【令和7年9月25日(大阪地裁 令和6年(ワ)第6216号)】

 

第1 事案の概要

 原告会社はタクシー事業者であり、本件タクシー配車管理システムに関する特許第6546562号(本件特許)の特許権者であったところ、令和5年11月21日に原告Aへ譲渡した。被告GO株式会社は、タクシー配車アプリ「GO」と、その裏側で動作するGOAPIコアサービス、動態連携サーバ、乗務員アプリ、事業者向けWEBアプリ等からなる配車システム(被告製品)を提供する会社である。
 原告らは、被告製品が本件発明(請求項1)の各構成要件を充足し、少なくとも令和4年6月以降、本件特許権を侵害しているとして、不法行為に基づき、原告会社につき約25億8900万円、原告Aにつき約1億9400万円の損害賠償を求めた。
 争点は、被告製品が本件発明の構成要件B2〜B6、C2・C3、D2〜D4、E2を文言上充足するか(争点1〜9)、タクシー選択範囲情報・タクシー情報・実車完了通知等を別の情報や主体に置き換えた構成について均等侵害が成立するか(争点10〜12)、損害額(争点13)、および訴訟終盤に提出された原告第4準備書面等が時機に後れた攻撃防御方法として却下されるかどうかであった。

 

第2 裁判所の判断

1 本件発明の要点
 裁判所は、本件明細書の記載から、本件発明の課題を、
・配車管理装置側が車両を決定することにより配車の公平性に問題が生じること
・アプリ運営主体とタクシー事業者との間で情報が非対称であり、費用請求の透明性が確保されないこと
と整理したうえ、
ユーザが一定範囲内の個々のタクシー車両情報を確認し、その中から配車車両を自ら決定し、その決定情報がタクシー移動端末・タクシー事業者端末・アプリ運営主体に共有されることにより、公平性・透明性を確保する点を本件発明の本質的特徴であると認定した。

2 構成要件B3・B4の解釈と不充足
 裁判所は、クレーム上「タクシー移動端末」「タクシー事業者端末」が別途規定されていることから、「タクシー」及び「タクシー情報」は個々のタクシー車両及びその情報を意味すると解した。
 被告製品では、ユーザがGOアプリ上で指定できるのはタクシー会社、車両タイプ、こだわり条件といった「条件」にとどまり、個々のタクシー車両の情報は表示されない。また、ユーザは条件を指定して配車依頼を送信するのみで、特定の車両を指定して配車確認要求を行うことはできず、具体的な車両の決定はサーバ側のマッチング処理に委ねられている。
 したがって、被告製品は、タクシー情報(個別車両情報)の提示という点で構成要件B3を、ユーザによる特定タクシーの指定とそれに基づく配車確認要求という点で構成要件B4を、それぞれ充足しないと判断された。

3 均等侵害(争点11)の否定
 原告らは、「タクシー」を「タクシー会社・車種等の条件」に、「タクシー情報」を「かかる条件の情報」に置き換えても本質は同じであると主張したが、裁判所は、本件発明の本質的部分には、ユーザが特定の配車候補車両を最終的に決定し、配車管理装置はその決定に関与しないことが含まれるとした。
 被告製品では、ユーザは抽象的な条件しか指定できず、具体的な配車車両はGOAPIコアサービス側で決定されるため、これは上記本質的特徴に真っ向から反するとされ、均等論の第1要件(非本質的部分の置換)を満たさないとして、均等侵害も否定された。

4 構成要件C3・D2・D3・E2の不充足
 構成要件C3は、タクシー移動端末が配車確認要求に応答し、迎車可否情報をユーザ端末・アプリ管理サーバ・タクシー事業者端末に共有し得るように通知する構成であるが、被告製品には、そもそも特定車両に対する配車確認要求が存在せず、乗務員アプリの配車承諾情報もGOAPIコアサービスにのみ送信される構成であるから、C3は充足されないとされた。
 構成要件D2・D3についても、被告製品は、タクシー動態情報を動態連携サーバで管理し、GOAPIコアサービスは乗務員端末から位置情報を取得せず、また配車確認要求・乗車完了情報・迎車可否情報に対応する一体的な結果情報データベースを備えていないことから、いずれも文言充足が否定された。
 構成要件E2については、タクシー事業者端末がアプリ管理サーバ側と同一内容の結果情報データベースを自動的に蓄積する構成と解されるところ、被告製品は被告側サーバにブラウザでアクセスして情報を閲覧する方式にとどまり、タクシー事業者端末側に自動的に情報が登録されるデータベースは存在しないと認定され、不充足と判断された。

5 時機に後れた攻撃防御方法
 原告らは、弁論準備手続終盤に、新たな文言充足論・均等論及び公正取引委員会の見解や道路運送車両法等に関する証拠を提出したが、裁判所は、原告らはこれらの事情を訴訟当初から知り得た立場にあり、主張提出期限も認識していたにもかかわらず、争点整理完了間際まで提出を遅延させたとして、故意又は重過失による遅延と評価した。そのうえで、訴訟の完結を遅延させるとして、民訴法157条1項に基づき、これらを時機に後れた攻撃防御方法として却下した。

6 結論
 以上から、被告製品は少なくとも構成要件B3・B4・C3・D2・D3・E2を充足せず、B3・B4につき均等侵害も認められないとして、本件特許の技術的範囲には属しないと判断され、原告らの損害額について判断するまでもなく、請求はいずれも棄却された。

 

第3 コメント

 本判決は、①ユーザが個別車両を選択する構造と、②ユーザが条件のみを指定しサーバ側が車両をマッチングする構造とを、特許クレーム解釈及び均等論上明確に区別した点で参考になるといえる。
 とりわけ、「タクシー」と「タクシー事業者」の区別を踏まえ、タクシー情報を個別車両情報と限定的に解釈したうえで、条件情報への読み替えを文言・均等の双方から否定した点は、プラットフォーム型サービス特許のクレームドラフティングにおいて、「誰が」「いつ」「どの単位(個別資源か条件か)」で最終決定を行うかを明確に規定する必要性を示しており、実務上参考になる。
 また、サーバ・端末・データベースがクラウド環境で分散実装される現状において、単なる閲覧権限の付与と、「端末が結果情報データベースを備え、自動的に情報が蓄積される」という構成とを区別した点も、システム発明に関する権利行使・設計回避の評価にとって重要であり、今後の訴訟実務にとって参考になる判決であるといえる。
 さらに、時機に後れた攻撃防御方法の判断は、技術系事件であっても、均等論や新たな法規制・競争法的観点を後出し的に持ち出す訴訟戦略には限界があることを示すものであり、早期の主張・立証計画の重要性を示す点でも参考になるといえる。

 

以上
弁護士 多良翔理