【令和元年6月13日(大阪地裁 平成29年(ワ)第12720号)】

【判旨】

原告会社が,同社が製造・販売する食品・調味料用瓶(原告商品)と形態が酷似する食品・調味料用瓶(被告商品)を製造・販売する被告会社の行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に当たるなどとして,被告会社に対し,製造・販売の差止め及び廃棄等,並びに損害賠償を求めた事案。裁判所は,原告商品の形態の特別顕著性については疑問の余地があり,その周知性についてはこれを認めるというに足りる証拠がなく,被告商品を原告会社の商品と誤認するおそれがあるとは認められないことから,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為が成立しないことは明らかであるとした。また,裁判所は,被告会社の行為が不法行為に当たる理由として原告会社が主張する事情自体を認めることができず,その他の事情を総合しても,被告会社の行為が,自由競争の範囲を逸脱するような不公正な行為に当たるとは認められないとして,不法行為の主張にも理由がないとし,請求を棄却した。

【キーワード】

不正競争防止法2条1項1号,商品形態の保護,商品等表示性,特別顕著性,周知性

1 事案の概要及び争点

(1)事案の概要

本件で問題となった商品は,食品,調味料または飲料用の瓶(いわゆる「食調瓶」)であり,型番により特定される15種類の商品が訴訟の対象となった。各商品の写真等は判例DBに掲載がないため省略する。裁判所の認定によれば,ガラス瓶メーカーが製造・販売するガラス瓶には,以下の3つの類型がある。

① 原告商品や被告商品のような,ガラス瓶メーカーが独自にデザインし,保有する金型で製造して不特定多数の需要者に販売する「一般瓶」
② 瓶に充填する中身を製造するメーカーが自社の負担で独自の金型を製作・所有し,ガラス瓶メーカーにその金型を用いて瓶を製造させる「留め型」
③ 薬剤のように,業界各社が容量・形状を統一して指定する「規格瓶」

 上記のうち一般瓶は,食品メーカー等に対し,直接又はガラス瓶の販売を得意とする商社等を介して販売されるケースが多く,これらの食品メーカー等及び商社等が需要者となる。

(2)争点

本件の争点は以下のとおりである。

⑴  被告の行為が不正競争防止法2条1項1号に該当するか。

ア 原告商品の形態の特別顕著性
イ 原告商品の形態の周知性
ウ 原告商品と被告商品の形態の類似性
エ 原告商品と被告商品との混同のおそれ

 ⑵  (予備的請求)被告の行為が一般不法行為に該当するか。

 ⑶  差止め・廃棄請求の必要性

 ⑷  原告の損害額

 本稿では,主に争点(1)(特に,ア及びイ)について取り上げる。

2 裁判所の判断

(1)商品形態の類似性について

まず,裁判所は,原告商品と被告商品の商品形態の類似性について,その開発経緯等から,少なくとも形態が類似するものであると判示した。

※判決文より抜粋(下線部は筆者が付与。以下同じ。)

   ア 前記1⑷及び⑺で認定した原告商品と被告商品の形態の対比,並びに前記1⑻で認定した,需要者の希望により原告商品の代替品として開発され,あるいは原告商品の図面を参照して開発されたとの経緯に照らすと,原告商品と被告商品とは,その対応する番号ごとに,形態において,少なくとも類似していると言うことはできる

被告は,肩部分の傾斜,重量,ガラスの透明度が相違する点を主張するが,基本的な形状が一致する以上,形態としては少なくとも類似の範囲にあると認めるのが相当である。

(2)不正競争防止法2条1項1号(商品等表示)について

ア 判断基準

まず,裁判所は,不正競争防止法2条1項1号における商品等表示該当性の要件として,従来の裁判例と同じく,①特別顕著性,②周知性,の二要件を備えることが必要であると判示した。

※判決文より抜粋(下線部は筆者付与。以下同じ。)

   ウ 原告は,主体的に同項1号の適用を主張し,原告商品の形態が,同号の商品等表示に該当すると主張する。

そこで検討するに,同号は,他人の商品であることを示す表示,あるいは他人の営業であることを示す表示が商品に付され,その表示が需要者の間に広く認識されるに至った場合,当該他人の営業上の信用が表示に化体されることから,第三者は,前記表示と同一又は類似の表示を自己の商品に使用することで,需要者をして,自己の商品を信用のある他人の商品と誤認させ,これによって顧客を獲得することが可能となり,このような行為は事業者間の公正な競争を害することから,これを不正競争行為として,差止め及び損害賠償の対象としたものである。

そうすると,同号の不正競争行為が成立するためには,原告商品の形態が,原告の商標や商号を商品に記載したのと同様に,商品の出所が原告であることを示す表示として機能するものであることに加え,当該商品の取引の実情に照らし,被告商品を見た需要者が,その形態の同一性,類似性を理由に,これを原告の商品と誤認して,取引をするおそれのあることが必要である。

