【東京地裁令和元年12月18日(平成30年(ワ)第8414号)】
【判旨】
本件は,原告が,被告に対し,被告製品が原告の販売する高輝度LEDペンライト(以下「原告製品」)の商品形態と同一又は類似し,誤認混同を生じさせるおそれがあるとして、不正競争防止法2条1項1号及び部分意匠の意匠権に基づき差止・損害賠償請求を行った事案。裁判所は、原告の商品形態について営業等表示該当性を認めた上で、被告の商品形態がこれに類似し、需要者の間で混同を生じているとして、原告の請求を認容した。
【キーワード】
不正競争防止法2条1項1号、商品等表示、特別顕著性、周知性
事案の概要及び争点
(1)事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,別紙2被告製品目録記載の高輝度LEDペンライト(以下「被告製品」という。)は,①原告が意匠権を有するライトおもちゃに関する部分意匠と類似する意匠を含むものであり,②周知の商品等表示である別紙1原告製品目録記載の高輝度LEDペンライト(以下「原告製品」といい,個別の製品をいう場合には目録の符号に従い「原告製品1」などという。)の商品形態と同一又は類似し,誤認混同を生じさせるおそれがあるものであるとし(不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号。なお,上記①と②は選択的な請求),また,予備的に,民法709条の一般不法行為が成立するとして,意匠法37条1項及び2項又は不競法3条1項及び2項に基づき,被告製品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,意匠法39条2項,不競法5条2項,民法709条に基づき,損害賠償金として937万7693円及びこれに対する被告製品の最後の受注の日である平成31年3月11日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
以下は各製品の態様である。原告の登録意匠(部分意匠)との関係では、底面の形状がポイントとなる。
※各商品の態様
原告製品
【製品名:キングブレードX10ⅡNeo】
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被告製品
【製品名:カラフルファンタスティック】
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※原告登録意匠(意匠登録第1490409号)
部分意匠のため、底面の実線部分が権利範囲となっている。
(2)争点
本件の争点は,下記のとおりである。
(1) 原告意匠と被告意匠との類否
(2) 原告製品形態の周知な商品等表示該当性
(3) 原告製品と被告製品との混同のおそれの有無
(4) 形態模倣による一般不法行為の成否
(5) 原告に生じた損害
裁判所の判断
(1)争点(2)(原告製品の形態の周知な商品等表示該当性)について
裁判所は、以下のとおり、原告製品形態について、特別顕著性・周知性のいずれも認められるとして、商品等表示該当性を肯定した。
※裁判例より抜粋(下線部は筆者が付加。以下同じ。)
2 争点(2)(原告製品の形態の周知な商品等表示該当性)について
事案に鑑み,争点(2)から検討するに,原告製品形態が,不競法2条1項1号に該当するには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解されるが,以下の理由から,原告製品形態は上記要件を満たすものというべきである。
(1) 特別顕著性
ア 原告製品が以下の形態を備えていることは,当事者間に争いがない。
① 「持ち手部分」と,光を発する「ライト部分」と,その間の「リング部分」とで構成され,「リング部分」はメッキが施されている。
② ライト部分の先端にメッキの外カバーを付けており,リング部分のメッキと合わせて同一色,統一感のあるデザインとしている。
③ 全体のフォルムは円柱状のシンプルな形態とし,ライト部分及び持ち手部分の側面は,どの角度から見ても,平らな直線又はなだらかな曲線によりそれぞれ外縁が形成され、突起物や階段状又は鋭角な部分が存在しない。ただし,メッキ仕様のリング部分だけは,ライト部分,持ち手部分を外側から覆う外観となり,一回り径が太くなっている。
④ 持ち手部分は,真ん中でなだらかに凹型となる曲線を描き,底面部の角は丸みを帯びており,正面視,背面視において瓢箪型である。
