【令和7年6月5日(大阪地裁 令和6年(ワ)第5501号 損害賠償請求事件)】
第1 事案の概要
原告Aは、イラスト作成を業とするイラストレーターであり、本件イラストに関する著作権者である。
被告株式会社スーパーホテル(以下「被告ホテル」)は、同ホテルチェーンの店舗である「スーパーホテル釧路駅前」を運営しており、支配人(業務委託契約に基づき運営)及び従業員(当該支配人の管理下)によるブログ掲載サイトにて、本件イラストを無断で掲載した。
原告は、被告による本件イラストの無断掲載行為が、著作権(複製権・公衆送信権)侵害および著作者人格権を侵害するとして、不法行為(民法709条)及び使用者責任(民法715条1項)に基づき、損害賠償請求を行った。
第2 裁判所の判断
1.無断掲載行為の不法行為該当性
裁判所は、本件支配人または従業員が、本件イラストを「フリー素材」と誤信して掲載したと認められ、過失による著作権侵害(複製権・公衆送信権)を認定した。
2.使用者責任(民法715条1項)
被告ホテルと支配人との業務委託契約において、被告が定めるマニュアルに従う義務、SNS投稿等について被告の承諾が必要とされる義務等の規定が認められた。
これらの点から、支配人が被告ホテルの実質的な指揮監督を受けて業務を遂行していたと認定され、被告ホテルを「ある事業のために他人を使用する者」として使用者責任を負うと判断された。
3.損害額の算定
著作権法114条3項に基づく損害算定にあたって、掲載されたブログ記事が閲覧可能期間、掲載内容の陳腐化、表示順位低下等の事情を考慮し、使用料相当額を当初1年分単価として算定。弁護士費用を含め、最終的に被告の支払い義務を19万8,000円とし、遅延損害金を付した。
第3 若干のコメント
本件は、ホテルチェーン店舗を巡るホテル運営委託契約の構造の下で、支配人のウェブ記事掲載という行為が、被告ホテルの事業執行の一環として認定され、使用者責任を認めた点で注目される。特に、委託契約における指揮監督関係の所在やSNS投稿等について被告の承諾義務が明確に定められていたことが、使用者責任の認定において鍵となっている。
また、損害額算定にあたっては、実際の投稿の閲覧状況・掲載記事の陳腐性・ウェブページ内の表示流れ等が細かく検討され、単なる高額請求を認めない態度が示されている。
実務上、業務委託契約関係にある支配人・従業員が、SNSやブログ等で会社運営に関連する情報発信を行う場合、契約条項・指揮監督体制・承諾義務の有無等の点を契約時点で明確に定めておくことが望ましい。また、無断で著作物を掲載する可能性がある場面では、著作権許諾・確認体制を整備しておくことが、使用者責任回避のための重要な対応策であるといえる。
以上
弁護士 多良翔理

