【平成28年7月20日(知財高裁 平成28年(行ケ)第10062号)】

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2015-12355事件について商標法4条1項11号の判断は正当であるとして、請求を棄却した事案である。

【キーワード】
商標の類否判断、Foxconn Interconnect Technology、FIT、商標法4条1項11号

【事案の概要】
1 特許庁における手続の経緯
⑴ 原告は,平成26年8月11日,別紙1本願商標目録記載の商標(以下「本願商標」という。)の登録出願(商願2014-067553号)をした(甲14)。
⑵ 原告は,平成26年12月1日付けで拒絶理由通知(甲15)を受け,平成27年2月26日付け手続補正書(甲18)で指定商品を変更したが,同年3月30日付けで拒絶査定(甲19)を受けたので,同年6月30日,これに対する不服の審判を請求した(甲20)。
⑶ 特許庁は,これを,不服2015-12355号事件として審理し,平成27年10月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年11月10日,その謄本が原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。
⑷ 原告は,平成28年3月9日,本件審決の取消しを求める本件審決取消訴訟を提起した。
⑸ 特許庁は,平成28年3月11日,本件審決につき,別紙更正決定書(写し)記載の更正決定をした。

【争点】本願商標が、商標法4条1項11号に該当するか。

【本願商標】



 
【引用商標】

【判旨抜粋】
1 商標の類否判断
 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に観察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 この点に関し,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものということができる(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
 そこで,以上の見地から,本願商標と引用商標との類否について検討する。

2 本願商標について
⑴ 本願商標の構成中「FIT」の文字部分を抽出することの可否
ア 本願商標の外観について(甲14)
(中略)
(ウ) 以上に鑑みると,本願商標中,「FIT」の文字部分は,その外観においてひときわ目立つものであり,その余の構成部分に比して,見る者に格段に強い印象を与え,その注意をより強くひくものであることが明らかである。他方,「Foxconn Interconnect Technology」の文字部分は「FIT」の文字部分に比べて明らかに目立たない態様であり,それほど見る者の注意をひくものではない。
イ 「Foxconn Interconnect Technology」について
(中略)
よって,「Foxconn Interconnect Technology」の文字部分からは,原告又は少なくとも鴻海グループに属する企業との観念が生じるものということができる。
(ウ) 他方,「Foxconn Interconnect Technology」の文字部分を構成する3語の各頭文字は,「F」「I」「T」であるが,いまだ我が国における本願商標の指定商品の取引者・需要者間において,「FIT」が原告又は鴻海グループに属する企業の略称を示すものという認識が定着しているとまではいうことができない。
ウ 「FIT」の文字部分の抽出の可否について
本願商標の外観上,「FIT」の文字部分は,その余の構成部分に比して,見る者に格段に強い印象を与え,その注意をより強くひくものであることが明らかである。他方,「Foxconn Interconnect Technology」の文字部分は,「FIT」の文字部分に比べて明らかに目立たない態様であり,それほど見る者の注意をひくものではない。
以上によれば,本願商標のうち,「FIT」の文字部分と「Foxconn Interconnect Technology」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,「FIT」の文字部分は,取引者,需要者に対し,本願商標の指定商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。したがって,本願商標と引用商標の類否を判断するに当たっては,本願商標の構成から「FIT」の文字部分を抽出して対比することも許されるものということができる。
(中略)
⑵ 本願商標の称呼及び観念について
本願商標からは,その全体から「フォックスコン インターコネクト テクノロジー エフ アイ ティー」の称呼及び鴻海グループに属する企業との観念が生じるとともに,本願商標の「FIT」の文字部分から,「エフアイティー」との称呼が生じるほか,その構成文字と同一の英文字から成る英単語の「fit」に相応した「フィット」との称呼及び「適した」,「ぴったりの」との観念が生じる(乙1,2)。
なお,英単語「fit」は,英和辞典(乙1,2)において基本的な英単語とされている上,国語辞典である「新明解国語辞典 第七版」(株式会社三省堂,平成25年1月第二刷発行。乙3)には,「フィット…〔fit〕①基準となるものにぴったり合うこと。」と,「広辞苑 第六版」(株式会社岩波書店,平成20年1月,第六版発行。乙4)には,「フィット【fit】適合すること。」と記載されていることから,上記「フィット」との称呼及び「適した」,「ぴったりの」との観念とも,我が国において日常使用する外来語として一般に定着しているものと認められる。
3 引用商標について
(中略)
引用商標からは,「エフアイティー」との称呼が生じるほか,その構成文字と同一の英文字から成る英単語の「fit」に相応した「フィット」との称呼及び「適した」,「ぴったりの」との観念が生じる(乙1,2)。
4 本願商標と引用商標の類否について
⑴ 本願商標と引用商標とを対比すると,前記2のとおり,本願商標からは,「フォックスコン インターコネクト テクノロジー エフ アイ ティー」の称呼及び鴻海グループに属する企業との観念が生じるとともに,「FIT」の文字部分から,「エフアイティー」との称呼が生じるほか,その構成文字と同一の英文字から成る英単語の「fit」に相応した「フィット」との称呼及び「適した」,「ぴったりの」との観念が生じ(乙1,2),これは,原告も自認するところである。本願商標から生じるこれらの称呼及び観念のうち,「フィット」との称呼及び「適した」,「ぴったりの」との観念は,前記3の引用商標の称呼及び観念と同一である。このように,対比に係る商標から2つ以上の称呼,観念が生じる場合,そのうちの1つの称呼,観念が類似するときは,両商標は類似するというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
本願商標の「FIT」の文字部分と引用商標とは,外観上,文字の彩色や書体等の相違はあるものの,その相違は,上記の称呼及び観念の同一性をりょうがして上記類似を覆すほどのものではない。以上によれば,本願商標と引用商標とは,出所について誤認混同のおそれがあり,両商標は,類似するものということができる。
(後略)

