【令和7年12月11日(大阪地裁 令和6年(ワ)第12861号)】

第1 事案の概要

原告(株式会社千鳥屋宗家)及び被告(株式会社千鳥饅頭総本舗)は、いずれも菓子の製造販売等を営む会社であり、いわゆる「千鳥屋」の屋号で展開されてきた饅頭等の製造販売業に由来する。

本件では、被告が大阪府・兵庫県・京都府・滋賀県・和歌山県において、菓子に「千鳥屋」の表示(本件商品等表示)を使用し、当該表示を付した菓子を販売等する行為が、不正競争防止法2条1項1号に該当するとして、原告が差止め及び損害賠償を求めた事案である。

争点は、近畿地方における本件商品等表示の原告表示としての周知性、被告の使用が被告商標権の行使として許容されるか、権利濫用の成否、消滅時効、損害額であった。

 

第2 裁判所の判断

裁判所は、不競法2条1項1号の成否の前提として、まず争点1である本件商品等表示が、原告の商品等表示として近畿地方において周知であるかを判断対象とし、これを否定した。その結果、他の争点(商標権行使の許容性、権利濫用、時効、損害)に立ち入るまでもなく、請求はいずれも理由がないとして棄却した。

周知性判断にあたり、裁判所は、証拠及び弁論の全趣旨を総合し、まず「千鳥屋」屋号の歴史的展開として、本件事業が「千鳥屋」の屋号で営まれ、北九州へ拡大し、昭和39年に東京支店、昭和48年に大阪支店が設けられるなどして各地に展開した経緯を前提事実として押さえた。また、原告については、昭和61年に「株式会社千鳥屋」として設立され近畿地方における本件事業を担うこととなり、平成20年に「株式会社千鳥屋宗家」へ商号変更したこと、そして原告の店舗表示や媒体上の表示態様として「千鳥屋」と「千鳥屋宗家」が混在して用いられていること、加えて「創業寛永七年」「大阪本店」等の表現を伴うことが多いこと等を認定した。さらに、第三者情報として、ウィキペディアには「千鳥屋」が「製菓業者グループが用いる和菓子店の屋号」と説明され、原告・被告を含む複数社が「千鳥屋」を屋号として運営する企業として紹介されていることも認定した。

以上の認定を踏まえ、裁判所は、需要者の認識の対象が原告単独に収斂しているかという観点から周知性を検討した。その際、本件事業が共通の系譜を有し、複数主体が「千鳥屋」表示を各地で用いてきたという構造、及び原告自身も本件事業との連続性を営業上の説明・表示に取り込んでいるという事情を重視し、近畿地方においても「千鳥屋」が原告の出所表示として一義的に機能しているとはいえないと評価した。すなわち、裁判所は「本件商品等表示は、近畿地方においても、本件事業ないし本件事業に由来する被告の事業と区分された、専ら原告の商品等表示として機能するものとは認め難い。」と判示し、表示の単一出所性を否定する方向で整理している。

この判断枠組みに基づき、裁判所は本件商品等表示の原告表示としての周知性を結論として否定し、「以上によると、本件商品等表示は、原告の商品等表示として、需要者の間に広く認識されているとは認められず、争点1に関する原告の主張は、理由がない。」と小括した。

そして、周知性が否定される以上、不競法2条1項1号を前提とする差止め及び損害賠償は成り立たないとして、裁判所は、請求を棄却した。

 

第3 コメント

本判決は、周知表示混同惹起(不競法2条1項1号)における「周知性」を、単なる知名度ではなく、需要者が当該表示を、特定の事業者の出所表示として把握しているかという機能面から厳格に判断した点で参考になる。すなわち、同一の歴史的系譜を共有する複数主体が同一又は近似の屋号を並行して用いてきた場合、表示は、特定の一社ではなく、系譜に由来する事業の総体を想起させ得るとして、当該表示が原告固有の出所表示として一義的に機能するとの評価を否定し得る枠組みを示したといえる。

また、原告側の表示運用として「千鳥屋」と「千鳥屋宗家」の混在や系譜性を強調する表現が見られることが、単一出所性の評価を弱め得る点も参考になる。周知性の立証は、広告宣伝等の量的事情に加え、表示の一貫性と、需要者が誰の出所を想起するかという質的事情の積み上げが重要であり、共通系譜型の紛争では、より識別力の高い複合表示(会社名・付加語・ロゴ態様等)を統一的に使用し、その周知性を蓄積する戦略が現実的である。

弁護士 多良翔理