【平成28年12月20日(東京地裁 平成28年(ワ)第34083号)】

第1 事案の概要

 本件は、業務用通信カラオケ機器「DAM」を提供する原告が、自ら作成したカラオケ用音源を使用したカラオケ歌唱の様子を、被告が動画撮影してインターネット上の動画共有サイト「YouTube」にアップロードした行為につき、当該音源に係る送信可能化権(著作権法96条の2)を侵害するものであると主張し、同法112条1項・2項に基づき、動画の送信可能化の差止めおよび動画データの記録媒体からの消去を求めた事案である。
 被告は、当該動画が既にYouTubeから削除されていること、動画の中心は自身の歌唱であって原告の利益を明確に侵害したものではないことなどを主張したが、原告は、被告がデータを保持する限り再度送信可能化されるおそれがあるとして、差止めとデータ消去の必要性を主張した。

第2 裁判所の判断

 裁判所は、提出証拠および弁論全体の趣旨から、原告主張の請求原因事実をすべて認めることができるとし、「本件行為は本件DAM音源に係る原告の送信可能化権の侵害に当たる」と判示した。また、被告がYouTube上から動画を削除した点についても、「本件動画の電磁的記録が被告の有する記録媒体から消去されたことはうかがわれない」ことから、差止めおよび消去請求の必要性を否定することは相当でないと判断した。
 以上により、裁判所は、原告の請求をいずれも認容し、送信可能化の差止めと記録媒体からの消去を命じた。

第3 コメント

 本判決は、カラオケ音源を使用した「自分の歌唱動画」であっても、動画に原告作成の音源が録音されている限り、レコード製作者の送信可能化権の侵害が成立することを明確にした点で、実務上参考になる。さらに、動画が既に削除されている場合であっても、記録媒体内のデータが残存し再送信されるおそれがあれば差止め・消去が認められることを確認した点も重要である。
 特に、送信可能化権侵害の成否が、動画の公開状態や主たる内容(被告の歌唱の比重)によって左右されないことを示した点は、インターネット上のユーザー投稿型コンテンツに関する権利処理を考える上で意義があるといえる。今後も、カラオケ音源や音楽コンテンツを用いた投稿動画に関する実務において、権利者の差止請求の可否を検討する際の基礎資料となる判例である。

以上

弁護士 多良翔理