【平成28年6月23日(知財高裁 平成28年(行ケ)第10003号)】

【判旨】
 本件商標に係る特許庁の異議2014-900023事件について商標法4条1項10号の判断は正当であるとして、請求を棄却した事案である。
【キーワード】
商標の類否判断、周知性、商標法4条1項10号

【事案の概要】
 原告らは,別紙商標目録記載の構成からなる商標(以下「本件商標」という。)について,指定商品を第31類「いちご」として商標登録(登録出願日・平成21年11月24日,登録査定日・平成25年10月9日,登録日・同年12月6日。登録第5634509号。)を受けた商標権者(各人の持分は2分の1)である。
 徳島市農業協同組合(以下「JA徳島市」という。)の佐那河内支所の組合員であるA(以下「申立人」という。)は,平成26年1月21日,本件商標につき登録異議の申立てをした。
  特許庁は,上記申立てを異議2014-900023号事件として審理し,平成27年12月8日,本件商標の商標登録を取り消す旨の決定(以下「本件決定」という。)をして,同月17日,その謄本が原告らに送達された。原告らは,平成28年1月8日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【特許庁の判断】
 平仮名の「ももいちご」からなる商標(以下「引用商標1」という。)は,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,申立人を含むJA徳島市佐那河内支所の特定の組合員ら(以下「申立人ら」という。)が生産・販売する「ももいちご」と名付けられた特定のいちご(以下「申立人ら商品1」という。)を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く知られていた。・・・
 本件商標の要部の一つといえる「桃苺」の漢字部分と引用商標1は,「モモイチゴ」の称呼及び「桃と苺」の観念において共通するから,類似の商標である。
・・・
 したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項10号に違反してされたものである。

【争点】本件商標の、商標法4条1項10号に該当するか。

【本願商標】

指定商品を第31類「いちご」

【判旨抜粋】
1 引用商標1の周知性について
(1) 認定事実
ア 申立人ら商品1の生産・販売状況等
 (ア)申立人ら商品1は,平成4年に大阪中央青果とJA徳島市佐那河内支所が共同開発し,JA徳島市と栽培協定を結んだ徳島県佐那河内村の特定の農家(申立人ら)が「ももいちご」のブランド名で生産し,大阪中央青果を通して販売するいちごである。申立人ら商品1は,普通のいちごの3倍以上ともなる大きさとジューシーで甘く柔らかい香りを特徴とし,12個から24個入りで8000円ないし9000円の値を付けることもあるいちごである。
  (中略)
イ 申立人ら商品1についての宣伝・広告の状況
 (ア)テレビCM
  (中略)
 (イ)ラジオCM
  (中略)

 (ウ)その他
  (中略)
ウ 申立人ら商品1のメディア等での紹介の状況
(中略)
 (ア)テレビ番組
  (中略)
   a 全国ネットの放送
   (中略)
   b 地方のテレビ局の放送
   (中略)
 (イ)雑誌
  (中略)
 (ウ)新聞
  (中略)
   a 全国紙
   (中略)
   b 徳島新聞
   (中略)
   c 徳島新聞Web
   (中略)
 (エ)インターネット
  (中略)
(2)検討
 上記(1)のとおり,申立人ら商品1は,本件商標の登録出願日である平成21年11月24日の時点において,販売開始から約15年が経過し,毎年の出荷量も数十トン程度とほぼ安定した状況にあり,また,この間,関西地域において,テレビCMが7年間にわたって放送されたほか,ラジオCM等の各種宣伝広告も多数行われ,更には,申立人ら商品1の粒の大きさや甘さ,特定の地域でしか生産されない希少性,一粒1000円にもなる高価さなどが話題となり,テレビ番組,雑誌,新聞,インターネット上の情報記事等で繰り返し紹介され,これらの宣伝や紹介の際には,常に引用商標1が使用されてきたことが認められる。
 これらの事実を総合すると,引用商標1は,本件商標の登録出願日当時において,これがいちごに使用された場合,申立人らが生産,販売する申立人ら商品1を表示するものとして,少なくとも関西地域及び徳島県における取引者,需要者の間において広く認識されていたものと認めることができる。
 また、JA徳島市らによるテレビCMやラジオCM等の宣伝・広告は行われていないものの,平成25年初めころまでは,新聞記事等で引用商標1とともに紹介されている事実が認められるほか,申立人ら商品2を紹介するテレビ番組,新聞記事等において,申立人ら商品2の前身となるブランドのいちごとして,引用商標1とともにたびたび紹介されている事実が認められるのであり,これらを総合すれば,引用商標1の周知性は,本件商標の登録査定時である平成25年10月9日当時においても,なお維持されていたものと認めることができる。
(中略)
 以上の次第であるから,引用商標1について,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,申立人らが生産・販売する申立人ら商品1を表示する商標として,取引者,需要者の間に広く知られていたとする本件決定の認定に誤りはない。

