【平成28年2月5日判決(東京地裁 平成26年(ワ)第29417号)】

【判旨】
練習用箸(商品名「エジソンのお箸」)を販売する原告が、被告商品(商品名「デラックストレーニング箸」を製造・販売する被告に対し、原告商品の形態は周知な商品等表示であるところ、被告商品がこれと同じ形態を有しており、混同が生じる蓋然性が高いと主張して、不正競争防止法3条1項及び2項に基づき、被告商品の製造・販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、民法709条・不正競争防止法5条1項に基づいて、損害賠償を求めた事案。裁判所は、不正競争防止法2条1項1号の「他人」とは、自らの判断と責任において主体的に、当該表示の付された商品を市場に置き、あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて、需要者の間において、当該表示に化体された信用の主体として認識される者をいうと解されるところ、仮に原告商品形態に商品等表示性があり、それに化体された信用が認められるとすれば、その主体は、原告ではなく製造元の第三者であると判示した。また、裁判所は、原告商品形態が商品等表示に当たるということはできないとして、原告の請求を棄却した。

【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号、商品形態の保護、商品等表示性、他人性

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要

 本件で問題となった商品は、幼児期に正しい箸の持ち方を覚えるために使用する「練習用箸」と呼ばれるものであり、原告商品、被告商品の各形態は以下のとおりである。両商品はいずれも、一対の箸が連結されている連結箸であって、1本の箸は人差指と中指をそれぞれ入れる二つのリングを有し、他方の1本は親指を入れる一つのリングを有する点において共通する一方、持ち手部分の形状や図柄等はそれぞれ異なっていた。原告商品、被告商品はそれぞれ数十種類の商品ラインナップを有するシリーズ物の商品であることから、以下では一部を抜粋する。

原告商品被告商品

 原告商品は、株式会社ケイジェイシーが製造・販売するベビー用品の「エジソンシリーズ」の一つであり、「エジソンのお箸」は平成15年9月から販売がされていた。株式会社ケイジェイシーは、「エジソンのお箸」の商標権者であり、同商品の50%が原告を経由して卸売業者に流通していた。

(2)争点

 本件の争点は以下のとおりである。
   (1)  原告が不競法2条1項1号の「他人」に当たるか
   (2)  原告商品形態が「商品等表示」に当たるか
   (3)  損害発生の有無及びその額

2 裁判所の判断

(1)原告が不競法2条1項1号の「他人」に当たるかについて
ア 判断基準

 まず、裁判所は、不正競争防止法2条1項1号における「他人」とは、自らの判断と責任において主体的に、当該表示の付された商品を市場に置き、あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて、需要者の間において、当該表示に化体された信用の主体として認識される者をいうと判示した。

※判決文より抜粋(下線部は筆者付与。以下同じ。)

 2  争点(1)(原告が不競法2条1項1号の「他人」に当たるか)について
   (1)  不競法2条1項1号は、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用等することで、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為を規制している。同号の規定は、他人の周知な商品等表示と同一又は類似な表示を使用して需要者を混同させ、当該表示に化体した他人の信用にただ乗りして顧客を獲得する行為を禁止し、もって公正な競業秩序の維持、形成を図ろうとするものであり、同号の「他人」とは、自らの判断と責任において主体的に、当該表示の付された商品を市場に置き、あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて、需要者の間において、当該表示に化体された信用の主体として認識される者をいうと解される。

イ あてはめ

 その上で、裁判所は、発売元としてケイジェイシーが表示されていることや、原告の設立前から原告商品を製造、販売し、小売店に対する営業を自ら行っていたこと等から、仮に原告商品形態に商品等表示性が認められるとしても、その主体はケイジェイシーであると判示した。

(2)  これを本件についてみると、原告が商品等表示であると主張する原告商品形態を付した商品である原告商品は、ケイジェイシーが開発、製造、販売する商品であること、原告商品の商品パッケージには、発売元としてケイジェイシーが表示されていること、原告商品には、株式会社西松チェーンが販売元として記載されているものもあること、ケイジェイシーが、原告商品を、「株式会社ケイジェイシー総合カタログ」に掲載したり、展示会に出展するなどして、広告宣伝を行っていること及びケイジェイシーは、原告の設立前から原告商品を製造、販売しており、販売開始当初から小売店に対する営業を自ら行っていたことを総合的に考慮すると、需要者が消費者であるか卸売業者であるかにかかわらず、仮に原告商品形態に商品等表示性があり、それに化体された信用が認められるとすれば、その主体は、ケイジェイシーであるというべきである。

