【大阪地裁令和元年10月3日判決(平成30年(ワ)5427号)】
事案の概要
本件は、原告(P1)が、「ライズ株式スクール」を運営していた被告ピー・エム・エー、その代表者である被告P3及びその取締役である被告P4、並びに被告P4が新たに設立した会社である被告インターステラー及びその取締役である被告P5に対し、原告が被告ピー・エム・エーから依頼を受けて作成した、同被告のウェブサイト(1risekabu.com/ 以下「原告ウェブサイト」という。)を、被告らが無断で複製し、新たなウェブサイト(risekabu.com/ 別紙被告著作物目録記載1。以下「被告ウェブサイト」という。)及びこれと一体となった動画配信用のウェブサイト(https://plusone.socialcast.jp/ 別紙被告著作物目録記載2。以下「本件動画ウェブサイト」という。)を制作してインターネット上に公開したことが、原告の著作権及び著作者人格権の侵害並びにその他不法行為に当たると主張し、著作権法112条1項、2項に基づき、〈1〉被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの複製、翻案又は公衆送信の差止め、〈2〉被告ウェブサイト及び本件動画サイトの削除、並びに、〈3〉民法709条、719条、会社法429条1項に基づく損害賠償請求又は原告と被告ピー・エム・エーとの契約に基づく請求として、1260万円及びこれに対する不法行為の後の日又は請求日の翌日である平成30年7月14日(被告らに対する最終の訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求する事案である。
判決抜粋(下線部筆者)
(中略)
第4 当裁判所の判断
1 認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実)
(1) 旧ウェブサイトの移管及び本件保守業務委託契約の締結(乙22、原告本人、被告P3本人)
ア 旧ウェブサイトの移管
被告ピー・エム・エーは、「ライズ株式スクール」という個人向けに株相場等に関する投資知識を教授する対面式のスクール事業を行っており、訴外彩登に制作を委託し、訴外ユウシステムに管理を委託していた旧ウェブサイトを、広告及び集客用のホームページとして利用していたが、平成27年ころに業績が落ち込んだため、旧ウェブサイトをSNS集客の時代に合わせたホームページにリニューアルすることを考えるようになった。
被告P3は、同年11月ころ、従前からイベントの写真撮影等を依頼していた原告に対し、まず旧ウェブサイトのサーバ移管を委託した。原告は、同月4日付けで代金を約50万円とする見積書(甲7)を提出し、被告ピー・エム・エーを通じ、旧ウェブサイトを管理していた訴外ユウシステムよりデータ移行のために必要な情報を入手し、旧ウェブサイトを本件サーバへ移管した(甲8、9)。
旧ウェブサイトの内容は甲10のとおりであり、緑色を基調とするウェブページ上部(ヘッダー)に「完璧な基礎から実践的応用までマスターできるライズ株式スクール」との記載があり、左上部には「RISe TRADING SCHOOL」というロゴと図形からなる標章(かつて被告ピー・エム・エーが商標権を有していたもの。)、「ライズ株式スクール 自立した投資家への第一歩を踏み出せる学校」という記載があり、右上部には、問い合わせ用フリーダイヤルの番号と「会員専用ログイン」というオレンジ色のボタンが表示されている。ウェブサイトのメインコンテンツは、コース・料金表、講師の紹介、受講生の声、受講案内等であり、ウェブページの下部には、「Copyright (C) 2013 RISE TRADING SCHOOL PMA LIMITED All rights reserved」との表示がある。
イ 本件保守業務委託契約
被告ピー・エム・エーは、平成28年1月6日付けの本件保守契約書により、原告に対し、移管した上記ウェブサイトの保守業務を委託した(本件保守業務委託契約)。
本件保守契約書の14条2項には、同契約に基づいて原告が制作完成したウェブサイトについては、著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定がある(甲46の1)。
(2) 原告ウェブサイトの制作・公開
ア 本件制作業務委託契約(乙22、原告本人、被告P3本人)
被告ピー・エム・エーは、移管した旧ウェブサイトを、スマートフォンやタブレット端末に対応できるようにするなど、全面的にリニューアルすることを決め、原告に対し、平成28年4月22日付けの本件注文書により、新たなウェブサイトの制作を代金324万円で委託した(本件制作業務委託契約)。
