【平成28年3月23日(知財高裁 平成27年(行ケ)第10174号)】チャッカマン事件

【判旨】
 原告が、本件商標につき商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】
 商標の類否判断、チャッカマン、チャッカボー、商標法4条1項15号(混同のおそれ)、同項10号(商標の類否)

【手続の概要】
以下、本件の商標の混同のおそれ、類否判断に関する部分のみを引用する。

被告は,平成26年2月26日,下記本件商標につき商標登録出願をし(商願2014-14336号),同年6月20日,登録査定がされ,同年7月4日,設定登録(商標登録第5683324号)がされた。(甲1の1・2)
原告は,平成26年12月26日付けで本件商標の登録無効審判請求をした(無効2014-890108号)。
特許庁は,平成27年7月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。


【争点】
争点は,①商標法4条1項15号該当性(混同のおそれ),②同項10号該当性(商標の類否),③同項11号該当性(商標の類否)及び④同項19号該当性(商標の類否,不正の目的)である。
ここでは、①(②)のみを取り上げる。

【判旨抜粋】
1 取消事由1(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について
原告使用商標が,「チャッカマン」と称呼されて,原告商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたことは,当事者間に争いがない。他方,原告使用商標が,「チャッカ」と称呼されて,原告商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されたものでないことは,当事者間に争いがない。以下,このことを前提に,商標の類否,混同のおそれについて検討する。
(1) 商標の類否について
ア 本件商標の認定
(ア) 商標の認定について
 本件商標は,前記第2,1のとおりの構成であって,「チャッカボー」(標準文字)と同一の書体で片仮名で一段に横書きしてなるものであり,まとまりよく一体的に表されているから,外観上,一体のものと認められ,また,「チャッカボー」の称呼を生ずる。
 そして,本件指定商品との関係から,「チャッカ」は「着火」の意味を想起させるものの,「ボー」部分はごく短く,同音異義語も相当数存するため,特定の意味を確定し難い。そうすると,本件商標は,特定の意味合いを直ちに想起させない造語と認められる。
(イ) 原告の主張に対して
 原告は,本件商標の要部が「チャッカ」部分にあると主張する。
 しかしながら,前記のとおり,「チャッカ」は商品の機能,「ボー」は観念不明の単語であるから,いずれも特段の出所識別力を有するものではなく,また,本件商標は,6文字・4音と比較的短い文字・音数からなり,外観上まとまりよく構成されているから,よどみなく一気に称呼でき,一体の外観を看取できる。そうすると,語頭にある「チャッカ」部分が,とりたてて看者・聴者の注目を惹くものとは認められない。
 原告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告使用商標の認定
(ア) 商標の認定について
 原告使用商標は,前記第2,2(2)のとおりの構成であって,「チャッカマン」と肉太部分と肉細部分を有するデザイン化された片仮名で一段に横書きしてなるものであり,まとまりよく一体的に表されているから,外観上,一体のものと認められ,また,「チャッカマン」の称呼を生ずる。
 そして,人,男性などを意味する英語の片仮名表記である「マン」は広く知られており,また,原告商品は電子式点火棒であるから,「チャッカ」からは「着火」の意味を想起させる。そうすると,着火と人,男性等を結び付ける表現が一般的に慣用されているとは認められないから,原告使用商標は,火をつける人,男性程度の意味合いを有する造語(単語)と認められる。
 (イ) 原告の主張に対して
 これに対して,原告は,原告使用商標の要部が「チャッカ」部分にあると主張するので,以下,検討する。
① 原告は,火をつける機能に対する一般的な言い回しは「点火」であって,これに「着火」を用いることには独創性があると主張する。
 しかしながら,「着火」の語は,人の行為を介在せずに物が燃焼を開始することを意味する場合に用いられるだけではなく,人が物の燃焼を開始させる場合にも普通に用いられるから(甲20の1・4・5,乙1,2),火をつける機能に対して「着火」を用いてもありきたりの表現であり,これを片仮名で表しても格別に独創性が増すものとは認められない。
 原告の上記主張は,採用することができない。
② 原告は,語頭にある「チャッカ」部分に看者が最も目を惹かれ印象が強く記憶に残りやすいと主張する。