⑤ ライト部分先端の外カバーも,凸状に丸みを帯びており,正面視,背面視において円弧を描く球状である。
⑥ 全体の長さが約25センチメートルで,そのうちライト部分は約15センチメートル,持ち手部分とリング部分を合わせて約10センチメートル,ライト部分の太さは直径約3センチメートルである。
⑦ 持ち手部分の底面部に,発光・消灯及び発光色の切替えを行うスイッチボタンが設置され,側面部にはスイッチを設置していないか,あるいは,スイッチを設置する場合でも,外観上その存在がわからないようなスイッチとする。
イ 原告製品1が発売された平成24年4月当時に存在した同種製品は,上記1(6)ア記載のとおりであるが,甲18の写真撮影報告書,甲17等によれば,このうち,「大電光改」及び「CHEER LIGHT」は,原告製品に比べて細くて小さいペンライトであり,いずれもリング部分が太くなっている形態をしている点などにおいて,原告製品の形態と異なる。
また,「大電光煌」は持ち手部分が太くて,製品全体の長さにおけるライト部分の割合が原告製品より小さく,ライト部分の先端は半円球状である点などにおいて,原告製品の形態と異なる。
さらに,「ネオンスティック」は製品全体の長さにおける持ち手部分の割合が原告製品より小さく,持ち手部分に設けられたボタンが特徴的である点で,「カラフルビーム」はライト部分が先端に向けて細くなっており,持ち手部分に円形のダイヤルが取り付けられている点において,原告製品の形態と異なる。
加えて,これらの同種製品は,いずれも,リング部分及びライト部分の先端に同一色のメッキが施されておらず,持ち手部分にスイッチ等が設けられているなど,全体的に凹凸があって統一感のない印象を与えるものである。
ウ これに対して,原告製品は,全体的に丸みの帯びた円柱状のシンプルな形態であり,ライト部分からリング部分、持ち手部分を通じて、全体として凸凹感のない直線又は曲線により外縁が形成されている点(形態③)に特徴がある。
また,原告製品のリング部分にはメッキが施されるとともに,ライト部分の先端にも同一色のメッキの外カバーが付けられており,リング部分のメッキとライト部分先端のメッキの金属的な光沢は,原告製品に他社の製品にはないデザイン上のアクセントを与えているということができる(形態①,②)。
さらに,原告製品の持ち手部分は,その真ん中がなだらかな曲線から形成される凹型となっており,底面部の角は丸みを帯びている上,ライト部分先端の外カバーも,凸状に丸みを帯びて円弧を描く球状であり,更に側面部にスイッチボタンもないことが,全体として,柔らかくシンプルな印象を与えているということができる(形態④,⑦)。
加えて,原告製品の全体の長さは約25センチメートルと他社の多くの製品より長く,ライト部分と持ち手部分の長さのバランスも良く,全体の長さとライト部分の太さの割合も均衡がとれているとの印象を与えるものである(形態⑥)。
以上のとおり,原告製品形態①~⑦は,平成24年4月当時の同種製品にはない形態上の特徴であるということができ,更に,これらの特徴があいまって,製品全体として,同種製品とは異なる顕著な特徴を備えているということができる。
エ これに対し,被告は,形態①~⑦は,いずれもありふれたものであると主張する。
(ア) しかし,形態①,②については,上記のとおり,平成24年4月当時のペンライトのリング部分及びライト部分の先端に同一色のメッキを施しているものはなく,また,ペンライトを使用する上で,その構成部分に金属的な装飾を加える必然性はないのであるから,同各形態は原告製品に特徴的なものというべきである。
(イ) 被告は,形態③に関し,ペンライトのライト部分が円柱状であるのは特別なことではなく,平成24年4月当時の同種製品も,丸みを帯びた円柱状のシンプルな形態であったと主張する。
しかし,原告製品は,単にライト部分が円柱状であるのみならず,全体的に丸みの帯びた円柱状のシンプルな形状をしており,ライト部分からリング部分、持ち手部分を通じて、全体として凸凹感のない直線又は曲線により外縁が形成されている点に特徴があり,かかる特徴は同種製品には見られないものである。
(ウ) 被告は,形態④に関し,持ち手部分の中央付近をなだらかにへこませるデザインは公知であったこと,形態⑤に関し,ペンライトの先端に外カバーを設けたり,その先端を球状にすることは,特別なことではないこと,形態⑥に関し,原告製品の長さはコンサート等のイベントにおける規制に従ったものにすぎず,その太さも特別なものではないこと,形態⑦に関し,底面部のスイッチは,底から見ない限り視認できないので,識別力を生じさせないことなどを指摘する。