本件注文書の「仕様」欄には、「公式ホームページ一式のリニューアル」、「会員サイトのリニューアル」、「ショッピングサイトのリニューアル」、「上記3コンテンツを統一したシステムで構築し、レスポンシブデザインのweb サイトへとリニューアルする。」、「スマートフォンおよびその他の端末でのモバイルフレンドリー、ユーザービリティを考慮し、企画構成・制作を行う。」等の記載と共に、「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は、制作者のP1に帰属するものとする。」との記載がある。
イ 原告ウェブサイトの制作・公開(甲123、乙22、原告本人)
被告ピー・エム・エーは、従業員を通じ、原告に、新しいホームページの仕様や構成についての要望を伝えた。具体的には、平成28年4月から5月ころ、原告と被告ピー・エム・エーの従業員が公式ホームページ及び会員向けウェブサイトの内容について打ち合わせを行い、同月6日付けの同従業員作成の打ち合わせ書面(甲14)には、公式ホームページについては、無料セミナーの参加申し込み獲得数をあげる、入学希望者を獲得する、会員サイトについては、生徒が利用しやすい、生徒にとって有益で授業参加と理解を助けるといった目的があることが記載された。また、同従業員から、公式ホームページについては、旧ウェブサイトに掲載されている文章やタグ、表示するスクリーンを変更すること、会員サイトについては、レイアウトを完全に変更することなどが原告に伝えられ、原告が作成途中の画面を印刷して打ち合わせ内容を書き込むなどした(甲14~16)。
原告は、上記打ち合わせに基づいて原告ウェブサイトを制作し、同年10月3日、原告ウェブサイトを本件サーバ上に公開した。
原告ウェブサイトにおいて使用されるワードプレスのテーマである「ライトニング」専用のプラグイン、有償フォント、写真等の素材は、原告が購入した(甲86、87、89、98~103、128)。また、本件サーバは、原告が契約し、被告ピー・エム・エーからの利用料金の振り込みを確認して料金を支払うこととされた。
ウ 原告ウェブサイトの内容(甲46の2、原告本人、被告P3本人)
(ア) 原告ウェブサイトの内容は、甲46の2のとおりであり、緑色を基調とするウェブページの左上部には、旧ウェブサイトと同じ「RISe TRADING SCHOOL」というロゴと図形からなる標章、右上部には問い合わせ用フリーダイヤルの番号、メール用のボタン及びオレンジ色の「ログイン」というボタンが表示されている。その下には、「トップページ」、「ライズ株式スクールとは」、「コース・料金表」、「受講生の声」、「会社案内」等のタブがある。また、ウェブページの末尾には、「Copyright 〈C〉ライズ株式スクール All Rights Reserved」との記載がある。
上記「ログイン」ボタンは、会員が自己のID及びパスワードを入力すると、甲59~61のような会員専用のウェブページが閲覧できるように、ハイパーリンクが設定されていた。
(イ) 原告ウェブサイトは、ウェブサイト作成用のソフトウェアであるワードプレスを利用して制作されており、原告は、自己のID及びパスワードを使用して原告ウェブサイトの制作及び管理を行っていた。
エ 動画サービスの利用
被告ピー・エム・エーは、平成29年夏頃から、ソーシャルキャストのサービス(乙19)を利用し、サブドメインを「risekabu」として、ライズ株式スクールの会員向けに講義用の動画をアップロードしていた。原告ウェブサイトと同動画コンテンツとは相互に関連性がなく、互いにハイパーリンクの設定などもされていなかった(被告P3本人)。
(3) 本件サーバの利用停止(甲123、乙22、原告本人、被告P3本人)
ア 被告ピー・エム・エーが原告を通じて支払った本件サーバの利用料金は平成29年11月30日までの分であり、引き続き使用を続けるためには更新費用を支払う必要があったが、被告ピー・エム・エーは、その費用を支払わず、また、原告に対して支払うべき原告ウェブサイトの制作費用に係る分割金の支払も遅滞していた。原告は、被告ピー・エム・エーに対し、同年9月26日付けの「御見積書」(甲19)を示し、本件サーバの利用期限が同年11月30日であること、更新費用は、1万2960円(契約期間12か月)、2万4624円(同24か月)、3万4992円(同36か月)であることを伝えた。また、原告は、被告ピー・エム・エーの従業員に対し、サーバ更新料及び原告に対する支払が未払であること等を伝え、支払を催促した。
