【平成31年(行ケ)第10020号(知財高裁R1・9・12)】

【判旨】
 本願商標に係る特許庁の不服2018-2007号事件について商標法4条1項11号の判断は正当であるとして,請求を棄却した事案である。

【キーワード】
商標の類否判断,SIGNATURE,商標法4条1項11号

事案の概要

(1) 原告は,平成28年11月28日に,下記の商標(以下「本願商標」という。)について,商標登録出願(商願2016-134074号)をし,平成29年7月21日に,指定商品を「第34類 紙巻たばこ,たばこ,パイプ用たばこ,たばこ製品,代用たばこ(医療用のものを除く。),葉巻たばこ,シガリロ,ライター,マッチ,喫煙用具,紙巻たばこ用紙,紙巻たばこ用筒,たばこ用フィルター,たばこ紙巻き器,紙筒にたばこを挿入するための機器,電子たばこ,電子たばこ用液体,加熱して使用することを目的とするたばこ製品,紙巻たばこ及びたばこ用の電気式の加熱装置」と補正した(同補正後の指定商品を,以下「本件指定商品」という。)ところ,平成29年11月6日付けで拒絶査定を受けたので,平成30年2月13日に,不服審判請求をした(不服2018-2007号)。
(2) 特許庁は,平成30年10月5日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,この審決の謄本は,同月19日に原告に送達された。

本願商標

(指定商品に関しては,事案の概要参照。)

引用商標

商標登録番号:第4658792号
商標の構成:SIGNATURE(標準文字)
出願日:平成14年9月5日
設定登録日:平成15年4月4日
指定商品:第35類「たばこ」

