【知的財産高等裁判所平成28年10月31日判決 平成28年(ネ)第10058号 不正競争行為差止等請求控訴事件】

【要旨】
 一般消費者は、包装用袋の形状及びレイアウトデザインの特徴、製造者又は販売者を示す標章によって、その商品の出所を識別するのが通常であり、背景の基調色が、前記の各点以上に重要な考慮要素とされているとは考え難い。外観の共通点である、背景の基調色が濃紺色であり、おおむね上部に販売元を示す標章及び商品名、中央部にポテトサラダの画像を配置している点は出所表示機能を果たすものでないかありふれたものである。

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項1号、類似の商品等表示、混同惹起行為、不正競争、東京地方裁判所平成28年4月28日判決(平成27年(ワ)第28027号)

【事案の概要】
1 控訴人ケンコーマヨネーズ株式会社(一審原告。以下「X」という。)は、サラダ類、マヨネーズ類、ドレッシング類、ソース類の製造、販売及び輸出入業等を目的とする株式会社である。
  被控訴人カネハツ食品株式会社(一審被告。以下「Y」という。)は、食料品の加工及び販売等を目的とする株式会社である。
  Xは平成25年9月18日頃からX商品を、Yは平成27年2月10日頃からY商品をそれぞれスーパーマーケット等で販売している。

        X商品                Y商品
        (X表示)             (Y表示)
   

2 本件は、上左写真のとおりの商品等表示(以下「X表示」という。)がされた商品(以下「X商品」という。)を販売しているXが、上右写真のとおりの商品等表示(以下「Y表示」という。)がされたY商品を販売しているYに対し、周知の商品等表示であるX表示と類似するY表示を使用したY商品の販売等をする不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号)をしていると主張して、〈1〉同法3条1項、2項に基づきY商品の販売等の差止め及び廃棄、〈2〉同法4条及び5条1項に基づき損害賠償金838万8000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
 一審の東京地方裁判所は、X表示とY表示の類否及び誤認混同のおそれの有無について、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を類似のものとして受け取るおそれがあるとは認められず、したがって、Y表示がX表示に類似するということはできないとした。そして、X表示の周知性などのその余の争点について判断するまでもなく、Xの請求はいずれも理由がないとして、これらを棄却した。
 Xがこれに不服であるとして控訴した。

    不正競争防止法(抜粋)
    第2条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
    一  他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

【判旨】
 控訴棄却

1 知財高裁はX表示とY表示の各構成の対比を行い、それぞれ外観、称呼、観念について、共通点と相違点を整理した。
(1)外観
 共通点

〈1〉縦長の角丸長方形状のスタンドパウチであって左右に切れ込みがある包装に表示されている
〈2〉両表示の背景が濃紺色を基調としており、背景の部分が表示全体の約半分を占める
〈3〉左上部に販売元を表す標章が表示されている
〈4〉上下半分の位置より上部に商品名が明朝体の白抜き文字でまとまりよく配置されており、その商品名中に「お酒に」「合う」及び「ポテト」の文字がある
〈5〉上記各商品名の直下に容器に盛られたサラダの画像が表示全体の半分弱の大きさで配置され、当該画像の一部が透明で内容物が見えるようになっている
〈6〉下部に「要冷蔵」の文字が表示されている

