【平成28年5月18日(知財高裁 平成27年(行ケ)第10246号)】

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2015-6668事件について商標法4条1項11号の判断は正当であるとして、請求を棄却した事案である。

【キーワード】
商標の類否判断、Photomaker Pro、商標法4条1項11号


【事案の概要】
(1) 原告は,平成26年6月13日,別紙1本願商標目録記載の商標(以下「本願商標」という。)の登録出願(商願2014-48803号)をした(乙1)。
⑵ 原告は,平成27年1月8日付けで拒絶査定を受けたので,同年4月8日,これに対する不服の審判を請求した。
⑶ 特許庁は,これを,不服2015-6668号事件として審理し,平成27年10月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年11月13日,その謄本が原告に送達された。
⑷ 原告は,同年12月14日,本件審決の取消しを求める本件審決取消訴訟を提起した。

【争点】本願商標が、商標法4条1項11号に該当するか。

【本願商標】

 

【引用商標】

【判旨抜粋】
1 商標の類否判断
 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に観察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集
22巻2号399頁参照)。
 この点に関し,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものということができる(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
 そこで,以上の見地から,本願商標と引用商標との類否について検討する。
2 本願商標について
(1) 本願商標の構成から「Photomaker」の部分を抽出することの可否
ア 本願商標は,その外観上,「Photomaker」及び「Pro」の各欧文字の部分を組み合わせて成る結合商標である。そして,各部分の頭文字が大文字で表され,各部分の間には半角分のスペースが空けられているほか,「Photomaker」の部分は,灰色の輪郭のみで表されているのに対し,「Pro」の部分は,黒色で書された文字を灰色で縁取りすることで表されている。そうすると,本願商標は,上記各部分それぞれについて独立して見る者の注意をひくように構成されているということができる。
 また,本願商標の構成中の「Pro」の部分は,「プロ,玄人,専門家」を意味する「professional」の短縮語を表すものと認められるところ,電子楽譜作成,外部記憶デバイス管理,ポップアップカード作成,会計支援,写真編集,オペレーティングシステムやその修復,音楽作成,動画再生,デジタルメディア作成等,映像編集,ラベル作成という用途に用いられるコンピュータソフトウェアの一部には,標準仕様の商品の名称の後に,「Pro」又は「PRO」という文字が付加された商品があり,当該商品は,いずれもより熟練者を対象とした商品又はより高い機能を有した商品であることが認められる(乙5~17。枝番を含む。)。そうすると,コンピュータソフトウェア及びこれに類似する電子計算機用プログラムの取引者,需要者は,商品の名称の後に「Pro」という文字が付加されることによって,当該商品が標準仕様の商品に比べて,より熟練者を対象とした商品又はより高い機能を備えた商品であると理解するものといえる。
 したがって,本願商標が,その指定商品とする電子計算機用プログラム,コンピュータソフトウェアについて使用された場合には,本願商標の構成中の「Pro」の部は,電子計算機用プログラム,コンピュータソフトウェアの品質等を直接表示するものであって,取引者,需要者に特定的,限定的な印象を与える力を有するものではないというべきであるから,同部分から出所識別標識としての称呼,観念は生じない。
(中略)
ウ したがって,本願商標と引用商標の類否を判断するに当たっては,本願商標の構成から「Photomaker」の部分を抽出して対比することも許されるものといえる。
 (2) 本願商標について
 本願商標の外観は,横一行で,「Photomaker」と「Pro」の各部分の間に半角分の間隔を空け,「Photomaker」の各文字は灰色の輪郭のみで,「Pro」の各文字は黒色で書された文字を灰色で縁取りすることで表されている。また,・・・デフォルメがされている。
 そして,本願商標の全体からは「フォトメーカープロ」との呼称が生じる。また,「Photo」は「写真」を,「maker」は「作る人」を意味し(乙3,4),上記のとおり「Pro」の部分は,「より熟練者を対象とした」,又は「より高い機能を備えた」という意味で理解されるのであるから,本願商標の全体からは,「写真を作る専門家」という観念を生じる。
 また,上記(1)のとおり,本願商標の構成から「Photomaker」の部分を抽出して対比することも許されるところ,同部分からは「フォトメーカー」との称呼を生じる。そして,同部分からは「写真を作る人」という観念を生じる。
 したがって,本願商標は,その全体から「フォトメーカープロ」,「写真を作る専門家」との称呼,観念を生じるほか,「Photomaker」の部分から「フォトメーカー」,「写真を作る人」との称呼,観念を生じる。
3 引用商標について
 引用商標は,別紙2引用商標目録記載のとおりである(乙2の1・2)。引用商標の外観は,その上段については,「PHOTO」及び「MAKER」の各部分の間に僅かなスペースを空け,「PHOTO MAKER」と横一行に表して成り,各文字はゴジック体で表されている。下段については,「フォトメーカー」と横一行に表して成り,各文字はゴジック体で表されている。
 また,下段の片仮名部分は,その位置するところとあいまって,上段の欧文字部分の読みを表したものと理解されるから,引用商標からは,「フォトメーカー」との称呼を生じる。さらに,引用商標は「写真を作る人」という観念を生じる。
4 本願商標と引用商標の類否について
(1) 本願商標と引用商標とを対比すると,本願商標の「Photomaker」の部分と引用商標の上段部分は,構成文字のつづりが同一である。そして,本願商標の同部分と引用商標からは,「フォトメーカー」との同一の称呼が生じ,「写真を作る人」という同一の観念が生じる。
 そうすると,上記のとおり,本願商標と引用商標との間には,外観において,文字のデフォルメの程度等や,片仮名部分の付加の有無について相違があるとしても,この相違によって,各商標の称呼及び観念の同一性から生じる誤認混同のおそれを否定することはできない。
 したがって,本願商標と引用商標は,出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるので,両商標は類似するものということができる。

【解説】
 本件は、商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、上記引用商標について類似しているとして、商標法4条1項11号1 にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所は当該判断を追認した。
 裁判所は、従来の判例規範を確認した上で、まず、「Photomaker」及び「Pro」との構成から「Photomaker」を抽出することができると判断した上で、本願商標を分析し外観、呼称、観念を認定した上で、引用商標についても、同様に外観、呼称、観念を認定した。
 その上で、裁判所は、「構成文字のつづりが同一」であり、「『フォトメーカー』との同一の称呼」が生じるとし、また「『写真を作る人』という同一の観念」が生じると判断し、誤認混同の恐れがあると判断した。
 本件は、非常に単純な商標であって、裁判所は、典型的でわかりやすい認定を行っている。このため、商標法4条1項11号の判断を理解する上で、良い学習例となるため、ここに取り上げる。


  十一   当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
本願商標については16類、35類、41類を指定役務としていたが、引用商標1及び2は35不意、引用商標3は41不意を指定役務としている。

(文責)弁護士 宅間 仁志