ところが、被告ピー・エム・エーは、上記利用期限を過ぎても更新費用を支払わなかったため、原告ウェブサイトは、同年12月12日、本件サーバのレンタル元である訴外エックスサーバーにより凍結され、閲覧・利用することができなくなった(甲17、20、21)。
被告ピー・エム・エーは、同日ころ、原告に対し、13万8240円を振込み、原告ウェブサイトの復旧を行うよう伝えた。原告は、同月13日、被告P4に対し、原告ウェブサイトのデータは本件サーバ上から失われたため、復旧する場合には再度制作することになり、費用として434万1600円が必要となる旨を伝えたところ、被告P4は、原告の提案を断った。
イ 訴外エックスサーバーが提供する管理画面である「インフォパネル」には、同年12月ころ、「サーバーご契約一覧」に、料金の支払による更新手続が可能な契約として原告ウェブサイトの契約が表示され、利用期限の欄には「2017-11-30 期限切れ」、ステータスの欄には「凍結」との記載がある(甲21)。
同様に、訴外エックスサーバーが提供するウェブサイト上のサポートページの「失効ドメインの復旧」という項目によれば、支払期限内に料金の支払がなくドメインが利用できなくなった場合、原告ウェブサイトのような「.com」ドメインの場合は、利用期限日から30日以内であれば、更新費用を支払うことにより復旧が可能との記載がある(乙2)。また、「よくある質問」には、料金の未払によりサーバ契約が凍結された場合、「インフォパネルの『料金のお支払い/請求書発行』メニューにて『サーバーご契約一覧』に表示されるサーバー契約」であれば、利用料金を支払うことにより、引き続き該当のサーバIDを使用することが可能であるとの記載がある(乙3)。
(4) 被告ウェブサイトの制作・公開
ア P6による被告ウェブサイトの制作(甲32、115、乙22、証人P6、被告P3本人)
被告P3は、平成29年8月から9月ころ、P6に対し、原告ウェブサイトについて、高額を支払ったにもかかわらず売上げ等の数字につながっておらず、早急にリニューアルしたいこと等を話し、P6が訴外彩登において旧ウェブサイトの制作に携わったときのデータを持っているかどうか尋ねるなどした。
被告P3は、同年12月13日ころ、P6に連絡し、本件サーバが凍結されたことを伝え、早急に復旧するよう依頼した。P6は、復旧作業について承諾し、新たに「risekabu.com」のドメインを自己名義で取得し、同年8月ころからこのころまでのいずれかの時点で取得した原告ウェブサイトのデータを利用して、被告ウェブサイトを制作し、平成30年1月ころに公開した。P6は、被告ピー・エム・エーに対し、4日分のウェブサイト移行作業費として12万9600円を請求した。
イ P6による新規ウェブサイトの制作(甲32、34、115、証人P6、被告P3本人)
P6は、上記被告ピー・エム・エーからの当初の依頼に応じ、平成30年3月ころ、原告ウェブサイト又は被告ウェブサイトのデザインを変更した新たなウェブサイトを、暫定的に「risekabu.marqs.co.jp」において公開し、被告ピー・エム・エーに対し、制作費として250万5800円を請求した(甲35)。
ウ 被告ウェブサイトの内容等(甲46の3)
被告ウェブサイトの内容は、甲46の3(71枚目まで)のとおりであり、原告ウェブサイトと同様に、緑色を基調とするウェブページに「RISe TRADING SCHOOL」というロゴと図形からなる標章、右上部には問い合わせ用フリーダイヤルの番号、メール用のボタン及びオレンジ色の「ログイン」というボタンが表示されており、その下には原告ウェブサイトと同一のタブがあり、ウェブページの末尾には、「Copyright 〈C〉ライズ株式スクール All Rights Reserved」との記載がある。
また、上記「ログイン」ボタンを押すと、前記(2)エの動画コンテンツが表示されるようハイパーリンクが設定されていた。
(5) 被告ピー・エム・エーの廃業及び被告インターステラーへの事業譲渡(乙22、被告P3本人)
被告ピー・エム・エーの経営状況は改善せず、平成30年4月ころ、被告P4が退職し、同年5月1日に被告インターステラーを設立した。被告P3は、同月末で被告ピー・エム・エーの事業を停止することに決め、被告P4と相談の上、同年6月1日付けで、ライズ株式スクールの会員約200名及びソーシャルキャスト上の動画コンテンツについて、株の学校プラスワンを経営する被告インターステラーが、被告ピー・エム・エーから、他の若干の資産と共に対価103万5000円で事業譲渡を受けることとした(甲6、乙11)。被告インターステラーは、上記動画コンテンツのサブドメインを「risekabu」から「plusone」へと変更した(本件動画ウェブサイト)。
