【知財高裁平成28年4月12日判決(平成27年(行ケ)第10219号)】

【ポイント】
 スイスの高級時計ブランドのパロディ商標について,両商標は類似しないとして,登録の維持が認められた事案である。

 

【キーワード】
商標法4条1項10号,商標法4条1項11号,商標法4条1項15号,商標法4条1項19号,パロディ商標,フリーライド

1 事案1

 原告(フランク三浦の製造販売会社)の登録商標「フランク三浦」2(本件商標)について,被告(フランクミュラー側)がその商標登録を無効にすることを求めて審判を請求したところ,特許庁は,周知商標類似(商標法4条1項10号),先登録商標類似(同項11号),出所混同のおそれ(同項15号),著名商標の不正目的使用(同項19号)の4つの理由を挙げて,フランク三浦の商標登録は無効であるとの審決をした(無効2015-890035号)。本件は,この審決を不服として原告が知財高裁に出訴し,結論として特許庁の審決が覆されたという事案である。

2 知財高裁の判断

 知財高裁は,各取消事由について次のように判示した。
①取消事由1(4条1項11号該当性の判断の誤り)について
「…本件商標と引用商標1は,称呼においては類似するものの,外観において明確に区別し得るものであり,観念においても大きく異なるものである上に,本件商標及び引用商標1の指定商品において,商標の称呼のみで出所が識別されるような実情も認められず,称呼による識別性が,外観及び観念による識別性を上回るともいえないから,本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。そうすると,本件商標は引用商標1に類似するものということはできない。3
…以上によれば,本件商標は,引用商標1ないし3のいずれとも類似するとはいえない商標であるから,商標法4条1項11号に該当するものとは認められない。したがって,本件商標は商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断には誤りがあるから,原告主張の取消事由1は理由がある。」
②取消事由2(4条1項10号該当性の判断の誤り)について
「被告使用商標1は引用商標1と同一又は類似の,被告使用商標2は引用商標2と同一の構成から成るものであるところ,本件商標は,引用商標1及び2のいずれとも類似するとはいえない商標であることは前記…のとおりであるから,本件商標は,被告使用商標のいずれとも類似するとはいえない。したがって,本件商標は商標法4条1項10該当するものとは認められず,本件商標は商標法4条1項10号に該当するとした本件審決の判断には誤りがあるから,原告主張の取消事由2は理由がある。」
③取消事由3(4条1項15号該当性の判断の誤り)について
「…被告使用商標は,外国ブランドである被告商品を示すものとして周知であり,本件商標の指定商品は被告商品と,その性質,用途,目的において関連し,本件商標の指定商品と被告商品とでは,商品の取引者及び需要者は共通するものである。しかしながら,他方で,本件商標と被告使用商標とは,生じる称呼は類似するものの,外観及び観念が相違し,かつ,前記…のとおり,本件商標の指定商品において,称呼のみによって商標を識別し,商品の出所を判別するものとはいえないものである。かえって,前記…のとおり,被告使用商標2を付した時計が,時計そのものを展示する方法により販売がされたり,被告商品の外観を示す写真を掲載して宣伝広告がなされていること,本件商標の登録査定時以後の事情ではあるものの,本件商標を付した原告商品も,インターネットで販売される際に,商品の写真を掲載した上で販売されていることに照らすと,本件商標の指定商品のうちの「時計」については,商品の出所を識別するに当たり,商標の外観及び観念も重視されるものと認められ,その余の指定商品についても,時計と性質,用途,目的において関連するのであるから,これと異なるものではない。加えて,被告がその業務において日本人の姓又は日本の地名を用いた商標を使用している事実はないことに照らすと,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を上記指定商品に使用したときに,当該商品が被告又は被告と一定の緊密な営業上の関係若しくは被告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとはいえないというべきである。そうすると,本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものとは認められない。…原告商品と被告商品は,外観が類似しているといっても,その指向性を全く異にするものであって,高級ブランド商品を製造販売する被告のグループ会社が,原告商品のような商品を製造販売することはおよそ考え難いことや,…上記事情は,本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものとは認められないとの認定を左右する事情とはいえない。…確かに商標法4条1項15号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものではあるものの,飽くまで同号に該当する商標の登録を許さないことにより,上記の目的を達するものであって,ただ乗りと評価されるような商標の登録を一般的に禁止する根拠となるものではない。したがって,原告商品が被告使用商標の著名性に乗じ販売されたことを主張するのみでは,本件商標が同号に該当することを根拠付ける主張となるものとはいえない。
…本件商標が商標法4条1項15号に該当するか否かは,飽くまで本件商標が同号所定の要件を満たすかどうかによって判断されるべきものであり,原告商品が被告商品のパロディに該当するか否かによって判断されるものではない。
…以上によれば,本件商標は商標法4条1項15号に該当するものとは認められない。したがって,本件商標は商標法4条1項15号に該当するとした本件審決の判断には誤りがあるから,原告主張の取消事由3は理由がある。」
④取消事由4(4条1項19号該当性の判断の誤り)について
「前記…のとおり,本件商標は,被告使用商標のいずれとも類似するとはいえないから,本件商標が不正の目的をもって使用するものに該当するかどうかについて判断するまでもなく,本件商標は商標法4条1項19号に該当するものとは認められない。したがって,本件商標は商標法4条1項19号に該当するとした本件審決の判断には誤りがあるから,原告主張の取消事由4は理由がある。」

3 検討

 本件は,「フランクミュラー」のパロディ商標である「フランク三浦」の登録性が争われた事案である。
 知財高裁は,「フランク三浦」の商標登録を維持する判決をした。
 パロディとしての使用の点については,知財高裁は,たとえば,商標法4条1項15号の判断において,「原告が被告商品と外観が酷似した商品に本件商標を付して販売していること,本件商標は引用商標を模倣したものであることに照らすと,原告商品と被告商品との間で関連付けが行われ,原告商品が被告と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあることは否定できない」と主張したのに対し,「そもそも,原告が本件商標を付した時計の販売を開始したのは,本件商標の商標設定登録以後であることは当事者間に争いがない上に,本件において提出された原告商品の形態を示す証拠は,いずれも,本件商標の登録査定時よりも後の原告商品の形態を示すものであることからすると,原告が被告商品と外観が酷似した商品に本件商標を付して販売しているとの被告の主張は,本件商標の登録査定時以後の事情に基づくものであり,それ自体失当である」と述べた。つまり,本件では,パロディ商標の使用の是非は,本判決の判断の審理対象外とされた。
 したがって,本件は登録要件を粛々と審査され,登録性の適法性が認められたが,登録要件における類似の判断と商標権侵害における侵害の判断とは必ずしも同一ではなく,また「スナックシャネル事件」のように不正競争防止法に基づいて違法と判断される可能性も残っているため,パロディ商標の使用には注意があることに変わりはない。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲


1 本件は,被告が最高裁判所に上訴したが,平成29年3月2日に上告を退ける決定がなされ。その後,無効審判に差し戻されて平成29年10月25日に審判請求不成立審決が確定している。
2 本件商標中,「浦」の文字は、右上の「、」を消去して成るものである。
3 引用商標2,3についても引用商標1と同様に、本件商標と称呼は類似するが、外観及び観念において非類似と判断されている。