【知的財産高等裁判所平成28年6月1日判決 平成27年(ネ)第10091号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件】

【判旨】
 特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。
 Yは、X製品の価格は、Y製品の価格に比べ高額である旨主張する。平成22年11月29日から平成26年3月28日までの間に、Xが受注したX製品14台の1台当たりの平均額は約645万円であったこと、Y製品の販売価格は、350万円程度であることが認められる。しかし、対象製品が破袋機という一般消費者ではなく事業者等の法人を需要者とする製品であり、また、その耐用期間も少なくとも数年間に及ぶものであることに照らすと、上記の程度の価格差があるからといって、直ちにX製品とY製品の市場の同一性が失われるということはできない。

【キーワード】
 102条1項、損害論、推定の覆滅、大阪地方裁判所平成27年5月28日判決

【事案の概要】
 1 本件は、発明の名称を「破袋機とその駆動方法」とする発明に係る特許権(特許番号第4365885号。本件特許権)を有するX(原告大阪エヌ・イー・ディー・マシナリー株式会社、控訴人・被控訴人)が、Y(被告株式会社大原鉄工所、控訴人・被控訴人)の破袋機(Y製品)は、本件特許権に係る特許(本件特許)の特許請求の範囲の請求項1、2及び4記載の各発明(本件特許発明)の技術的範囲に属するから、YがY製品を生産、譲渡等する行為は、本件特許権を侵害する行為であり、また、YからY製品を購入した顧客が、業としてY製品を使用する行為は本件特許権を侵害する行為であるところ、Yが顧客の使用するY製品を保守する行為は、顧客によるY製品の使用という本件特許権の侵害行為を幇助するものである旨主張して、Yに対し、〈1〉特許法100条に基づき、Y製品の生産、譲渡等の差止め並びにY製品及びその半製品の廃棄、〈2〉不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の一部である2816万9021円(Y製品の譲渡による損害額2810万1920円とY製品の保守による損害額357万9837円の合計額の一部)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

 2 原判決(大阪地方裁判所平成27年5月28日判決)は、〈1〉Y製品は、本件特許発明1(請求項1に記載された発明)及び本件特許発明2(請求項2に記載された発明)の技術的範囲に属する、〈2〉YがY製品を譲渡したことによる損害額は1756万3700円(特許法102条1項)である、〈3〉YがY製品を保守したことによる損害賠償請求は理由がないなどとして、Xの請求を、〈1〉Y製品の生産、譲渡等の差止め並びにY製品及びその半製品の廃棄、〈2〉1756万3700円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却した。
   そこで、X及びYが、それぞれ原判決中の敗訴部分を不服として控訴した。

 ここでYは、102条1項における単位数量あたりの利益額に関して、次のとおり、Xの製品の価格がYの製品の価格に比べて高額であるから、利益額の算定の基礎とすべきではないと主張した。
「(ア) 単位数量当たりの利益額
  a ・・・
  b Xは、甲23に記載の14台の製品の粗利益をもって、1台当たりの利益額である旨主張する。
    しかし、1台当たりの利益額を算定するに当たっては、Y製品と同種同等同額の製品のみを基礎とすべきである。甲23に記載の製品価格は、Y製品の価格(1台当たり約350万円)に比べ、高額であり、そもそも、Y製品と競合関係にある製品ではない。

【争点】
 ・ 充足論
   Y製品1及び2は、本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するか否か(構成要件C、D、Eの充足性)
 ・ 損害額
   特許法102条1項に基づく損害額

【判旨】
  裁判所は、Y製品1及び2が構成要件C、D及びEを充足するとし、本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するとした。
  そして、次のとおり、損害額について判示した。

「4 争点(4)(損害額)について
 (1) 特許法102条1項の損害

    ア 特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、同項本文において、侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定し、同項ただし書において、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより、従前オールオアナッシング的な認定にならざるを得なかったことから、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規定である。
      特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば、特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。また、「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経 費を控除した額(限界利益の額)であり、その主張立証責任は、特許権者等の実施能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。
      さらに、特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については、侵害者が立証責任を負い、かかる事情の存在が立証されたときに、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものであるが、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当するというべきである。

