【令和元年5月30日判決(知的財産高等裁判所 平成30年(行ケ)第10176号)】

【キーワード】
商標法3条1項3号,同法4条1項16号

【判旨】
本件商標は,指定商品が再起動装置又は再起動機能を有する電源制御装置である場合は,商標法3条1項3号の商標に該当し,同機能を有さない電源制御装置である場合は,商標法4条1項16号の商標に該当する。

経緯

被告は,以下の商標(「本件商標」)の商標権者です。

1 登録商標 リブーター(標準文字)
2 登録番号 第5590686号
3 出願日 平成25年2月8日
4 査定日 平成25年5月27日
5 登録日 平成25年6月14日
6 指定商品
第9類「配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電気通信機械器具,測定機械器具,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電子応用機械器具及びその部品」

原告は,指定商品のうち「再起動器を含む電源制御装置」について本件商標の登録を無効とするとの審決を求めて審判請求(「本件審判」)をしたところ,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(「本件審決」)をしました。
本件は,この商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟であり,その争点は,商標法3条1項1号,3号又は4条1項16号該当性です。

判旨

1.商標法3条1項3号該当性
「「リブート」は,「reboot」という英語を片仮名で表した語であるところ,「reboot」は,再起動するという意味の動詞であり…,また,「リブート」は,コンピュータなどを再起動することを意味する語として,各種の用語辞典…に掲載されており,さらに,多くの雑誌やウェブサイト,さらには公開特許公報にも,上記の意味で使用されていることからすると,「リブート」という語は,再起動することを意味する普通名称である」。
「情報・通信の技術分野では,英語を片仮名で表した言葉が非常に多く存在すること,一般的に,英語の動詞の語尾に「er」,「or」等を付することにより,当該動詞が表す動作を行う装置等を意味する名詞となり,「エディタ」,「エンコーダ」,「カウンタ」,「デコーダ」,「プリンタ」,「プロセッサ」等,動詞を名詞化した語も多数存在することが認められるから,情報・通信の技術分野に属する者は,「リブーター」から,「reboot」の語尾に「er」を付した語である「rebooter」を容易に思い浮かべるものと認められる。」
「コンピュータやルーター等の機器を再起動する装置の需要があり,実際にそのような装置が販売されていることが認められるところ,…このような再起動装置を「リブーター」又は「リブータ」と呼ぶ例があることが認められる。これに対し,本件証拠上,「リブーター」の語が,他の意味を有するものとして使用されているという事実は認められない。」
「情報・通信の技術分野においては,英語を片仮名表記した場合は,語尾の長音符号を省く慣例があるものと認められるから,語尾の長音符号を有するか否かで別の語になるということはできず,上記の「リブータ」も「リブーター」も同一の語である」。
「以上からすると,情報・通信の技術分野においては,通常,「rebooter」及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解されるものというべきである。したがって,「リブーター」は,再起動装置の品質,用途を普通に用いられる方法で表示する語と認められるから,指定商品が再起動装置又は再起動機能を有する電源制御装置である場合は,本件商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきである。
一方,再起動機能を有さない電源制御装置が指定商品である場合は,本件商標は,同号の商標には該当しない。」

2.商標法4条1項16号該当性
「前記…のとおり,情報・通信の技術分野においては,通常,「rebooter」及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解されるところ,再起動機能を有さない電源制御装置に,「リブーター」という語を使用すると,需要者,取引者は,当該電源制御装置が再起動機能を有しているものと誤解するおそれがある」。
「したがって,指定商品が再起動機能を有さない電源制御装置である場合は,本件商標は,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり,商標法4条1項16号の商標に該当する」。

3.結論
 上記の結論として,本件審決は取り消されています。

4.説明
(1)商標法3条1項3号
 商標法3条1項3号は,次にように規定しています。

「(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
(一号から二号略)
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(以下略)」

 商標法3条1項3号に列挙されている品質等の表示は,取引上一般的に使用されることが多いため,自他商品・役務識別能力を有しません。また,取引上何人も使用する必要があるため特定人に独占を認めることは妥当ではありません。このため,同号に該当する商標は,登録を受けることができないとされています。誤って登録がされても,その登録商標は無効理由を有することとなるほか(同法46条1項1号),上記表示を普通に用いられる方法で表示する商標には商標権の効力は及ばないので(同法26条1項2号3号),商標権者の権利行使は制限されます [1] 。

(2)商標法4条1項16号
 商標法4条1項16号は,次にように規定しています。

「(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
(一号から十五号まで略)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標(以下略)」

 商標法4条1項16号は,商標によって,需要者が商品・役務の品質を誤認して商品を購入したり役務の提供を受けることがないように,需要者の保護を図る趣旨の規定です。同号に該当する商標であるか否かは,客観的事情から社会通念に従って判断されます。品質等の誤認を生ぜしめる主観的意思の存在は必要ありません。
 同号は,同法3条1項3号と密接な関係にある規定です。同号は,上述のとおり,特定の商品の品質等を表示する商標が該当するものです。そのような商標が当該特定の商品以外の商品に使用されると,その商品が当該特定の商品であるかのごとくその品質を誤認させるおそれがある場合,同法4条1項16号に該当します [2] 。

5.検討(本件審決と本判決の判断の分かれ目)
 本件審決と本判決の判断の分かれ目は,需要者や取引者における本件商標の理解に関する事実認定の内容です。
 例えば,本件審決では,「本件商標は,…既成の親しまれた意味合いを認識し得ないものであるから,…特定の観念を生じない一種の造語というべきもの」と認定しています。
 これに対し,本判決では,上記引用のとおり,「情報・通信の技術分野においては,通常,「rebooter」及びこれを片仮名で表した「リブーター」は,再起動をする装置と理解されるもの」と認定しています。
 上記のような事実認定は,各当事者から提出される証拠によって,その結論が決まります。この点から,商標法3条1項3号等への該当を理由に商標登録無効審判を請求する場合,事前に,その対象となる登録商標について,自己の主張を基礎づける証拠を収集しておくことの重要性が分かるといえます。

以上
(文責)弁護士 永島太郎


[1] 茶園成樹編「商標法」43頁
[2] 茶園成樹編「商標法」60~61頁