【知財高裁平成28年11月30日平成28年(ネ)第10018号】

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項3号,19条1項5号イ,形態模倣,保護,始期,終期,サンプル,展示会,応用美術,プロダクトデザイン,スティック型加湿器,スティック加湿器,加湿器

第1 事案の概要
 控訴人らは,総合家電メーカーのプロダクトデザイナーであり,その傍ら,平成23年1月にデザインユニット「knobz design」を結成し,フリーのデザイナーとしても活動している。(甲1の1)。
 被控訴人は,インテリア・デザイン家電,生活雑貨等の企画,生産及び輸入卸を業とする株式会社である。
 本件は,本判決別紙3「控訴人加湿器目録」記載1及び2の加湿器(以下,それぞれ,同目録の番号により「控訴人加湿器1」などという。)の開発者である控訴人らが,被控訴人に対し,①本判決別紙1「被控訴人商品目録」記載の加湿器(以下「被控訴人商品」という。)は,控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を模倣したものであるから,その輸入,販売等は不正競争防止法2条1項3号の不正競争(形態模倣)に当たるとして,同法3条1項及び2項に基づいて,被控訴人商品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を,②控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,いずれも,美術の著作物(著作権法10条1項4号)に当たるから控訴人らはこれらに係る著作権(譲渡権又は二次的著作物の譲渡権)を有するとして,著作権法112条1項及び2項に基づいて,被控訴人商品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに(上記①とは選択的併合),③不正競争防止法違反又は著作権侵害の不法行為に基づき(選択的併合,不正競争防止法5条3項2号又は著作権法114条3項の選択的適用),損害賠償金各120万円(逸失利益各95万円と弁護士費用各25万円の合計120万円の2人分で総計240万円)及びこれに対する不法行為後の日である平成27年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。
 以下では,不正競争防止法2条1項3号による保護の始期・終期及び善意無重過失の転得者の適用除外,並びに著作物性についてのみ取り上げる。


左から控訴人加湿器1~2(最高裁判所HPより引用)

被控訴人商品(最高裁判所HPより引用)

第2 判旨(下線は筆者による)
1 争点(1)ア(「他人の商品」該当性)について
  (1)「他人の商品」の意義について
  不正競争防止法1条は,「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定め,同法2条1項3号は,「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入する行為」を不正競争と定めている。
  不正競争防止法が形態模倣を不正競争であるとした趣旨は,商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果が模倣されたならば,商品開発者の市場先行の利益は著しく減少し,一方,模倣者は,開発,商品化に伴う危険負担を大幅に軽減して市場に参入でき,これを放置すれば,商品開発,市場開拓の意欲が阻害されることから,先行開発者の商品の創作性や権利登録の有無を問うことなく,簡易迅速な保護手段を先行開発者に付与することにより,事業者間の公正な商品開発競争を促進し,もって,同法1条の目的である,国民経済の健全な発展を図ろうとしたところにあると認められる。
  ところで,不正競争防止法は,形態模倣について,「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」については,当該 商品を譲渡等する行為に形態模倣の規定は適用しないと定めるが(同法19条1項5号イ),この規定における「最初に販売された日」が,「他人の商品」の保護期間の終期を定めるための起算日にすぎないことは,条文の文言や,形態模倣を新設した平成5年法律第47号による不正競争防止法の全部改正当時の立法者意思から明らかである(なお,上記規定は,同改正時は同法2条1項3号括弧書中に規定されていたが,同括弧書が平成17年法律第75号により同法19条1項5号イに移設された際も,この点に変わりはない。)。また,不正競争防止法2条1項3号において,「他人の商品」とは,取引の対象となり得る物品でなければならないが,現に当該物品が販売されていることを要するとする規定はなく,そのほか,同法には,「他人の商品」の保護期間の始期を定める明示的な規定は見当たらない。したがって,同法は,取引の対象となり得る物品が現に販売されていることを「他人の商品」であることの要件として求めているとはいえない。
  そこで,商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果を保護するとの上記の形態模倣の禁止の趣旨にかんがみて,「他人の商品」を解釈すると,それは,資金又は労力を投下して取引の対象となし得ること,すなわち,「商品化」を完了した物品であると解するのが相当であり,当該物品が販売されているまでの必要はないものと解される。このように解さないと,開発,商品化は完了したものの,販売される前に他者に当該物品の形態を模倣され先行して販売された場合,開発,商品化を行った者の物品が未だ「他人の商品」でなかったことを理由として,模倣者は,開発,商品化のための資金又は労力を投下することなく,模倣品を自由に販売することができることになってしまう。このような事態は,開発,商品化を行った者の競争上の地位を危うくさせるものであって,これに対して何らの保護も付与しないことは,上記不正競争防止法の趣旨に大きくもとるものである。
  もっとも,不正競争防止法は,事業者間の公正な競争を確保することによって事業者の営業上の利益を保護するものであるから(同法3条,4条参照),取引の対象とし得る商品化は,客観的に確認できるものであって,かつ,販売に向けたものであるべきであり,量産品製造又は量産態勢の整備をする段階に至っているまでの必要はないとしても,商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており,かつ,それが外見的に明らかになっている必要があると解される。
以上を前提に控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が,「他人の商品」であるか否かを検討する。