2 本件商標と引用商標1の類否について
(1)本件商標の要部について
 原告らは,本件商標は,構成全体として外観,称呼,観念において一体的印象を取引者,需要者に与えるものであるから,本件商標のうち,「桃苺」の漢字部分を分離し,本件商標の要部となるとした本件決定の判断は誤りである旨主張するので,以下検討する。

ア 本件商標は,別紙商標目録記載のとおり,上段には,左側に,やや丸みを帯びた手書き風の書体からなる「桜」の漢字を,右側に,角の丸い三角形状の輪郭を有する渦巻き状の線から4本の短い線が放射状に配されてなる図形を,下段には,左側に,前同様の書体からなる「桃」の漢字を,右側に,前同様の書体からなる「苺」の漢字をそれぞれ書してなる商標である。
 以上のような本件商標の構成のうち,上段右側の図形は,一見して何を表す図形であるかが理解し難いものであるから,この部分から商品の出所識別標識としての特定の称呼や観念が生ずることはないものといえる
 他方,「桜」の文字は,植物の「さくら」を表す漢字として,「桃」及び「苺」の文字は,果実の「もも」及び「いちご」を表す漢字として,いずれも広く親しまれているものであるから,本件商標に接した需要者らは,これらの文字部分に着目し,そこから「サクラモモイチゴ」の称呼及び「桜と桃と苺」の観念が自然に生ずるものといえる。
 また,本件商標は,ほぼ同じ大きさの3つの文字と一つの図形を二つずつ上下2段に配してなる商標であるところ,その上段部分(「桜」の文字及び図形)と下段部分(「桃」及び「苺」の文字)とは,その外観においても,また,そこから生ずる観念においても,不可分的に結合しているものとまでは認められないから,本件商標に接した需要者らにおいては,上段部分と下段部分を分離して観察することもあり得るものといえる。特に,2行にわたる横書きの文字列を読む際には,まず上段の左から右に読み,続いて下段の左から右に読むのが通常というべきところ,この順で本件商標を読んでいくと,上段の「桜」と下段の「桃苺」の間に図形が介在することとなるため,本件商標において商品の出所識別標識としての称呼や観念が生ずる部分である「桜」,「桃」,「苺」の3つの文字のうち,「桜と「桃苺」とは,分離して観察されやすいものといえる。
 加えて,前記1で述べたとおり,平仮名の「ももいちご」からなる引用商標1が申立人ら商品1を表示する商標として取引者,需要者の間に広く知られていた事実からすれば,本件商標が申立人ら商品1と同一の商品である「いちご」に使用された場合,これに接した取引者,需要者が,本件商標の構成部分のうち,「いちご」の分野における周知商標である「ももいちご」と同一の称呼を生じさせる下段の「桃苺」の文字部分に特に注目することは,自然にあり得ることといえる。
 以上を総合すれば,本件商標においては,その構成のうち下段の「桃苺」の漢字部分が,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分と認識されることがあるということができるから,当該部分を本件商標の要部として把握することができるというべきである。
(中略)

(2)本件商標と引用商標1の対比
 ・・・しかるところ,上記「桃苺」の漢字部分と「ももいちご」の平仮名からなる引用商標1とを対比すると,外観において漢字と平仮名の違いがあるものの,「モモイチゴ」の称呼が生ずるとともに,果実である「桃と苺」あるいは「桃のような苺」の観念が生ずる点において,共通するものといえる。してみると,本件商標と引用商標1とは,そこから生ずる称呼及び観念をいずれも共通にする商標であり,それらが同一の商品に使用された場合,取引者,需要者にとって,互いに紛らわしく,その出所について混同を生ずるおそれがあるものといえるから,両商標は,類似する商標というべきである。

【解説】
 本件は、商標権の登録異議申立に係る決定取消訴訟である。
 登録異議申立ては、商標登録が商標法第43条の2各号の一に該当することを理由としてその取消を求めるもので、指定商品又は指定役務ごとにすることができるとされている(商標法43条の2)。具体的な流れは、以下のとおりである1

 本件においては、徳島市農業協同組合の組合員が、異議申立を行ったものである。異議の理由としては、本件商標は、商標法4条1項10号2 に違反して、商標登録されたものであることを理由としている。
 商標法4条1項10号は、未登録のまま、使用し続けることによって、業務上の信用が化体し、周知となった未登録周知商標を救済するための規定であり、当該救済のためには、周知性が要求される。
 本件では、裁判所は、「生産・販売状況等」「宣伝・広告の状況」「メディア等での紹介の状況」等を詳細に認定し(認定内容に関しては、判決文に当たられたい。)、周知性を肯定した上で、本件商標と引用商標1の類似性を肯定したものである。
 本件は、異議申立ての手続を含めて、実務上参考になると考えられるため、ここに取り上げる。


  1 https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/att00003.htm
 十  他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
 

(文責)弁護士 宅間 仁志