商品の形態それ自体は,美感を訴える目的や機能的理由で造られるものであり,出所の表示を本来の目的とするものでないから,商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示に当たるというためには,①原告商品の形態が,他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していること(特別顕著性)及び②その形態が長期間独占的に使用されるか,短期間でも強力な宣伝広告等により,需要者においてその形態が特定の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)が必要であり,これらが認められる場合に,原告商品の形態は,同号の商品等表示に当たるとして,混同のおそれについて検討すべきことになる(なお,同号は,商品等表示の例示として,「商品の容器」を掲げているが,需要者に販売される原告商品は,商品の容器ではなく,商品そのものである。)。

イ あてはめ①~特別顕著性について

次に,裁判所は,原告商品の特別顕著性について,通常の食調瓶とは異なるユニークな形態を備えるものであることは認めつつも,同じようなデザインの同種商品が市場に存在することや,原告が他メーカーにライセンス許諾して同じ形状の食調瓶を作らせていること等を理由に,原告商品の特別顕著性については疑問が残ると判示した。

   ⑵  原告商品の形態の特別顕著性について

ア 原告商品の形態

原告商品の形態の特徴は,前記1⑷のとおりであるところ,前記1⑴で認定したところによれば,ガラス瓶のメーカーは,原告及び被告の他に10社程度あるところ,これらのメーカーが製造・販売する食調瓶は,底部が円形で大きく安定感があるものが多く,首部と胴部がなだらかにつながっており(なで肩),原告商品のように肩部が張っていて細長くスタイリッシュな印象を与えるような製品はほとんどなく,そのような瓶を集めてシリーズ化しているメーカーもない(甲6ないし9,15ないし23)。

他方,上記各メーカーの販売する食調瓶(原告から原告商品と同型の商品を製造・販売することについて特別の許可を受けたことの証拠がない物)の中にも,多角形柱型であったり,瓶の色が乳白色であったりするが,形状としては細口瓶であって,縦長の柱型で肩部が張っており,贈答用に使用されることを想定した高級感のある製品のシリーズもあることが認められる(甲15の「調味料M200角」,甲18の「ゴージャス」シリーズ,甲19の「スイト」シリーズ)。

原告は,原告商品1,4,7,11につき,非常に縦長の不安定な形状であることに特徴があると主張するが,他のメーカーの販売する食調瓶の中にも,縦長で不安定な形状の物も認められる(甲15の「調味料M200角」,「ST150」,酒類びんではあるが「ST150PP」,甲16の「SD150A-HC」,甲18の「ゴージャス」シリーズ,甲19の「サエ」シリーズ等)。

また,原告商品は,原則として,需要者の要望に応じて単品で取引されており,複数の商品あるいは同じシリーズの商品を揃えて取引したり,並べて展示したりするとは限らないが,各シリーズもしくはSSシリーズ全体をまとめて見た場合と比べると,個別の原告商品に接した場合には,細長く肩部が張っていてスタイリッシュな瓶という原告商品の外見上の特徴は,それほど強い印象与えるものではなく,原告商品の各シリーズの筒部分の形状(六角柱,正方形柱,円柱,略円錐台等)及びサイズによるバリエーションは,他のメーカーにおいて採用されているものと大きな相違はないから,原告商品と他のメーカー製の似た形状・サイズの瓶とが,形態により明確に区別されるとまではいえない。

イ 原告の許諾による商品

原告は,複数のガラス瓶メーカーに対し,一部の原告商品と同型の商品を製造・販売する許諾を与えたり,原告商品と同型の商品を他のガラス瓶メーカーから仕入れたりしているところ,これらのガラス瓶メーカーは,完成品に原告との関連性をうかがわせる標章を付したりはしていない(甲28,29,33,34,原告代表者)。

  そうすると,これらの製品に接した需要者は,特段の情報に接しない限り,原告以外にも,原告商品と同一又は類似の形態を有する食調瓶を製造・販売しているメーカーがあると認識することになり,このことは,原告商品の形態の顕著性を減殺する方向にはたらく

ウ まとめ

原告商品の形態は,ある程度の特徴を有するものであると思われるが,原告の商品の中でも,意匠登録されているもの(SSハート等)と並ぶほど特徴的であるとはいえず,全体として,商品等表示としての特別顕著性があるとするには,疑問が残るといわざるを得ない。

ウ あてはめ②~周知性

次に,裁判所は,原告商品の売上額(累計15億円)や累計売上本数(4000万本)に照らしても,市場におけるシェアが高いとはいえないこと(食調瓶全体の出荷本数の0.226%)や,原告商品のみを強調した宣伝広告が行われていないこと等を理由に,原告商品の形態が周知であることの立証は足りていないと判示した。

   ⑶  原告商品の形態の周知性について

ア 原告商品のシェア

前記1⑸によれば,原告商品は,原告が従来にはない食調瓶として開発したものであり,遅くとも平成16年から平成23年にかけて順次発売開始され,現在に至るまで概ね10年程度継続して販売されていること,平成17年以降の累計売上高が約15億円,累計売上本数が約4000万本であることが認められる。

