご」等の記載・イラストがあり、「あわ」から「阿波」を想起させる状況が認められた。
このため、「あわ」部分は地域表示として識別力を伴わない産地表示的意味合いを持つと判断され、被告標章から「恋いちご」の部分を抽出して比較検討することが許されるとされた。
その上で、「恋苺」と「恋いちご」は外観・称呼・観念のいずれも実質的に同一又は高度に近いとされ、本件指定商品も同一「いちご」であるため、出所混同のおそれがあるとして類似を肯定した。
2.登録商標使用の抗弁について
被告がZ社からの通常使用権を根拠に、被告標章の使用が正当であると主張したが、裁判所はその主張を「時機に後れた攻撃防御方法」に該当するとして却下した。
また、さらに検討すると、たとえ使用許諾が存在しても、先願商標に類似し、誤認混同を生じさせるおそれのある標章の使用を正当化できず、抗弁として成立しないと判断された。
3.結論
以上の判断により、原告の請求を理由ありと認め、被告に対して本件商品の販売差止めおよび標章の抹消を命じた。
第3 若干のコメント
本件は、いちご商品という農産物分野における商標紛争であり、結合商標における構成部分の識別力・産地表示の意味合い・分離観察の可否という論点を整理した点で注目される。
特に、「あわ」が地域名称「阿波」を想起させる表示であったという取引実情をもって、識別力を否定し、「恋いちご」の部分を抽出して類否判断を行った点は実務上参考となる。
さらに、通常使用権の存在があったものの、本件では、出所混同のおそれを伴う使用態様であったため、その抗弁が認められなかったという点も実務上、注意すべき部分である。
以上
弁護士 多良翔理

