【平成28年7月27日判決(知財高裁 平成28年(ネ)第10028号)】

【判旨】
控訴人(原告)が、被控訴人(被告)に対し、控訴人が販売する「エジソンのお箸」という商品名の練習用箸(原告商品)の形態は、控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであり、被控訴人が製造・販売する原判決別紙被告商品目録1から20記載の「デラックストレーニング箸」という商品名の箸(被告商品)は、上記原告商品の形態と同一の形態を備えているから、被控訴人による被告商品の販売は、原告商品と混同を生じさせる行為であり、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当すると主張して、被告商品の製造・販売の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案。原審では、原告商品形態の営業等表示該当性が認められずに、原告の請求が棄却されたため、原告が控訴したが、控訴審においても、原告商品形態は同種商品の中でありふれたものというべきであり、特別顕著性を認めることはできず、不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当しないとして、控訴棄却となった。
【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号、商品形態の保護、商品等表示性、他人性

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要

 本件で問題となった商品は、幼児期に正しい箸の持ち方を覚えるために使用する「練習用箸」と呼ばれるものであり、原告商品、被告商品の各形態は以下のとおりである。両商品はいずれも、一対の箸が連結されている連結箸であって、1本の箸は人差指と中指をそれぞれ入れる二つのリングを有し、他方の1本は親指を入れる一つのリングを有する点において共通する一方、持ち手部分の形状や図柄等はそれぞれ異なっていた。原告商品、被告商品はそれぞれ数十種類の商品ラインナップを有するシリーズ物の商品であることから、以下では一部を抜粋する。

原告商品被告商品

(2)争点

 本件の争点は以下のとおりである。
   (1)  原告が不競法2条1項1号の「他人」に当たるか
   (2)  原告商品形態が「商品等表示」に当たるか
   (3)  損害発生の有無及びその額

2 裁判所の判断~原告商品形態が「商品等表示」に当たるかについて

(1)判断基準

 控訴審では、「他人」要件の判断に先立ち、不競法2条1項1号の「商品等表示」要件該当性について判断がされた。判断基準については、原審と同じく①特別顕著性、②周知性という従前の判断枠組みを維持しつつ、技術的機能に由来する商品形態については、原審でも言及のあった「不可避的な」形態の他、「他の形態を選択する余地がある場合」についても判断基準が示されている。

1  争点⑵(原告商品形態が不競法2条1項1号所定の「商品等表示」に当たるか)について
   ⑴  商品の形態の「商品等表示」該当性について
   ア 不競法2条1項1号の趣旨は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにある。
 同法2条1項1号所定の「商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は、商標等とは異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、「商品等表示」に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解される。
   イ もっとも、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合、そのような商品の形態自体が「商品等表示」に当たるとすると、当該形態を有する商品の販売が一切禁止されることになり、結果的に、特許権等の工業所有権制度によることなく、当該形態によって実現される技術的な機能及び効用を奏する商品の販売を特定の事業者に独占させることにつながり、しかも、不正競争行為の禁止には期間制限が設けられていないことから、上記独占状態が事実上永続することなる。したがって、上記のような商品の形態に「商品等表示」該当性を認めると、不競法2条1項1号の趣旨である周知な商品等表示の有する出所表示機能の保護にとどまらず、商品の技術的な機能及び効用を第三者が商品として利用することまで許されなくなり、それは、当該商品についての事業者間の公正な競争を制約することにほかならず、かえって、不競法の目的に反する結果を招くことになる。
 したがって、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には、「商品等表示」に該当しないと解するのが相当である。
   ウ 他方、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても、他の形態を選択する余地がある場合は、そのような商品の形態が「商品等表示」に当たるとして同形態を有する商品の販売が禁止されても、他の形態に変更することにより同一の機能及び効能を奏する商品を販売することは可能であり、前記イのような弊害は生じない。
 したがって、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても、他の形態を選択する余地がある場合は、当該商品の形態につき、前記アの特別顕著性及び周知性が認められれば、「商品等表示」に該当し得る。もっとも、商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合、同形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していることはまれであり、同種商品の中でありふれたものとして特別顕著性が否定されることが多いものと思われる。

(2)あてはめ

 そして、裁判所は、原告商品の形態について、他の形態を選択する余地のない不可避的な構成ではないとしつつも、原告商品と同一の機能及び効用を奏する連結型の練習用箸が多数販売されていることや、原告商品の発売以前に公開された特許公報・実用新案公報に原告商品と形態を共通にする練習用箸が記載されていること等を理由として、原告商品形態は同種商品の中でありふれたものというべきであり、特別顕著性が認められないと結論付けた。

