【平成30年(ワ)第5189号(大阪地裁R元・9・19)】
【キーワード】
消尽、共有特許権者、特許権者の実施の自由
1 事案
本件は,発明の名称を「養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法」とする特許権(以下「共有特許権」という。)を原告P1と被告P2とが共有していたところ,原告P1は,被告会社が「ケアシェル」という商品名の粒状物(養殖魚介類への栄養補給体)(以下,「被告製品」)を製造販売する行為が共有特許権の侵害であるとして,被告製品の製造販売等の差止,損害賠償等を求めた事案である[1]。
2 大阪地裁の判断
大阪地裁は,被告会社が販売していた被告製品は,P2が製造し,被告会社に納品していた製品と,原告P1及び被告P2から実施許諾を受けた解散会社が製造し被告会社に納品していた製品があったと事実認定をした上で,「共有特許権の共有者である被告P2…は,原告の同意を得ることなく,共有特許発明を実施することができるから,被告P2が,仮に共有特許発明の実施品として被告製品を製造し,これを被告会社に販売した場合には,共有特許権はその目的を達成したものとして消尽し,共有特許権の共有者である原告は,被告会社が被告製品を譲渡等することに対し,特許権を行使することはできないものと解される。なお,被告会社は解散会社から購入した被告製品を第三者に販売したこともあったが,これは共有特許権の特許権者である原告及び被告P2から実施の許諾を受けて製造され,被告会社に販売されたものであるから,同じくその被告製品についても共有特許権は消尽したと解される。したがって,被告製品が共有特許発明の構成と均等なものとして,その技術的範囲に属するか否かを論ずるまでもなく,被告製品の製造販売による共有特許権の侵害を理由とする原告の請求には理由がないこととなる。」として,特許権の消尽により,特許権侵害は成立しないと判断しました。
3 検討
特許権の消尽とは,特許権者またライセンシーにより適法に市場に流通した製品に対しては,特許権の効力が及ばないとする法理である。特許権者が市場に適法に展開した商品に以後の権利行使を認めると,安全な取引が害され,かつ特許権者は自身の販売価格に特許の価値を乗せて販売するはずであるので二重取りを認める必要はないことから認められている法理である。
この法理を,共有特許権について適用すると,本件でも裁判所が判断しているとおり,「共有特許権者」は,他の共有者「の同意を得ることなく,共有特許発明を実施することができる」ので,共有特許権者が製品を製造し,以後転々流通した製品に対しては,他の共有特許権者は,当該流通した製品に対しては,消尽により権利行使ができなくなる。
オープンイノベーションにより,他社と共同開発・共同研究を行い,共有特許を取得する事例が多くなっているが,本件のように,共有特許権に関する製品の収益化の場面では,他の共有特許権者のビジネス(製造・販売)には権利行使ができないので留意が必要がある。
他社と連携する際には,共有特許権として進めることが良いのか十分に検討し,仮に共有特許権として進めるにしても,収益化場合のビジネスの役割分担を見据えて連携を進めることが肝要である。
以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋 正憲
[1] 本件は,消尽の点に絞って説明する。