  (2)控訴人加湿器1について
  控訴人らは,平成23年11月,商品展示会に控訴人加湿器1を出展している。商品展示会は,商品を陳列して,商品の宣伝,紹介を行い,商品の販売又は商品取引の相手を探す機会を提供する場なのであるから,商品展示会に出展された商品は,特段の事情のない限り,開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものと認めるのが相当である。なお,上記商品展示会において撮影された写真(甲3の2,25)には,水の入ったガラスコップに入れられた控訴人加湿器1の上部から蒸気が噴き出していることが明瞭に写されているから,控訴人加湿器1が,上記商品展示会に展示中,加湿器としての本来の機能を発揮していたことは明白である。ところで,前記第2,2(2)③のとおり,控訴人加湿器1は,被覆されていない銅線によって超音波振動子に電力が供給されており,この形態そのままで販売されるものでないことは明らかである。
  しかしながら,商品としてのモデルが完成したとしても,販売に当たっては,量産化などのために,それに適した形態への多少の改変が必要となるのは通常のことと考えられ,事後的にそのような改変の余地があるからといって,当該モデルが販売可能な段階に至っているとの結果を左右するものではない。上記のような控訴人加湿器1の被覆されていない銅線を,被覆されたコード線などに置き換えて超音波振動子に電源を供給するようにすること自体,事業者にとってみれば極めて容易なことと考えられるところ,控訴人加湿器1は,外部のUSBケーブルの先に銅線を接続して,その銅線をキャップ部の中に引きこんでいたものであるから(甲24),商品化のために置換えが必要となるのは,この銅線から超音波振動子までの間だけである。そして,実際に市販に供された控訴人加湿器3の電源供給態様をみると,USBケーブル自体が,キャップ部の小孔からキャップ部内側に導かれ,中子に設けられた切り欠きと嵌合するケーブル保護部の中を通って,超音波振動子と接続されているという簡易な構造で置換えがされていることが認められるから(乙イ4,弁論の全趣旨),控訴人加湿器1についても,このように容易に電源供給態様を置き換えられることは明らかである。そうすると,控訴人加湿器1が,被覆されていない銅線によって電源を供給されていることは,控訴人加湿器1が販売可能な段階に至っていると認めることを妨げるものではない。
  以上からすると,控訴人加湿器1は,「他人の商品」に該当するものと認められる。

  (3)控訴人加湿器2について
  控訴人加湿器2は,控訴人加湿器1よりもやや全長が短く,円筒部が,控訴人加湿器1よりもわずかに太いという差異があるほかは,控訴人加湿器1と同様の形態を有するところ,実質的に同一の形態を有する控訴人加湿器1が「他人の商品」である以上,その後に開発され,国際見本市に出展された控訴人加湿器2が,販売可能な状態に至ったことが外見的に明らかなものであることは,当然である。
  したがって,控訴人加湿器2は,「他人の商品」に該当するものと認められる。

