【知財高裁平成28年10月31日・平成28年(ネ)第10051号】

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項3号,パッケージ,包装容器,形態模倣,商品の形態,実質的同一性

第1 事案の概要

 本件は,控訴人商品を販売する控訴人が,被控訴人商品が控訴人商品の形態を模倣したものであるから被控訴人による被控訴人商品の販売は不正競争防止法2条1項3号の不正競争に当たるとともに,被控訴人による被控訴人商品の販売及びウェブ広告の配信は債務不履行に当たると主張して,同法3条1項に基づく販売の差止請求並びに同法4条及び5条2項に基づく損害賠償請求等を求めた事案である。
 原審は,不正競争防止法に基づく請求については,控訴人商品の包装箱及び銀包の形状及び寸法,包装箱の表面及び裏面の記載は,いずれも同法2条1項3号により保護されるべき「商品の形態」に当たらないから,被控訴人商品は控訴人商品の「商品の形態を模倣した商品」ではないとして,控訴人の請求を棄却した。なお,本件では債務不履行に基づく請求もなされているが,本稿では不正競争防止法に基づく請求のみを取り上げる。

 
控訴人商品                   被控訴人商品
(最高裁判所HPより引用)

  

第2 判旨(下線は筆者による)

 控訴人商品と被控訴人商品は,(ア)包装箱及び銀包の形状及び寸法,(イ)包装箱の表面の一部及び裏面の記載について,実質的に同一であるということができる。
しかし,(ア)の点については,控訴人商品の包装箱は,内部に仕切りが設けられているものの,簡易な構造で3か所に仕切られているにすぎず,外観も封筒と同様の形状であることからすれば,全体としてみると,包装材の形状として特徴的なものでないものと認められる。また,控訴人商品の銀包についても,粉末を密封する包装材としてありふれた形状である。
 (イ)の点については,「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいうから(不正競争防止法2条4項),控訴人商品の包装箱の表面及び裏面の記載について,商品の形状に結合した模様と認められる限度においてこれを参酌することが相当である。
 そこで検討すると,甲3の1,甲4の1及び弁論の全趣旨によれば,①控訴人主張の控訴人商品の包装箱の表面に記載された控訴人商品の商品名は,白地の表面中央部に配置された直径約14cmの濃緑色に塗り潰された円の中央部に,白抜きで4文字(すっきり),4文字(フルーツ),2文字(青汁)の3段に,概ね同一のフォントで書されたものであり,上記円内の商品名の下部には黄色に塗り潰された円と黄色の欧文字6字(FABIUS)とが横一列に配置されていること,これに対し,被控訴人商品の商品名は,表面右側に配置された縦約15cm,横約7cmの薄緑色に塗り潰された帯状の長方形の上部に,白抜きで5文字(フレッシュ),4文字(フルーツ),2文字(青汁)の3段に,最下段の青汁の文字が他の文字の約2倍のフォントで書されたものであり,その長方形内の商品名の下部には濃緑色の液体が注がれたワイングラスが配置されていること,②控訴人主張の控訴人商品の包装箱の表面に記載された「81種類の酵素と青汁」という文字は,表面上部に,表面全体の背景色である白色を背景として,「あなたの美と健康をサポート。」という文字とともに,その右側に,「81種類の酵素」がピンク色,「と」が黒色,「青汁」が緑色で,横一列に書されていること,これに対し,被控訴人商品の「80種類の酵素と青汁」という文字は,表面最下部に縦約2cmの幅で水平方向を貫く黄色に塗り潰された長方形内に,「あなたの『取り戻したい!』を応援します。」という文字とともに,その右側に,「80種類の」が白抜き,「酵素」がオレンジ色の円内に白抜き,「と」が白抜き,「青汁」が緑色の円内に白抜きで,横一列に書されていることがそれぞれ認められる(別紙控訴人商品・被控訴人商品の各表面の形状等一覧参照)。
 そうすると,被控訴人商品の商品名及び「80種類の酵素と青汁」という表示を含む包装箱表面の模様は,緑色の背景に白抜きで商品名が記載されており,「80種類の酵素と青汁」という文字列が記載されているという点において,控訴人商品の包装箱表面の模様と類似するということができるものの,商品名が配置されている位置や背景の形状,同一の背景の中に描かれた他の模様が著しく相違しているし,「80種類の酵素と青汁」という文字列が配置されている位置,背景及び文字色も大きく異なっており,その余の部分も含めた包装箱表面の模様全体としてみると,その類似性は低いものと認められる。
 また,甲3の2,甲4の2及び弁論の全趣旨によれば,③控訴人主張の控訴人商品及び被控訴人商品の各裏面の栄養成分表示と商品説明文は,配置や記載内容は類似するものの,いずれも青汁という製品に共通する格別の特徴がないありふれた形態であると認められる。
 以上によれば,控訴人主張の控訴人商品の形態のうち,包装箱及び銀包の形状並びに包装箱裏面の栄養成分表示と商品説明文については,同種の製品に共通する特徴のないごくありふれた形態であって,「商品の形態」を構成するものとはいえないし包装箱表面の商品名及び「81種類の酵素と青汁」という文字を商品の形状に結合した模様として参酌しても,それらを含む包装箱表面の模様全体の類似性は低く,実質的に同一の形態ということはできないから,被控訴人商品が控訴人商品の「商品の形態を模倣した商品」であると認めることはできない。
 したがって,不正競争防止法に基づく控訴人の請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。

