【平成28年9月21日 (知財高裁 平成28年(行ケ)第10077号)】

【判旨】
 原告が、本件商標につき商標登録無効審判請求(一部指定商品)を成立とした審決の取消訴訟であり、当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】
商標の類否判断、ひらけごま、ひらけごま!、商標法4条1項11号(商標の類否)

【手続の概要】
以下、類否判断に関する部分のみを引用する。

 原告は,・・・本件商標の商標権者である(甲1)。
被告は,平成27年5月19日付けで,本件商標の指定商品中,下記審決主文同旨の指定商品についての登録の無効を求める登録無効審判請求をした(無効2015-890044号)。
 特許庁は,平成28年2月25日,「登録第5602955号の指定商品中,第30類『ごま入りの調味料,ごま塩,すりごま,いりごま,ねりごま,ごまを使用した穀物の加工品』についての登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年3月4日,原告に送達された。
 


【争点】
争点は,商標法4条1項11号該当性(商標の類否)である。

【判旨抜粋】
1 本件商標について
(1) 検討
 本件商標の構成は,前記第2,2のとおりであり,①[1]ほぼ同じ顔立ちの7体の人物が乗っている,船体が朱色,帆が白無地,帆柱及び帆桁が青色である水上の帆掛船と,[2]光線を模したとうかがわれる,帆の背後の黄色の背景に浮かぶ薄黄色の放射状の帯と,[3]帆の周辺に配された桃色の3つの5弁の桜の花びらとが描かれた図形(以下,[1]~[3]を併せて「図形部分」という。)と,②いずれも上記帆の部分にあって,[1]上段にあり,いずれも黄色で縁取りされた赤色の「サクラサケ」との太字の片仮名文字とこれを囲う二重引用符「“ ”」と,[2]下段にあり,黄色で縁取りされた暗茶色の「ひらけごま」との太字の平仮名文字(以下,[1][2]を併せて「文字部分」という。)とからなるものである。図形部分につき,帆掛船に7体の人物が乗っていること,人物の衣服,装飾品等を子細に観察すれば,7体の人物は七福神を示すものと理解されるが,薄黄色の放射状の帯は,光を表するものとは認識されるものの,それが何の光であるかは確定し難い(後光,太陽光,宝を象徴的に表する光などが考え得る。)。文字部分につき,図形部分に桜の花びらがあることを考慮すると,「サクラサケ」は,「桜咲け」の文字を片仮名で表したものと理解され,「ひらけごま」は,アリババの呪文を示すものと理解される(甲97参照)。
 上記認定の構成を全体的に観察すると,帆の部分が商標全体の4割弱の面積を占める大きさで中央部に配されており,文字部分は,白無地の帆の上にただ単に配置されているだけであって帆と図案構成上の関連性を有していないことが認められる。このことに,帆の部分の周囲に多数の配色の下に細々とした図案が描かれていることを考慮すると,白無地の帆の部分は文字の背景,帆の周囲の部分は文字のレイアウト枠として機能させているものと理解される。そうであれば,帆の上に配された文字部分が図形部分とは分離して観察されることは明らかである。
 これを前提に,引き続いて,文字部分についてみると,「サクラサケ」と「ひらけごま」は,書体,色彩を異にするほか,「ひらけごま」の文字の大きさが「サクラサケ」の文字のおおむね倍程度になるなど,両者に顕著に差異が設けられている。「サクラサケ」は赤色であるが,帆掛船の船体の朱色や,桜の花びらの桃色,7体の人物の多数の配色の影響により,ほとんどその赤が目立たない。さらに,「サクラサケ」のみが二重引用符で囲われていて,「ひらけごま」と区切られることが明確にされている。そして,上記のとおり,「サクラサケ」は「桜咲け」を,「ひらけごま」はアリババの呪文を示すものであるから,両者の間に意味上の自然な関連性を想起することはできない。また,両者を一連に称呼した「サクラサケヒラケゴマ」は,取引において冗長なものといえる。そうすると,「サクラサケ」と「ひらけごま」とが一連一体として称呼及び観念されることは,通常,ないといえる。
 以上からみて,本件商標は,文字部分の中で特に目立つように配された「ひらけごま」が看者に強く支配的な印象を与えているといえ,「ひらけごま」が独立して自他商品の識別標識として機能していることは,明らかである。
 したがって,本件商標は,「ひらけごま」から,「ひらけごま」の文字の外観を有し,「ヒラケゴマ」の称呼とアリババの呪文の観念を生じるといえる。
(中略)
3 商標の類否判断及び指定商品の類否について
 以上のほか,原告がるる主張するところも,いずれも採用することができない。そして,上記1(1)及び同2(1)によれば,本件商標と引用商標とは,それぞれ,「ひらけごま」と「ひらけごま!」の文字部分において外観が近似し,称呼及び観念を共通とするから,類似の商標と認められる。
(以下略)

【解説】
 本件は、商標登録無効審判請求 を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法4条1項11号 の該当性が争点となった事案である。
 本件では、裁判所は、本件商標を詳細に認定し、「文字部分は,白無地の帆の上にただ単に配置されているだけであって帆と図案構成上の関連性を有して」おらず、「帆の上に配された文字部分が図形部分とは分離して観察されることは明らか」であるとした上で、文字部分について、「『サクラサケ』は『桜咲け』を,『ひらけごま』はアリババの呪文を示すものであるから,両者の間に意味上の自然な関連性を想起することはでき」ず、「また,両者を一連に称呼した『サクラサケヒラケゴマ』は,取引において冗長なものといえる」ことから、「『サクラサケ』と『ひらけごま』とが一連一体として称呼及び観念されることは,通常,ないといえる」と認定したものであり、妥当なものであると思料する。
 原告は、引用商標について、引用商標の「ひらけごま!」と「OPEN SESAME」は、一体であって、分離して称呼、観念を導出することはできないことや、引用商標は,指定商品にごま類を含むので、「ごま」に自他商品識別能力はなく,識別力があるのは,「ひらけ」「OPEN SESAME」部分に限ることなどを主張したが、当該主張は、いずれも認められなかった。
 本件商標は、文字と図形を組み合わせた商標であるが、当該文字の部分が支配的な印象を看者に与えるものであると認定されたものである。本件は、標章に、図形を用いる場合には、当該図形部分も強い印象を与えるよう十分に配慮しなくてはならないことを示しており、実務上参考になると思われる。


  1(商標登録の無効の審判)
第四十六条  商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一  その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。
(下線は、筆者が付した。)

  (商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十一   当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

(文責)弁護士 宅間 仁志