しかし,原告製品は,持ち手部分の中央部分をなだらかにへこませるとともに,ペンライトの先端の外カバーを球状にし,更に持ち手部分の側面にスイッチを側面に設けないことにより,全体として,なだらかな曲線と直線から形成されるすっきりとして統一感のある輪郭が形成され,全体として柔らかくシンプルな印象を与えるのであり,こうした特徴は同種製品には見られないものである。そうすると,上記の個々の形態が公知であることなどを理由として,原告製品形態がありふれたものであるということはできない。
(エ) 被告は,平成24年10月に発売されたルミエースや同年12月に発売されたカラフルサンダー110などに原告製品形態と共通する特徴が見られると主張するが,これらの製品は,原告製品1及び2の後に発売されたものであるから,同各製品の発売時点では原告製品の形態は同業者の間では知られていたのであり,原告製品形態も参考にしながらデザインされた可能性が高い。これらの製品が原告製品形態と同様の特徴を有するとしても,そのことをもって原告製品形態の特別顕著性は否定されるものではないというべきである。
(オ) 被告は,ペンライトという製品は,その性質上,外見を重視するのではなく,輝度や色などの機能を重視して選択される製品であるから,この観点からしても,原告製品形態には特別顕著性はないと主張する。
しかし,ペンライトは,その用途・性状に一定の制限があるとしても,種々のデザインを工夫し得ることは同種製品のデザインとの対比からも明らかであり,また,ペンライトの需要者が,趣味・嗜好に強い興味・関心を示すいわゆる「オタク」を中心とする者であることに鑑みても,これらの需要者は,機能のみならずデザインにもこだわりを持って購入するペンライトの選択をすると考えるのが自然である。
オ 以上によれば,原告製品形態は特別顕著性を有するということができる。
(2) 周知性
ア 前記1(2)のとおり,原告製品1(キングブレードMAX)及び同2(キングブレードX10)は,平成24年4月に原告製品1の販売が開始されて以降,同年10月までに,両製品で累計●(省略)●本,●(省略)●円を売り上げたとの事実を認めることができる。
平成25年ころにおいて,国民的アイドルとされるアイドルグループのCDの売上が,複数枚購入を含め合計56万枚程度であり(甲38),平成26年8月に開催された日本最大級とされるアニメソングのライブの3日間の延べ来場者数が8万人程度であったと認められること(甲37)を考慮すると,わずか6か月という短期間のうちに●(省略)●本の売上げがあったことは,趣味嗜好に強い関心を有するいわゆる「オタク」を需要者とするこの種の製品としては「爆発的」と評価し得る売れ行きであったということができる。
イ また,前記1(3)のとおり,原告製品は,平成24年10月,テレビ番組に使用され,それを見た視聴者が,同番組において使用されたペンライトの商品名については紹介がされていなかったにもかかわらず,原告製品であると認識し,ツイッター上で,「みんなキンブレ振ってる」などとツイートしたとの事実によれば,そのころには,需要者において,原告製品形態を有する商品は原告製品であって,原告を出所とすることを表示するものとして,広く知られていたと認めるのが相当である。
ウ さらに,前記1(4)のとおり,原告製品2(キングブレードX10)は,平成25年2月,アマゾンのおもちゃのベストセラーの3位にランクインしたとの事実が認められるが,このランキングは,ペンライト又はそれに類する商品間のランキングではなく,おもちゃ全体におけるランキングであることに照らすと,原告製品は同時点において既に需要者に広く知られしていたものと認められる(甲21の4)。
以上によれば,原告製品形態は,平成24年10月時点において,また,遅くとも平成25年1月までに,原告の出所を表示するものとして,周知性を獲得していたというべきである。
エ これに対し,被告は,原告製品が,平成24年10月以後も売れ行きを伸ばしている事実を指摘し,そのことから逆に,平成24年時点の市場占有率はそれほど高くなかったと主張するが,平成24年4月から10月までの売上本数や売上高等に照らし,同月時点において原告製品形態が需要者に広く知られていたと認められることは前記判示のとおりであり,平成25年以降に更に売上げが増加したことは,上記認定を左右するものではない。