争点

 本願商標が,商標法4条1項11号に該当するか否か。

判旨抜粋

 証拠番号等は,適宜省略する。

2 前記1の事実認定に基づき,本願商標と引用商標の類否について検討する。
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにしうる限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合は,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるといえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。
(2) 本願商標の外観について
ア 本願商標は,前記・・・のとおりの外観であり,濃紺色で塗りつぶした縦長長方形(本願素地)内の最上部中央に「SIGNATURE」の欧文字を茶色で横書きしてなり,かなり間を空けて,同長方形内の中央部分に,図形と文字との組合せ部分(本願図柄部分)を配した構成からなる結合商標であるが,本願図柄部分は,茶色の太線で大きく表された円輪郭内(内部は黒地である。)に,「NO.」,「555」及び「STATE EXPRESS」の各文字(「555」の数字は,他の文字に比して大きく表されている。)を茶色で三段に横書きした部分(本願円図形)と,本願円図形の上部に,紋章風の図形(本願紋章部分)とをまとまりよく配した構成からなり,本願紋章部分は,王冠,円内に「SE」の文字を結合しモノグラム状に表した図形,2匹の仮想動物風の図形並びに「SEMPER」及び「FIDELIS」の各欧文字の記載がある2本のリボン状の図形等からなり,文字部分は縦長長方形と同じ濃紺色とし,それ以外を茶色としたものである。
イ 本願商標においては,本願円図形は,本願素地の縦の約4割,横の約6割の大きさで,ほぼ中央に配置され,本願円図形の直ぐ上に,本願紋章部分が配置され,本願円図形と本願紋章部分を合わせた縦の長さは,本願素地の約半分となると認められるから,本願図柄部分は,相当に目立つ態様で表示されているといえる。
 一方,「SIGNATURE」の文字は,上記のとおり,本願素地の最上部中央に,本願図柄部分とは離れて表示されているところ,その大きさは,本願円図形内の「555」の文字と比較すると,横は同程度,縦は半分程度であり,「NO.」や「STATE EXPRESS」の文字より若干大きいこと,「SIGNATURE」の文字と本願図柄部分との間には間隔が空いており,その間隔は,本願図柄部分の縦の長さの約3分の1,「SIGNATURE」の文字の高さの約5倍,本願素地の縦の長さの約15%に相当するものであって,両者が一見して離れていると認識されること,「SIGNATURE」の文字は,本願円図形内の「NO.555 STATE EXPRESS」の文字や本願紋章部分と,それ自体で何らかの関連性があるとは認識されないことを総合考慮すると,「SIGNATURE」の文字は,本願図柄部分と一体のものとは認識できず,また,相応に目立つ態様で表示されているというべきである。
 (3) 「NO.555 STATE EXPRESS」のブランドが知られている程度について
ア ラリーチームにおける宣伝広告活動について
 前記・・・のとおり,BATは,スバルのラリーレースのレーシングチームのスポンサーとなり,同レースに使用されるスバル車には,「555」のロゴが大きく表示されていたところ,同レーシングチームは,平成7年から平成9年にかけて3年連続でコンストラクターズタイトルを獲得したことなどからすると,その頃のラリーレースに興味を持つ者の間では,「555」のブランドは相応に知られていたものと認められる。
 しかし,日本において,上記のラリーレースに興味を持っている者がどの程度いたのかは明らかではなく,また,上記のラリーレースがテレビで放映されていたのかやその他のメディアで上記レースの状況がどの程度取り上げられていたかも明らかではないから,上記のラリーレースでの宣伝広告活動によって,日本において,「555」のブランドは,ラリーレースに興味を持つ限られた範囲の者には知られるようになったということはできるが,それ以上に,一般的に,本件指定商品の取引者や需要者(喫煙者やこれから喫煙をしようとしている成人)に知られるようになったと認めることはできない。
(中略)
イ F1レースにおける宣伝広告活動について
 前記・・・のとおり,平成11年頃から,BARは,「555」のロゴが大きく表示されたレーシングカーを使用してF1レースに参戦している。
 しかし,同レースがテレビで放映されていたのかやその他のメディアで上記レースの状況がどの程度取り上げられていたかは明らかではない。・・・F1レースにおける上記宣伝活動によって,一般的に「555」ブランドが,本件指定商品の取引者や需要者に知られるようになったとまで認めることはできない。
(中略)
ウ そして,前記・・・のとおり,「NO.555 STATE EXPRESS」のブランドのたばこは,日本において販売されていないことを併せて考慮すると,日本において,本件指定商品の取引者や需要者の間で,同ブランドが知られている程度は相当に低いものと認められる。
(4) 「SIGNATURE」の識別力について
ア 前記・・・のとおり,「SIGNATURE」の文字は,「署名,サイン,特徴,特徴的な,典型的な,代表的な,特製の」等の多様な意味を有するところ,日本において,「署名,サイン」以外の意味が一般的に知られているとは認められないから,本件指定商品の取引者や需要者は,本願商標の「SIGNATURE」を「署名,サイン」という意味で理解するか又は「署名,サイン」という意味が本願商標においてどのような意義を有するかを理解することが困難であることから,意味を理解できないものというべきである。本願商標の「SIGNATURE」が,「シグネチャーブランド」,「特徴的な銘柄」,「代表的な銘柄」などと,指定商品の性質等を説明したものと認識されるとは認められない。
(中略)
 (5) 取引の実情について
ア 前記1(2)で認定したとおり,たばこのパッケージは,概ね,目立つ位置に目立つ態様で,メインブランドを示す文字や図形が表示されており,当該メインブランドにおいては,味やタール含有量等の違いによって,複数の種類のたばこが用意されており,同種類を示す文字(第2表示)が,メインブランドを示す文字の直近や離れた位置に,メインブランドに比べると目立たない態様で表示されている。
 そして,第2表示としては,「MENTHOL」や「LIGHTS」といった味やタール量を連想させる文字があるものの,「CABIN RED」,「CASTER WHITE」,「SPARK」,「Luckies」等,味やタール量と関連しない文字もあり,これらの文字は,当該たばこの性質等を説明したものではなく,本件指定商品の取引者や需要者から商標として認識されるものと認められる。
 このように,たばこのパッケージに表示される第2表示が,必ず商品の性質等を示す説明的な記載となることはなく,また,本件指定商品の取引者や需要者も,第2表示が,たばこの性質等を示すものと認識するとは限らないというべきである。
(中略)
イ 前記・・・のとおり,引用商標の商標権者は,メインブランドを「GUDANG GARAM」とするたばこを販売しており,同たばこには,「Signature」,「NUANNTARA」及び「Surya」等の種類があるところ,・・・上記のガラムブランドの商品のうちの「Signature」の文字は,複数の種類があるガラムブランドの商品のうちの一つの種類であるガラムシグネチャー商品を示す商標として使用されており,また,同商品のパッケージを見た取引者や需要者も,そのように認識するものと認められる。
 (6) 結論
ア 以上のとおり,①本願商標の外観上,「SIGNATURE」の文字は,本願図柄部分と一体のものとは認識できず,また,相応に目立つ態様で表示されていること,②日本における「NO.555 STATE EXPRESS」又は「555」のブランドが知られている程度は相当に低いこと,③本願商標の「SIGNATURE」は,「署名,サイン」という意味に理解されるか又は意味を理解できないものであって,「SIGNATURE」が「シグネチャーブランド」,「特徴的な銘柄」,「代表的な銘柄」の意味で理解されるとは認められないこと,④たばこのパッケージに表示される第2表示は,必ずしも,商品の性質等を示す説明的な記載となるとは限らないこと,⑤引用商標の商標権者の引用商標の使用状況を考慮し得るとしても,引用商標の商標権者は,「Signature」の文字をたばこのパッケージにおいて,出所識別標識として表示していることを総合考慮すると,本願商標に接した者は,通常,「SIGNATURE」の文字を本願図柄部分とは独立して認識するものということができるから,同文字を本願図柄部分から分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認めることはできないというべきである
 したがって,本願商標と引用商標との類否を検討するに当たっては,「SIGNATURE」の部分を抽出して,この部分と引用商標との類否を検討し,両者が類似するときは,両商標は類似するものと解するのが相当である。
 そうすると,本願商標の「SIGNATURE」の部分と引用商標とは,称呼,外観及び観念のいずれにおいても,共通するから,本願商標は,引用商標と類似する。
(中略)
4 したがって,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するから,登録を受けることができない。

解説

 本件は,商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は,本願商標について,上記引用商標について類似しているとして,商標法4条1項11号1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが,裁判所は当該判断を追認した。
 裁判所は,従来の判例規範を確認した上で,まず,本願商標から「SIGNATURE」を抽出することができると判断した。その上で,引用商標と称呼,外観及び観念を比較して,類似すると判断した。
 原告は,本願図柄部分が日本の需用者に広く知られており,本願図柄部分が要部であって,「SIGNATURE」は,辞書的な意味の「署名,サイン」等の意味ではなく,「代表的な銘柄」との意味であって,誤認混同を生じないと主張したようであるが,裁判所は,この主張を認めなかった(下線部参照)。
 本件は,一見すると,本願図柄部分が印象的であるが,「SIGNATURE」について,不可分に結合しているとは言えず,商標法4条1項11号の判断を理解する上で,良い学習例となるため,ここに取り上げる。

以上
(文責)弁護士 宅間仁志


1 第四条 次に掲げる商標については,前条の規定にかかわらず,商標登録を受けることができない。
(中略)
十一   当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの