【平成28年1月20日(知財高裁平成27年(行ケ)第10159号)】

【判旨】
本願商標に係る特許庁の不服2014-25616事件について商標法4条1項11号の判断を誤ったことを理由として、取り消した事案である。

【キーワード】
商標の類否判断、ROYAL FLAG、商標法4条1項11号

【事案の概要】
(1) 原告は,平成25年7月4日,別紙本願商標目録記載の商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品を第25類「履物,運動用特殊靴,帽子・その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊衣服」として,商標登録出願をした(商願2013-51911号。甲29)。
(2) 原告は,上記商標登録出願に対して,平成26年9月10日付けで拒絶査定を受けたので,同年12月15日,拒絶査定に対する不服の審判を請求した(甲32,33)。
(3) 特許庁は,原告の請求を不服2014-25616号事件として審理し,平成27年3月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年4月14日,その謄本は原告に送達された。
(4) 原告は,平成27年8月10日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

【争点】
本願商標が、商標法4条1項11号に該当するか。

【本願商標】

 
指定商品:第25類「履物,運動用特殊靴,帽子・その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服,運動用特殊衣服」

【引用商標】

【判旨抜粋】
1 類否の判断について
 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,他方で,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

2 本願商標について
(1) 本願商標の外観は,別紙本願商標目録のとおりであり,右側に鋭角の頂点を有する黒地の三角形の左端に縦に白線を表し,当該三角形全体を左から右に波打つように旗状に表した図形を中央に大きく配し,その上段に,「Reebok」の文字を図案化された特徴のある書体で表し,図形の下段に「ROYAL」及び「FLAG」の各文字を1文字程度の間隔を空けて,上段の文字部分よりも小さく,かつ細いゴシック体で表して成る。本願商標は,その構成の全体から,「リーボックロイヤルフラッグ」との称呼を生じる。
 (中略)本願商標全体から,「リーボックの展開する「ROYAL FLAG」(王の旗)という商品シリーズ」といった観念が生じ,あるいは,本願商標の構成中の「Reebok」の文字部分から,「リーボック」の観念が生じるものということができる

(2) 本願商標の構成中の「ROYAL FLAG」の文字部分を抽出することの可否
ア 被告は,・・・本願商標は,「Reebok」の文字部分,図形部分及び「ROYAL FLAG」の文字部分は,視覚上分離して看取され得るものであって,それぞれの構成部分に観念上の結びつきはなく,これらを分離して観察することが取引上不自然であるというべき事情はない旨主張する。
イ しかしながら,本願商標は,その外観上,「Reebok」の文字部分,図形部分及び「ROYAL FLAG」の文字部分を組み合わせて成る結合商標であると認められるが,・・・右側に鋭角の頂点を有する黒地の三角形の左端に縦に白線を表し,当該三角形全体を左から右に波打つように旗状に表した図形を中央に大きく配し,その上段に,「Reebok」の文字を図案化された特徴のある書体で表し,図形の下段に「ROYAL」及び「FLAG」の各文字を1文字程度の間隔を空けて,上段の文字部分よりも小さく,かつ細いゴシック体で表して成るものであり,全体としてまとまりよく表されている。(中略)すなわち「ROYAL FLAG」の冒頭の「R」と「Reebok」の冒頭の「R」の文字の大きさを比べると,前者は後者の10分の1程度の大きさしかなく,かつ細い文字で表され,しかも,ゴシック体という一般的な書体であるから,その外観上,「ROYAL FLAG」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない
ウ また,「ROYAL FLAG」という一連の語は,既成語として辞書に掲載されているものではないが,①「ROYAL」及び「FLAG」は,我が国における英語の普及率に照らせば,いずれも一般的な英単語であって,格別のものではないこと,②「ロイヤル(royal)」が国語辞典に掲載されているだけでなく(甲50),これを付した複合語(例えば,「ロイヤル・ウェディング(royal wedding)」,・・・)も,カタカナ・外来語辞典等に数多く掲載されていること(甲51,52),③「フラッグ(flag)」が国語辞典に掲載されているだけでなく(甲35,41),これと他の語との複合語(例えば,「チェッカー フラッグ(checker flag)」,・・・)も,外来語辞典等に複数掲載されていること(甲37~40,44),④「ROYAL」又は「FLAG」の英単語を含む商標登録も数多く存在すること(甲56~59)等に照らせば,一般的な英単語をつないだものにすぎないというべきである。そして,「ROYAL FLAG」の文字部分は,それ自体が自他商品を識別する機能が全くないというわけではないものの,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「Reebok」の文字部分との対比においては,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるということはできず,本件全証拠によるも,このようにいえるだけの事情を認めるに足りない。
エ したがって,本願商標の構成のうち「ROYAL FLAG」の文字部分だけを抽出して,引用商標と比較して類否を判断することは相当ではない。