相違点

〈A〉背景色
  X表示とY表示はスタンドパウチにおける着色の範囲が異なり、グラデーションのパターンと色調が異なる
〈B〉黄色の横長の7つの長方形の有無
  X表示の最上部には長方形が破線状に配置されているのに対し、Y表示にはない
〈C〉商品名の表示
  X表示は1行目から3行目になるにつれて段階的に文字が大きくなるのに対し、Y表示は1行目が金色の装飾罫で囲まれた中に「大人の」「ポテサラ倶楽部」の文字が同色で記載されており、「お酒に合う」、「アンチョビポテト」の文字がほぼ同一の大きさである
〈D〉サラダの画像
  X表示では太く赤い横線があるが、Y表示にはない
  X表示では、横線の上の部分に、半円状のポテトサラダの写真があるが、Y表示では白色の容器に略正円状の斜め上から見た写真があり、オリーブの実の輪切りを乗せている
  X表示とY表示では、内容物が見える透明部の配置が異なる
  X表示では濃紺色で「salad」の文字が記載され、透明部分の下部に、3行にわたり、「濃厚なたまご、香り豊かなガーリック、」、「ピリッと辛いペッパー、ひと味違う」、「大人のためのサラダです。」との記載や、ワイングラスとビールグラスの図等がある
〈E〉左上部に表示された標章
  X表示とY表示とで相違する
〈F〉最下部の「要冷蔵」
  X表示とY表示とで相違する

(2)称呼及び観念

 X表示からは、少なくとも、「さらだのぷろがつくったおさけによくあうぽてとさらだ」の称呼と、「サラダのプロフェッショナルが作ったお酒によく合う、ポテトサラダであること」との観念が生じる。
 Y表示からは、少なくとも、「おとなのぽてさらくらぶおさけにあうあんちょびぽてと」の称呼と、「大人向けの味付けがしてあるお酒に合うアンチョビ入りポテトサラダ」との観念が生じる。

2 知財高裁は以上の対比を前提に、次のとおり判示して、Y表示がX表示に類似するということはできないとした。
 「両表示の外観の共通点(上記〈1〉~〈6〉)は、背景の基調色が濃紺色であり、おおむね上部に販売元を示す標章及び商品名、中央部にポテトサラダの画像、下部に「要冷蔵」その他の文字を配置している点にある。しかしながら、上記の配置は、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、少なくとも平成27年1月頃の時点で縦長の角丸長方形状のスタンドパウチの包装の商品において上部に販売元及び商品名、下部に商品のイメージ画像その他のものを配置する構成による商品表示を採用したものが多数存在したと認められることに照らすと、ありふれたものであるということができる。また、背景の基調色が濃紺色であること自体が商品の出所を表示するものであると認めるに足りる証拠はない。証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、各食品メーカーは、同種の自社製品につき、同じ形状とレイアウトデザインの包装用袋を採用し、製造者又は販売者を示す標章を記載しつつ、商品ごとに部分的に記載内容や基調色を変えることを、一般的に行っており、そのような一連の商品が多数市場に流通していると認められるところ、一般消費者も、これを認識して購買しており、包装用袋の形状及びレイアウトデザインの特徴、製造者又は販売者を示す標章によって、その商品の出所を識別するのが通常であり、背景の基調色が、前記の各点以上に重要な考慮要素とされているとは考え難い。画像や文字を目立たせるために、黄色に対して青紫色などの反対色を背景に着色することは、一般的には、よく行われる色彩の選択であり、食品ないしサラダの包装用袋の商品表示において、かかる配色が従前なかったとしても、そのことのみをもって、前記認定を左右するとは認められない。
  その一方で、前記認定の相違点(上記〈A〉~〈F〉)が認められるのであって、最も大きな文字で記載されているのは、X表示では、「ポテトサラダ」であるのに対し、Y表示では、「アンチョビポテト」であり、Y表示では、「アンチョビポテト」との記載を金色の装飾罫に囲まれた「大人の」「ポテサラ倶楽部」との記載と併せてアンチョビ入りの「ポテトサラダ」との観念が生じるのに対し、X表示では、「ガーリック&」「ペッパー味」、「濃厚なたまご、香り豊かなガーリック、」「ピリッと辛いペッパー」との記載があり、「ガーリック及びペッパー味」のポテトサラダであることが示されており、少なくとも、「アンチョビ入りの」ポテトサラダであることは示されていない。また、表示全体の約半分を占める大きさの容器入りポテトサラダの画像は、X表示とY表示とでは、撮影の角度、オリーブの存否、容器に該当する部分がすべて表示されているか、一部切れているか、容器に該当する部分に透明部分があるかないか、透明部分の形状と広狭、画像部分に重ねて記載された文字等の存否、内容及び配置、などの点で異なっている結果、印象の異なるものとなっている。さらに、X表示とY表示の各左上の各標章は、「KENKO」、「カネマツ」の各赤色の文字を含んでおり、前記各標章のみの類否において、前記各標章が混同を生じ得るものとは認められない。
  加えて、称呼及び観念については、「おさけに」「あう」「ぽてと」との点は共通するが、これらは商品内容を説明するにとどまるものであり、全体として比較すると相違する部分が多いといわざるを得ない。
  そうすると、X表示とY表示の共通点はX表示として出所表示機能を果たすものでないかありふれたものである一方、相違点は需要者が一見して識別することができる差異で、需要者に異なる印象を与えるものであるということができるから、取引者又は需要者が両表示の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を類似のものとして受け取るおそれがあるとは認められない。
  したがって、Y表示がX表示に類似するということはできない。

