【平成28年7月19日(東京地裁 平成27年(ワ)第33398号)】

【判旨】
原告が、被告によるフェイスマスク(被告商品)の販売は原告の販売するフェイスマスク(原告商品)との関係で不正競争防止法2条1項1号又は同項3号の不正競争行為に当たるとして、被告に対し、被告商品の製造・販売・販売のための展示の各差止め並びに被告商品の廃棄を求めるとともに、損害賠償を求めた事案。裁判所は,原告商品の形態は、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできないことから、不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」には当たらず、また、被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるとはいえないことから、被告の行為は同項3号の「模倣」には当たらないとして、請求を棄却した。

【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号,不正競争防止法2条1項3号,商品形態の保護,商品等表示性、特別顕著性

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要
 本件で問題となった商品は,美容液を含ませたスキンケア用のフェイスマスクであり,告商品,被告商品の各形態は以下のとおりである。両商品はいずれも,内容器が略立方体形状で,その中に折り畳まれた状態で収容された多数のフェイスマスクを,ウェットティッシュのように1枚ずつ引き出して使用することができるようになっている。他方で,内容器の周囲を覆う包装部分は,原告商品・被告商品で異なるデザインとなっている。

原告商品被告商品
外観
外観
蓋を明けた状態
蓋を明けた状態
内容器
内容器

(2)争点
 本件の争点は以下のとおりである。
 ① 不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争の成否(争点1)
 (ア) 原告商品の形態が周知な商品等表示といえるか(争点1-1)
 (イ) 原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれの有無(争点1-2)
   イ 不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争の成否(被告商品は原告商品の形態を模倣したものか)(争点2)
 ② 損害賠償請求の可否及び範囲
   ア 被告の故意・過失の有無(争点3)
   イ 損害額(争点4)
 本稿では,争点1及び争点2について取り上げる

2 裁判所の判断

(1)不正競争防止法2条1項1号(商品等表示)について
ア 判断基準
 まず,裁判所は,不正競争防止法2条1項1号における商品等表示該当性の要件として,従来の裁判例と同じく,①特別顕著性,②周知性,の二要件を備えることが必要であると判示した。

※判決文より抜粋(下線部は筆者付与。以下同じ。)

   (1)  商品の形態と商品等表示性
  不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいうところ,商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。

イ あてはめ~商品の包装

 その上で,裁判所は,商品の外装(包装)について,原告の特定した商品形態が,他の同種商品においても多数採用されているありふれた形態であり,特別顕著性を有しないと判示した。

   (2)  原告商品の形態の特別顕著性について
    ア 上記1(1)で認定した原告商品の形態のうち,外面包装に,光沢のあるプラスチック袋が使用され,向かい合う2つの側面に折り返しのある封じ目があって,同封じ目が上面から下面に向かって折り返されている点(原告態様B),外面包装の上面に,フラップラベルが貼られ,外面包装の上面に固定された一辺を除き,繰り返しはがしたり貼ったりできるようになっており,その下に切込みがある点(原告態様C(ただし,切込みの寸法を除く。))については,いずれも上記1(3)のとおり,原告商品以外の美容用液体含浸シートにおいても多数採用されているものと認められ,ごくありふれた要素にすぎないというべきである。
  また,原告商品の外面包装が直方体状となっていること及びその外寸(原告態様A)並びにフラップラベルの下の切込みの寸法(原告態様Cのうち切込みの寸法に係る部分)についても,証拠上,上記1(3)のような他の美容用液体含浸シートと比較して特段大きな相違点であるとは認められず(なお,原告のいう「立方体構造」は縦と横の寸法が同一又は近似しているという趣旨に解されるが,この点もやはり他の同種製品と比べた顕著な差異であるとは認め難い(なお,上記1(3)の別紙他商品一覧2番及び3番参照)。),客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有するものであるとか,需要者に対して強い印象を生じさせるものであるということはできない。
  なお,原告商品の外面包装の色彩及び同包装上にデザインされた図柄や文言(原告態様D)については商品等表示として保護される余地もあるが,そもそも,原告は「LuLuLun」といった記載を原告商品の形態の特徴として主張しないものであるし(第1回口頭弁論調書),後記3(2)のとおり,原告商品の表示(原告態様D)と被告商品の表示(被告態様d)は著しく異なっているのであるから,この点を含めても需要者が原告商品と被告商品の出所を混同するものとはいえない。

※参考:同種商品(一部のみ抜粋)

