【平成28年4月12日判決(知財高裁 平成27年(行ケ)第10219号)】

【キーワード】
商標法4条1項10号、11号、15号、19号


1.事案の概要
 原告は、商標登録第5517482号(以下「本件商標権」という。)の商標権者である。被告が無効審判請求をしたのに対し、特許庁が、本件商標は商標法4条1項10号、同項11号、同項15号及び同項19号に該当する商標であるとして無効審決をしたので、原告が審決取消訴訟を提起した。

(1) 本件商標

登録番号 登録第5517482号
本件商標
指定商品 第14類
「時計、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、キーホルダー、身飾品」

(2) 引用商標
その1

引用商標    フランク ミュラー(標準文字)
指定商品      第14類
「貴金属(「貴金属の合金」を含む。)、宝飾品、身飾品(「カフスボタン」
を含む。)、宝玉及びその模造品、宝玉の原石、宝石、時計(「計時用具」を含む。)

その2

引用商標 
指定商品 第9類
「眼鏡、眼鏡の部品及び附属品」
第14類
「時計、時計の部品及び付属品」

その3

引用商標 
指定商品 第14類
「Precious metals、 unwrought or semi-wrought; personal ornaments of precious metal; key rings[trinket or fobs]; services [tableware] of precious metal; kitchen utensils of precious metal; jewellerry、 precious stones、 timepieces and cronometric instruments.」

(3) 審決の理由の要旨
 特許庁は、本件を無効2015-890035号事件として審理を行い、平成27年9月8日、本件商標は商標法4条1項10号、11号、15号、19号に該当するとして、登録第5517482号の登録を無効する審決を下した。それぞれの理由を簡単に示すと以下のとおりである。
  ア 4条1項11号該当性
    本件商標と引用商標とは、外観において相違があるものの、称呼及び観念において類似し、かつ、その指定商品は類似するから、両商標は類似する。
  イ 4条1項10号該当性
    被告使用商標は商品「時計」について著名な商標であり、本件商標と類似する。
  ウ 4条1項15号該当性
    被告使用商標は「時計」について著名であり、「時計」はブランドが重視され、販売場所、需要者が共通するから、他人の業務に係る商品と混同を生じるおそれのある商標に該当する。
  エ 4条1項19号該当性
    被告使用商標は「時計」について著名な商標であり、本件商標は被告使用商標のパロディであることを認識しながら本件商標を使用して模倣商品を製造販売しているから、不正の目的をもって使用するものに該当する。

2.争点
(1) 本件商標は引用商標と類似するか(4条1項10号、11号、19号)
(2) 本件商標は他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標か(4条1項15号)

3.裁判所の判断
(1) 両商標の類似性について(4条1項10号、11号、19号)
   両商標を一連に称呼するときは、全体の語感、語調が近似した紛らわしいものというべきであり、本件商標と引用商標1は称呼において類似するとした。
   しかしながら、「フランク三浦」は日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるから、両者は観念において大きく異なる。さらに、外観においては明確に区別しうる。
   そして、本件商標及び引用商標1の指定商品において、商標の称呼のみで出所が識別されるような実情も認められないため、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るともいえないから、出所混同を生ずるおそれはないとして、両商標は非類似とした。
(2) 出所混同を生ずるおそれについて(4条1項15号)
   本件商標の指定商品と被告商品とでは、商品の取引者及び需要者は共通するとしたものの、「時計」については外観及び観念が重視されるから、需要者の普通の注意力をすれば、緊密な営業上の関係にあると誤信されるおそれがあるとはいえないとした。

4.考察
(1) 商標の類否判断について
   特許庁の審査基準によれば、「商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察しなければならない。」とされている。また、商標の類否判断のリーディングケースである氷山印事件(最判昭43.2.27)においては、商標の外観、称呼、観念の異同だけでなく、取引の実情をも考慮するとされている。
(2) 出所混同を生ずるおそれについて
   もう一つの主な争点のうち、出所混同を生ずるおそれ(15号)の判断方法であるが、レールデュタン事件(最判平12.7.11)において、「商標の類似性、周知著名性、商品間の性質、取引者・需要者の共通性等を、取引実情等に照らして、総合的に判断する」とされている。
(3) 裁判所の判断について
   類否については、称呼において類似するとしたものの、外観は明確に区別でき、観念においては大きく異なるとした。そして、称呼については、商標の称呼のみで出所が識別されるような実情も認められないという点を、類似の否定事情として挙げつつ、総合的に考察すると非類似とした。本件においては、称呼の類似性については、取引の実情を考慮し、商標が称呼のみで取引されるような実情が認められない点を重視している。この点は、氷山印事件と同様の手法により非類似と判断している。
   また、出所混同を生ずるおそれについては、個別具体的な事情として、「時計」については外観及び観念が重視される点を重視している。
(4) パロディ商標についての対応策
   パロディ商品の企画については、商標法、意匠法、著作権法、不正競争防止法等、様々な法律との関係が問題となるため、注意しなければならないが、今回のように、ブランド名のパロディということであれば、商標法及び不正競争防止法が問題となってくる。その際に注意すべきは、まずは「類似」と判断されないようにすることである。パロディであるから、その商標は著名であることが予想されるが、著名であればあるほど、類似と判断される傾向は高くなる。よって、称呼・外観・観念において取引者及び需要者が一見してパロディとわかるような工夫をしておくことが重要である。
  注意すべきは、商標的には類似していないとしても、商品の形状や特徴的な部分が酷似している場合は、不正競争防止法違反に問われるおそれがあるということである。また、
   よって、法務担当者としては、ネーミングだけでなく、商品の形状等についても注意して商品企画を行う必要がある。
   判断に迷うグレーな商品名が企画として上がってきた場合、商品化する前にまずは商標登録出願を行ってみるという方法がある。商標登録がされれば特許庁として非類似であると判断されたわけであるから、その商標を使用するに際し、一定の安心感は得ることができる。

(文責)2016.05.09 弁護士 幸谷 泰造