    イ 譲渡数量について
     証拠(乙95)及び弁論の全趣旨によれば、Yは、平成21年8月28日から平成25年3月頃までの間に、シリアル番号「15096」、「15097」、「15099」~「15103」のY製品を譲渡したことが認められる。
     また、弁論の全趣旨によれば、Yは、シリアル番号「15094」のY製品のうち、平成21年8月21日に制御操作盤を除く他の部分を、同年10月14日に制御操作盤を、それぞれ顧客先に搬入したことが認められる。そして、Y製品は、大要、フレーム部、回転ドラム部、駆動部、制御操作盤により構成されているものであり、このうち制御操作盤は、破袋機の(手動・自動)運転制御を担う構成であり(乙1)、本件特許発明の実施に欠かせないものであるから、制御操作盤が顧客先に搬入されることにより、先に搬入されていた他の構成部分と併せ侵害品としてのY製品の譲渡(納品)が完了したものと認められる。
     したがって、平成21年8月28日(本件特許権の設定登録の日)から平成25年3月頃までの間におけるY製品の譲渡数量は、合計8台である。

    ウ 「侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額」について

      (ア) 前記アのとおり、特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。
       これを本件について見るに、証拠(甲12、13、21、22)及び弁論の全趣旨によれば、Xは、「HTP-3」、「HTP-6」、「HTP-10」、「HTP-15」、「HTP-20」、「HT-3」、「HT-6」、「HT-10」、「HT-15」、「HT-20」の各機種の破袋機(X製品)を販売していたこと、Xは、これらの破袋機について、「一軸揺動式で軸への巻き付き固着は一切ありません。回転刃物が正転・逆転の回転角(調整可)を2パターン交互に繰り返すことにより効率の良い破袋と巻き付きを防止しています。」などと、その原理の説明をしていたことが認められる。上記事実によれば、X製品は、本件特許発明1、2の実施品、あるいは、少なくともY製品と市場において競合関係に立つ製品に当たるものと認められる。

      (イ) 証拠(甲23)及び弁論の全趣旨によれば、Xは、平成22年11月29日から平成26年3月28日までの間に、X製品について14台の発注を受けたこと、その売上額の合計は9039万円であることが認められる。

      (ウ) 経費
       証拠(甲23、25、26)及び弁論の全趣旨によれば、XにおけるX製品の販売、製造、納品の形態に関し、〈1〉Xは、X製品の製造を第三者に外注しており、外注費を含めた上記14台の仕入額(原材料費、消耗材料費、外注加工費及び納品輸送費等)の合計は、4121万1631円であること、〈2〉製造されたX製品は、外注先から注文者(Xの顧客)に直接納品されること、〈3〉Xは、X製品の在庫を保有しておらず、X製品について製品保険を付していないこと、〈4〉Xは、破袋機を専門に取り扱う営業担当者を雇用していないことが認められる。
       上記事実によれば、X製品の取引における、原材料費、消耗材料費、加工費、納品費用(輸送費を含む)等は、上記〈1〉の仕入額に含まれているものと認められる。また、上記のとおり、Xは、破袋機を専門に取り扱う営業担当者を雇用しておらず、上記14台のX製品を製造、販売するために増加した人件費、すなわち、上記〈1〉の仕入額とは別に変動経費として控除すべき人件費が生じていると認めることはできず、さらに、XはX製品の在庫を保有しておらず、製品について保険を付していないことから、保管費や保険費用等が変動経費として生じていると認めることもできない。
       以上によれば、前記〈1〉の仕入額のほかにX製品の売上額から控除すべき変動経費を認めるに足りない。

      (エ) 限界利益
       そうすると、X製品1台当たりの限界利益額は、351万2740円((9039万円-4121万1631円)÷14。円未満切捨て。以下同じ。)と認めるのが相当である。