 「Xは、(ⅰ)背景を濃紺色のグラデーションで彩っていること、(ⅱ)商品名を表示中の上部の白抜きで大きく表示していること、(ⅲ)内容物が一部視認できる透明部を有するポテトサラダ図形の表示中の中央部に大きく表してなるようなものは、X表示が市場に流通前には存在せず、X主張に係る前記具体的構成①~⑥における共通点と相まって、Xのものとして自他商品識別力を有する旨主張する。
 しかしながら、食品において、種々の新製品が開発され、流通に置かれていることは、公知の事実であり、以前にX表示のような表示がなかったことのみをもって、X表示が自他商品識別力を有するに至るとは考えられない。商品名を表示の上部などの読みやすい位置に大きく表示し、背景色が濃色の場合は白抜きにすることは、ありふれた表示であるといわざるを得ないし、食品において、その包装用袋の一部を透明にして内容物を当該袋の外から見られるようにすることも、ありふれた表示である(証拠略)。前記認定のとおり、X表示の左上の標章の部分を除けば、その余の表示部分が、自他商品識別力を有するに至っているとは認められない。」

【解説】
 不正競争防止法2条1項1号は、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡等し、他人の商品と混同を生じさせる行為(誤認惹起行為)が不正競争になると定めている。そして、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる(3条1条)。
 本判決は、ここで商品等表示の類似性が争点となったものである。
 Xは主に、(ⅰ)背景を濃紺色のグラデーションで彩っていること、(ⅱ)商品名を表示中の上部の白抜きで大きく表示していること、(ⅲ)内容物が一部視認できる透明部を有するポテトサラダ図形の表示中の中央部に大きく表してなる点が商品等表示を特徴づけると主張している。
 ここで、(i)の色彩が商品等表示になりうるかについて、一般論としては肯定的に解されているが、特定の色彩を特定人に独占させることにより競争が不当に制限されることになるという問題があるため、裁判例は保護に消極的である(茶園成樹編『不正競争防止法』有斐閣(2015年)22頁)。それゆえ、本件では他の(ⅱ)(ⅲ)のデザインを含めた商品の形態を商品等表示として把握した上で、その同一・類似性が検討されることになる。
 次に、X表示とY表示の類似性について、本判決では外観、称呼及び観念をそれぞれ検討し、総合的に結論を導いている。最高裁判所昭和58年10月7日判決(日本ウーマン・パワー事件最高裁判決)は、類似性の判断にあたって「ある営業表示が不正競争防止法1条1項3号にいう他人の営業表示と類似のものか否かを判断するに当たっては、取引の実情のもとにおいて、取引者、需要者が、両者の外観、称呼、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのを相当とする」と判示している。本判決は同最高裁判決の示した判断基準にしたがったものである。

以上

(文責)弁護士 山口建章