また,被告は,原告製品が多く売れたのは,原告製品形態のデザイン性が着目されたからではなく,高輝度という機能に需要があったためであると主張するが,原告製品の需要者が機能のみならず,デザインも重視してペンライトを購入したと考えるのが自然であることは前記判示のとおりである。
さらに,被告は,原告の製品の中には原告製品目録に掲げられていないものもあり,また,原告製品の中にも原告製品形態の一部を満たさない種類のものがあると主張するが,原告製品の主力は原告製品目録記載の製品であり,その他の製品が原告製品形態の一部を満たしていなかったとしても,原告製品形態の周知性が否定されるものではない。
加えて,被告は,需要者は,原告製品をその形態によって識別しているのではなく,キングブレードという名称とともに,そのロゴ及びマークによって原告製品と識別していたものであると主張するが,テレビ番組の視聴者が,同番組において使用されたペンライトの形態を見て原告製品であると認識したことは前記判示のとおりであり,需要者はその形態により原告製品と識別し得たというべきである。
オ 以上によれば,原告製品形態は,平成24年10月時点において,また,遅くとも平成25年1月までに,周知性を獲得したものと認められる。
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(2)争点(3)(原告製品と被告製品との混同のおそれの有無)
また、裁判所は、被告製品が原告商品形態の全てを備えるものであり、その形状及び大きさも同一であるとして、需要者が混同を生ずるおそれがあるとして、不正競争防止法2条1項1号該当性を肯定した。
3 争点(3)(原告製品と被告製品との混同のおそれの有無)
(1) 被告製品は,原告製品形態の全てを備えるのみならず,原告製品のX10シリーズのバージョン2以降のものと基本的に同一の形状及び大きさを有するのであるから,需要者が被告製品を原告製品と混同するおそれがあるものと認められる。
(2) これに対し,被告は,原告製品と被告製品の名称が異なることなどを理由に,混同のおそれを否定するが,需要者は,インターネットに掲載された商品の形態を見てその出所を識別することも少なくないと考えられ,また,商品名は新商品が発売されるたびに異なった名称が付されることもあるのであるから,製品の名称が異なることから直ちに混同のおそれがないということはできない。
(3) また,被告は,需要者は,知識が豊富な「オタク」であるから,ロゴやマーク,機能や価格帯などから製品を原告製品から被告製品を識別すると主張するが,一口に「オタク」といっても,その知識や経験は様々であり,需要者にはコンサートなどの各種イベントへの参加者なども含まれるのであるから,需要者の性質から,当然に,製品の機能や価格帯により出所を識別することができるということはできない。
(4) 以上のとおり,需要者が被告製品を原告製品と混同するおそれはあるというべきである。
したがって,被告製品は,需要者の間に広く認識された原告の商品等表示(原告製品形態)と類似するものであり,原告製品と混同を生じさせるものであるということができるので,被告製品を販売する行為は,不競法2条1項1号の不正競争行為に該当する。
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裁判所は、不正競争防止法違反に基づく差止請求を認めた上で、損害賠償についても原告請求額(937万7693円)に近い金額(906万6102円)を認定した。推定覆滅事由については、商品形態の同一性を根拠にこれを否定した。なお、意匠権侵害(部分意匠)の成否については判断がされなかった。
(9) 推定覆滅事由
被告が,被告製品の販売による利益には,商品の形態による顧客誘引力のみに限らず,卸売先との信頼関係などが寄与した部分もあると主張する。しかし,本件においては,原告製品と被告製品の形態が同一であることに照らすと,需要者はむしろ原告製品と同一の形態であることから被告製品を購入したと考えるのが自然であり,被告の主張する上記の事情が被告製品の販売に寄与したと認めるに足りる的確な証拠もない。
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検討
本件は商品形態が酷似するデッドコピー品であったこともあり、商品形態について不正競争防止法2条1項1号に基づく保護が認められた事案として実務上参考になると思われる。
以上
(文責)弁護士・弁理士 丸山真幸