【東京地方裁判所平成28年11月24日判決 平成27年(ワ)第29586号 商標権等に基づく差止等請求事件】

【要旨】
 被告商品の包装袋に記載された標章は原告が付したものであって原告の登録商標と同一の出所を表示するものと認められる。また,被告商品は原告において製造されたままの状態で流通されたものであるから,被告商品の品質管理を原告が直接的に行い得ると認められる。そうすると,被告商品と原告が販売する商品とが原告の登録商標の保証する品質において実質的に差異がないということができるから,被告商品の輸入及び販売は,いわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害としての実質的違法性を欠く。

【キーワード】
 商標法25条、並行輸入と違法性阻却、並行輸入の抗弁、最高裁判所平成15年2月27日判決、フレッドペリー最高裁判決、商標機能論

【事案の概要】
1 原告ティーダブリュージー ティー カンパニー ピーティーイー リミテッド(以下「X」という。)は,紅茶,菓子,ティーアクセサリーの販売等を行うシンガポール共和国において設立された法人である。Xは,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」という。)を有している。
 登録番号 第5340591号
 登録日 平成22年7月23日

 被告株式会社ジュピターインターナショナルコーポレーション(以下、「Y」という。)は、被服,飲食料品,雑貨等の輸入卸業及び不動産賃貸業を営む株式会社である。
 Yは,アーバン・エクスポート・エスエー(以下「アーバン社」という。)に対し,平成27年頃,商品(ロイヤルダージリン,ブレックファーストアールグレイ,フレンチアールグレイ及びイングリッシュブレックファーストを各288箱。1箱当たりティーバッグ200個)を発注した(以下「Y商品」という。)。上記発注を受けて,アーバン社はある第三者A(以下「A」とぃう。)を通じてXに対しY商品を発注した。XはAに対し,Aは平成27年5月4日頃にアーバン社に対し,Xが製造したY商品を順次販売した。アーバン社はYに向けてY商品を輸出した。Y商品は,同年6月9日,神戸港に到着し,翌10日,Yによる輸入が許可された。Yは,コストコホールセールジャパン株式会社に対して販売した。

 Y商品は,輸入時において,種類別に200個ずつ段ボール箱に詰められていた。この箱にはXの会社名等を記載したラベルが貼付されているが,箱自体はビニール等で覆われていない。また,箱内に間仕切りや中箱等はなく,200個のY商品が詰め込まれている。Yは,箱詰めされていたY商品を20個ずつ透明のビニール袋に詰めた上,品名,原材料名,内容量,賞味期限等を記載したシールを同袋に貼付して販売した。

 なお、商標権者であるXが日本国内で販売する商品は,透明のビニールで包装された化粧箱の中にY商品の包装袋と同一の外観を有する包装袋が詰められており,密封された上記包装袋の中に紅茶の茶葉が入った綿製のティーバッグが納められている。

2 Xは,YによるY商品の輸入販売がX商標権を侵害し,Xの商品等表示として周知又は著名なX商標と同一の商品等表示を使用したものであって不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競争に該当すると主張して,①商標法36条1項,2項又は不正競争防止法3条1項,2項に基づき(主位的に商標法,予備的に不正競争防止法に基づく。以下同じ。)Y商品の輸入販売の差止め及び廃棄,②商標法39条,特許法106条又は不正競争防止法14条に基づき謝罪広告の掲載,③民法709条,商標法38条2項又は不正競争防止法4条,5条2項に基づき損害賠償金9985万6680円及びこれに対する遅延損害金の支払をそれぞれ求めた。

