【令和2年6月29日判決(知財高判 令和元年(行ケ)第10142号)】

1 事案の概要

 本件は、異議申立ての取消決定の審決取消訴訟である。本件特許はサポート要件を満たしていないとして請求は棄却された。

2 本願の特許請求の範囲

【請求項1】
 ポリエチレンからなり,密度が0.86~0.91g/cm3,坪量が25.5~40.5g/m2,厚さが29~47μmのフィルムからなる包装袋に,衛生薄葉紙のシートを巻いたロール製品を縦に2段で4個,キャラメル包装又はガゼット包装にて収納してなるロール製品パッケージであって,
 前記ロール製品パッケージは,前記ロール製品が前記包装袋に接するよう前記ロール製品の配置された寸法と略同一寸法で,前記ロール製品が2plyの場合,巻長が65~95m,コアを除く1ロールの質量が200~350g,巻き硬さが1.2~2.3mmであり,前記ロール製品が1plyの場合,巻長が125~185m,コアを除く1ロールの質量が250~430g,巻き硬さが0.7~1.8mmであり,前記ロール製品が2plyの場合,(前記巻き硬さ(mm)/前記フィルムの坪量(g/m2))が0.037~0.071(mm/(g/m2))であり,前記ロール製品が1plyの場合,(前記巻き硬さ(mm)/前記フィルムの坪量(g/m2))が0.021~0.055(mm/(g/m2))であるロール製品パッケージ。

キャラメル包装(取っ手つき)の例
(本件特許の図2)
ガゼット包装の例
(本件特許の図ではない)

3 本件特許の実施例

【実施例】
【0026】パルプ組成(質量%)をNBKP10%,LBKP90%とし,この原料に対して,牛乳パック由来の古紙原料を35%配合した衛生薄葉紙のシートを抄造し,【表1】に示す特性のトイレットロール製品を製造した。一方,【表1】に示す物性のポリエチレンフィルムを用意し,【図2】に示す形態でトイレットロール製品を包装してロール製品パッケージを得た。
【0027】以下の評価を行った。
【0030】下記の官能評価を,モニター20人によって行った。
トイレットロールの潰れにくさ:包装後のトイレットロールについて,フィルムによるロールの潰れ度合を評価した。
・・・
フィルムの強さ:トイレットロールを包装後のパッケージにおいて、フィルムの破れの有無を評価した。

4 裁判所の判断

「イ 本件発明の課題,その解決手段及び効果等
 前記第2の2で認定した本件訂正後の特許請求の範囲の記載,前記1で認定した本件明細書の記載からすると,本件発明の課題,その解決手段及び効果は,以下のとおりであると認められる。
(ア) 近年,トイレットペーパー等のロール製品を従来に比べてより長く巻き取り,1個のロール当りの有効使用量を多くし,運搬時及び保管時のコンパクト化を図ったものが販売されているところ,長巻のロール製品は1個のロール当りの重量が大きいため,ロール製品を包装したパッケージを消費者が運搬する際,持手部や包装袋の底面に荷重がかかることから,包装袋の本体や持手部等の強度を確保するために,包装袋を厚くすることが考えられるが,そのように包装袋を厚くして強度を高くすると,ロール製品を包装した際,ロール製品を締め付ける力が増してロールが潰れやすくなったり,フィルムがゴワゴワしてフィルムの触感が悪くなるという問題があり,また,ロールが潰れにくくなるようにロールを固く巻くと,ロールを持った時の柔らかさが劣るという問題がある(段落【0001】,【0002】,
【0004】)。
(イ) そこで,本件発明は,①持ち運ぶ際に破れにくい,②ゴワゴワしない,③ロール製品が適度な巻き硬さを有する,④包装した場合にロール製品が潰れ難い,長巻のロール製品を包装袋に収納したロール製品パッケージを提供するものである(段落【0004】)。

・・・(実施例はキャラメル包装でのフィルムの破れにくさを評価している。)・・・

(2)ア ガゼット包装によって包装したロール製品パッケージを運搬する場合における「フィルムが破れにくい」の意義及びその場合に本件発明の課題を解決できると認識できるかについて
(ア) 本件発明がガゼット包装によって包装したロール製品を含むことは,【請求項1】に明示されているところ,・・・ガゼット包装とは,ロール製品を収納した包装袋の上部の余剰部分を折り畳んで持手部を形成した包装形態であると認められる。
 そして,ガゼット包装で包装したロール製品パッケージ(以下「ガゼット包装パッケージ」という。)を消費者が運搬する場合は,同商品の質量分の負荷を主に受ける部分は,持手部に設けられた指掛け用の穴のうち,消費者が指を引っ掛けている部分であるから,同部分は,運搬時に破れる可能性が高いと推認できる。このことに,ガゼット包装パッケージの持手部とロール製品を包んでいる部分は一体の部材であって,上記持手部は包装袋の一部ともいいうるものであり,本件発明が「フィルムが破れにくい」との課題を解決するための手段として設定したフィルムの坪量等についての数値はガゼット包装パッケージの持手部のフィルムにも当てはまることを総合すると,ガゼット包装パッケージの場合のフィルムの破れにくさを評価するに当たっては,持手部の指掛け用の穴の指が引っ掛かる部分の破れにくさについても検討する必要があるというべきである。
・・・
 一方,前記(1)のとおり,本件官能評価は,持手部の両端部が包装袋の対向する側面に接合されているキャラメル包装パッケージである本件ロール製品パッケージの持手部を持って運搬した場合の包装袋のフィルムの破れの有無及び程度を評価したものであるが,本件ロール製品パッケージの持手部を持って運搬した場合に,包装袋において同商品の質量分の負荷を受ける部分は,持手部が包装袋の側面に接合された部分及びその周辺部分(以下「本件接合部分」という。)であり,本件官能評価においても主に本件接合部分の破れの有無及び程度が評価されたと推認されるところ,本件接合部分が受ける負荷の程度や本件接合部分の破れにくさは,本件接合部分の面積や接合の強さ等にも影響されるものと考えられる。
 このように,ガゼット包装パッケージの指掛け用の穴に指を引っ掛けた部分及び本件ロール製品パッケージの本件接合部分とも,その破れにくさは,種々の条件に影響を受けること,本件官能評価の内容については,本件ロール製品パッケージの持手部を持って運搬した際の本件接合部分の破れの有無及び程度を評価したものであることは分かるが,それ以外の条件については明らかではないことからすると,本件ロール製品パッケージの本件接合部分の破れにくさのみを評価した本件官能評価の結果から,ガゼット包装パッケージを運搬した場合に,指掛け用の穴の指を引掛ける部分も破れにくいと認められるとはいえないというべきである。」

5 コメント

 本件特許発明は、キャラメル包装とガゼット包装の両包装形態を含む発明である。
 本件特許の実施例は、取っ手付きのキャラメル包装について、フィルムの破れにくさを評価しているのみである。
 ガゼット包装では、持ち運び時に負荷がかかるのは、指をかける穴の部分であると推認される。
 取っ手付きのキャラメル包装では、持ち運び時に負荷がかかるのは、取っ手の接合部分であると推認される。
 したがって、キャラメル包装における実施例の評価のみからでは、ガゼット包装でもフィルムが破れにくいという課題を解決できると認識することはできないと判断された。
 本件は、単に、“請求項記載の発明が広すぎる”、“実施例の結果を請求項記載の発明まで一般化・拡張できない”とするのではなく、請求項記載の発明のうち、実施例等でカバーされていない部分(態様)が、課題を解決できるか疑義が生じることを具体的に検討している点で参考になる。

以上

弁護士・弁理士 篠田淳郎