【令和7年11月17日(知財高裁 令和6年(行ケ)第10104号)】

◆争点:

・登録商標「COSME MUSEUM」について商標法4条1項11号に基づく無効理由があるか(特に、上記登録商標と後述する引用商標とが類似するかどうか。)。

【キーワード】

 商標法第4条第1項第11号/商標法第46条第1項第1号/商標の類否

1 事案の概要

①前提:

・本訴で有効性が争われた被告の登録商標(登録番号第6746429号、以下「本件商標」ともいう。)は以下のとおりである。

商標の構成

役務の区分及び指定役務(一部抜粋)

第35類 化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

 

・本訴において、原告が本件商標に係る商標登録の無効理由として引用した商標(登録番号第6717335号、以下「引用商標」ともいう。)は以下のとおりである。

商標の構成

Cosmetic Museum(標準文字)

商品の区分及び指定商品

第3類  口臭用消臭剤、動物用防臭剤、せっけん類、歯磨き、入浴剤(医療用のものを除く。)、化粧品、香料、薫料、つけづめ、つけまつ毛

 

②経緯:

  原告は、本訴に先立って、特許庁に対して本件商標についての商標登録無効審判(以下「本件審判」という。)を請求したが、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をした。

  本件審決では、本件商標が一体的な構成及び称呼を有し、本件商標に接する需要者は、「COSME MUSEUM」の構成文字全体で一体のものとして認識することを前提として、本件商標と引用商標とが、非類似であると認定された。その上で、本件審決では、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、本件商標の指定役務が、引用商標の指定商品と類似する役務を含むものであるとしても、本件商標は、商標法4条1項11号に該当しないと判断された。

  原告は、上記本件審決の取消しを求めて本訴を提起した。

 

2 裁判所の判断

(※下線は筆者が付した)

 1 判断基準

 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品又は役務の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)

 そして、商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁昭和34年(オ)第856号同36年6月23日第二小法廷判決・民集15巻6号1689頁参照)。

 また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁参照)。

 2 本件商標の構成等

  ⑴ 外観

 本件商標の構成は・・・「COSME」及び「MUSEUM」の欧文字(いずれも大文字)を同書体、同大で、「COSME」と「MUSEUM」との間におよそ半文字分の空白を空けるほかは等間隔で一列に横書きにしてなるものである。

  ⑵ 称呼

 「COSME」は、欧文字からなる語であるが、英語には該当する語がなく、その他の外国語であるとも認められない。そして、その文字の構成から「コスメ」の称呼が生じると理解することができる。

 「MUSEUM」は、英語で、「博物館、記念館、美術館、展示館」との意味を有する語であり(甲6の1)、我が国においても広く知られている単語であり、「ミュージアム」との称呼を生ずる。

 本件商標は、「COSME」と「MUSEUM」との間におよそ半文字分の空白があるが、それ以外は同書体、同大で一列に書かれていることから、その全体から「コスメミュージアム」の称呼が生ずるものと認められる。

  ⑶ 観念

 「COSME」は、前記⑵のとおり、「コスメ」の称呼を生じ、「コスメ」の語は、広辞苑第七版に掲載されていて、その意味は「コスメチックの略。化粧品全般を指す。」と説明されている(甲5の1)。なお、英語のtの文字を含む部分について、「チ」又は「ティ」と記載することは一般的であるから、上記の説明にある「コスメチック」の語が「コスメティック」とも表記される語であることは、一般に広く認識されているといえる。さらに、一般的な取引の実情として、化粧品を販売する複数の商品販売ウェブサイトで、当該ウェブサイトの名称として「COSME」、「Cosme」又は「cosme」の語を含むものが用いられていること(甲36、37、40~60、64。なお、甲40~60は、いずれも同じ「@cosme」のウェブサイトである。)、及び、このようなウェブサイトにおいて化粧品を「COSME」又は「Cosme」と表記しているものがあること(甲67、68)が認められる。そうすると、「COSME」の語が、「コスメ」を欧文字で表記したものであって、「化粧品」を意味する語又は「化粧品に関する」との意味を有する語であることは、一般的に認識されていると認められる。

 「MUSEUM」が、「博物館」、「美術館」などの意味を有する英語の単語であり、我が国においても広く知られていることは、前記⑵のとおりである。

 そうすると、本件商標からは、「COSME」と「MUSEUM」のそれぞれの観念が一連となって、「化粧品の博物館」ほどの観念が生じると認められる。

 3 引用商標の構成等

  ⑴ 外観

 引用商標の構成は、前記第2の1⑸アのとおりであり、「Cosmetic」の欧文字(Cは大文字でその余は小文字)と「Museum」の欧文字(Mは大文字でその余は小文字)を標準文字で、「Cosmetic」と「Museum」との間に1文字分の空白を空けて一列に横書きにしてなるものである。