  (4)被控訴人の主張について
  被控訴人は,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が未完成であり,また,商品化する具体的な開発についても未着手の状態である,そもそも,電源の供給方法も定まっておらず商品として販売できないものであるなど,るる主張する。
  しかしながら,上記(2)にて説示のとおり,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,そのままの形態で販売することが想定されておらず,電源供給部分の具体的な形状についての改変は必要であるとしても,商品化は完了しているといえ,未完成であるわけではない。その電源供給の具体的手段について将来的な変更の余地はあったとしても,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2自体は,実際の形態どおりに外部電源を引きこむものとして確定している。
  そして,控訴人X1は,平成24年7月,雑貨店の店舗経営等を業とするスタイリングライフにおいて商品仕入れを担当しているA(A)から,メールにて,控訴人加湿器2の製品化の具体的な日程を問い合わせられた際,Aに対し,次のようなメールを返信している(甲7)。
「 『Stick Humidifier』の製品化につきましては,具体的な日程は決まっておりません。製品化のお話はいくつかのメーカーさんから頂いてはおりますが,我々の考えと合致するパートナーさんが見つかっておらず,開発がやや順延しているのが現状です。購入や買い付けに関する問い合わせを多数頂いている故,1日も早く開発を行いたいところです。」上記記載の「製品化」は,量産のことを意味していることは明らかであり,「開発」はそれに応じた設計変更をいうものと解され,上記記載が,控訴人加湿器2や控訴人加湿器1が未完成で販売可能な状態ではないことをいう趣旨とは解されない。いったん商品化が完了した商品について,販売相手に応じて更なる改良の余地があったとか,その意図を有していたからといって,遡って,当該商品が商品化未了となるものではない。上記メールの内容は,控訴人加湿器1が商品化されていないことを裏付けるものではない。

  (5)小括
  以上のとおりであって,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,いずれも,「他人の商品」に該当する。

2 争点(1)イ(形態の模倣の有無)について
  被控訴人商品と控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2は,実質的に同一の形態を有するものであるところ,リング状の部分の配置や電源の供給箇所をリング状の部分にしたことなども含めて,両者がこのように同一性を有する形態になっていることは,これらが商品の機能を確保するための不可欠な形態の選択ではない以上,単なる偶然の一致では合理的に説明できない。そして,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,いずれも,被控訴人商品の輸入前に国際展示会又は国際見本市に出展されていたほか,控訴人らのホームページにも,控訴人加湿器2の写真,すなわち,控訴人加湿器1と実質的に同一の形態を表示する写真が掲載されており,海外を含めて多数の者が,容易に控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を知り得たものである。
  そうすると,被控訴人商品は,控訴人加湿器1の形態,又は,これと実質的に同一の控訴人加湿器2の形態に依拠したものと推認することができる。なお,商品の形態において選択の幅があることを理由に依拠性を肯定したからといって,当然には,個性を発揮できるほどに選択の幅があって著作物性を肯定できるわけではない(後述)。なぜなら,前者における選択には,個性を発揮するほどには至らないありふれた形態の選択も含まれるからである。

 (3) 小括
  以上から,被控訴人商品は,控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2のいずれか,又は双方を模倣したものであると認められる。

3 争点(1)ウ(保護期間終了の成否)について
  (1)認定
  不正競争防止法は,「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」については,当該商品を譲渡等する行為が形態模倣にはならないと定め,「他人の商品」の保護期間の終期を定める(同法19条1項5号イ)。
この規定の趣旨は,形態模倣が,先行開発者に投下資本の回収の機会を提供するものである一方,形態模倣が,商品形態の創作的価値の有無を問うことなく模倣商品の譲渡等を禁止していることから,禁止期間が長期にわたった場合には,知的創作に関する知的財産法が厳格な保護要件を設けている趣旨を没却しかねず,また,後行開発者の同種商品の開発意欲を過度に抑制してしまうことから,両者のバランスをとって,先行開発者が投下資本の回収を終了し通常期待し得る利益を上げられる期間として定められたものであると認められる。
  このような保護期間の終期が定められた趣旨にかんがみると,保護期間の始期は,開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時であると認めるのが相当である。なぜなら,この時から,先行開発者は,投下資本回収を開始することができ得るからである。
  また,「他人の商品」とは,保護を求める商品形態を具備した最初の商品を意味するものであり,このような商品形態を具備しつつ,若干の変更を加えた後続商品を意味するものではない。そうすると,控訴人加湿器1は,控訴人加湿器2に先行して開発,商品化されたものであり,控訴人加湿器1と控訴人加湿器2の形状は,実質的に同一の商品であるから,保護期間は,控訴人加湿器1を基準として算定すべきである。
  以上を前提に検討すると,上記1(2)に説示のとおり,商品展示会に出展された商品は,特段の事情のない限り,開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった物品であるから,保護期間の始期は,平成23年11月1日に控訴人らが商品展示会に控訴人加湿器1を出展した時と認めるのが相当であり,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
  したがって,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2の形態の保護期間は,いずれも,本件口頭弁論終結日の前の平成26年11月1日の経過により終了している。

