【東京地裁令和元年6月19日(平28(ワ)10264号・平28(ワ)22298号・著作権侵害差止等請求事件、損害賠償請求事件)】

【キーワード】
著作権法第61条2項,著作権法第28条,著作権譲渡契約,原著作者の権利,アニメ,漫画

事案の概要

(1)原告
 原告は,「板垣恵介」の筆名で活動する漫画家であり,「グラップラー刃牙」等の漫画(以下「本件漫画」という。)の著作者兼著作権者である。本件漫画は,格闘技を通じて少年の成長を描いた物語であり,著作物に該当する。

(2)被告
 被告は,アニメーションの企画と制作及び販売等を業とする株式会社であり,本件漫画を原作として翻案されたアニメ(以下「本件アニメ」という。)の著作権者である。なお,以下「FWD株式会社」「FWD」とある場合,被告を指す。

(3)契約
ア 本件アニメ化契約
 原告の窓口業務1を行っていた株式会社秋田書店(以下「秋田書店」という。)は,原告の同意を得て,平成12年9月22日,株式会社フリーウィル(以下「フリーウィル」という。)との間で,本件漫画をテレビ用アニメーションに翻案し,公衆送信することを使用許諾することなどを内容とする契約(以下「本件アニメ化契約」という。)を締結した。フリーウィルは,本件アニメ化契約に基づき本件アニメを制作し,平成13年中に全48話をテレビ放送した。原告は,平成14年9月頃,秋田書店との窓口業務の委託契約を終了し,フリーウィルとの間で,同社に窓口業務を委託する契約を締結した(以下「本件窓口契約」という。)。平成19年6月29日,被告が設立され,その後,フリーウィルから被告に対し,本件アニメの著作権,本件窓口契約における受託者の地位及びフリーウィルが本件窓口契約に基づき第三者との間で締結した各種の許諾契約における許諾者の地位が譲渡された。本件アニメ化契約には,以下の条項が置かれている(下線は筆者による)。
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柱書き
 株式会社秋田書店(以下『甲』という。)と株式会社フリーウィル(以下『乙』という。)は甲を著作権者板垣恵介及び著作物「グラップラー刃牙」及び同シリーズ「バキ」「外伝」(以下,本作品という)の正当なる著作権代行者として,テレビ用アニメーション化(以下,アニメ化,その作品を本アニメという)及び商品化について次の通り契約をする。
第2条(基本事項)
(1)~(3) 略
(4) 乙は本アニメの商品化において,試作品をすみやかに甲に提供し承認を受ける。
(5)  略
第3条(甲の権利)
(1) 本作品に関するすべての権利は,本契約によって乙に許諾される権利を除き甲に留保される。
(2) 甲は本アニメに関連する出版物(フィルムブック・ムック本等)の商品化権の第1次優先権を有し,商品化にあたっての条件等は甲乙での別途協議とする。
(3) 本作品はもとより本アニメに関しての表題及びキャラクター等に関する商標,意匠を含むすべての知的所有権を登録する権利は甲に専属し,乙は甲の文章による許諾なしにこれらの登録をすることができない。乙が甲の許諾を得てこれらの登録を行った場合でも,許諾時の特別の定めがない限り,本契約が満了あるいは解除になったときは,乙の名義で登録されているすべての知的所有権は無償で甲に移転するものとし,乙は乙の責任と費用でこの移転に必要な手続きをすみやかに行う。
第4条(乙の権利)