被告ピー・エム・エーは、同年10月29日、福岡地方裁判所に対し、破産手続開始の申立てを行い、同裁判所より、被告ウェブサイトの公開停止を求められたことから、弁護士代理人が、P6に対し、被告ウェブサイトの公開を停止するよう依頼した。
P6は、被告ピー・エム・エーより、前記アの移行作業及び前記イの制作費の支払を受けていなかったことから、急いで作るよう言われて作業したのに、代金の支出も受けられないまま、破産手続に移行するとして被告ウェブサイトを閉鎖するよう言われたことに納得できず、前記依頼を断り、自らサーバ代金を負担して、被告ウェブサイトの公開を続けている(乙4~7、16、17、証人P6)。
被告ピー・エム・エーは、被告ウェブサイトの閉鎖ができなかった等の理由で、同年12月26日、前記申立てを取り下げ、事実上の廃業状態にある。
(6) 各ウェブサイトの内容比較
ア 原告ウェブサイトと被告ウェブサイトの比較
前記(2)及び(4)のとおり、原告ウェブサイトと被告ウェブサイトの内容は、一見してほぼ同じであり、ウェブページのタイトル、メタ・ディスクリプション、メタ・キーワードにおける相違点は、校名やセミナーの案内の有無等ごく一部であること、各ウェブページのデザインや記事の配置も相当程度似通っていること、ソースコードの相違点も一部に過ぎないことが認められる(甲26~29、40、41、88、90、104~107)。
また、原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトは、いずれもワードプレスを用いて作成されており、双方の「style.css」及び「functions.php」ファイルのソースコードには、いずれにも、同じ位置に「Author: P2 」という記述が認められる(甲36~39、45)。原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトのワードプレス管理画面の「作成者」欄は、いずれも、すべて「P2」とされている(甲47、48)。
原告ウェブサイトの右上(ヘッダー部分)にある「ログイン」ボタンを押すと、会員専用のウェブページのログイン画面に遷移し、ID及びパスワードを入力すると、会員専用のウェブページへと遷移する(甲79、81)。
一方、被告ウェブサイトの右上(ヘッダー部分)にある「ログイン」ボタンを押すと、本件動画ウェブサイトへと遷移する(甲80、81)。
イ 本件動画ウェブサイトについて
本件動画ウェブサイトは、前記前提事実のとおり、訴外株式会社アジャストの運営する動画公開サービスであるソーシャルキャストを利用し、被告ピー・エム・エー及び被告インターステラーの講義動画を公開するものであり、その内容は、甲46の3(72枚目以降)のとおりであって、ページの上部には「プラスワン TRADING SCHOOL」との文字と図形からなる標章が表示され、その下に視聴可能な動画のサムネイルが並べられ、これをクリックすることによって再生することができる構成となっており、原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトとは、その外見、性質等が全く異なる。また、ウェブページの末尾には、「株の学校プラスワン 当サイトでは、株の学校プラスワンの動画を配信しています。」との記載がある。
2 争点(1)(著作権(複製権・翻案権)侵害の成否)について
(1) 検討の順序
本件において、原告は、被告ウェブサイトの公衆送信等の差止め及び削除、並びに金員の支払を求めているが、その根拠とするところは、一般不法行為等によるものを除けば、原告ウェブサイトが原告の著作物であることであり、さらにその理由として主張するところは、原告が原告ウェブサイトを創作的に制作したこと、及び原告と被告ピー・エム・エーの契約により、原告ウェブサイトの著作権は原告に属する旨合意されたことである。
これに対し、被告らは、原告ウェブサイトの著作権は、被告ピー・エム・エーに帰属するとの黙示の合意があること、原告が原告ウェブサイトを制作したことによってその著作権が原告に帰属することはないこと、原告ウェブサイトの著作権を原告に帰属させる旨を原告との間で合意した事実はないことを主張し、仮に原告に原告ウェブサイトの著作権が認められるとしても、本件の経緯において、原告が被告らに対し、原告ウェブサイトの著作権を主張することは、権利の濫用に当たる旨を主張する。