ウ あてはめ~内容器
 また,原告は,内容器の形状についても商品等表示として出所識別機能を有すると主張したが,裁判所は内容器が外面包装の内側にあり,需要者において外部から直接これを視認することができないことを理由に,出所識別機能は認められないと判示した。

   イ この点,原告は,内容器の構造(原告主張の特徴⑦~⑪)についても出所識別機能を有する旨主張するが,内容器は外面包装の内側にあり,需要者において外部から直接これを視認することはできないから,これによって需要者が商品の出所を識別するとは考えられず,この点について出所識別機能があるとは認めることができない。
  これに対し,原告は,①需要者が外面包装の上から触れれば内容器の構造を認識できる,②需要者がフェイスマスクを使用する際又はフェイスマスクを使い切った際に内容器を視認することができる,③内容器がなければ立方体構造を維持できないことにつき需要者は認識が可能であるなどと主張する。しかしながら,上記①及び②については,需要者が外面包装の上から触り,あるいは,フェイスマスクを取り出すための切込みから容器の内側を一部見ることが可能であるとしても,これにより直ちに内容器の構造を認識することができるとは認めることができないし(別紙原告商品目録記載4(3)及び(4)の写真参照),上記③についても,需要者が内容器の形態や構造を具体的に認識できることを示すものとはいえない(なお,上記②は購入後の事情であるから,購入時における出所識別機能を裏付けるものとはいえない。)から,いずれも採用することはできない。
    (3)  以上によれば,原告商品の形態は,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているということはできず,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示には当たらない。

(2)不正競争防止法2条1項3号について(形態模倣)

ア 判断基準

 まず,裁判書は,不正競争防止法2条1項3号すなわち「模倣」の意義(他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと。同条5項)について,「実質的に同一の形態」といえるか否かは,他人の商品の形態に依拠して作成された商品の形態が,他人の商品の形態と実質的に同一といえるほどに酷似しているか否かという観点から判断すべきであると判示した。また,同種の商品においてありふれた形態は,特段の資金や労力を投下することなく作り出すことができるものであり,同号の保護対象となる「商品の形態」にはあたらないと判示した。

 3  争点2(被告商品は原告商品の形態を模倣したものか)について     (1)  不正競争防止法2条1項3号の「模倣」とは,「他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」をいうところ(同条5項),「実質的に同一の形態」といえるか否かは,他人の商品の形態に依拠して作成された商品の形態が,他人の商品の形態と実質的に同一といえるほどに酷似しているか否かという観点から判断すべきである。
  そして,同号が「商品の形態」を保護する趣旨は,模倣者が,先行者において資金や労力を投下して商品化した商品について,その形態をことさら模倣した商品を,自らの商品として市場に提供し,同じ市場において先行者と競争する行為が,事業者間の競争上不正な行為として位置付けるべきものとしたことにあると解されるから,作り出された商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても,その相違がわずかで,商品全体からみれば些細な相違にとどまるような場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態と評価され得る一方,相違の内容・程度,共通点と相違点のバランスが商品全体の形態に与える影響等に鑑みて,相違が些細なものといえないような場合には,当該商品は他人の商品の形態と実質的に同一であるとはいえないと判断するのが相当である。また,同号の上記趣旨に鑑みれば,同種の商品にしばしば見られるありふれた形態は,特段の資金や労力を投下することなく作り出すことができるから,同号の保護対象となる「商品の形態」には当たらないと解すべきである。
  なお,被告は,原告商品はフェイスマスクそのものであり,その包装は「商品の形態」には当たらないと主張するが,美容液を浸潤させたフェイスマスクは,商品の性質上,包装と一体で流通に供されることが通常であって,包装が商品自体と容易に切り離しえない態様で結びついているといえるから,包装についても「商品の形態」に含まれるというべきであって,この点に関する被告の主張は採用することができない。

イ あてはめ

 そして,上記「(1)」「イ」と同じく,商品の外面包装の形態については,同種商品においてありふれた形態である一方,外面包装の色彩・デザイン・文言及び配置等については大きな違いが見られるとして,両商品の形態は実質的に同一とはいえないと判示した。また,商品の内容器の形状についても,上記「(1)」「ウ」と同様,「商品の形態」に含まれないと判示した。