(1) 乙は本契約期間中,本作品を使用し,独占的にアニメ化を行うことができる。テレビアニメーション以外の劇場用,インターネット用等の別媒体向けの新たなアニメーション化を行う場合は乙が第1次優先権を有し,条件等については別途協議とする。
(2) 乙は本アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口として,これを管理し,行使する権利を有する。権利の行使にあたって,乙は甲と綿密な意思疎通を図るものとする。また,甲は第三者から本件商品化権についての問い合わせ,申し込み等を受けた場合は,本作品,本アニメのキャラクターの利用を問わず,すみやかにこれを乙に通知し,その取り扱いを甲乙協議のうえで決定する。
(3) 乙は本アニメの放送,再放送,上映,インターネット及びその他の通信手段を使用しての配信等を独占的に且つ自由に行うことができる。
(4) 本アニメに関連する商品化のために制作された原盤,原版,原型,本アニメの原画,フィルム及びデジタルデータ等一切の素材の所有権は乙に帰属する。
第6条(著作権)
(1) 本アニメの著作権に関しては甲,乙はそれぞれ原作権,出版権,商品化権(アニメーション化権含む)という同等の権利を有し,表記は以下の通りとする。
  1.著作権表記 (C)板垣恵介/秋田書店・フリーウィル
(2)(3) 略
第7条(対価)
(1) 乙は甲に対し,本作品のテレビアニメーション化の対価としてキャラクター使用料を本契約期間中,1テレビ放送作品に対し,50,000円(消費税別)を支払う(全48話予定)。但し,再放送及び2次使用に於ける放送,上映,配信等はこれを除く。
(2) 乙は甲に対し商品化において下記計算式に従い対価を支払う。
   (ア) ビデオグラム/第1条(5)(6)
  税抜販売価格×純売上本数×0.9(パッケージ控除10%)×1.75%
   (イ) 2次使用商品/第1条(3)(4)他,乙自身による商品化
  税抜販売価格×純売上本数×0.9(パッケージ控除10%)×3%×1/2(窓口手数料1/2)×2/3
   (ロ) 省略
(3)~(5) 省略
(6) 乙は,本契約の総合的対価として著作権者板垣恵介に製作協力費(監修費)金 500,000 円を甲を経由して支払う。
(7)以下 略
第9条(契約期間と地域)
(1) 本契約の有効期間は契約締結日より本アニメの最終話の放送日(再放送等は除く)以後5年間とする。
(2)(3) 略
第12条(契約の終了と解除後の処理)
(1) 略
(2) 本契約の終了及び途中解除の場合,それまでに商品化されたものについては,第7条に基づき対価を支払うことにより,発売元及び販売元,問屋,市中の在庫に限り販売を行なうことができる。
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イ 四者契約
 有限会社いたがきぐみ2,秋田書店,被告及びフリーウィルは,平成23年3月1日,同日以降は秋田書店と被告が共に窓口業務を行うことを確認することを主な内容とする契約(以下「四者契約」という。)を締結した。四社契約には,以下の条項が置かれている(下線は筆者による)。
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柱書き
 有限会社いたがきぐみを甲とし,株式会社秋田書店を乙とし,FWD株式会社を丙とし,株式会社フリーウィルを丁として,漫画家・板垣恵介(以下,「本著作権者」という。)の著作物である漫画作品「グラップラー刃牙」「バキ」「範馬刃牙」等(以下,「本著作物」という)の二次的利用にかかわる窓口業務を主題として以下のとおり約定する。