    エ 実施能力について
     Yの譲渡数量は8台であって、平均すれば、年間1台か2台程度であること(弁論の全趣旨)、Xは、平成22年11月29日から平成26年3月28日までの間に、X製品について14台の受注実績があること、Xは、X製品の製造を外注していること等の事実に照らせば、本件侵害行為の当時、Xには、侵害行為がなければ生じたであろう製品の追加需要に対応してX製品を供給し得る能力があったものと認められる。

    オ 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
     譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額は、2810万1920円(351万2740円×8台)となる。

    カ 特許法102条1項ただし書の事情(「販売することができないとする事情」)の有無

      (ア) Yは、「販売することができないとする事情」として、X製品以外にも、第三者が製造販売する同種の破袋機が市場に存在し、その販売数量は、Y製品と同程度の年間1台か2台程度であったと推認されることを主張する。
       証拠(乙55~70)によれば、X及びYのほかにも、破袋機を製造販売する第三者が存在すること、これら第三者のうちには、自社が販売する破袋機の特徴として、自社の商品カタログにおいて「独自の刃形状と自動反転により破袋後の袋の絡み付きを少なくしています。2軸の破袋刃により抜群の破袋効果を発揮します。シンプルな構造のためメンテナンスが容易であり、安価な破袋刃を採用しランニングコストの低減化を図っております。」などと紹介する者(乙61)、自社のホームページにおいて、「詰まりや巻き込みを独自の工夫で防止しました。噛み込み防止ストッパー、ウェイトバランサー、正逆回転で処理困難物は選別され、巻き付きもほとんど除去されます。」などと紹介する者(乙63)や「2軸の回転刃により効率よく破袋を行い、従来の破袋機と比べてビニール袋のかみ込みなどが少なく、選別作業が容易です。」などと紹介する者(乙66)があることが認められる。
       しかし、本件特許発明1及び2は、前記1(3)のとおり、〈1〉機構が簡素化されるとともに、連続して効率よく破袋することができ、〈2〉袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ、〈3〉破袋後の袋破片が回転体、固定側刃物に絡みつくことがない等の破袋作業にとって優位な効果を奏するものであるところ、上記事実のみから、上記第三者の販売する破袋機が、本件特許発明1及び2と同様の作用効果を発揮するものであるとの事実を認めるに足りない。また、本件全証拠によるも、破袋機市場における販売シェアの状況や第三者が販売する破袋機の価格は不明である。したがって、上記認定事実をもって、Xにおいて、Y製品の譲渡数量に相当するX製品を販売することができない事情があるということはできず、他にその事情があると認めるに足りる証拠はない。

      (イ) なお、Yは、X製品の価格は、Y製品の価格に比べ高額である旨主張する。
       証拠(甲23、乙41~45)及び弁論の全趣旨によれば、平成22年11月29日から平成26年3月28日までの間に、Xが受注したX製品14台のうち、最も低額なものは418万円であり、最も高額なもので950万円であって、その1台当たりの平均額は約645万円であったこと、Y製品の販売価格は、350万円程度であることが認められる。しかし、対象製品が破袋機という一般消費者ではなく事業者等の法人を需要者とする製品であり、また、その耐用期間も少なくとも数年間に及ぶものであること(弁論の全趣旨)に照らすと、上記の程度の価格差があるからといって、直ちにX製品とY製品の市場の同一性が失われるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

      (ウ) 以上のとおり、本件において、特許法102条1項ただし書に該当する事情があるということはできない。

    キ Yの主張について

      (ア) Yは、〈1〉Y製品は、1種類の正・逆転パターンの制御しかできず、正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎないこと、〈2〉Y製品は、納品時は正転60秒、逆転60秒にセットされており、この状態では、ブリッジ現象が生じることが明らかであり、本件特許発明1及び2の作用効果を奏しないこと、〈3〉Y製品の正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1種類のパターンでの制御)では、本件特許発明1及び2は、進歩性を欠くこと、〈4〉Y製品の制御は、本件特許発明の作用効果を考慮したとき、本件特許発明とは全く別異であり、実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実施し得る場合が考えられるというにすぎないことを考慮すれば、Y製品における侵害部分が、購買者の需要を喚起するということはあり得ないから、本件特許発明1及び2の寄与率が30%を超えることはない旨主張する。

