【令和3年7月29日(大阪地裁 平成31年(ワ)第3368号、令和元年(ワ)第8944号)】

【要約】
 原告と被告会社のいずれに著作権が帰属するかが問題となった。著作物の成立後、著作権が原告に帰属した。原告と被告会社の間で、被告会社の著作権を認める契約があるが、当該契約は、利益相反取引であり無効である。
【キーワード】
 著作権、著作物、帰属、利益相反取引

1 事案

 原告:被告P1及びP2を株主として設立された。その後P3も株主になった。
 P3:原告の設立時及びその後一時期原告の代表取締役を務めていた。また、被告会社の取締役を一時期務めていた。
 P2:原告の設立時及びその後一時期原告の代表取締役を務めていた。
 被告P1:原告の設立時から長期にわたって(平成29年8月まで)原告の代表取締役を務めていた。被告会社の設立時から、概ね一貫して被告会社の代表取締役を務めている。
 被告会社:原告の設立後、被告P1及びP3を株主として設立された。被告会社の設立時から、被告P1が概ね一貫して代表取締役を務めている。

 ・本件ソフトウェアは、UnixをOSとする段ボール生産総合管理システム「UniCAIS」のOSをWindowsに変更するなどの改変をして創作された二次的著作物である。
 ・被告P1及びP2は、本件ソフトウェアの新規作成部分の完成に創作的に寄与した。
 ・P3、被告P1及びP2は、本件ソフトウェアの製造販売を中心とする事業を共同で展開する一環として、それぞれ本件ソフトウェアの開発に関与した。また、開発された本件ソフトウェアの著作権(「本件著作権」)の帰属について、三者間の合意に関する客観的な証拠はない。
 ・被告会社と原告で締結された本件ソフトウェアの販売に関する契約(「本件販売契約」)の契約書には、本件著作権が被告会社に帰属すること、被告会社は原告が本件ソフトウェアのプログラムを改造することを許諾すること、原告が被告会社からライセンスを購入することにより本件ソフトウェアの販売を行うことができること等が規定されている。

 本訴における原告の主張の概要は、以下のとおりである。
 ・本件著作権は、原告(株式会社)に帰属している。
 ・当時原告代表者であった被告P1は、任務に違反し、被告会社と共謀して被告会社にライセンス料名目で1490万8300円を支払った(本件著作権が原告に帰属しているにもかかわらず、被告会社に帰属しているとして支払った)。
 ・上記の支払により、原告は同額の損害を被った。
 ・本件販売契約は、被告P1が原告及び被告会社のそれぞれの代表取締役として双方を代表して締結したものであり利益相反取引に当たるが、原告の株主総会の承認を得ていないから無効である。
 そこで、原告は、被告に対し、1490万8300円及び遅延損害金の支払と、原告が本件著作権を有することの確認を請求した。

 被告は、以下の理由により本件著作権が被告に帰属すると主張した。
 ・本件ソフトウェアの本質的特徴部分(段ボールの貼合及び製函)は全て被告P1が作成したものであるから、本件著作権は、当初、被告P1に帰属した。
 ・被告P1は、被告会社の設立に伴い、本件著作権を被告会社に譲渡した。
 ・被告P1以外の原告の株主(P3及びP2)は、本件販売契約について少なくとも事後的に同意したから、本件販売契約は有効である。
 また、反訴において、被告(反訴原告)は、原告・被告間における上記の本件ソフトウェアのライセンス契約に基づき、未払ライセンス料596万4187円及び遅延損害金の支払を請求した。

2 判決

⑴ 本件著作権の帰属
 P3、被告P1及びP2は、本件ソフトウェアの開発における実際の作業分担にかかわりなく、本件ソフトウェアの製造販売を中心とする事業の主体として後に設立予定の法人(原告)に本件著作権を帰属させる意思の下に、本件ソフトウェアの開発作業を行ったと見るのが相当である。
 被告らは、本件ソフトウェアの本質的特徴部分を全て被告P1が作成したなどとして、本件著作権は被告P1に帰属した旨主張するが、本件ソフトウェアはそれ以外にも多様な機能を有するものであり、ソフトウェアとしてはこれらの他の機能も存在してこそ成立し得るものである以上、仮に本質的特徴部分を全て被告P1が作成したとしても、そのことをもって直ちに本件著作権を被告P1が単独で有すると認めることはできない。
 なお、原告は、P3(の個人事業)の発意に基づき、その業務に従事する被告P1及びP2が職務上作成したとして、P3を著作者として本件著作権が発生したとも主張したが、P3、被告P1及びP2は共同で事業を行う関係にあり、被告P1及びP2がP3の業務に従事するという関係にはなかったというべきである。

⑵ 利益相反取引
 本件販売契約の締結に当たり、被告P1が原告の株主総会において重要な事実を開示し、承認を受けたとは認められず、本件販売契約は無効である。また、少なくともP2が本件販売契約の締結につき事後的に同意したとは認められない。

3 検討

 本判決は、被告P1及びP2が本件ソフトウェアの新規作成部分の完成に創作的に寄与したという事実認定の下、まず、本件ソフトウェアの開発に関与したP3、被告P1及びP2の間で本件著作権の帰属に関する合意が認められないことを認定している。そうすると、原告設立の経緯等から、本件ソフトウェアの製造販売を中心とする事業の主体として後に設立予定の法人(原告)に本件著作権を帰属させる意思が認められるから、本件著作権の成立後すぐに原告に本件著作権が帰属したことになる。これが、本判決の1つ目のポイントである。
 原告と被告会社の間で締結された本件販売契約において、本件著作権が被告会社に帰属するとされていることが目を引くところであり、この内容と異なる結論が導かれた点が注目すべきところである。可能性としては、本件著作権が原告に帰属することなく(被告P1を介して)被告会社に帰属するという構成も、本件著作権が原告に帰属した後に本件販売契約により被告会社に移転するという構成もあり得るが、本件販売契約が利益相反取引に当たり無効であるという点が本判決の2つ目のポイントである。
 1つ目のポイントにおいて、本件著作権がまず原告に帰属したと判断されたことから、2つ目のポイントとして本件販売契約が利益相反取引に当たり無効であるため、本件著作権は原告に帰属しているとの判断がなされた。
 被告会社の立場から考えると、原告との契約書において、被告会社に本件著作権が帰属することを確認する条項を入れていたのに、本件著作権が認められない不本意な結果となっている。契約実務において、利益相反取引に当たる場合に適式な手続を行うべきことはもちろんであるが、著作権の帰属について、単に帰属を「確認」するという規定でよいのか、相手方に著作権が帰属していて譲渡を受けなければならないのかについても、検討する必要があるであろう。仮に利益相反取引の問題が解消されていたとしても、著作権の譲渡を伴うのであれば、合理的な対価が支払われているか等の事情が裏付けとして考慮されると思われる。

以上

弁護士 後藤直之