【平成28年1月13日判決(知財高裁平成27年(行ケ)第10096号)】

【キーワード】商標法4条1項11号,無効理由の判断基準時,引用商標の適格性


【事案の概要】
1.本件商標
 原告は,「ブロマガ」の片仮名と「BlogMaga」の欧文字を上下二段に表してなる登録第5621414号商標(平成24年9月13日登録出願,平成25年10月11日設定登録。本件商標)の商標権者であり,本件商標の指定役務は,「第42類 インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関する情報の提供,インターネット等の通信ネットワークにおける情報・サイト検索用の検索エンジンの提供,インターネット等の通信ネットワークを利用するためのコンピュータシステムの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークを利用するプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータにおけるウィルスの検出・排除及び感染の防止・パスワードに基づくインターネット情報及びオンライン情報の盗用の防止並びにコンピュータにおけるハッカーの侵入の防止等の安全確保のためのコンピュータプログラムによる監視,インターネットサイトにおけるブログ検索用の検索エンジンの提供,インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与,ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,ウェブログ上の電子掲示板用サーバの記憶領域の貸与及びこれに関する情報の提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供又はこれに関する情報の提供,インターネットホームページを閲覧するための電子計算機の貸与,インターネット上で利用者が交流するためのソーシャルネットワーキング用サーバコンピュータの記憶領域の貸与,インターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供,インターネット等の通信ネットワークにおいて利用可能な記憶装置の記憶領域の貸与」である。
2.特許庁における手続の経緯
被告株式会社ニワンゴ(被告ニワンゴ)は,平成26年3月26日,特許庁に対し,本件商標が商標法4条1項11号,同7号及び同19号に該当するとして,その登録を無効とすることについて審判を請求した(無効2014-890017号)。
 特許庁は,平成27年1月6日,「登録第5621414号の指定役務中『第42類ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供,インターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供』についての登録を無効とする。」との審決(本件審決)をし,その謄本は,同月16日に原告に送達された。