⑵  認定事実
 後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
   ア 原告商品は、主として箸の使用に習熟していない幼児に、一般に正しいとされる持ち方で箸を使用する練習をさせる練習用箸であり、控訴人が主張する原告商品形態は、「一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分において連結されたいわゆる連結箸であって、うち1本の箸は人差指と中指をそれぞれ入れる2つのリングを有し、他方の1本は親指を入れる1つのリングを有する」ことである。
   イ 原告商品と同一の機能及び効用を奏する練習用箸は、多く市販されており、その中には連結箸ではないもの(甲4、13)、特定の指を固定するために、リングではなく、親指等を載せたり支えたりする突起部や部材が設けられているもの(甲5~12)がある。
   ウ 原告商品形態の全てをそのまま備えた商品は、本件証拠上、原告商品及び被告商品以外に見られない。
 しかし、原告商品と同一の機能及び効用を奏する練習用箸で、連結箸であるものは、多数市販されている(甲5~12)。また、上記機能及び効用を奏する練習用箸として、連結箸ではないものの、一対の箸のうち1本に薬指を挿入するリング状の部材を備えたもの(甲4、13)が市販されているほか、原告商品の販売が開始された平成15年9月よりも相当前に刊行された実開昭59-8682号公報(甲15)には、一対の箸のうち1本が人差指と中指をそれぞれ入れる2つのリングを有し、他方の1本は薬指を入れる1つのリングを有するものが、実開昭61-170377号公報(甲16)には、一対の箸のうち1本が人差指を入れる1つのリングを有し、他方の1本は薬指を入れる1つのリングを有するものが、実開昭57-136963号公報(乙11)及び特開平10-137101号公報(甲14)には、一対の箸のうち1本が人差指及び中指をそれぞれ入れる2つのリングを有し、他方の1本が親指及び薬指をそれぞれ入れる2つのリングを有するものが、記載されている。
   エ なお、原告商品を含む「エジソンのお箸」の製造者であるケイジェイシーは、発明の名称を「子供の知的能力を発達させる練習用箸」とする発明に係る特許権者と共に、被控訴人に対し、少なくとも被告商品の一部を含むデラックストレーニング箸の製造・販売の差止め及び廃棄を求める訴えを大阪地方裁判所に提起した(同裁判所平成25年(ワ)第2464号)。
 同訴訟において、ケイジェイシーは、原告商品1、2、4から10及び12から17の「⒜親指を挿入する親指用リングを有する第1箸部材と、⒝人差指及び中指を挿入する2つのリングを有する第2箸部材と、⒞第1箸部材及び第2箸部材の上部に配置された装飾⒟を有する練習用箸。」という商品形態が不競法2条1項1号所定の「商品等表示」に当たり、上記デラックストレーニング箸の形態は、上記原告商品と混同を生じさせる旨を、上記特許権者は、上記デラックストレーニング箸の製造・販売が上記特許権を侵害する旨をそれぞれ主張したが、大阪地方裁判所は、平成25年10月31日、①上記原告商品の商品形態は、不競法2条1項1号所定の「商品等表示」に当たるということはできない、②上記デラックストレーニング箸は、前記発明に係る構成要件の一部を充足しないとして、ケイジェイシーらの請求をいずれも棄却した。
 ケイジェイシーらは、上記判決を不服として控訴したが、知的財産高等裁判所は、平成26年4月24日、ケイジェイシーらの控訴をいずれも棄却する旨の判決を言い渡し、同判決は、確定した(乙4の1~3、9、15)。
   ⑶  原告商品形態の「商品等表示」該当性について
 前記⑵アによれば、原告商品形態が、一般に正しいとされる持ち方で箸を使用する練習をさせる練習用箸という原告商品の技術的な機能及び効用に由来するものであることは、明らかである。一方、前記⑵イによれば、原告商品形態が、上記機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来するものということはできない。しかし、前記⑵ウに鑑みると、原告商品形態は、同種商品の中でありふれたものというべきであり、特別顕著性を認めることはできない。
   ⑷  小括
 したがって、原告商品形態は、不競法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当しない。

3 検討

 本件の原審は、原告商品の形態のうち連結部やリング部分の形態を「不可避的な形態」であるとした認定にやや疑問が残るものであった。一方で、控訴審判決では、①商品形態が技術的形態に由来するものであるか否か、②他の形態を選択する余地のない不可避的な構成であるか否か、③同種商品の中でありふれた形態か否か、といった点が段階を追って検討され、事案に即した丁寧な事実認定が行われている印象を受ける。
 規範部分の判示にあるとおり、商品の技術的な機能及び効用に由来する商品形態であっても、他の形態を選択する余地がある場合に理屈上は「商品等表示」に該当し得るが、実際にはそのような形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(=特別顕著性)を有していることは稀であり、特別顕著性が否定されることが多いものと思われる。

以上

弁護士・弁理士 丸山 真幸