      (イ) 〈1〉の点について
        本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は、前記2(3)のとおり、単なる右回転又は左回転ではなく、右回転と左回転の組合せを1パターンとして、1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって、1パターン内の右回転と左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。Y製品が1種類の正・逆転パターンの制御しかできないものであったとしても、結局、Y製品は、本件特許発明1及び2を充足するような使用方法が可能である。他方、Y製品に本件特許発明の効果以外の特徴があり、その特徴に購買者の需要喚起力があるという事情が立証されていない以上、寄与率なる概念によって損害を減額することはできないし、特許法102条1項ただし書に該当する事情であるということもできない。」

    「ク 小括
     以上によれば、特許法102条1項に基づく損害額は、2810万1920円であると認められる。」

【解説】
 特許法102条1項は、「特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。」と規定している。

 ここで、特許権者等が販売することができたはずの物(権利者製品)が、侵害品と同一のものであることを要するかについては、通説、判例は必要ではないと解している。その一番の理由は条文の文言上そのような限定が行われていないことである。権利者製品と侵害者製品の態様が異なる場合、例えば侵害者製品が部品単位で販売されており、権利者製品が部品を組み込んだ製品単位で販売されている場合など、販売価格に差がある場合は、「侵害の行為がなければ販売することができた」関係にあったとしても、いささかバランスを欠くように思われる。しかし、侵害によって特許権者等に機会損失が生じており、損害が発生していること自体は否定できないのであるから、原則として調整は不要であろう。権利者製品と侵害品との販売価格が大きく異なり、明らかにバランスを欠く場合には、ただし書の適用において調整するという見解もある(市川正巳判事「損害1」『知的財産関係訴訟 リーガル・プログレッシブ・シリーズ3』205頁、飯田圭弁護士『新・注解特許法」上巻1574頁)。※私見としては、販売数量の問題ではないため、推定の覆滅で対応すべきと考える。
 裁判例においては、過去に地裁レベルでは、権利者製品と侵害品の関係は、市場で競合する関係にあれば足り、同一の製品であることを要しない旨を述べる裁判例がみられた(東京地判平成12年6月23日「空気の除去および遮断機構付血液採取器事件」、東京高判平成14年10月31日「タコグラフ・チャート用紙原紙事件」など。)。近時では、知財高裁において、本判決と同様に「特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる」と述べる判決が出されており(知財高判平成27年11月19日(平成25(ネ)10051))、本判決はこれに続く知財高裁の判例である。

 他方、権利者製品が、特許発明の実施品であることを要するかについては、これを不要とする立場が通説である。
 実施品であることを必要とする見解も有力に主張されているが、実際には特許権者が改良発明を実施しているケースがしばしばあると考えられるから、102条1項の適用を受けられないケースが多くなってしまうという問題がある。
 もっとも、特許発明の実施品であることを不要とすると、特許権者に過剰な利益をもたらすことになりかねない。102条1項本文は、侵害者の譲渡数量を、侵害行為がなければ特許権者等が譲渡できた数量と推定した上で、同項ただし書きにより、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情(例えば侵害者のユーザーが、特許権者の製品ではなく第三者の製品を購入したであろうとする事情等)を侵害者の方で主張、立証することとされている。しかし、102条1項ただし書きの事情を、侵害者の方で主張、立証することは一般に難しいものである。つまり、全量を特許権者の譲渡数量であるとの推定が維持されるケースが多くなりがちである。
 本判決においては、権利者製品(X製品)が実施品であることを証拠上認定できないと思われるにもかかわらず、それでも4(1)ウ(ア)において実施品であると言及しているのは、このような102条1項の推定を働かせることにおける問題点を意識したからではないかとも思われる。

以上

(文責)弁護士 山口建章