【平成28年4月14日 (知財高裁 平成27年(行ケ)第10232号)】

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2015-7941事件について商標法3条1項3号の判断は正当であるとして、原告の請求を棄却した事案である。

【キーワード】
 自他商品の識別能力、メロンまるごとクリームソーダ、商標法3条1項3号

【事案の概要】
(1) 原告は,平成25年10月22日,下記のとおりの構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品を「第32類 メロンを用いたクリームソーダ」(以下「本願指定商品」という。)とする商標登録出願(商願2013-82289号。以下「本願」という。)をした。
(本願商標)


 
(2) 原告は,本願について,平成27年2月5日付けの拒絶査定を受けたので,同年4月28日,拒絶査定不服審判を請求した。
 特許庁は,上記請求を不服2015-7941号事件として審理を行い,同年9月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月6日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成27年11月5日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①本願商標の構成は全体として格別特殊な態様とはいえず,未だ普通に用いられる方法の域を脱しない方法で表示する標章のみからなるものであり,②本願商標に接する取引者,需要者は,本願商標全体から「メロンをまるごと使用したクリームソーダ」ほどの意味合いを容易に看取するというのが相当であり,これを本願指定商品に使用しても,商品の品質,原材料を表示したものと理解するにとどまるから,本願商標は,商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ず,したがって,商標法3条1項3号に該当し,商標登録をすることができないというものである。

【争点】
本願商標が自他商品の識別能力を有するか否か。

【判旨抜粋】
1 本願商標の商標法3条1項3号該当性について
(1) 商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(…),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格」を「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」について,商標登録の要件を欠くと規定しているのは,このような商標は,指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される。
 そうすると,本願商標が,本願指定商品について商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには,本件審決がされた平成27年9月24日の時点において,本願商標が本願指定商品との関係で商品の品質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,本願商標が本願指定商品に使用された場合に,将来を含め,取引者,需要者によって商品の品質を表示したものと一般に認識されるものである必要があるものと解される。
(2) 本願商標は,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を肉太でやや縦長のポップ調の書体で表してなるものであり,「メロンマルゴトクリームソーダ」の称呼が生じる。
 本願商標を構成する「メロン」の語が,ウリ科の植物,一般的には特にその果実を意味することは明らかであり,また,広辞苑第六版(平成20年1月11日発行。乙1ないし3)によれば,本願商標を構成する「まるごと」の語は,「(果物・魚などを)切り分けたりせず,その形のまま。全部そっくり。まるぐち。」を意味し,「クリームソーダ」の語は,「アイスクリームソーダ」,すなわち「ソーダ水にアイスクリームを浮かせた飲み物。」の略語を意味することが認められる。
(中略)
(4) 前記(3)に認定した事実によれば,本件審決日当時,果実を利用した飲料や菓子等の取引分野において,「まるごと」の語の前又は後に果実を表す語を結合した場合,あるいは「まるごと」の語を果実を形容する語として用いた場合には,「まるごと」の語は,当該果実の果肉や果汁が残さず用いられていることや,当該果実がその形状のまま用いられていること(当該果実が切り分けられたりすることなく用いられる場合のほか,その外皮部分が容器等として用いられる場合を含む。)を表す語として,一般に理解されていたことが認められる。
 そして,本願指定商品である「メロンを用いたクリームソーダ」の取引者,需要者には,かかる飲食物の提供者である飲食店や,その提供を受ける一般消費者等が含まれると考えられるところ,前記⑵のような本願商標を構成する「メロン」,「まるごと」及び「クリームソーダ」の各語の意義に加え,「まるごと」の語が果実を表す語と結合した場合や当該果実を形容する語として用いられた場合の,上記のとおりの一般的な理解の内容に照らすと,本願商標を構成する「メロンまるごとクリームソーダ」の語は,本件審決日当時,かかる取引者,需要者によって,「メロンの果肉や果汁が残さず用いられたアイスクリームソーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いたアイスクリームソーダ」を意味するものとして,一般に認識されるものであったと認められる
 そうすると,本願商標は,本件審決日当時,本願指定商品である「メロンを用いたクリームソーダ」に使用されたときは,当該「メロンを用いたクリームソーダ」が「メロンの果肉や果汁が残さず用いられたアイスクリームソーダ」や「メロンの外皮を容器としてそのまま用いたアイスクリームソーダ」であるという,本願指定商品の品質を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであり,かつ,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったと認められるものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他商品識別力を欠くものというべきである。
 加えて,本願商標は,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を肉太でやや縦長のポップ調の書体で表してなるものであるが,この書体自体は既存のものであるし,文字の太さや縦長の形状であることについても,それ自体はありふれたものの域を出るものではないから,「メロンまるごとクリームソーダ」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであって,特別に自他商品識別力を有するような特殊な構成を有しているとも認められない。
 したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。

【解説】
 本件は、商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、商標法3条1項3号1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所はこれを正当であると判断した。
 裁判所は、従来言われている同号の趣旨を確認した上で、引用した判旨においては省略したが、「まるごと」の語の用法の実情を詳細に分析し、「メロンまるごとクリームソーダ」の語が本件審決日当時において、取引者、需用者にとってどのような意味を有していたのかを認定した。裁判所は、当該認定を元に、「メロンまるごとクリームソーダ」が自他商品識別能力を欠くと判断したものである。
 なお、原告は、本願商標が外観等において特異であること等いくつかの主張を行ったが、裁判所は、呼称及び外観が特異であるとは言えない等の理由に基づき、いずれの主張も排斥している。
 裁判所の典型的な自他商品識別能力に係る判断を示すものであり、事例判断ではあるが、実務的に参考になるため、ここに取り上げる。


 1 第三条   自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。 (中略)
三   その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

(文責)弁護士 宅間 仁志