  (2)控訴人らの主張について
  控訴人らは,不正競争防止法19条1項5号イの「最初に販売された日」とは,商品として市場に出された日をいうから,保護期間の終期は,控訴人加湿器3の販売が開始された平成27年1月5日から3年が経過した日であると主張する。
  しかしながら,上記「最初に販売された日」は,規定の趣旨からみて,実際に商品として販売された場合のみならず,見本市に出す等の宣伝広告活動を開始した時を含むことは,立法者意思から明らかであるから,商品の販売が可能となった状態が外見的に明らかとなった時をも含むと解するのが相当である。このように解さないと,商品の販売が可能になったものの実際の販売開始が遅れると,開発,商品化を行った者は,実質的に3年を超える保護期間を享受できることになってしまうが,これは,知的創作に関する知的財産法との均衡,先行開発者と後行開発者の利害対立などの調整として,保護期間を3年に限定した形態模倣の趣旨に合致しない。
  したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

  (3)小括
  以上のとおりであるから,保護期間は,平成26年11月1日の経過により終了した。

4 争点(1)エ(善意無重過失の有無)
  不正競争防止法2条1項3号の形態模倣行為が,同法19条1項5号ロの事由により不正競争に当たらないとする場合には,侵害者において,同法19条1項5号ロの該当事由,すなわち,譲受時に形態模倣商品が他人の商品を模倣したものであることについて善意無重過失であることを主張立証しなければならない。
  被控訴人は,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が市場に流通していなかったから,被控訴人は善意無重過失であると主張する。
  しかしながら,・・・同業者において控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を現に知っていた者があるというのであるから,控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態は容易に知り得たといえ,控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2が市場に流通していなかったことは,善意無重過失を基礎付ける事情としては不十分なものである。そのほか,被控訴人は,被控訴人商品の輸入の際の具体的な事情や自らの商品市場調査の有無など善意無重過失を基礎付ける事実について何ら主張立証をしていないから,被控訴人が被控訴人商品を輸入した時点において善意無重過失であったとは,認めるに足りない。
  したがって,被控訴人の善意無重過失の主張は,採用することができない。

5 争点(2)ア(控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2の著作物性の有無)について
  (1)応用美術と著作物性について
  著作権法2条1項1号は,著作物の意義につき,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており,そして,ここで「創作的に表現したもの」とは,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の何らかの個性が発揮されたものをいうと解される。
  控訴人らは,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が,加湿という実用に供されることを目的とするものであることを前提として,その著作物性を主張する(著作権法10条1項4号)から,本件は,いわゆる応用美術の著作物性が問題となる。
  ところで,著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また,応用美術には,様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,作成者の個性の発揮のされ方も個別具体的なものと考えられる。
  そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべきである。
  もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却されたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解し難い。
  また,著作権法は,表現を保護するものであり,アイディアそれ自体を保護するものではないから,単に着想に独創性があったとしても,その着想が表現に独創性を持って顕れなければ,個性が発揮されたものとはいえない。このことは,応用美術の著作物性を検討する際にも,当然にあてはまるものである。
  以上を前提に,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2の著作物性を判断する。

  (2)著作物性について
  ア 検討
  控訴人加湿器1についてみると,控訴人加湿器1は,加湿器を試験管様のスティック状のものとし(さらに,下端は半球状とし,上端にはフランジ部を形成する。),本体の下端寄りの位置に吸水口を設け,キャップの上端の噴霧口から蒸気を噴出するようにしたものであり,水の入ったコップ等に挿して使用することにより,ビーカーに入れた試験管から蒸気が噴き出す様子を擬するようにしたものである。この観点からみると,リング状パーツ5は,試験管に入った液体の上面を模したものとも理解され,このような構成自体は,従来の加湿器にはなかった外観を形成するものといえる。しかしながら,前述のとおり,著作権法は,表現を保護するものであって,アイディアを保護するものではないから,その表現に個性が顕れなければ,著作物とは認められない。加湿器をビーカーに入れた試験管から蒸気が噴き出す様子を擬したものにしようとすることは,アイディアにすぎず,それ自体は,仮に独創的であるとしても,著作権法が保護するものではない。そして,ビーカーに入れた試験管から蒸気が噴き出す様子を擬した加湿器を制作しようとすれば,ほぼ必然的に控訴人加湿器1のような全体的形状になるのであり,これは,アイディアをそのまま具現したものにすぎない。また,控訴人加湿器1の具体的形状,すなわち,キャップ3の長さと本体の長さの比(試験管内の液体の上面),本体2の直径とキャップ3の上端から本体2の下端までの長さの比(試験管の太さ)は,通常の試験管が有する形態を模したものであって,従前から知られていた試験管同様に,ありふれた形態であり,上記長さと太さの具体的比率も,既存の試験管の中からの適宜の選択にすぎないのであって,個性が発揮されたものとはいえない。
  したがって,著作物性を検討する余地があるのは,上記構成以外の点,すなわち,①リング状パーツ5を用いたこと,②吸水口6の形状,③噴霧口7周辺の形状であるが,いずれも,平凡な表現手法又は形状であって,個性が顕れているとまでは認められず,その余の部分も同様である。
  したがって,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2には,著作権法における個性の発揮を認めることはできない。