【争点】
 無効理由判断基準時及び引用商標の適格性の有無 1

【判旨(抜粋)】
(1) 認定事実等
  本件商標が引用商標に類似する商標であることは,当事者間に争いがないところ,原告は,引用商標に基づいて本件商標が商標法4条1項11号所定の商標と判断されるべきではないと主張するので,以下,検討する。
  掲記する証拠及び弁論の全趣旨から,次の事実を認定することができる。
  ア 原告は,平成24年9月13日,本件商標を出願した(甲1)。
  イ 原告は,平成24年9月13日,引用商標の指定商品及び指定役務中「第42類 電子計算機のプログラムの設計・作成または保守,電子計算器の貸与,電子計算機用プログラムの提供」についての登録を取り消す旨の審決を求め,平成24年10月16日,その予告登録がなされた(取消2012-300731号,甲3,甲153)。
  ウ 平成25年6月4日,イの請求に係る引用商標の商標登録取消審決がなされ,同年8月8日,同年7月16日に確定した旨の登録がなされた(甲3,甲153,甲159)。
  エ 原告は,平成25年9月17日,引用商標の指定商品中,「第9類 全指定商品」,「第35類 全指定役務」,「第38類 全指定役務」及び「第42類 全指定役務」についての登録を取り消す旨の審決を求めた(取消2013-300794号,取消2013-300795号,取消2013-300796号,取消2013-300797号,甲3,甲153)
  オ 平成25年9月25日,本件商標の登録査定がなされた(甲1)。
  カ 平成25年10月7日,上記エの各請求について,それぞれ商標権一部取消し審判の予告登録がなされた(甲3,甲153)。
  キ 平成25年10月11日,本件商標の設定登録がなされた(甲1)。
  ク 平成26年11月28日,上記エの各請求に係る引用商標の商標登録取消審決がなされ,平成27年1月30日,当該各審判は同月7日に確定した旨の登録,及び,引用商標権の抹消登録がなされた(甲153,甲160ないし甲163)
  (2) 原告は,上記事実経過から,本件は,本件商標の登録査定時には引用商標が存在していたが,本件商標の設定登録時には引用商標が消滅していたという特殊な場合であり,その不都合を回避する必要があるから,本件商標の設定登録時をその無効理由の判断基準時とすべきである,と主張する。
  しかし,商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時は,原則として登録査定時である(最三小平成16年6月8日判決,裁判集民事214号373頁)ところ,同条1項11号に関しては,当該商標の登録出願前に出願された他人の登録商標又はこれに類似する商標と対比しつつその商標登録の可否を検討し,拒絶の理由を発見しないときは商標登録をすべき旨の査定をしなければならない(商標法16条)のであるから,同条3項の適用を受けることなく,当該登録査定時をもって上記判断基準時と解すべきものである。
  原告は,本件商標の登録査定後に引用商標の不使用を理由とする商標登録取消審判請求の予告登録がなされ,その後に本件商標の商標登録が行われ,当該審判請求に基づいて引用商標の商標登録が取り消されたことから,本件商標の商標登録の可否は当該登録の設定時を基準として判断すべきであるとする。しかし,仮にこの主張を認めるとすると,商標登録取消審決に基づく商標登録取消しの効果を商標登録取消審判請求の予告登録より以前に遡らせることと同様となり,商標登録取消審決が確定したときは,当該商標権が審判請求の登録の日に消滅したものとみなす旨の規定(商標法54条2項)の趣旨に反することとなるから,相当ではない。
  原告の主張は,採用できない。
  (3) これに対して,原告は,商標権は設定登録により発生するのであって,商標権無効審判手続においては,行政処分である設定登録を無効の対象とするのであるから,本件商標の設定登録時をその違法性の判断基準時とすべきである,と主張する。
  しかし,商標登録は,前記(2)のとおり,商標登録出願について商標登録をすべき旨を定める行政処分である登録査定に基づいて行われるものであって,設定登録は,当該商標権の発生要件である(商標法18条1項)。したがって,商標登録無効審判は,原則として,登録査定を対象とするものであり,設定登録に瑕疵があることを理由とするものではない。
  原告の主張には,理由がない。
  (4) また,原告は,不使用取消審判において商標登録を取り消す旨の審決が確定した引用商標には,商標法4条1項11号で保護すべき業務上の信用が存在せず,本件商標との間で出所混同のおそれもないから,これらの事情を考慮しない本件審決は,信義則に照らし違法である,と主張する。
  しかし,商標権について,その不使用を理由とする商標登録取消審判請求には特段の期間制限がないことからすれば,将来,引用商標の商標登録が取り消される可能性があるということのみで,登録査定時に考慮すべき引用商標としての適格性がないと判断することはできない。また,原告の主張する,保護すべき業務上の信用や出所混同のおそれがないことは,引用商標についての不使用を理由とする商標登録取消審判において商標登録を取り消す旨の審決が確定したことを理由とするものであるところ,上述した商標法54条2項の趣旨からすれば,当該取消審決の商標登録取消しの効果を当該審判の予告登録時より更に遡及させることは相当でない(なお,本件において,引用商標の消滅が本件商標の登録査定より遅れることとなったのは,前記(1)に認定のとおり,原告が本件商標登録の出願と同日に引用商標の指定役務である第42類の一部について不使用を理由とする商標登録取消審判を請求しながら,他の指定商品及び役務については,約1年後にこれを請求したことにも起因するのであるから,原告に保護すべき特段の利益があるともいえない)。
  原告の主張には,理由がない。

【結論】
よって,原告の請求には理由がない2 から,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

【コメント】
 裁判所は,本件商標と引用商標との類否について争いがないことを前提に,「本件商標の登録査定後に引用商標の不使用を理由とする商標登録取消審判請求の予告登録がなされ,その後に本件商標の商標登録が行われ,当該審判請求に基づいて引用商標の商標登録が取り消されたことから,本件商標の商標登録の可否は当該登録の設定時を基準として判断すべき」という原告の主張を,仮に原告の主張を認めると,商標法54条2項の趣旨に反することになることを理由に排斥し,「商標法4条1項各号所定の商標登録を受けることができない商標に当たるかどうかを判断する基準時は,原則として登録査定時」と判断した。
 平成8年の商標法一部改正前は,商標登録の不使用取消審判において商標登録を取り消すべき旨の審決が確定したときは,商標権は,審決確定後に消滅することとなっていた(商標法54条1項)。しかし,不使用取消審判において取り消すべき旨の審決が下される登録商標には業務上の信用が化体されておらず,当該登録商標にかかる商標権に基づく権利行使が審決確定前に可能であることは妥当でないことから,平成8年の商標法一部改正において,現在の商標法54条2項が新設された。本件において,裁判所は,商標法54条2項の趣旨にさかのぼり,原告の主張を理由がないと認めたものである。

以上

(文責) 弁護士 永里佐和子


1 本件では,本件商標及び引用商標の指定商品及び指定役務の類似性の有無も争われたが,本稿では,無効理由判断基準時及び引用商標の適格性の有無のみを取り上げる。
2  裁判所は,他の争点に関する原告の主張をすべて排斥した。