第3 検討

 本判決において注目されるのは,食品等における栄養成分表示や商品説明文が,商品形態の模倣であるか否かの判断において,どのように扱われているかという点である。
 この点,原審(東京地判平成28年4月28日・平成27年(ワ)第29222号)は,端的に「控訴人商品を説明した文章にすぎ」ず「商品の形状に結合した模様には当たらない」としており,かかる点における共通点を当該判断において参酌していないようである。これに対して本判決は,栄養成分表示や商品説明文について「いずれも青汁という製品に共通する格別の特徴がないありふれた形態」であることをもって,当該判断において参酌していない。当該控訴審の判断方法からすると,原審とは異なり,栄養成分表示や商品説明文であってもこれがありふれたものでない限りは,商品形態の模倣であるか否かの判断において参酌する余地があるようにも思われる。現実的に,このような表示がありふれたものではないケースがどの程度あり得るかには疑問が残るものの,食品等の商品パッケージの模倣判断においては問題になり得る点であるため,今後の裁判例の動向に注目したい。
 なお,商品パッケージのデザインについては,そもそも「商品の形態」にあたるか否かも問題になり得る1。この点について,近時の裁判例には,「商品の性質上,包装と一体で流通に供されることが通常であって,包装が商品自体と容易に切り離しえない態様で結びついているといえる」か否かという基準で,「商品の形態」該当性を判断しているものがある2。当該基準からすると,本件においては,青汁の粉自体では流通することができず,銀包については商品自体と容易に切り離し得ないといえるものの,外箱については,「商品自体と容易に切り離しえない態様で結びついている」とはいえないとして,外箱の「商品の形態」該当性が否定される可能性もあり得るように思われる。一方,社会通念上銀包単体で取引されることはあり得ず,青汁の粉が入っている銀包および外箱は容易に切り離し得ないと考えれば,反対に外箱の「商品の形態」該当性は否定され得る。本判決及び原審はこの点について正面から判断していないため,今後の裁判例の動向に注目したい。

以上
(文責)弁護士 山本真祐子

1三村量一『商品形態の模倣について』(知的財産法の理論と実務3巻 商標法・不正競争防止法)280頁以下(新日本法規出版・2007年)参照
2 知財高裁平成28年12月22日・平成28年(ネ)第10084号