しかし,原告商品の売上高は,原告全体の売上高の25%から30%を占めるものの,原告がガラス瓶製造業者としては中規模のメーカーであり,他にガラス瓶を販売するメーカーが10社程度あることに鑑みれば,市場全体のシェアとして原告商品が独占状態であるとか特段大きいとまでいうことはできず,また,原告商品の出荷本数も,平成29年において食調瓶全体の出荷本数の0.226%にとどまる(乙10)。

原告は,原告商品は通常の一般瓶の1.5ないし3倍の価格で取引される高級志向の瓶であるから,通常の食調瓶の市場シェアを考慮するのは妥当ではないと主張するが,高級志向の瓶の市場の存在やその規模について具体的な主張立証をしないため,上記主張を採用することはできない。

イ 原告商品の宣伝方法

前記1⑸で認定したところによれば,原告は,カタログ等を配布するほか,食品メーカーが出展する展示会に出展するなどして原告商品を宣伝したとされるが,その際に,他のSSシリーズや多数ある他の原告の商品を区別する形で,原告商品のみをシリーズとして強調して宣伝したと認めるべき証拠は提出されていない。

ウ まとめ

証拠(甲24ないし26)によれば,需要者の担当者の中に,原告商品の形態は特徴的であり,一目で他社の瓶と区別できると述べる者がいることが認められる。

しかしながら,ガラス瓶メーカーが13社程度しかない中で,ガラス瓶を専門に扱う商社等の担当者や,現に原告商品を導入している食品メーカー等の担当者であれば,原告商品の形態を見て,原告の製品と認識することは可能であると思われるが,前記⑵で検討したとおり,原告商品の形態に,他メーカーの製品と比べて特別顕著といえるまでの特徴があるかは疑問であること,他メーカーに同一又は類似の形態の商品を許諾することで,その顕著性を自ら希釈していること,原告商品の宣伝方法も,前述のとおり限定的であることを総合すると,食調瓶の需要者として,日本国内に多数存在する食品メーカー等において,原告商品の形態が周知であると認めるに足りる立証はされていないといわざるを得ない。

エ あてはめ③~誤認混同のおそれ

そして,裁判所は,誤認混同のおそれについても,需要者において取引相手を被告であると明白に認識している等の具体的な取引事情を根拠として,これを否定した。

   ⑷  誤認混同のおそれ

ア 総論

前記⑴で検討したとおり,本件において不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為となるのは,被告が,被告商品に原告商品と同一又は類似の形態を使用することで,需要者をして,被告商品を原告の商品と誤認させる行為であり,その誤認混同のおそれの有無については,当該取引,すなわち,食調瓶を製造する原告と被告,食調瓶の需要者である食品メーカー等,両者を仲立ちする商社等の間における取引の実情に照らし検討すべきものである。

イ 被告の取引

前記1⑻アないしウで認定したところによれば,被告は,従前原告商品を購入していた需要者,あるいは原告商品と比較検討する需要者の求めに応じ,原告商品の代替品となる,あるいは原告商品の競合品となる食調瓶を開発し,これを被告商品として販売したものであるから,需要者において,取引の相手が被告であることは明白であり,被告商品を原告の商品と誤認混同したと考える余地はない。

また前記1⑻エで認定した被告商品のうち,同アないしウで述べた以外の被告商品には,需要者の求めによらず,被告自ら原告商品と類似する形態を有する食調瓶を開発し,被告商品として販売した物も含まれているが,当該取引が,一般消費者との間ではなく,ガラス瓶製造メーカー,食品メーカー等,商社等との間で,事業目的でまとまった額の食調瓶を売買するものである以上,商社等,あるいは食品メーカー等において,被告商品を原告の商品と誤認するとは考えにくいし,被告が,そのような誤認を生じさせるような宣伝広告や売込みを行ったと認めるに足りる証拠はなく,そのような誤認を前提に被告商品を購入した需要者がいたと認めるに足りる証拠もない(担当者が原告商品から被告商品へ切り替えたことを会社代表者が知らなかったことは,これには当たらない)。

ウ まとめ

以上によれば,本件における取引の実情に照らし,被告商品の形態が原告商品に類似しているとしても,需要者が,被告商品を原告の商品と誤認するおそれがあるとは認められないというべきである。

⑸  争点⑴についての結論

原告商品の形態の特別顕著性については疑問の余地があり,その周知性についてはこれを認めるというに足りる証拠がなく,被告商品を原告の商品と誤認するおそれがあるとは認められないことから,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為が成立しないことは明らかであり,その余の点について検討するまでもなく,原告の主位的主張に基づく請求は理由がない。

3 むすび

本件は,原告商品と被告商品とで形態上の共通点はあったものの,その形態自体が顕著な特徴を有しているとまではいえず,また周知性を立証する証拠も足りていなかったことから,商品等表示性が否定された事案である。判断手法としては,従来の裁判例の枠組み(①特別顕著性,②周知性)に従って保護要件を判断したものであり,不正競争防止法2条1項1号における商品形態保護の考え方を示す先例として,実務上参考になると思われる。

なお,本件は控訴され(大阪高裁令和2年2月14日判決,令和元年(ネ)1635号),アンケート等の追加証拠も提出されたが,結論としては原審と同様に特別顕著性・周知性共に認められず控訴棄却となっている。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 丸山真幸