【平成28年(行ケ)第10164号(知財高裁H29・1・24)】

【判旨】
 原告が、本件商標につき商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟であり、当該訴訟の請求が棄却されたものである。

【キーワード】
商標の類否判断、ゲンコツ,ゲンコツメンチ、商標法4条1項11号(商標の類否)

【手続の概要】 以下、本件の商標の混同のおそれ、類否判断に関する部分のみを引用する。

原告は,平成27年10月15日,特許庁に対し,本件商標が,指定商品「メンチカツを材料として用いたパン,メンチカツ入りのサンドイッチ,メンチカツ入りのハンバーガー,メンチカツ入り弁当,メンチカツ入りの調理済み丼物」について,商標法4条1項11号に該当するとして,その登録を無効とすることについて審判を請求した(無効2015-890083号)。
特許庁は,平成28年6月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月27日に原告に送達された。

 【問題となった商標】
1 本件商標

2 引用商標

【争点】
争点は,商標法4条1項11号該当性(商標の類否)である。

【判旨抜粋】
  1 類似性の判断基準
    商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民228号561頁参照。)。

  2 本件商標の外観,称呼及び観念
  (1) 外観,称呼
    本件商標は,「ゲンコツメンチ」と,標準文字である片仮名7文字を,一連に横
書きし,各文字は,同じ書体,大きさ及び間隔で,一体的に表記された外観を有しており,「ゲンコツメンチ」の称呼を生じる。
  (2) 観念
    「げんこつ」及び「メンチ」は,いずれも辞書に掲載された名詞であることから,本件商標の左側4文字である「ゲンコツ」の文字部分は,「にぎりこぶし。げんこ。」との観念を生じ(甲8),右側3文字の「メンチ」の文字部分は,「ミンチ」(甲5),すなわち,「細かく刻んだ肉。挽肉。」(広辞苑第6版)との観念を生じ得る。
    また,「げんこつ」や,その意味である「にぎりこぶし」,「拳(こぶし)」(広辞苑第6版)という語は,物の大きさや形状(平べったい形ではなく,丸みと厚みがある形)を表すために,用いられることがある(甲27~36,乙2)。さらに,「メンチ」は,挽肉を意味する語であり,一般に,挽肉は,生のままではなく,加熱調理などの加工をして食されるのが通常であって,挽肉を用いた料理のうち,「メンチ」の語を含む名称を有するものとしては,「挽肉にみじん切りにした玉葱などを加えて小判型などにまとめ,パン粉の衣をつけて油で揚げた料理」である「メンチカツ」(「ミンチカツ」ともいう。),「挽肉を丸め,油で揚げたり,煮たりした料理」である「メンチボール」(「ミートボール」,「ミンチボール」,「肉だんご」ともいう。)が挙げられる(甲5,広辞苑第6版)。したがって,「ゲンコツ」と「メンチ」が連続して記載されている本件商標の全体から,「にぎりこぶしのような大きさで,丸みと厚みがある形状の,挽肉を原材料とした加工食品」という観念が生じ得る。そうすると,本件商標から特定の観念が生じない旨の審決の判断は,誤っている。

  3 引用商標の外観,称呼及び観念
    引用商標は,「ゲンコツ」を標準文字で一連に横書きしたものであって,各文字は,同じ書体,大きさ及び間隔で,一体的に表記されており,「ゲンコツ」の称呼を生じ,「げんこつ」,「にぎりこぶし」,「拳(こぶし)」の観念を生じる。

  4 取引の実情
    (中略)

  5 本件商標と引用商標の類比
  (1)ア 本件商標と引用商標は,右側部分における「メンチ」の文字の有無という相違があり,外観において相違する。
  イ 本件商標は,「ゲンコツメンチ」の称呼を生じるのに対し,引用商標は,「ゲンコツ」の称呼を生じるから,称呼において相違する。
  ウ 本件商標は,「にぎりこぶしのような大きさで,丸みと厚みがある形状の,挽肉を原材料とした加工食品」という観念を生じ得るのに対し,引用商標は,「にぎりこぶし」という観念を生じるのであって,観念において相違する。
  エ (中略)
前記認定事実によれば,メンチカツ,おにぎり,シュークリーム,ドーナツ,クリームパイ,パン及び唐揚げに,「ゲンコツ」又は「げんこつ」を含む標章が使用された例はあるが,いずれも,商品名としては,「ゲンコツ」又は「げんこつ」だけではなく,商品名(「おにぎり」,「ドーナツ」など)又はその一部(シュークリームの「シュー」,メンチカツ又はメンチボールの「メンチ」)も表示されていたことが認められる。
  (2) (中略)
    そうすると,メンチカツ同様に挽肉を使った料理である「ハンバーグ・ステーキ」(挽肉に刻んだ玉葱,パン粉,卵などを加え,平たい円形にまとめて焼いた料理)(広辞苑第6版)が「ハンバーグ」と表現されているのに対し,「メンチ」の語は,挽肉にみじん切りにした玉葱などを加えて小判型などにまとめ,パン粉の衣をつけて油で揚げた料理である「メンチカツ」を表す名詞として,全国の取引者,需用者に,それほど普及しているとはいえない。
    以上によれば,本件商標において,「ゲンコツ」の文字部分だけが,取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえないし,「メンチ」の文字部分からは,出所識別標識としての称呼,観念が生じないともいえない。
  (3) したがって,本件商標は,その外観,称呼及び観念のいずれの点においても,引用商標と相違し,取引の実情を考慮しても,引用商標とは類似しておらず,商標法4条1項11号に該当する商標ではない。

【解説】
 本件は、商標登録無効審判請求 1を不成立とした審決に対する取消訴訟である。
 商標法4条1項11号2 が問題となった事案である。
 裁判所は,最高裁の結合商標に係る規範を用いて,本件について判断しており,その判断は,妥当であると思料する。


1(商標登録の無効の審判)
第四十六条  商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において、商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては、指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。
一  その商標登録が第三条、第四条第一項、第七条の二第一項、第八条第一項、第二項若しくは第五項、第五十一条第二項(第五十二条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十三条第二項又は第七十七条第三項において準用する特許法第二十五条 の規定に違反してされたとき。
(下線は、筆者が付した。)
2 (商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十一   当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

 本件において、原告は、「ゲンコツ」の部分にのみ自他商品識別標識としての機能が認められる旨主張した。
 しかしながら,裁判所は、本件商標が標準文字商標であり,外観上「ゲンコツ」と「メンチ」の間に区別がない旨述べて,原告の主張を退けた。
 本件は、事例判断ではあるが、実務上参考になると思われる。

以上

(文責)弁護士 宅間 仁志