  ⑵ 称呼

 「Cosmetic」は、「化粧品」、「化粧用の、美顔〔髪〕用の」などの意味を有する英語の単語であり(甲6の2)、我が国においても一般に知られており、我が国では、「コスメチック」又「コスメティック」との称呼を生じる。

 「MUSEUM」は、前記2⑵のとおり、「ミュージアム」との称呼を生ずる。

 引用商標は、「Cosmetic」と「Museum」との間に1文字分の空白があるが、それ以外は同書体、同大で一列に書かれていることから、その全体から「コスメチックミュージアム」又は「コスメティックミュージアム」の称呼が生ずるものと認められる。

  ⑶ 観念

 前記⑵のとおり、「Cosmetic」は、「化粧品」、「化粧用の、美顔〔髪〕用の」などの観念を生ずる。

 前記2⑵のとおり、「Museum」は、「博物館」、「美術館」などの観念を生ずる。

 そうすると、本件商標(※筆者注:原文ママ)からは、「Cosmetic」と「Museum」のそれぞれの観念が一連となって、「化粧品の博物館」ほどの観念が生じると認められる。

 4 本件商標と引用商標の類否について

  ⑴ 外観の比較

 引用商標は標準文字であり、本件商標は標準文字ではないが、本件商標は文字に特段の装飾が施されているものではなく、特異な字体によるものでもないから、字体の相違は大きいものではない。

 本件商標は、「COSME」及び「MUSEUM」をいずれも大文字で、その間におよそ半文字分の空白を空けて記載したものであるのに対し、引用商標は、「Cosmetic」(Cは大文字でその余は小文字)と「Museum」(Mは大文字でその余は小文字)を、それらの間に1文字分の空白を空けて横書きにしてなるものであり、外観には相違がある。

 しかし、本件商標の構成のうち初めの5文字「COSME」と、引用商標の初めの8文字「Cosmetic」のうちの最初の5文字は、「tic」の有無の点で異なるが、冒頭のCが大文字である点で共通するほか、それに続く4文字は、大文字であるか小文字であるかの違いはあるものの、同じ文字である。しかも、本件商標の「COSME」は「コスメ」と称呼され、「コスメチック」又は「コスメティック」の略として知られており(前記2⑶)、それに相当する「Cosmetic」という語もよく知られているから(前記3⑵)、本件商標のうちの「COSME」は、引用商標にある「Cosmetic」という語の略と一般に認識されるものと認められる。他方、このような一般的な認識の存在にもかかわらず、「COSME」と「Cosmetic」が、混同等を生ずることなく別個の出所を示す表示として使用されているという取引の実情があることを認めるに足りる証拠はない。

 また、本件商標のうち後半の6文字の「MUSEUM」と引用商標の後半の6文字の「Museum」は、二文字目以降が大文字であるか小文字であるかの違いはあるものの、同じ文字である。

 これらの点を考慮すると、本件商標の外観と引用商標の外観との相違はそれほど大きくないものと認められる。

  ⑵ 称呼の比較

 本件商標全体から生じる称呼「コスメミュージアム」と、引用商標全体から生じる称呼「コスメチックミュージアム」又は「コスメティックミュージアム」とは、構成音及び構成音数が異なる。しかし、いずれの称呼にも、初めに「コスメ」が、後に「ミュージアム」が含まれており、異なる部分は、中間の「チック」又は「ティック」の有無であって、語感が大きく異なることはなく、構成音数の相違も大きなものではない。

 そうすると、本件商標の称呼と引用商標の称呼との相違はそれほど大きくないものと認められる。

  ⑶ 観念の比較

 本件商標全体からも、引用商標全体からも、「化粧品の博物館」ほどの観念が生じるから、本件商標全体から生じる観念と、引用商標全体から生じる観念は同一である。

  ⑷ 類否の判断

 本件商標と引用商標は、各商標の全体から生じる外観及び称呼は、異なるものではあるが、いずれもその相違は大きいものではなく、観念は同一であって、外観及び称呼の相違は、観念の同一性を凌駕するものではない。

 そうすると、時と所を異にして離隔的に観察した場合、本件商標と引用商標とは互いに紛れるおそれのある類似の商標であると認められる。

 5 本件商標の指定役務と引用商標の指定商品の類否について

 ・・・本件商標の指定役務には、第35類の「化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれる。

 引用商標の指定商品は、・・・第3類の「口臭用消臭剤、動物用防臭剤、せっけん類、歯磨き、入浴剤(医療用のものを除く。)、化粧品、香料、薫料、つけづめ、つけまつ毛」である。

 そして、本件商標の指定役務に含まれる「化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の「小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の対象商品である「化粧品・歯磨き及びせっけん類」と、引用商標の指定商品に含まれる「せっけん類、歯磨き」及び「化粧品」とは同一ないし類似するから、本件商標の指定役務は引用商標の指定商品と類似する役務である。