 しかしながら,原告使用商標は,6文字・4音と比較的短い文字・音数からなるものであり,外観上まとまりよく構成され,よどみなく一気に称呼でき,一体の外観を看取できる。そうすると,語頭にある「チャッカ」部分が,とりたてて看者・聴者の注目を惹くものとは認められない。
 原告の上記主張は,採用することができない。
③ 原告は,需要者が現に「チャッカ」に着目していることの根拠として,本件アンケート調査結果(甲25)を提出するところ,本件アンケート調査結果について,次の点が認められる。
(中略)
 しかしながら,・・・「チャッカ」から「チャッカマン」又は「(チャッカ)マン」を連想できたからといって,それは,原告使用商標又は原告商品を知っている者がそのような連想をできたことを意味するだけであって,「チャッカ」それ自体に識別力があることを明らかにするものではない。
 [8] 以上からすると,本件アンケート調査結果は,需要者が「チャッカ」部分に着目していることを明らかにするものとは認められない。
④ 以上のとおりであり,原告使用商標の要部を「チャッカ」の文字部分とする原告の前記主張は,採用することができない。
ウ 本件商標と原告使用商標との対比
 本件商標は,「チャッカボー」と称呼され,原告使用商標は,「チャッカマン」と称呼される。両者は,語頭側の「チャッカ」の称呼は共通するものの,語尾側の「ボー」と「マン」とは著しく音質,音感を相違するから,全体として称呼するときに,両者を聞き誤るおそれはないものと認められる。したがって,本件商標と原告使用商標とは,称呼上,類似しない。
 また,本件商標は,「チャッカボー」との片仮名の文字であるのに対し,原告使用商標は,「チャッカマン」との片仮名の文字である。両者は,比較的短い文字数からなるにもかかわらず,語尾側の2文字が異なり,さらに,原告使用商標の「チャッカ」がデザイン化された文字であるから,相紛らわしいとはいえない。したがって,本件商標と原告使用商標とは,外観上,類似しない。
 そして,本件商標は,特定の意味合いを想起させない造語であるのに対し,原告使用商標は,「火をつける人,男性」との観念を生じるから,観念において相紛れることはない。したがって,本件商標と原告使用商標とは,観念上,類似しない。
 以上から,本件商標と原告使用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似せず,非類似の商標と認められる。
(2) 混同のおそれについて
 上記のとおり,本件商標と原告使用商標とは,需要者を基準とした場合において非類似の商標と認められるものであるから,その需要者の注意力の程度や本件指定商品と原告商品との共通性を考慮しても,本件商標が,出所混同のおそれがある商標であるとはいえない。これに反する取引の実情を認めるに足りる証拠もない。したがって, 混同のおそれは認められない。
 (3) 小括
 以上のとおりであるから,本件商標は,商標法4条1項15号に該当する商標とは認められず,審決の商標法4条1項15号該当性の判断には,誤りはない。したがって,取消事由1は,理由がない。

【解説】
 本件は、商標登録無効審判請求1を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法4条1項15号(及び10号)2等が問題となった事案である。
 まず、本件で、原告は、本件商標の要部が「チャッカ」の部分にある旨主張した。
 そこで、裁判所は、要部について、検討し、原告の当該主張を退けた。
 原告はアンケートも行っているが、裁判所は、当該アンケートの内容が、「チャッカ」要部であることを立証するものではないと判断した。一般にアンケートでは、質問の設定等が非常に難しいことが、従前から指摘されており、本件においても、設問を十分検討する必要があった。
 つぎに、裁判所は、本件商標と原告使用商標を、従来の判例の考え方に従って、称呼、外観及び観念の点から類似しない旨認定した。そして、非類似であることから、混同の恐れを認めなかった。
 本件は、事例判断ではあるが、アンケートのあり方や要部に関する主張等、実務上参考になると思われる。


1 (商標登録の無効の審判)
第四十六条  商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一  その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用す る場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。
(下線は、筆者が付した。)

 2 (商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十  他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
十五  他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
 

(文責)弁護士 宅間 仁志