(3) そうすると,本願商標については,全体として一体的に観察し,又は商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「Reebok」の文字部分を抽出して,引用商標との類否を判断するのが相当である

3 引用商標について
 引用商標の外観は,「ROYAL」及び「FLAG」の各文字部分の間に僅かなスペースを空け,「ROYAL FLAG」と横一行に表して成る。そして,各文字部分は,各語頭の「R」と「F」の欧文字が他の文字よりもやや縦長に大きく・・・他の文字は同じ大きさであり,全体として同じ書体で表されている。また,引用商標からは,「ロイヤルフラッグ」の称呼を生じ,「王の旗」の観念を生じる。

4 本願商標と引用商標との類否について
 (1) 本願商標と引用商標とを対比すると,本願商標と引用商標とは,「ROYAL FLAG」の構成を有する点で共通するものの,本願商標は中央に旗状の図形部分及びその上段に「Reebok」の文字部分の各構成を有するのに対し,引用商標はこれらの構成を有しないから,両商標は,外観を異にする。また,本願商標からは,「リーボックロイヤルフラッグ」又は「リーボック」との称呼が生じ,「リーボックの展開する「ROYAL FLAG」(王の旗)という商品シリーズ」又は「リーボック」といった観念が生じるのに対し,引用商標からは,「ロイヤルフラッグ」の称呼及び「王の旗」の観念が生じることが認められるから,本願商標と引用商標とは,称呼及び観念を異にする。
(2) 取引の実情について
証拠(甲5,22)によれば,①原告が製造販売する運動用の被服や履物等の商品には,一般に,原告の展開するブランドの商品であることを示す「Reebok」に係る商標が付されていること,②・・・商品シリーズに属する個々の商品についても,ほぼ全てについて,「Reebok(リーボック)」に係る商標が付されていることが認められる。(中略)
(3) そうすると,本願商標と引用商標とが,その外観,称呼及び観念において相違することに加え,前記(2)の取引の実情をも考慮すれば,本願商標と引用商標とが,同一又は類似する商品に使用されたとしても,取引者,需要者において,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。したがって,本願商標は,引用商標に類似しないというべきであるから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件審決の判断には誤りがあり,原告の取消事由に係る主張は,理由がある。

【解説】
 本件は、商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、上記引用商標について類似しているとして、商標法4条1項11号1 にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所はこれを取り消した。
 裁判所は、従来の判例規範を確認した上で、詳細に本願商標を分析し(本解説では、細かい事実認定については一部割愛している。)、本願商標は、「全体としてまとまりよく表されて」おり、その外観上,「ROYAL FLAG」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない」と外観上の分析を行った上で、「ROYAL」と「FLAG」の意味を解釈し、「『ROYAL FLAG』の文字部分は,それ自体が自他商品を識別する機能が全くないというわけではないものの,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える『Reebok』の文字部分との対比においては,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるということはでき」ないと判断した。
 その上で、引用商標とは外観、呼称、観念を異にし、取引実情からも、本願商標と引用商標とが、同一又は類似する商品に使用されたとしても、取引者、需要者において、その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできないとした。
 特許庁は、「Reebok」の文字部分をハウスマークと捉え,「ROYAL FLAG」の文字部分をサブブランドと認識する旨の主張も行ったが、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与える「Reebok」の文字部分との対比においては,「ROYAL FLAG」の文字部分は、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるということはできず、また、ハウスマークのみを用いて取引を行うということが認定できないとして、主張を退けた。
 裁判所は、非常に丁寧な事実認定を行っており、また、著名なブランド名との結合商標という興味深い事例判断であり、実務的に参考になるため、ここに取り上げる。

(文責)弁護士 宅間 仁志


 1 十一   当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
本願商標については16類、35類、41類を指定役務としていたが、引用商標1及び2は35類、引用商標3は41類を指定役務としている。