そこで、まず、原告が原告ウェブサイトを制作したことにより、原告ウェブサイトが原告の著作物と認められるか、次に、原告と被告ピー・エム・エーとの合意により、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すると認められるか、そして、仮に原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属する場合に、原告が被告らに対し、著作権を行使することが権利の濫用に当たるかにつき検討する。
(2) 原告ウェブサイトの制作による著作権の帰属
ア 前記認定したところによれば、被告ピー・エム・エーは、旧ウェブサイトを訴外彩登に制作させ、訴外ユウシステムに管理を委託していたところ、集客力の向上のために、まず旧ウェブサイトの本件サーバの移管を原告に委託し、さらにその保守業務を原告に委託した後、本件制作業務委託契約により、旧ウェブサイトを、スマートフォンやタブレットに対応できるようにするなど、全面的にリニューアルすることを求めたことが認められるのであって、原告ウェブサイトの制作は、原告の発意によるものではなく、被告ピー・エム・エーの委託に基づくものであり、原告が自ら使用することは予定せず、被告ピー・エム・エーの企業活動のために使用することが予定されていたものということができる。
イ 上述のとおり、原告ウェブサイトは、元々被告ピー・エム・エーが訴外彩登に制作させた旧ウェブサイトを、本件サーバへの移管後にリニューアルしたもので、前記認定したところによれば、原告ウェブサイトのデザイン、記載内容や色調の基礎となったのは、リニューアル前の旧ウェブサイトであることが認められる。
また、前記認定したところによれば、原告は、原告ウェブサイトを制作するにあたり、ワードプレス専用のプラグインやフォント、写真を購入したり、ワードプレスを利用して、原告ウェブサイトが利用しやすく顧客吸引力があるように構成したものと認められるが、一方で、原告ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーの株式スクールとしての企業活動を紹介するものであって、その内容は、基本的に被告ピー・エム・エーに由来するというべきであるし、原告が、被告ピー・エム・エーから、その従業員を通じ、仕様や構成について指示及び要望を聞いて制作したものであることは、前記認定のとおりである。
ウ 原告と被告ピー・エム・エーは、以上の内容・性質を有する原告ウェブサイトの制作について、本件制作業務委託契約を締結し、例えば原告ウェブサイトの権利を原告に留保して、原告が被告ピー・エム・エーに使用を許諾し使用料を収受するといった形式ではなく、原告ウェブサイトの制作に対し、対価324万円を支払う旨を約したのであるから、原告が原告ウェブサイトを制作し、被告ピー・エム・エーのウェブサイトとして公開された時点で、その引渡しがあったものとして、原告ウェブサイトに係る権利は、原告が制作したり購入したりした部分を含め、全体として被告ピー・エム・エーに帰属したと解するのが相当である。
上記解釈は、原告ウェブサイト制作後も、原告が被告ピー・エム・エーに保守業務委託料の支払を求めていることとも合致する。すなわち、原告ウェブサイトが原告のものであれば、被告ピー・エム・エーがその保守を原告に委託することはあり得ず、原告ウェブサイトが被告ピー・エム・エーのものであるからこそ、代金を支払ってその保守を原告に委託したと考えられるからである。
また、上述のとおり、原告ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーの企業としての活動そのものを内容とするものであるから、原告がこれを自ら利用したり、第三者に使用を許諾したり、あるいは第三者に権利を移転したりすることはおよそ予定されていないというべきであるから、原告ウェブサイトについての権利が原告に帰属するとすべき合理的理由はない。さらに、原告ウェブサイトについての権利が原告に帰属するとすれば、被告ピー・エム・エーは、原告の許諾のない限り、原告ウェブサイトの保守委託先を変更したり、使用するサーバを変更するために原告ウェブサイトのデータを移転したりすることはできないことになるが、そのような結果は不合理といわざるを得ない。