  イ 控訴人らの主張について
  控訴人らは,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,①コップ等に入れて使用する試験管状のスティック形状からなる携帯用の加湿器であり,下端が半球状に構成され,その上の中心部分が円筒状に形成され,上端にフランジ部が形成されている点と②最上部よりやや下がった箇所に,リング状のパーツが組み込まれ,このリング状のパーツよりも上の部分は取外し可能となっている点に,特に,個性が発揮されていると主張する。
  しかしながら,リング状パーツ5よりも上の部分(キャップ3)が取外し可能となっているのは,吸水棒35の交換のためであると推認されるところ,吸水棒35を交換するためには,いずれかの部分が取外し可能でなければならないから,キャップ3を取外し可能としたのは,加湿器としての機能を発揮するために必要な構成にすぎず,また,取外し可能な箇所をキャップ3としたのは,ごくありきたりの箇所を選択したまでであって,いずれにせよ,個性を発揮する余地はない。リング状パーツ5よりも上の部分が取外し可能となっているとの点以外は,上記アにて説示したとおりである。
  したがって,上記控訴人らの主張は,採用することができない。

  (3)小括
  以上から,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,美的特性を備えるか否かを検討するまでもなく,著作物であるとは認められない。

第3 検討
 1 不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号における保護の始期について
 不競法第2条1項3号における保護は,「日本国内において最初に販売された日から起算して三年」(不競法19条1項5号イ)を経過するまでとされているが,その保護の始期は条文上明らかではない。この点について日本国内における販売開始が必要であるか否か,不要であるとしても,具体的にいつから保護が開始するのかについて複数の考え方があることは,本判決の原審(東京地裁平成28年1月14日平成27年(ワ)第7033号)に関する記事 にて記載したとおりである。
 この点について,本判決は「「商品化」を完了した物品」であれば「他人の商品」として保護され得るとしたうえで,「商品化」が完了したというためには,「商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており,かつ,それが外見的に明らかになっている必要」であって,「商品展示会に出展された商品は,特段の事情のない限り,開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものと認めるのが相当」と判示した。
そして,具体的な判断においては,「被覆されていない銅線によって超音波振動子に電力が供給されており,この形態そのままで販売されるものでない」という状態であっても,これを「被覆されたコード線などに置き換えて超音波振動子に電源を供給するようにすること自体,事業者にとってみれば極めて容易」である等として,「他人の商品」該当性を肯定した。当該判断は,電源供給部が未だ一般家庭等で容易に使用し得ないものであったこと等を重視して,「他人の商品」該当性を否定した原審の判断を覆したものである。
展示会に出展できる程度に完成していれば不競法2条1項3号により保護され得るとの判断は,今後の実務において参考になるだろう。

   2 不競法2条1項3号における保護の終期について
 不競法2条1項3号による保護は,「日本国内において最初に販売された日から起算して3年」に限って受けられる(不競法19条1項5号イ)。
 この点について,本判決は,保護の始期に関する「他人の商品」の解釈と同様に,「「日本国内において最初に販売された日」とは,「商品化」が完了した時期,すなわち「商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており,かつ,それが外見的に明らかになっている」時期であると判示した。
 当該判示については,「保護の開始時期と連動させようとしている節がある。」1 という指摘がなされている。たしかに保護の始期を実際の販売開始時期よりも前倒しにする以上は,保護の終期の起算点をもこれと同時期であると考えなければ,商品化から実際の販売開始までに相当期間が空いてしまったような商品について,3年を大幅に超える保護を与えることになってしまうというおそれがあるため,これらを連動させる必要があるようにも思われる。
 しかしながら,前掲田村善之「販売前の見本市出展段階の商品の形態の模倣に対して不正競争防止法2条1項3号の保護を肯定した知財高裁判決~知財高裁平成28年11月30日判決 スティック状加湿器事件~」は,「そのような本判決といえども、はっきり両者を連動しなければならないとまで明言したわけではない。商品の外観のデザインは仕上がっており、その意味でデッド・コピーし得る状態にまで仕上げてはいるものの、内部のたとえば外注している内部の部品やプログラムが仕上がるまでには至っておらず、販売まではまだ相応の期間を必要とするような場合があり得ることに鑑みると、デッド・コピーされ得る以上、2条1項3号の保護は開始すべきであるが、なお投下資本回収に着手し得るまでには間があるということで3年の期間はいまだ起算すべきではないという事例もあり得るように思われる」とも指摘もなされているところであって,このような事案についても保護の始期と終期が連動されるのかについては明らかでない。今後の裁判例の動向に注目したい。