 原告は、①本件における需要者は卸売業者であり、卸売業者が、原告商品形態に化体された信用の主体として認識するのは原告であるとの主張や、②原告とケイジェイシーが、本件の商品等表示のもつ出所識別機能及び顧客吸引力等を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているグループに当たるから、原告は不競法2条1項1号の「他人」に含まれるとの主張も併せて行ったが、いずれも裁判所により棄却された。

(2)原告商品形態が「商品等表示」に当たるかについて
ア 判断基準

 まず、裁判所は、不競法2条1項1号の「商品等表示」要件について、従前の判断枠組みと同じく①特別顕著性、②周知性の2つを備えることが必要であるとしつつ、実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態については商品等表示に該当しないと判示した。

3  争点(2)(原告商品の形態が「商品等表示」に当たるか)について
   (1)  原告は、原告商品形態が、商品等表示に当たると主張する。
 不競法2条1項1号の「商品等表示」は、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は、商標等とは異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものでないが、①商品の形態が客観的にほかの同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている場合(周知性)には、商品の形態自体が商品等表示に該当する場合もあると解される。
 もっとも、実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態についてまで、商品等表示として保護を与えると、同等の機能を有する複数の商品間の自由な競争を阻害する結果となり相当でないから、実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態については商品等表示に該当しないというべきである。

イ あてはめ

 そして、裁判所は、原告商品の形態のうち、「一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分において連結されている連結箸」であることや、「1本の箸は人差指と中指をそれぞれ入れる二つのリングを有し、他方の1本は親指を入れる一つのリングを有する」ことは、練習用箸の実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態であるから、商品等表示に該当しないと判示した。

(2)  そこで検討するに、原告商品は、親指、人差し指及び中指をリングに挿入して箸の使用に適した位置で固定するという機能並びに2本の箸を連結するという機能を有しており、これにより、箸の使用に習熟していない者が、箸を安定させて、かつ、正しいとされる指の位置で箸を使用する練習ができるという作用効果を有するものであるといえる。そして、正しいとされる箸の持ち方を前提にすれば、2本の箸に対してあるべき親指、人差し指及び中指の位置関係は自ずと決まっているから、それらの指の位置関係を正しい位置に固定するために指を通すリングを使用しようとすると、その位置関係及び箸に対する傾きなども自ずと定まっているものと認められる。
 そうすると、原告商品形態のうち、「一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分において連結されている連結箸」であることは、2本の箸を連結するという機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態であり、また、連結部位が一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分であることは、箸として使用することからすれば当然の選択といえる。次に、「1本の箸は人差指と中指をそれぞれ入れる二つのリングを有し、他方の1本は親指を入れる一つのリングを有する」ことは、親指、人差し指及び中指をリングに挿入することで正しいとされる箸の持ち方に適した位置で固定するという機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態であると認められる。
 以上のとおり、原告商品形態は、全体として、指にリングを通すことによって正しいとされる箸の持ち方を練習するための練習用箸の実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態というほかない。
   (3)  この点に関して原告は、原告商品の機能を「正しい箸の持ち方を覚えさせるために使用する」ことにあると主張するが、これは原告商品の用途であって機能とはいえない。
 また、原告は、指を挿入するにはリングの他にも「箸に指サックのような指受け」や「円筒形の筒」をつけるなどの複数の選択肢があるから、リングは不可避的に採用せざるをえない形態ではないと主張するが、指の位置関係を正しい位置に固定するためにリングを使用するということ自体は技術思想又はアイデアであって商品の形態ではない上、箸そのものの形態及び使用方法からして、指サックのような指受けや幅が広い円筒形の筒を箸に付けることはおよそ現実的とはいえないから、原告の上記主張は採用することができない。
   (4)  したがって、原告商品形態が商品等表示に当たるということはできない。

3 検討

 本件は、不正競争防止法2条1項1号に基づく商品形態の保護について、「他人」の要件と「商品等表示」の要件のそれぞれについて、従前の裁判例の判断枠組みに基づき事実認定を行ったものであり、実務上参考になると思われる。ただし、本判決のうち、原告商品の形態のうち連結部やリング部分の形態を「不可避的な形態」と結論付けたくだりについては、インターネットにて「練習用箸」で画像検索を行うと、数は少ないながらもリングの付いていないものや、リングの一部が欠けた(半円)形状のもの等も散見されることから、やや妥当性を欠く認定であるようにも思える。また、判決の中では同種商品の形態についてほとんど触れられておらず、この点についてもやや検討が足りていない印象を受けえる。「商品等表示」要件に関する事実認定については、本事件の控訴審である知財高判平成28年7月27日(平成28年(ネ)10028号)の方がより参考になると思われる。

以上

弁護士・弁理士 丸山 真幸