第3条(本契約の目的)
1  略
2  全当事者は,今後,新たな映像化,キャラクター商品化等を含む本著作物の二次的利用(ただし,出版及び電子書籍出版を含まない。以下同じ)のすべての窓口業務を乙および丙がそれぞれ行うことを確認する。案件ごとの窓口業務は,その案件を推進した当事者である乙または丙のどちらかが単独でおこない,本著作物の二次的利用を希望する第三者(以下,「二次的利用者」という)との契約にかかわる最終的な判断は甲により決定され,乙および丙はその決定にしたがわなくてはならない。
第4条(本窓口業務の運用)
1~3 略
4  本契約の主題にかかわる許諾の可否の最終判断は,すべて甲によって一元的におこなわれ,乙及び丙はその結論に従って二次的利用者との契約を締結し,乙及び丙において速やかに情報を共有する。
第6条(権利の帰属)
1  全当事者は,著作権者及び甲乙丙に帰属する権利が以下のとおりであることを確認する。
(1)  本著作権者・・・本著作物にかかわる著作権のすべて及び丁が製作したテレビ・アニメーションにおける原作者としての権利
(2)  略
(3)  丙・・・丁が甲より許諾を得て2001年に製作したテレビ・アニメーションにかかわる著作権
2  略
第10条(契約終了後の措置)
1  本契約期間の終了時に,乙または丙と二次的利用者との間の許諾契約が有効に存続している案件については,その許諾契約の有効期間にかぎり当該乙または丙が引き続き二次的利用の窓口業務を継続することができる。ただし,本契約が前条の契約解除により終了した場合の窓口業務については,甲,乙,及び丙が別途協議して定めるものとする。
2・3 略
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ウ 平成24年フィールズ契約
 被告は,原告の許諾を受けて,平成24年9月28日,フィールズ株式会社(以下「フィールズ」という。)との間で,フィールズが本件漫画及び本件アニメを翻案してぱちんこ遊技機及び回胴式遊技機に使用することを被告が許諾することを内容とする商品化権使用許諾契約(以下「平成24年フィールズ契約」という。)を締結し,ぱちんこ・パチスロ遊技機を,製造,販売させた。平成24年フィールズ契約には,以下の条項が置かれている(下線は筆者による)。
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第4条 (保証)
1  FWDは,本作品のうちアニメーション作品の著作権がFWDに,本作品のうちアニメーション作品の原著作権及び本作品のうち漫画作品の著作権が板垣恵介(以下「板垣氏」という。)に帰属することを表明する。なお,板垣氏保有の著作権について,FWDは,板垣氏からの委任により,当該板垣氏保有の著作権の代理行使を行うものである。
2~5 略
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(4)原告の主張3
 被告が原告の許諾を受けずに,(ⅰ)本件アニメを,自己又は第三者をして,配信し,DVDに複製して販売する行為,(ⅱ)本件アニメの静止画像並びにこれらの翻案物を,自己又は第三者をしてウェブサイトに掲載する行為,(ⅲ)本件アニメを翻案したぱちんこ・パチスロ遊技機を,第三者をして製造,販売する行為を行ったことが,原告の本件アニメについての原著作者の権利としての複製権,頒布権,送信可能化権を侵害すると主張し,被告に対し,上記(ⅰ)~(ⅲ)の行為の差止めを求めた。

(5)被告の主張
 本件アニメについての原著作者の権利は,本件アニメ化契約により原告からフリーウィルに譲渡され,被告に承継されたから,原告は本件アニメの原著作者の権利を有しておらず,原告の差止請求は理由がない。

争点

・本件アニメの原著作者の権利が,本件アニメ化契約により原告から譲渡されたか

判決一部抜粋(下線は筆者による。)

第1~第3 省略
第4 当裁判所の判断
1  争点1-1(本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたか)について
 本件アニメ化契約当時,本件アニメの原著作者の権利を原告が有していたことについては当事者間に争いがないところ,被告は,同契約により,本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたと主張するので,以下,検討する。
(1)  本件アニメ化契約は秋田書店とフリーウィルとの間で締結されたものであるが,秋田書店は当時原告のために窓口業務を行っており,同契約の効果は原告に帰属すると解されるところ,本件アニメ化契約・・には,原告がフリーウィルに対して本件アニメの原著作者の権利を譲渡する旨の明示的な条項は存在しない。著作権の一部を譲渡する契約において,譲渡の対象として原著作者の権利が特掲されていない場合には,原著作者の権利は著作権者に留保されたものと推定されるが(著作権法61条2項),本件アニメ化契約においても,原告がフリーウィルに本件アニメの原著作者の権利を譲渡する旨の明示的な規定は置かれていないので,本件アニメの原著作者の権利は原告に留保されていたと推定される。
(2)  以下のとおり,本件アニメ化契約の各条項を参酌しても,原告に本件アニメの原著作者の権利が留保されていたとの推定を覆すに足りる事情が存在するとは認められない。
ア 本件アニメ化契約3条(1)は,「本作品に関するすべての権利は,本契約によって乙(判決注:フリーウィル)に許諾される権利を除き甲(判決注:秋田書店)に留保される。」とした上で,同契約4条において,フリーウィルに付与された権利について規定しているが,同条は,①本件漫画をアニメ化する独占的な権利をフリーウィルに与えること(同条(1)),②フリーウィルが本件アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口としてこれを管理し,行使する権利を有すること(同条(2)),③本件アニメの放送,インターネット上での配信等の独占的な権利を付与すること(同条(3)),④本件アニメに関連する商品化のために制作された原盤,原画等の所有権がフリーウィルに帰属すること(同条(4))を規定しているにすぎず,同条の規定に基づき本件アニメの原著作者の権利がフリーウィルに譲渡されたと認めることはできない。
   これに対して,被告は,上記③及び④の権利については,「本契約期間中」との限定はされていない上,「独占的に且つ自由」又は「所有権」という文言が用いられているので,フリーウィルは,本件アニメについて,原著作者の権利を含めた完全な著作権の設定を受けたものであると主張する。
   しかし,本件アニメ化契約の有効期間については,同契約9条において,「本契約の有効期間は契約締結日より本アニメの最終話の放送日(再放送等は除く)以後5年間とする。」と規定されているのであるから,上記③及び④の権利のみが期限なく永続すると解することはできない。また,同契約4条(3)に基づいて「独占的に且つ自由」に行うことができるのは,本件アニメの放送等についてであり,「所有権」を有するのは本件アニメに関連する商品化のために制作された原盤等であるから,これらの文言をもって,被告が本件アニメの原著作者の権利を譲渡されたと認めることはできない。
イ 本件アニメ化契約6条(1)は,本件アニメの著作権に関して,原告の窓口である秋田書店及びフリーウィルが「それぞれ原作権,出版権,商品化権(アニメーション化権含む)という同等の権利を有」するとし,その表記を「(C)板垣恵介/秋田書店・フリーウィル」とする旨規定するところ,同条の趣旨は必ずしも明確ではないものの,いずれにしても,本件アニメの原著作者の権利を被告が有することを明示的に規定するものではなく,原告も「同等の権利を有」するとされていることに照らしても,原告がフリーウィルに対して本件アニメの原著作者の権利を譲渡したことの根拠となるものではないというべきである。
   これに対して,被告は,同項の規定は,フリーウィルに与えられたアニメーション化権が原著作者の権利を含むことを規定するものであると主張するが,同項はその文言に照らしても本件アニメの原著作者の権利の所在について規定するものではないというべきである。
ウ 本件アニメ化契約7条は,フリーウィルが原告に対して支払うべき対価として,①本件漫画のアニメ化の対価としての使用料(同条(1)),②商品化の対価(同条(2)),③本件アニメ化契約の総合的対価としての制作協力費(監修費)(同条(6))について規定しているが,本件アニメの原著作者の権利についての対価の規定は存在しない。
   この点について,被告は,上記③の規定に加え,本件アニメが放映されることによる宣伝効果,フリーウィルから原告に支払われたロイヤリティなどを総合すると,被告は,本件アニメの原著作者の権利の価値に相当する支払をしている旨主張するが,上記③の制作協力費をもって本件アニメの原著作者の権利の対価としての性格を有すると解することはできず,本件アニメ化契約には,他に本件アニメの原著作者の権利の対価に関する規定がない以上,同権利は譲渡の対象になっていなかったと解するのが相当である。
(3)  被告は,①本件アニメを制作するに当たり多額の投資をしたが,本件アニメの原著作者の権利の譲渡を受けることなく,このような多額の投資をすることは考えられない,②原告は,本件アニメ化契約を締結してから,14年間にわたり,本件アニメの原著作者の権利を有しているとの主張をしていない,③四者契約6条1項の文言に照らしても,原告は,本件アニメについて著作者人格権を有するにすぎないと主張する。
  しかし,原告から本件漫画をアニメーション化する権利を付与された被告が一定額の投資をしてアニメ制作等を行うのは当然であり,その投資額が多額であったとしても,そのことから,ただちに,被告が原告から本件アニメの原著作者の権利の譲渡を受けたと推認することはできない。
  また,原告が長年にわたって本件アニメの原著作者の権利を有しているとの主張をしていないという点についても,原告と被告との間で本件アニメの原著作者の権利の帰属について紛争が生じたなどの事情はうかがわれないのであるから,原告がかかる権利主張をしなかったとしても不自然とはいうことはできない。むしろ,・・・原告が本件アニメの原著作者の権利を有することが当然の前提とされていたからこそ,原告はかかる権利主張をしなかったと解するのが合理的である。
  さらに,被告が指摘する四者契約6条1項は,本件漫画にかかわる著作権の全て及びフリーウィルが制作したテレビ・アニメーションにおける原作者としての権利を原告が有し,フリーウィルが原告から許諾を得て平成13年(2001年)年に制作したテレビ・アニメーションにかかわる著作権を被告が有することを確認する条項であり,これによれば,被告が有するのは本件漫画の二次的著作物としての本件アニメの著作権に限定され,原著作者の権利も含むそれ以外の権利は原告に留保されていたものと解するのが相当である。
(4)  ・・被告は,平成21年12月から平成27年7月まで,原告・・に対し,本件アニメの配信に関して中央映画貿易から受領したロイヤリティの一部を「著作権料」名目で支払った事実が認められる。被告は,かかる支払は原告との友好関係を保つためのものであったと主張するが,友好関係を維持するためにこのような支払を継続的に行ったとは考え難く,被告により支払われた上記対価は,その名目どおり,本件アニメの原著作権を有する者に対する許諾料の支払であると認めるのが相当である。
  また,・・平成24年フィールズ契約4条1項には「FWDは,本作品のうちアニメーション作品の著作権がFWDに,本作品のうちアニメーション作品の原著作権及び本作品のうち漫画作品の著作権が板垣恵介…に帰属することを表明する。」との条項が置かれており,同条項によれば,被告自身,本件アニメの原著作者の権利が原告に帰属するとの認識を有していたことは明らかである。
(5)  以上のとおり,本件アニメの原著作者の権利は原告に留保されていたとの推定を覆すに足りる事情は認められず,本件アニメ化契約をもって,原告からフリーウィルに本件アニメの原著作者の権利が譲渡されたと認めることはできない。
・・(略)・・
12 結論
  よって,・・原告の請求については,被告に対し,・・本件アニメの自ら又は第三者をしての複製又は翻案の差止め,本件アニメの自ら又は第三者・・をしての送信可能化の差止め・・を求める限度で理由があるから4,この限度で認容し,その余の請求には理由がないからこれらを棄却する・・。