【解説】
 本件は、商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、上記引用商標について類似しているとして、商標法4条1項11号 1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所は当該判断を追認した。
 裁判所は、従来の判例規範を確認した上で、まず、「FIT」及び「Foxconn Interconnect Technology」との構成から「FIT」が出所識別標識として、強く支配的な引照を与えるとして、これを抽出することができると判断した上で、本願商標の外観、呼称、観念を認定した上で、引用商標についても、同様に外観、呼称、観念を認定した。
 本件では、裁判所は、取引実情として鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry、ホンハイ)が、フォックスコン・グループ、フォックスコン・テクノロジー・グループ(Foxconn Technology Group)、フォックスコンなどと呼ばれているが、我が国において、指定商品の取引者・需要者間において「FIT」が原告又は鴻海グループに属する企業の略称を示すものという認識が定着しているとまではいうことができないとして、FIT自体からフォックスコンに係る認識は生じないとした。
 その上で、裁判所は、「本願商標からは,『フォックスコン インターコネクト テクノロジー エフ アイ ティー』の称呼及び鴻海グループに属する企業との観念が生じるとともに,「FIT」の文字部分から,「エフアイティー」との称呼が生じるほか,その構成文字と同一の英文字から成る英単語の「fit」に相応した「フィット」との称呼及び「適した」,「ぴったりの」との観念が生じ」、「『フィット』との称呼及び『適した』,『ぴったりの』の観念は,・・・引用商標の称呼及び観念と同一である」ことから、「対比に係る商標から2つ以上の称呼,観念が生じる場合,そのうちの1つの称呼,観念が類似するときは,両商標は類似するというべきである」との従来の判例の判断に従い、本願商標と引用商標は類似するものと判断した。
 本件は、フォックスコン(又は鴻海)という海外の著名企業の、我が国における取引実情を認定したものであり、実務上参考になると思われる。


  1 十一   当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
本願商標については9類を指定商品としており、引用商標も同じく9類を指定商品としている。そして、本願商標の指定商品は,引用商標の指定商品中,「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電線及びケーブル,電気通信機械器具(デジタルカメラ及びその部品を除く。),電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極」と同一又は類似のものであると、裁判所は判断した。

(文責)弁護士 宅間 仁志