 3 善意無重過失の転得者の適用除外について
 不競法2条1項3号に基づく責任(不競法4条の損害賠償責任等)は,形態模倣について善意無過失の転得者については免責されている(不競法19条1項5号ロ)。当該規定の趣旨は,「デッド・コピーをなした者の手を離れて商品が転々流通する場合,デッド・コピー商品であることについて善意無重過失で商品を取得した者の販売行為に対してまで差止請求をなしうるということとすると,取引の安全を害することとなる。商品開発者に登録による公示を要求することなく保護を付与していることに鑑みれば,このような善意の第三者の販売行為に対してまでは本制度による禁止は及ばないこととすべきであり,そこで,本号が設けられた。」 2等と説明されている。
 この点について,本件の被控訴人は「控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,市場に流通していなかったから,被控訴人が中国より被控訴人商品を輸入する時点では,被控訴人が,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2の形態を具体的に知ることは極めて困難である。」等として,自身が善意無重過失の転得者にあたると主張した。しかしながら,本判決は「同業者において控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を現に知っていた者がある」という事情を重視し,「控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2が市場に流通していなかったことは,善意無重過失を基礎付ける事情としては不十分」と判断した。市場に流通していない商品であっても,同業者が知っていた商品については,これを知り得ることができたということになるのであれば,現に市場に流通していた商品であって,これを同業者が知っているような事案では,善意無重過失であるとの判断がなされる可能性は相当程度低いように思われる 3。この点についても,今後の実務において参考になるだろう。

 4 応用美術の著作物性について
 本判決は,従前の裁判例とは異なり,いわゆるプロダクトデザインである椅子の形状に著作物性を認めた知財高判平成27年4月14日・平成26年(ネ)第10063号[TRIPP TRAPP]を担当された清水裁判長によるものであったため,著作物性判断についても注目したい。
 この点,本判決では,前掲[TRIPP TRAPP]とは異なり,「応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても」,「控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2は,美的特性を備えるか否かを検討するまでもなく,著作物であるとは認められない。」等と判示されており,応用美術については美的鑑賞性や美的特性が必要であるとする従来の裁判例に近しい判断がなされる可能性が示唆されているようにも思われる。もっとも,具体的判断は創作性についてしかなされていないため,引き続き今後の裁判例の動向に注目したい。
 なお,創作性を否定した具体的判断において,「通常の試験管が有する形態を模したものであって,従前から知られていた試験管同様に,ありふれた形態であり,上記長さと太さの具体的比率も,既存の試験管の中からの適宜の選択にすぎないのであって,個性が発揮されたものとはいえない。」と判示されていることにも注目したい。当該判示からは,少なくとも応用美術の著作物性が争点になった場合における,これを否定する側の立証活動として,加湿器のみならず,同種商品ではない形態にかかる証拠をも調査・提出し,「ありふれている」ということを立証することも有益であるといえるだろう。

以上

(文責)弁護士 山本 真祐子


  1田村善之「販売前の見本市出展段階の商品の形態の模倣に対して不正競争防止法2条1項3号の保護を肯定した知財高裁判決~知財高裁平成28年11月30日判決 スティック状加湿器事件~」(http://www.westlawjapan.com/column-law/2017/170110/
2 田村善之『不正競争法概説〔第2版〕』(有斐閣・2003年)308~309頁
 3 ただし,本件でいう「控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を現に知っていた」同業者とは,被控訴人の取引先会社において以前被控訴人との取引を担当していた者である。そうすると,「控訴人加湿器1又は控訴人加湿器2の形態を現に知っていた」同業者がこれほどに近しい人物ではなかった場合には,判断が変わり得る可能性もないとはいえないだろう。