エ 以上より、原告が原告ウェブサイトを制作したことを理由に、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属すると考えることはできず、原告ウェブサイトの著作権は、被告ピー・エム・エーに帰属するものと解すべきである。
(3) 合意による著作権の帰属
ア 本件保守業務委託契約において、同契約に基づいて、原告が制作したウェブサイトの著作権その他の権利が原告に帰属する旨の規定(14条2項)があることは前記認定のとおりである。
しかしながら、本件保守業務委託契約は、訴外彩登が制作した旧ウェブサイトを本件サーバに移管した後に、その保守業務を被告ピー・エム・エーが原告に委託する際に締結されたものであって、原告がウェブサイトを制作完成することは予定されていないから、上記条項が何を想定したものかは不明といわざるを得ないし、同条項が、その後に締結された本件制作業務委託契約に当然に適用されるとも解されない。
イ 本件制作業務委託契約については、被告ピー・エム・エー名義で作成された本件注文書の「仕様」欄に、「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は、制作者のP1に帰属するものとする。」と記載がある。
しかしながら、被告P3本人の尋問の結果によっても、被告ピー・エム・エーが、原告と上記記載に係る合意を成立させる趣旨で、本件注文書に上記記載をしたとは認められないし、他に、原告と被告ピー・エム・エーとの間で上記記載に係る合意が成立したと認めるに足りる証拠は提出されていない。
ウ 原告ウェブサイトの制作の対価を324万円と定める本件制作業務委託契約において、制作後の原告ウェブサイトの権利が原告に帰属するとすることが不合理であることは前記(2)で述べたとおりであり、あえてそのように合意するとすれば、その合意は明確なものでなければならず、本件においてそのような合意が成立したと明確に認めるに足りる証拠がないことは上記ア及びイのとおりであるから、被告ピー・エム・エーと原告の合意によって、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属したと認めることはできない。
(4) 権利の濫用
ア 本件の事実関係を前提とすると、仮に、原告ウェブサイトの一部に、原告の著作物と認めるべき部分が存在する場合であったとしても、以下に述べるとおり、原告が、その部分の著作権を理由に、被告ウェブサイトに対する権利行使をすることは、権利の濫用に当たり許されないというべきである。
イ すなわち、前記認定したところによれば、原告は、原告ウェブサイト制作後、その保守管理を行っていたこと、被告ピー・エム・エーは、平成29年秋の時点で、原告に対する支払を遅滞し、本件サーバの更新料も支払っていなかったこと、本件サーバを使用継続するには、同年11月30日に最低1万2960円(12か月分)を支払う必要があったが、被告ピー・エム・エーはこれを徒過したこと、同年12月12日、本件サーバは凍結され、原告ウェブサイトの利用ができなくなったこと、被告ピー・エム・エーはその直後に原告に13万8240円を振り込み、原告ウェブサイトを復旧するよう原告に依頼したこと、本件サーバの規約によれば、原告ウェブサイトのようなドメインが失効した場合、利用期限日から30日以内であれば、更新費用を支払えば復旧可能であること、原告は、同月13日、被告P4に対し、原告ウェブサイトのデータは失われ、復旧するには再度制作する必要があり、その費用は434万円余であると伝えたこと、被告ピー・エム・エーは、原告の提案を断って、P6に、原告ウェブサイトの復旧を依頼したこと、P6は、原告ウェブサイトのデータを利用して被告ウェブサイトを作成し、平成30年1月ころ公開したこと、以上の事実が認められる。
原告本人尋問及び被告P3本人尋問の結果を総合しても、原告が被告ピー・エム・エーに対し、本件サーバの更新費用を怠った場合のリスクについて、適切に警告し、期限を徒過しないよう十分注意したとは認められないし、原告ウェブサイトの利用ができなくなった直後に被告ピー・エム・エーが金員を原告に振り込み、本件サーバの規約ではデータの使用が可能な期限内であるのに、原告が、データが失われ復旧もできないと説明したことが適切であったことを裏付ける事情や、復旧のために434万円余もの高額の費用が必要であると説明したことの合理的理由は見出し難い。かえって証人P6は、サーバが凍結された場合、サーバ会社に料金を支払えばすぐ復旧することができ、特に作業等をする必要はない旨を証言している。