 したがって、本件商標の指定役務は、引用商標の指定商品と類似する。

 6 商標法4条1項11号該当性についての結論

 以上のとおり、本件商標は、他人の登録商標である引用商標と類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品に類似する役務について使用をするものであるから、商標法4条1項11号に該当する。

 7 被告の主張に対する判断

 被告は、前記第3〔被告の主張〕のとおり、本件商標及び引用商標以外の商標の登録の事実や、かかる商標登録に関する審決の判断等を挙げて、本件商標と引用商標は類似しないなどと主張する。

 しかし、商標登録の可否は、商標の構成、指定役務、取引の実情等を踏まえて、商標ごとに個別に判断されるものであって、本件商標及び引用商標以外の商標の登録の事実や、かかる商標登録に関する審決の判断をもって、直ちに本件商標と引用商標の類否の判断の根拠とすることはできない。被告は種々主張するが、その主張を参酌しても、上記1ないし6で説示した判断に反するところは、いずれも採用することができない。

 

3 コメント

 本訴における裁判所の判断は、本件審決とは結論を異にするものであるが、以下にコメントするとおり、本訴における裁判所の判断が妥当であると考える。

 

 本件審決では、特許庁の審判の合議体は下記のような認定をしている(※下線は筆者が付した)。

 

(1)本件商標

 本件商標は、・・・「COSME MUSEUM」の文字を横書きしてなるところ、構成中の「COSME」と「MUSEUM」の間に半角程度の間隔を設けながらも、同じ大きさ、同じ書体でまとまりよく一体的に表され、構成全体から生じる「コスメミュージアム」の称呼もよどみなく一連に称呼できる。

 そして、構成中の「COSME」の文字は、「コスメチックの略。化粧品全般を指す。」(広辞苑第七版 株式会社岩波書店)の意味を有する「コスメ」の語を欧文字表記したものと理解させ得るものであり、また、「MUSEUM」の文字は「博物館、美術館」(新英和中辞典第7版 株式会社研究社)の意味を有する語であるが、本件商標の上記のとおりの一体的な構成及び称呼からすれば、本件商標に接する需要者が、殊更「COSME」の文字を捨象して、「MUSEUM」の文字のみを認識するというよりはむしろ、「COSME MUSEUM」の構成文字全体で一体のものとして認識するというべきである。

 したがって、本件商標は、その構成文字全体に相応して「コスメミュージアム」の称呼を生じ、当該文字は辞書類に掲載のない語であり、特定の意味合いにおいて親しまれている語でもないことから、特定の観念を生じない。

(2)引用商標

 引用商標は、前記第2のとおり、「Cosmetic Museum」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「Cosmetic」と「Museum」の間に一文字分の間隔を設けながらも、同じ大きさ、同じ書体でまとまりよく一体的に表され、構成全体から生じる「コスメティックミュージアム」の称呼もよどみなく一連に称呼できる。

 そして、構成中の「Cosmetic」の文字は「化粧品、化粧用の」(新英和中辞典第7版 株式会社研究社)の意味を有し、「Museum」の文字は、上記(1)と同様に「博物館、美術館」の意味を有する語であるが、引用商標の上記のとおりの一体的な構成及び称呼からすれば、引用商標に接する需要者が、殊更「Cosmetic」の文字を捨象して、「Museum」の文字のみを認識するというよりはむしろ、「Cosmetic Museum」の構成文字全体で一体のものとして認識するというべきである。

 したがって、引用商標は、その構成文字に相応して「コスメティックミュージアム」の称呼を生じ、当該文字は辞書類に掲載のない語であり、特定の意味合いにおいて親しまれている語でもないことから、特定の観念を生じない。

 

 上記のとおり、本件審決では、「COSME MUSEUM」や「Cosmetic Museum」が、辞書類に掲載のない語であり、特定の意味合いにおいて親しまれている語でもないことから、特定の観念を生じないものと認定している。

 一方で、本訴における裁判所は、本件商標全体からも、引用商標全体からも、「化粧品の博物館」ほどの観念が生じるものと認定している。

 本件審決のような、辞書類に掲載のない語であるからという理由で、比較的一般的な二単語からなる複合名詞について特定の観念が生じないというのは、一般的な感覚からしても大いに違和感を覚えるところである(例えば、「リンゴ」と「農園」からなる「リンゴ農園」という語が辞書類に掲載されていなかったとしても、この語に特定の観念が生じないとされた場合、大いに違和感を覚えるであろう。)。

 本件は、商標を構成する各語が一般的な意味を有する場合に、その結合全体から観念が生じないとする判断が、需要者の認識実態と乖離し得ることを示した事例といえる。審査・審判実務においても、形式的な辞書掲載の有無にとどまらず、語の結合による意味理解の自然さを踏まえた判断が、より一層求められるであろう。

以上

弁護士・弁理士 高玉峻介