3 Yは、Y商標とX商標の同一性及びY商品がX商標権の指定商品に含まれることを争わなかったが、並行輸入による権利侵害の違法性阻却事由を主張した。そのため同事由の有無が主たる争点となった。

【判旨】
請求棄却

「①Y商品は,XからA及びアーバン社を経てYが輸入し,外観及び内容が変えられることなく販売されたものであり,Xが我が国で販売する商品と包装袋の外観及びその内容物が紅茶のティーバッグである点で同一であることが明らかである。加えて,②X商標とY標章は別紙商標権目録及びY標章目録記載のとおり同一であること,③X商標の商標権者がXであること(略)を併せ考えれば,Y商品の包装袋に記載されたY標章はXが付したものであって我が国の登録商標であるX商標と同一の出所を表示するものと認められる。また,上記①によればY商品はXにおいて製造されたままの状態で流通されたものであるから,Y商品の品質管理をXが直接的に行い得ると認められる。
 そうすると,Y商品とXが販売する商品とがX商標の保証する品質において実質的に差異がないということができるから,Y商品の輸入及び販売は,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。同様に,仮にY商品の輸入及び販売が不正競争防止法2条1項1号ないし2号の不正競争行為に該当し,Xの営業上の利益が侵害されたとしても,実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。」
「これに対し,Xは,・・被告によるY商品の包装方法はXの方法に比べて高級品であるという印象がなくなること,Yの貼付した表示の内容をXが管理し得ないこと,Yによる包装の過程で品質が変化するおそれがあることから,X商標によって保証する商品の品質に対する信用を害すると主張する。
 そこで判断するに・・・X商標が保証するのは・・・紅茶その他の指定商品及び指定役務に係る品質であるところ,商品が高級品であるといった印象や食品表示の記載はX商標が保証するものに当たらず,上記指定商品等の品質に直ちに影響しない。また,前記⑴ウのとおりY商品は密封された包装袋内に茶葉が納められたものであって,Yはこれを段ボール箱から取り出した上,20個ずつ透明な袋に入れたというにとどまり,Y商品それ自体には改変を加えていないから,その包装方法によって紅茶の品質が直ちに影響するとは考え難い。なお,本件の証拠上,Xが化粧箱に詰めて販売する商品とYが上記のように包装したY商品がその包装方法あるいは流通,保管等の状況により紅茶(茶葉)としての品質を異にしていることはうかがわれない。
 したがって,Xの上記主張はいずれも失当である。」

【解説】
1 商標法25条は、商標権の効力について「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」と規定する。日本国内において登録商標を「使用」すること、すなわち商品又は商品の包装に標章を付する行為(2条3項1号)や商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡、輸入等する行為(2条3項2号)は、商標権者による許諾がなければ商標権侵害となる。並行輸入品についても、商標法においてこれへの適用を一律に除外する旨の規定はないから、同様に商標権侵害となりうるものである。
 もっとも、最高裁判所平成15年2月27日第一小法廷判決(フレッドペリー事件最高裁判決)は、並行輸入品が次の要件に該当する場合には商標権侵害にならないとしており、商標法の適用がされない場合を明らかにしている。

商標権者以外の者が、我が国における商標権の指定商品と同一の商品につき、その登録商標と同一の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害する(商標法2条3項、25条)。しかし、そのような商品の輸入であっても、(1)当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、(2)当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、(3)我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。けだし、商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条)、上記各要件を満たすいわゆる真正商品の並行輸入は、商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわず、実質的に違法性がないということができるからである。

 本判決も、フレッドペリー事件最高裁判決の判断枠組みに沿って検討している。そして要件(1)ないし(3)を充足しており、いわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害としての実質的違法性を欠くと判断した。

2 本件特有の事情として、X自身が日本国内で販売する商品(正規品)においては、化粧箱に包装袋が納められている。これに対してY商品においては、Xが販売する時点で包装袋を200個ずつ段ボール箱に詰めて出荷し、Yが包装袋を20個ずつ透明ビニール袋に入れて販売したことから化粧箱がない。この点は上記最判における要件(3)との関係で、正規品と並行輸入品との間に、登録商標が保証する品質において実質的に差異があるか否かが問題となりうる。
 本判決では、正規品と並行輸入品の販売形態の差異については正面から取り上げることはせず、Xが段ボールから取り出す(小分けする)行為及び20個ずつビニール袋に入れた行為は、指定商品である紅茶としての品質に差異が生じないことから、品質保証機能を害するとのXの主張が失当であると判示している。
 もっとも、商標権者が、自ら内外商品の品質(販売形態)に差異を設けている場合には、上記最判の要件(3)でいう「登録商標の保証する品質において実質的に差異がない」場合に該当すると考えられている(茶園成樹編『商標法』有斐閣(2014年)230頁、平尾正樹『商標法(第2次改訂版)学用書房(2015年)416頁』)。上記の通りXは、日本国内向けの製品と海外向け(A向け)の製品との間で、化粧箱に入れるか否かを自ら変えている。それゆえ本件のような化粧箱の有無は、並行輸入による権利侵害の違法性阻却事由において問題とならなかったと思われる。

以上

(文責)弁護士 山口建章