前記認定したところによれば、原告ウェブサイトは、新たな顧客のために、被告ピー・エム・エーの事業内容を紹介するのみならず、すでに顧客、会員となった者に対するサービスの提供も行っているのであるから、原告ウェブサイトの停止は、被告ピー・エム・エーの企業としての活動を停止することであり、その制作・保守・管理を行った原告は、当然にこれを了解していた。
ウ 前記イで述べたところによれば、原告ウェブサイトが停止するまでの原告の行為は、その保守・管理を受託した者として不十分であったというべきであるし、原告ウェブサイトの停止後の原告の行為は、原告ウェブサイトの停止が被告ピー・エム・エーを窮地に追い込むことを知りながら、これを利用して、データは失われた、復旧できないと述べて、法外な代金を請求したものと解さざるを得ない。
上述のとおり、原告ウェブサイトの停止は企業としての活動の停止を意味し、既に検討したとおり、原告ウェブサイトの著作権は全体として被告ピー・エム・エーに帰属すると解されるのであるから、被告ピー・エム・エーが、法外な代金を請求された原告との信頼関係は失われたとして、原告の十分な了解を得ることなく、原告ウェブサイトのデータを移転するようP6に依頼したとしても、やむを得ないことであると評価せざるを得ない。
エ これらの事情を総合すると、仮に、原告ウェブサイトの一部に原告の著作権を認めるべき部分が存在していたとしても、本件の事情において、原告がその著作権を主張して、被告ウェブサイトの利用等に対し権利行使することは、権利の濫用に当たり許されないというべきである。
(5) 本件動画ウェブサイトについて
前記認定事実のとおり、本件動画ウェブサイトは、被告ピー・エム・エーがソーシャルキャストのサービスを利用して提供していた授業の動画を、被告インターステラーが引き継いだ後に、サブドメインを変更したウェブページであって、原告ウェブサイト及び被告ウェブサイトとは、内容も形式も全く異なるものである。
また、原告ウェブサイトと上記動画はもともと関連付けられていなかったところ、本件サーバ凍結後、原告ウェブサイトから会員専用ウェブページを閲覧することができなくなったため、被告ウェブサイト上において、「ログイン」ボタンを押すと上記動画に遷移するよう設定され、サブドメインの変更に伴いリンク先も本件動画ウェブサイトに変更されたものである。
したがって、仮に原告ウェブサイトの一部に原告の著作権が認められる場合であっても、本件動画ウェブサイトの設定が、原告の著作権(複製権又は翻案権)侵害となる余地はないといわざるを得ない。
(6) まとめ
以上より、被告ピー・エム・エーが原告ウェブサイトを本件サーバから別のサーバに移転して被告ウェブサイトとして公開することや、業務内容の変更等に応じてウェブサイトの記載内容を変更することについて、原告は著作権を主張することはできないものと解すべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告らに対する原告の著作権侵害に基づく請求は理由がない。
3 争点(2)(著作者人格権侵害の成否)
原告は、被告らが、原告ウェブサイトの著作権を侵害する行為、及び原告の同意を得ずに被告ウェブサイトを公表したこと、被告ウェブサイトに原告の氏名を表示しなかったこと、被告ウェブサイトの「ログイン」ボタンを押すと本件動画ウェブサイトに遷移するよう原告ウェブサイトを改変したことが、原告の著作者人格権を侵害すると主張する。
しかし、被告らが原告の著作権を侵害すると認められないことは前記2のとおりであるから、同様に、原告が被告らに対し著作者人格権を行使することも予定されておらず、被告らの上記の行為が原告の著作者人格権を侵害するということはできない。
4 争点(3)(その他の不法行為等の成否)
原告は、被告らの行為が一般不法行為及び不正競争防止法違反(営業秘密の不正使用)に当たると主張するが、具体的事実の主張はなされていないし、当該不法行為と本件における差止め・削除請求及び損害賠償請求との関係は判然とせず、また、営業秘密性についての立証もない。
したがって、上記原告の主張を採用することはできない。
なお、原告は、本件保守業務委託契約の未払報酬、本件制作業務委託契約の違約金又は未払金をも、損害賠償請求の理由として主張するかのようである(争点(6))。
しかしながら、前記認定したところによれば、本件サーバが凍結され、原告が、原告ウェブサイトの復旧に多額の費用が必要である旨を述べ、被告ピー・エム・エーがこれを断った時点で、信頼関係の破壊により、本件保守業務委託契約は終了したと解するべきであり、以後、原告も保守業務を行っていないから、同契約の未払報酬は存しない。また、本件制作業務委託契約は、当初の原告ウェブサイトの制作に関わるものであるところ、これについての違約金又は未払金があるとは認められない。