検討

1.原著作者の権利
 二次的著作物とは,著作物を翻案等することにより創作した著作物であり(著作権法第2条第1項11号),著作権法上,二次的著作物には,当該二次的著作物の著作者だけでなく,原著作物の著作者(以下「原著作者」という)へも重畳的に二次的著作物の利用に関する権利が認められる(著作権法第28条。以下,二次的著作物における原著作者の権利を「原著作者の権利」という)。そのため,二次的著作物の利用については,二次的著作物の著作者と,原著作者の双方から許諾を得なければならない。
 また,原著作者の権利は,著作権譲渡契約において特掲されていない限り,原著作者へ留保される(著作権法第61条第2項)。これは,著作権法第27条の翻案権と第28条の原著作者の権利は,著作権法第21条から第26条に定める利用権とは別個の形態の利用権であるところ,著作物の利用範囲を大幅に広げる可能性があるため,譲渡にあたり改めて意思を確認する必要性が高いためである(半田正夫・松田政行「著作権法コンメンタール[第2版]」751頁)。そのため,原著作物に関する著作権譲渡契約が締結された場合でも,特掲されていない限り,原著作者の権利は,原著作者へ留保され,二次的著作物の利用については,原著作者から許諾を得る必要がある。
2.本件
 本件のように漫画をアニメ化した場合,作成されたアニメは,原著作物である漫画の二次的著作物に該当する。そのため,著作権法上の原則からすると,原著作物である漫画の原作者(漫画の原著作者)の許諾なく,二次的著作物であるアニメの複製等を行うことはできない。
 本件において,被告は,(ⅰ)契約文言より,原告は被告に対し本件アニメの完全な著作権を設定しており,原著作者の権利も譲渡されると解されること,(ⅱ)契約外の事情より,本件アニメへの投資額が多額であり,原告が原著作者の権利を今まで主張していないことは,原告から被告へ原著作者の権利が譲渡されたことを裏付けるとして,原告より被告へ原著作者の権利が譲渡されたと主張している。
 しかしながら,裁判所は,上記の通り,本件アニメ化契約では原著作者の権利を譲渡する旨は明記されていないため,原著作者の権利は原著作者へ留保されると推定されるとし,さらに,(ⅰ)契約文言の解釈及び(ⅱ)契約外の事情のどちらによっても,当該推定は覆らないと判断している。
3.検討
 本件は漫画に関する裁判例であり,結論としても妥当なものであると考えるが,二次的著作物の利用を行う際に,原著作者との権利関係を整理しておくべきことを注意喚起する裁判例であるといえる(例えば,プログラムの著作物についても二次的著作物の作成・利用が頻繁に行われており,留意すべきと考える)。
 上記のとおり,二次的著作物において原著作者には二次的著作物の著作者同様の権利が認められる。また,原著作者の権利は,二次的著作物の全体に認められる(最判平成13年10月25日・キャンディキャンディ事件)。したがって,原著作者の許諾がない限り,二次的著作物は複製できず,頒布できず,送信可能化することができない。
 このように複製や頒布等について,毎回原著作者の許諾をもらうことは煩雑であり,二次的著作物の利用を制限するものといえる。二次的著作物の作成に関する契約を原著作者と締結する場合,原著作者から著作権の譲渡を受けることができるか,著作権法第28条の権利も譲渡されることが明記されているかなどを確認し,契約を締結することが良いと考える。
 また,原著作者としては,契約において,可能な限り著作権の帰属を明記した上で,原著作者の権利の譲渡が行われているかのような記載がないことを確認することをオススメする。

以上
(筆者)弁護士 市橋景子


1 漫画業界においては,漫画を掲載した雑誌又は単行本を出版する出版社が当該漫画の著作権者の同意の下,自己の名で第三者への使用許諾を行う窓口業務という商習慣がある。窓口業務とは,著作権者の代理人として,著作権者の許諾を受けて,ライセンシーとの間で著作物の翻案,送信可能化及び譲渡等に関する交渉を行い,自己の名で許諾契約を締結して著作権使用料を収受し,監修等,許諾に伴い発生する作業の著作権側の窓口となる業務をいう。(判決引用)
2 被告は,本件において反訴により,原告及び有限会社いたがきぐみ(以下,「原告ら」という)に対し,①被告が本件アニメの公衆送信を許諾した第三者に対し,原告らが本件アニメの公衆送信の停止を求めた行為,②被告を経由した第三者からの本件漫画の利用許諾を求める申入れを原告らが拒絶した行為,③本件漫画の二次的利用に係る窓口業務を被告が行うことを内容とする契約を原告らが不当に更新拒絶した行為について共同不法行為又は債務不履行に該当するとして,損害賠償請求を求めたが,棄却された。
3 原告は他に,被告の本件漫画を翻案したキャラクター商品を製造・販売する行為,本件漫画の静止画像及びその翻案物をウェブサイトに掲載する行為等について,本件漫画についての翻案権・譲渡権・送信可能化権侵害を主張している。本検討では,原著作者の権利に関する主張及び争点に限定して取り上げる。
4 一部の差止めについては,必要性が認められず,又は黙示の許諾が認められ,棄却された。