   (2)  そこで検討するに,原告商品と被告商品の各外面包装の形態は,まず原告態様Bと被告態様b,原告態様Cと被告態様cがそれぞれ共通し,原告態様Aと被告態様aについても,直方体状である点で共通するとともに,その外寸も大きくは異ならないものと認められる。
  しかしながら,上記1(3)及び2(2)アの説示によれば,原告商品と被告商品に共通又は近似する上記各態様は,いずれも市場に流通する原告商品又は被告商品以外の多数の美容用液体含浸シートにおいても同様に備えているものであるか,少なくとも大きく相違しないものと認められるのであって,そうすると,原告商品と被告商品に共通する上記各態様は,いずれも同種の商品にしばしば見られるありふれた形態というほかない。
  他方,原告商品及び被告商品の各外面包装の色彩,デザイン,文言及び配置等に係る要素(原告態様Dと被告態様d)は,その全ての要素が著しく異なっている。特に,原告商品については,ローズピンクの基礎の上に緑色で描かれた伏し目のまつげとリボン及び大きく記載された「LuLuLun」という文字が強い印象を与えるのに対し,被告商品については,ストライプ状のパステルピンクの基礎の上に描かれた青色のハートマーク及び円並びに赤色で大きく記載された「ALL in 1」という文字が強い印象を与えると認められるのであって,その印象の差は大きく,需要者の印象を左右する特徴的な形態に係る相違といえる。しかも,原告商品と被告商品は,共に女性向けのフェイスマスクであり,一般の商品以上に,需要者においてキャッチコピーやデザインを重視する傾向も強いと考えられる。
  このように,原告商品と被告商品とは,その特徴的な形態(原告態様Dと被告態様d)が大きく相違する一方,共通ないし近似する形態(原告態様A~Cと被告態様a~c)はいずれも同種の商品にしばしば見られるありふれたものにとどまるから,全体として見れば,被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるということはできない。
    (3)  なお,原告主張の特徴⑦~⑪は,いずれも外面包装の内側の内容器に係る形態であって,需要者が原告商品を通常の用法に従って使用するに際して内容器の形態を認識することはできないから,「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる」商品の内部の形状等(不正競争防止法2条4項)に当たらず,「商品の形態」に含まれないというべきである。
  これに対し,原告は,①フェイスマスクを取り出す度に内容器の外観を見ることになる,②最後のフェイスマスクを取り出した際に空の状態の内容器の全体を視認することができる,③需要者が原告商品に触れれば内容器の構造が分かるなどと主張するが,これらがいずれも採用できないことは上記2(2)イで説示したとおりである。
    (4)  そうすると,被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるとはいえず,依拠の有無について検討するまでもなく,被告の行為は「模倣」には当たらない。

(3)まとめ

 以上のとおり,本件では,不正競争防止法2条1項1号及び同3号のいずれについても原告の主張は認められず,請求棄却となった。本件は原告側が控訴したが,控訴審(知財高裁判成28年12月22日(平成28年(ネ)10084号)においても同様の理由から原告(控訴人)の主張は棄却された。

※控訴審判決文より抜粋

 2  当審における控訴人の主張について
  控訴人は,控訴人商品の外面包装の上面及び下面,フラップラベル,その下の切込み部分は概ね正方形であって,控訴人商品のような外面包装全体が立方体であるというシンプルなデザインを採用した商品は他に存在しなかったのであり,控訴人商品の形態は,他の商品とは異なる顕著な特徴を有するものであり,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当し,これと実質的に同一の形態の被控訴人商品は同項3号にいう控訴人商品の「模倣」に該当する旨主張する。
  しかしながら,前記のとおり,商品の形態は,顕著な特徴を有しない限り,そもそも本来商品の出所を表示するものではなく,控訴人商品の外面包装全体が立方体であるなどという形態は,極めてシンプルなものであって,上記にいう顕著な特徴であると認めることはできない。かえって,前記認定事実によれば,控訴人商品と被控訴人商品は,外面包装に結合した模様,色彩,光沢及び質感が需要者に対し明らかに異なる印象を与えているのであるから,上記立方体等の形態が商品等表示であると認めることはできず,控訴人商品と被控訴人商品が類似するということもできない。そのほかに控訴人の当審における主張を改めて十分検討しても,その実質は,同種の主張を縷々繰り返すものであって,結局のところ,不正競争防止法2条1項1号又は3号の規定の意義を正解しないものに帰するというほかない。
  したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

3 むすび

 本件は,原告商品・被告商品を比較した場合に,①商品外装の形態,②内容器の形態,の2点において形態上の共通点が存在する事案であった。しかし,前者(①)は同種商品においてありふれた形態であるという理由により,後者(②)は不正競争防止法上の保護対象である「商品の形態」に該当しないとの理由により,それぞれ保護が否定された。不正競争防止法における商品形態保護の考え方を示す先例として,実務上参考になると思われる。

以上

弁護士・弁理士 丸山真幸