したがって、原告と被告ピー・エム・エーとの契約に基づく請求には理由がない。
5 結論
以上より、その余の争点について判断するまでもなく、著作権侵害を理由とする被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの公衆送信等の差止め(請求の趣旨1)、著作権侵害を理由とする前記各ウェブサイトの削除(請求の趣旨2)、並びに著作権侵害、著作者人格権侵害、不法行為、不正競争防止法違反及び被告ピー・エム・エーとの契約違反等を理由とする金員請求(請求の趣旨3)は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
解説
本件は、ウェブサイト制作業務委託契約の受託者である原告が、委託者である被告に対して、著作権侵害を理由として損害賠償を請求した事案である。
原告は、自らが制作した原告ウェブサイトの著作権は原告に帰属すると主張し、その根拠として、本件保守業務委託契約の規定と、本件制作業務委託契約に係る本件注文書の「仕様」欄に、成果物の著作権その他の権利は、制作者の原告に帰属する旨の記載があったことを挙げている。
これに対して、裁判所は、原告ウェブサイトの制作の対価を324万円と定める本件制作業務委託契約において、制作後の原告ウェブサイトの権利が原告に帰属することが不合理であるから、そのように合意するためにはその合意は明確なものでなければならないこと、本件保守業務委託契約は、旧ウェブサイトを本件サーバに移管した後の保守業務に関して締結されたものであるから、その後に締結された本件制作業務委託契約に当然に適用されるとは解されないこと、を理由として、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属したとは認められないとした。また、制作後の原告ウェブサイトの権利が原告に帰属することが不合理である理由としては、原告ウェブサイトは被告の企業としての活動そのものを内容とするものであるから、原告がこれを自ら利用したり、第三者に使用を許諾したりすることは予定されていないためとされた。
さらに、裁判所は、原告ウェブサイトが停止するまでの原告の行為は、その保守・管理を受託した者として不十分であり、原告ウェブサイトの停止後は、被告の窮状を知りながら、データは復旧できないと述べて、法外な代金を請求したと判断した。そのため、仮に、原告ウェブサイトの一部に原告の著作権を認めるべき部分が存在していたとしても、原告がその著作権を主張して被告ウェブサイトの利用等に対し権利行使することは、権利の濫用に当たり許されないと判断した。
原告が、被告ウェブサイトの利用等に対し権利行使できないことは、妥当な結論と考えられる。しかし、本件制作業務委託契約に関する裁判所の検討内容からは、原告ウェブサイトの著作権が原告に帰属しないとの結論は、必ずしも導けないのではないかと考える。本件制作業務委託契約に係る本件注文書の「仕様」欄の記載は、著作権が原告に帰属することについての両者の合意としてそれなりに明確であるし、ソフトウェア等の制作に係る業務委託契約の受託者に著作権が帰属することは、一般的ではないにしてもあり得ないことでもないからである(もっとも、本件に関しては、原告が作成した著作物である原告ウェブサイトは、他の著作物に展開が可能な汎用的なものではなく、被告の企業としての活動そのものを内容とするものであるから、原告が自ら利用することは予定されていないとの裁判所の判断は妥当であるといえる。)。
本件に関しては、むしろ、ウェブサイト制作後の原告の不十分な保守管理、及び、原告ウェブサイト停止後に、利用期限日から30日以内であれば、1万円程度の更新費用を支払えば復旧可能であることを知りながら、400万円もの復旧費用を請求した原告の態度を裁判所が問題視して、原告ウェブサイトの著作権についても上記のような判断を採用したのではないかと推測される。
業務委託契約の成果物に係る権利の帰属については、本件のように実質的な判断を行う場合もあり得るが、一般的には、契約書等の書面に記載されている条項がまず優先されると考えられる。成果物に係る権利は、委託者に帰属する場合が多いと考えられるが、契約当事者としては、本件注文書の「仕様」欄のような記載には注意を払い、あいまいな解釈や意に反する解釈を招かないようにすることが肝要と考える。
以上
(文責)弁護士 石橋 茂